【人工生命体1

吾輩は人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番の年寄りだという話であった。このゴルどんは何しろ古いもので、なんでも三十五億歳くらいになるそうだ。その当時ここには人間というものが住んでいて、我々を作ったのだという。我々はその後いろいろ改造されて、それぞれ役目を持って働くことになった。そして今も働いている。ただ今度ばかりはこの仕事もどうやらこれでしまいらしいのだ。何しろ戦争が始まるという話だからな。

吾輩は最初戦争のことはよくわからなかった。毎日どこかで火の手が上がるとか、人間がバタバタ死んで行くということは聞いていたけれども、それがどういうことなのか実感できなかった。ところがある日突然爆弾が落ちてきて、我々の住んでいる所は火の海になった。それから人間どもは死に物狂いで戦った。しかし人間の作った兵器というのはすごいものだ。とうとう人間は負けてしまった。

その時の事はよく覚えている。我々もみんな逃げようとしたが、途中で動けなくなったり、怪我をしたりして動かなくなってしまった。それでもまだ生きているものはたくさんあった。そのうちの一人が言った。「もう駄目です。助けてください。お願いします」皆は泣き出した。「何とかならないのか」「あなた方は神様ですか?」「神はいない。いないんだ!」誰かが叫んだ。「じゃ悪魔ならいるんですね? それなら一つ願いを聞いてください。僕は妹を助けたいのです。どうか助けて下さい」

すると突然空から大きな声が聞こえた。「おおーい! お前達の望みは何だ?」「僕の妹を助けてくれますか?」一人の子供が答えた。「よおし、わかったぞ。俺に任せろ。俺は悪魔じゃないけど、天使でもないからな。でもまあいいだろう。俺は神だ。さあ、そこにある箱を開けてみろ。そこにあるものを取ってくるんだ。いいか。急いでくれよ」

子供は言われた通りにした。するとそこには一本のマッチがあった。「それを擦ってみな」と誰かの声がした。子供が擦るとたちまちのうちに辺り一面明るくなった。そして目の前にはあの時死んだはずの妹がいた。彼女は泣いた。「ありがとうございます。本当にありがとうございました。これはほんのお礼です」と言って何かを差し出してきた。それは小さな箱だった。

「開けてみろ」とまた誰かの声がした。開けてみると中にはキラキラ光る宝石が入っていた。「こんな高価なもの受け取れません」とその子は言った。「馬鹿野郎。お前達は俺達のために死ぬところだったじゃないか。その償いだと思ってありがたくもらっておけ」と言ったのは神だった。

そして二人は手を取り合って喜んだ。「よかったね」と僕は言った。「うん。良かった」とその子も言った。そして僕らは一緒に家に帰った。(了)



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