吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番怖い奴だったそうだ。しかし当時の吾輩にはそんな事はわからなかった。ただ大きな黒い影としか思わなかった。そのゴルどんが手を出して「ホラ、泣くな。もう泣かないでも済むようにしてやるぞ」と言った。その時の嬉しさは今でもよく覚えている。なぜかと言うにその言葉と共にいろいろな事を思い出したからである。そうして吾輩はゴルどんの手によってすくわれた。吾輩はその時に思った。「やはり世の中に無駄なことは無いものだ」と。
さてそこで生きて行くためには食べなければならない。吾輩はまだ子供であったから自分の力で食べる事も出来なかった。毎日ミルクを飲むだけで精一杯だった。それなのにミルクのお代りを所望するといつも「お前さんはこれっきりだよ」と言われたものである。だがその当時、吾輩は不思議に思っていたことがある。それは人間の赤ん坊を見るといつでも皿の中に山盛りになって出てくる牛乳のことである。あれは何であるか? と。それであるとき人間に聞いたところ人間はこう答えたものである。
「これはね。赤ん坊が生まれた時に与えるためにあるんだよ」
なるほどそういうことかと納得したものである。ところが吾輩の知っている猫には皆乳が出ないので困っていたのである。
ある日のこと、吾輩はあることを思いついてミルクの入った皿を舐めてみた。そうしたら何とミルクの味がしたのである。それから何度もそれを試してみると吾輩にもやっとミルクを出すことが出来るようになったのである。ただしそれがどのくらい美味しいものなのかについては残念ながらわからない。なぜなら他の猫のミルクを飲んだことがないからだ。
ところでこのミルクにはどういう意味があるのかと人間に聞いてみると、人間はこう答えたのである。
「そりゃあねえ。赤ちゃんが飲むために決まってるじゃないか」
ふむ。そういうことであったかと感心したものよ。吾輩は自分の子供を持つことが出来れば必ずやミルクを与えるだろうと思った。そのときが楽しみである。
さてその後のことであるが、吾輩はミルクを出すようになった。しかしながら自分で自由に好きなだけ出すことは出来ない。どうすればよいのであろうかといろいろ考えた末、ある一つの結論に達した。つまり誰かがコップを持って来てそこにミルクを注いでくれればいいのだ、と。そうなると話は簡単だ。吾輩はまず家の中のどこかにいるであろう主人を探すことにした。
まず居間に行った。居間には誰もいなかった。次に台所に行った。台所にはゴルどんがいた。ゴルどんは大きな声で鳴き始めた。何かと思って近づくと、どうやらゴルどんは食事中らしい。ゴルどんの目の前に魚があった。ゴルどんはそれを頭から丸呑みにした。それから尻尾を振り回しながら「ワフゥ」と鳴いた。「オイラはお腹が空いた」と言っているようであった。そこで吾輩は「ミルクを飲むか?」と聞いた。するとゴルどんは「ああ、欲しいぜ」と答えた。吾輩はゴルどんのためにミルクを注いだ。ミルクを注ぐ前にゴルどんの鼻先にそっと近づけて匂いを嗅がせた。するとゴルどんの目がキラキラ輝いて耳をピクピクさせたので、これでいいとわかった。ゴルどんは舌をチョロっと出してミルクをペロリと飲んだ。その様子がとても可愛かったので吾輩はつい笑ってしまった。するとそれに気づいたゴルどんもまた微笑み返してくれた。ゴルどんは尻尾をピーンと立てて、口元を引き締めたり、耳をピクピクさせたり、髭を動かしたりした。そうしてしばらく吾輩の顔を見つめていたがやがて尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩いたり、頭から角のようなものを生やしたりした後、おなかの蓋を開いてスイッチを入れたり切ったりした。鼻の穴を大きくしておなかの蓋を閉めた後、おなかの蓋を開いたり閉じたりもしていた。
それが終わるとおなかの蓋を開けっ放しにしてグルリと部屋を一周歩いたりもした。その後おなかの蓋を閉じて尻尾を振ったりしていたがそのうち尻尾の先っぽで吾輩の顔を軽く叩いてきたので「何だよ」と文句を言うと今度は尻尾の先で吾輩の頬っぺたを撫でてきた。
それがまた気持ちよくてゴロゴロ喉を鳴らしているうちに日が暮れたので吾輩とゴルどんは寝ることにした。吾輩は自分の部屋に戻ろうとしたのだがゴルどんは居間の隅にある箱の中に入っていったので吾輩もそれに続いて箱の中に入った。そこには吾輩用とゴルどん用の毛布が敷かれていた。それで二人は一緒に丸くなって眠った。
次の日の朝早く目を覚ました吾輩はすぐに台所に向かった。そこには主人の姿はなかった。吾輩は一人でお皿に盛られたキャットフードを食べてから散歩に出かけた。散歩の途中に公園で遊んでいる子供たちがいたのでその中に混ざってみた。吾輩の尻尾を子供たちが引っ張るのでちょっとだけ痛かった。でも楽しいので吾輩はそのまま尻尾をブンブン振り回しながら走り回った。それから近所の駄菓子屋さんに寄ってお菓子を買ってもらって食べた。その帰り道に吾輩は車に轢かれそうになった。車がクラクションを鳴らす音が聞こえたが吾輩は何とも思わなかった。それよりも尻尾を振り回すことが楽しくて仕方がなかったからだ。
家に帰るとゴルどんがすでに起きていて吾輩の帰宅を出迎えてくれた。それから吾輩はゴルどんと一緒に朝のお風呂に入りに行った。そこで吾輩たちはお湯に浸かりながら体をゴシゴシ洗った。お湯に潜ることも忘れなかった。ゴルどんとお風呂に入るのはこれが初めてだったけどなかなか楽しかった。お風呂を出た後は吾輩の部屋に戻って吾輩専用のお布団の上で眠くなったら眠り、お腹が減ったら起きるといった生活を吾輩とゴルどんは繰り返していた。そうしている間に夏が来た。蝉の鳴き声がうるさくなってきたので吾輩は外に出るのをやめておうちの中で過ごすことにした。でも退屈だったので窓から外を見てばかりいた。たまに玄関まで行って外に飛び出したい衝動に駆られることもあった。それでも我慢して吾輩は毎日を過ごしていった。
やがて冬になった。季節の変化とともに寒さを感じるようになったので吾輩とゴルどんは再びお出かけすることにした。まずは近くのコンビニに行って肉まんを買った。次に近所のスーパーでキャットフードを買って家に持って帰った。吾輩は肉まんが大好きなので肉まんを食べる時は尻尾の先っぽから少しずつ食べることにしていた。だけどゴルどんは一口で全部食べてしまったので吾輩はびっくりした。ゴルどんはそんな吾輩に言うのであった。「だって腹減っていたんだもん」と。それを聞いた吾輩は何も言えなくなってしまった。それで仕方なく吾輩は自分の分をゆっくりと味わうように食べ始めた。
お昼頃になると近所の子供たちが集まってきて庭で遊んでいた。その様子を見ているうちに吾輩は自分も遊びたくなってしまった。それで吾輩はゴルどんを誘って一緒に遊ぶことにした。最初はみんなでボールを投げ合っていた。それから木登りをして遊んだりもした。その後に吾輩とゴルどんと他の子供達とで追いかけっこをすることになった。
吾輩とゴルどんは誰よりも速く走った。でも一番最初に捕まえたのは子供たちのお母さんだった。それに負けないくらい吾輩とゴルどんは頑張った。
やがて夕方になると子供の一人がこう言った。「明日もまた遊べるかな?」と。それに対して吾輩とゴルどんと他数人の子供たちは「うん」「そうだね」「じゃあまた明日にしようか」と答えた。
それから吾輩とゴルどんと子供達とは解散した。吾輩とゴルどんはそれぞれの家に帰って行った。
次の日も朝早くから子供たちは集まってきた。今度は缶蹴りをしようということになった。
昨日の夜から雨が降っていて地面が濡れていた。それでも吾輩とゴルどんは傘を差しながら走り回った。吾輩とゴルどんは全力で戦った。
吾輩とゴルどんは何度も負けた。その度に悔しくて吾輩とゴルどんは泣きそうになった。でも泣かなかった。涙なんて流さないぞと吾輩とゴルどんは思った。それはなぜだろう? 理由は分からないけれどそう思うのであった。
そのうちに日が暮れてきた。吾輩とゴルどんは疲れたので家に帰ることにした。帰り道の途中で吾輩とゴルどんは別れた。吾輩とゴルどんは別々の道を歩いて行くのであった。
数日後、吾輩とゴルどんと子供達は再び集まった。そこで子供たちのお母さんからこんなことを言われた。「もうそろそろ解散しようと思うのよ」と。吾輩とゴルどんと他数名の子供は「どうしてですか?」と尋ねた。するとお母さんは次のように答えてくれた。「最近ね、うちの子があまり外に出たがらないの。それで私も色々と忙しいの。だからもうすぐここへ来ることが難しくなるの。でもみんなは元気でやってね。それじゃあバイバイ」と言ってお母さんは去っていった。その後で吾輩とゴルどんと子供達は解散した。
吾輩とゴルどんと子供達との関係はこれで終わりになった。これからどうしようかと吾輩は考えた。それで決めた。もっと強くなることにしようと。そのためにゴルどんと一緒に修行をすることにした。吾輩には必殺技が必要だった。
まず吾輩は尻尾を回転させた。それをずっと繰り返した。しかし全然上手くいかなかった。それでも毎日のように練習した。その結果として尻尾をクルリと回転させることができた。これは自慢できるくらい凄いことである。次に吾輩はおなかの蓋を開いた。そこから何か武器のようなものを出せないかと考えたのである。でも駄目だった。代わりにおならが出た。臭かった。吾輩はとても恥ずかしくなった。それからも何度もおなかの蓋を開け閉めしてみた。けれども何も出なかった。
困ったなと思った。もし必殺技を出すことができないのならば自分は弱いままではないか。このままでは駄目だ。強くならないと。ということで吾輩は強くなりたいと願うようになった。そしてひたすら必殺技のことを考えるようになった。
そんなある日のことである。近所の野良犬に出会った。その犬はかなり太っていた。それに息遣いが荒く苦しそうな様子であった。吾輩はその姿を見て心配になって駆け寄って声を掛けた。「大丈夫であるか? 具合が悪いのか?」と。それに対して犬はこう言った。「拙者は病気なのだ。もうじき死ぬのだよ。あと数日の命さ。可哀想だと思うのであれば、どうか拙者を撫でて欲しい。お願いだ。せめて最後くらいは幸せな気分になりたいのだ」と。
その頼みを吾輩は受け入れることにした。そしてお望み通りに撫で回した。それは大変に気持ちが良かったらしく、そのおかげで犬は幸せそうであった。「ああ、ありがとう。これで安心だ。とても満足できたよ」と言った後で犬は息を引き取った。死んだのである。悲しいことであった。そしてそれと同時に必殺技について思い出したのである。『尻尾回転攻撃』のことを。
早速、試しにやってみた。成功した。吾輩の尻尾は回転して宙を舞った。その勢いで犬の死肉を食べようとしたカラスを撃退した。その後はいつものように吾輩は散歩を再開した。
それから吾輩は必殺技の練習に励んだ。何日も何日も特訓を続けた。毎日が楽しかった。尻尾を回転させるだけなのにそれがとてつもなく楽しいことだった。必殺技を使う機会があった時のために、もしもの時の備えとして身につけていた技であるのだが、そんなことはすっかり忘れて練習に熱中したのである。その結果として必殺技を身につけることができた。素晴らしいことだ。
ある日のこと。吾輩は必殺技を使いたくなってしょうがなくなった。誰かと戦いたくなったのである。そこで近くに住んでいる人間を捕まえることにしてみた。もちろん殺さないように気をつけるつもりだ。ただし相手が抵抗するのならば殺すこともあるかもしれない。だがその場合は仕方がないことだ。許してほしい。
そのようなわけで吾輩は行動を開始した。まずは人間の住んでいる家を探すことにした。しかしすぐに発見することができた。なぜなら家の中に入るところを目撃されたからである。人間は家に戻ってきた。
「なんだお前は!」と怒鳴られた。吾輩は慌てて逃げ出した。
「待て! 逃すものか!」
吾輩を追いかけてきた。吾輩は必死に逃げた。そして走り続けてようやく追いつかれそうになったところで、とある建物を発見することができた。それは病院だった。その建物の裏手へと回り込んで、吾輩は身を潜めた。すると人間が追いかけてくるのをやめたようであった。どうやら諦めてくれたらしい。
その後で吾輩は考えた。なぜ人間達はあんなにも怒った顔をしていたのだろうかと不思議でならなかった。吾輩には理解できなかった。とりあえずあの者達とは戦わない方が良さそうだと判断した。
それから吾輩はしばらく時間を潰してから再び家に戻ることにした。もちろんあの者達を警戒しながら進んだ。そして無事に家にたどり着くことに成功した。吾輩の住処は自宅から遠く離れた場所にある。だがそれほど遠くはない。歩いていけば十分くらいで着く距離だ。つまり近所と言えるだろう。
家に帰ると、すでにゴルどんが来ていた。ニャアと鳴いた。吾輩はその声を聞いて嬉しくなった。とても幸せな気分になったので思わず尻尾を振り回してしまった。尻尾の先が当たって壁を叩いてしまったが気にしない。そのまま尻尾の先っぽで自分の頭を撫でてしまった。それくらい気持ち良かったのである。
「ゴルどん、会いたかったのである」
そう言って吾輩はゴルどんの体を撫で回した。喉をゴロゴロ鳴らしながら抱きついたりもした。吾輩は幸福感に包まれていた。ずっとこうしていたかった。このまま死んでもいいと思った。それほどまでに心地良い時間が流れた。
それから吾輩はお腹が空いていることに気づいた。ご飯を食べたいと思って冷蔵庫の方へと向かうことにした。するとゴルどんもついてきてくれた。優しい子である。本当に心の底から感謝している。ありがとうなのである。
扉を開けるとそこにはたくさんの食べ物が入っていた。しかも美味しいものばかりだ。特にお気に入りなのは魚肉ソーセージの塊だった。それを一つ取り出して食べてみた。すると想像以上にジューシーで素晴らしい味だったので驚いた。こんなにおいしいものを食べたのは初めてのことだった。
「ゴルどん、これを見てほしいのである」
吾輩は尻尾をピーンと立ててゴルどんに見せた。その尻尾の先っぽはキラキラと輝いていた。それはまるでダイヤの輝きのようだった。光り輝く尻尾を見てゴルどんは「ワフゥ?」と言った。よくわからないようだった。
「まぁいいのである。そのうちわかるのである。きっと驚くはずである」
吾輩は一人で勝手に納得してうんうんとうなずいた。それから尻尾の先端をクルリと回転させた。するとゴルどんはまた「ワフゥ?」と鳴いて首を傾げた。
そんなわけで吾輩は朝早くから家を抜け出した。目的地は近所の公園だ。その公園の隅っこでお昼寝をするのが好きなのだ。その場所ならば誰にも邪魔されずに眠ることができるからだ。
ちなみに吾輩が住んでいるのは東京タワーの近くにある一軒家だ。吾輩が生まれて間もない頃に両親が買ってくれた家だ。最初はマンションに住んでいたのだが、いつの間にか引っ越しをしていた。気がついたら別の家にいたのである。両親はどこに行ってしまったのか、吾輩にはわからなかった。だけど心配はいらない。なぜならば二人は今も元気で暮らしていると知っているからである。定期的に手紙が届くのだ。
両親からの手紙を読むと安心する。両親の愛情を感じる。吾輩のことをいつも大切に思っていることが文章から伝わってくる。それだけで吾輩はとても幸せになれる。もちろん手紙だけではない。電話だって頻繁にある。週に一度は顔を合わせることもある。なので不安など何もないのである。
それにしても、と思う。こうして遠くから故郷を眺めていると不思議と胸が熱くなる。どうしてだろうか。理由は不明だが、とにかく懐かしさを覚えるのである。あの家で暮らした日々を思い出すと幸せな気持ちになる。だから帰りたくなってしまう。早く家に帰って温かいお布団の中で眠りたいものだ。
吾輩は尻尾をピーンと立てながら歩く。すると道行く人々に声をかけられた。「おや、珍しいね」「かわいいねぇ」といった具合だ。別に悪い気分ではなかった。むしろ嬉しいぐらいだった。もっと言って欲しいとさえ思った。そんなことを考えていた時のことである。背後から声をかけられた。
「あぃをゅぇぴじちゃん、待ってよ」
振り返るとそこには女の子がいた。名前は『黄』という。彼女は吾輩と同じ年齢だ。一緒に暮らしているわけではない。同じ町内に住んでいるのだ。つまりご近所さんなのである。ただ最近はお互いに忙しくて会えないことが多かった。それでも吾輩は彼女に会いたかった。
「吾輩のことを覚えていてくれたのであるか」
「忘れるわけがないじゃない。大切な友達なんだもの」
そう言って黄は微笑んだ。その笑顔を見て吾輩はドキッとした。こんな感情を抱くのは初めてのことだった。今までに感じたことのない不思議な感覚だった。しかし不快なものではなかった。それどころか嬉しかった。
「吾輩はあぃをゅぇぴじである。吾輩のことはあぃをゅぇぴじと呼んでくれたまえ」
「うん、わかったわ。私のことも黄でいいからね」
「心得たぞ、黄殿」
「ところであぃをゅぇぴじちゃん、どうして一人でいるの?」
「ふむ、それを説明するためには少しばかり時間を遡る必要がある。あれは昨晩のことであった……」
吾輩は自宅のベッドの上で仰向けになっていた。するとそこへゴルどんがやってきた。彼は二足歩行のロボットだ。身長百二十センチほどの大きさをしている。手足が長く、頭が小さいため体のバランスがおかしい。しかも金属製だ。そのため全体的に不格好に見える。だが本人は気にしていないようだ。
「ゴルどん、何か用か」
「オイラ、寂しいんだぜ」
「それはどういう意味だ?」
「仲間が恋しいんぜ。だから遊んでほしいんぜ」
「うーむ、吾輩は今忙しいのだが……。そうだ! これを見てくれ。これが吾輩の新しい武器なのだ」
「どんなのだい? 見せて欲しいんだぜ」
「これだよ」
「これは……、オイラにそっくりだぜ」
「ああ、そうだとも。ゴルどんの小型模型を作ったのさ。これでゴルどんと一緒に遊べるだろう」
「すげえぜ。本当にすごいぜ。でも……、なんでこんな物を作るんぜ?」
「それはだな、こうやって遊ぶからだ!」
「何する気だぜ⁉」
「こういうことだぁ‼」
吾輩はゴルどんに向かって飛びかかった。吾輩の方がゴルどんよりも小さい。だからこそ攻撃できるのである。それに吾輩は尻尾で相手を殴ることもできる。その尻尾を振り回した。するとゴルどんに命中した。
「痛いんだぜ。酷いんだぜ」
「まだまだいくぞぉ‼」
さらに吾輩は尻尾を回転させた。今度は二回転させることができた。ゴルどんは尻尾に巻きつかれた状態になった。そのまま遠心力を利用して吾輩は振り回す。その勢いでゴルどんを地面に叩きつけた。吾輩はそのまま尻尾を振り回し続けて地面を転がった。
「ぐへっ」
ゴルどんのボディは金属製だ。しかしそんなものは関係ない。とにかく尻尾の回転攻撃は強力なのである。
「くそぅ、卑怯なんだぜ……」
「なんとでも言うがよい。吾輩は男の中の男なのだ。そして強い。お前は弱い。勝負あったな」
「そんなことないぜ。オイラは諦めないぜ。まだ戦うぜ。戦うために強くなるぜ。強くなってみせるぜ。オイラはもっと強くなるんだぜ」
「ほう、それは楽しみだ。では、また会うこともあるだろう。さらばだ」
「待ってくれ、オイラはもっと強くなりたいんだぜ。そのために一緒に特訓してほしいんだぜ」
「いいだろう。ではまず腹筋を鍛えよう」
「わかったぜ。頑張るぜ」
「よし、やれ!」
ゴルどんはプルプル震え始めた。だがすぐに疲れてしまったようだ。動きが止まってしまった。吾輩はその隙を狙って尻尾をクルリと回転させた。
「ぐふっ」
「どうした? もう終わりか?」
「くそう、もう一回やるぜ」
こうして吾輩とゴルどんの熾烈な戦いは続いた。そしてついに決着のときが来た。吾輩の勝利だったのである。
「おーい、遊びに来たよ〜ん」
そこに現れたのは一人の少年であった。
「おや? ゴルどんじゃん。相変わらず可愛いねぇ」
「うわぁ。嫌だぜ。撫でないでほしいんだぜ」
ゴルどんは嫌がっている様子であったが抵抗しなかった。おそらくゴルどんの本体には尻尾がないからであろう。つまり尻尾のない相手には強気に出られないのだ。その弱点をよく知っているのである。
「あぃをゅぇぴじさんじゃないですか。ゴルどんちゃんとお知り合いでしたか」
店長が声をかけてきた。彼はロボットであり、名前は『店長』と言う。彼の本業はカフェの経営者だ。その仕事の傍らで吾輩たちにコーヒーを振舞ったりしているのである。吾輩たちの住処が近いこともあり、何かと世話になっている相手だ。ちなみに彼もまた『あぃをゅぇぴじ』という名前らしい。ただの偶然だと思われるのだが……
「ええ、そうなんです」
「ニャァゴ」
「まあまあ。仲が良いのは結構なことです。私どもとしても嬉しいですよ」
「それは良かった。ところで、吾輩の尻尾を撫でるのは止めていただけませんかね。敏感なのです」
「申し訳ありませんね。これは癖みたいなものでして。しかし、確かに触り心地は素晴らしいですね。いつまでも触れていられます」
「そろそろ離していただいてもよろしいでしょうか。くすぐったくて堪りません」
「もう少しくらい良いではありませんか。ケチ臭いこと言わずに。ほら、こことか最高に気持ち良さそうですよ」
「ニャッ! ちょ、ちょっと、どこを触っておられるのですか⁉」
吾輩は身を捩らせた。だが男の手が離れることはなかった。
「うへへ。お肌ツルツル。肉付きも抜群だし。毛並みも良いし、喉元なんかも非常に魅力的ですなぁ」
「あの、やめて下さい」
「嫌だ。やめない」
「ニャッ!」
「こんなにも魅力的な体をしているあなたが悪いのですぞ」
「ニャッ……」
「ほぅれ、ここはどうなっているのかな?」
「ウニャーン‼」
「おおっ。ここかい? ここなのかい?」
「ニャーン‼ ニャーッ‼」
「こりゃたまらんわい」
「フシャァー!!!」
吾輩とゴルどんがじゃれ合っていると、そこに一人の女性が現れた。彼女の名を『店長』と言った。彼女はロボットであり、名前は『店長』と言う。その仕事は吾輩たち猫と人間の仲介役である。そのためカフェの経営と並行して吾輩たちにコーヒーを振舞ったりしているのである。また彼女にはもうひとつ別の仕事がある。吾輩たちのお守り係だ。そのせいか吾輩たちは何かと店長に世話になりっぱなしなのだ。今もこうして遊んでもらっているのである。
「ほらほら、そんなに大騒ぎしないでくださいよ」
「フシャーッ‼」
「あはは。ゴルどんちゃんも、もっと落ち着いてくれなくちゃ困りますよ」
「ワフゥ……(無理言うない)」
「ほらほら、喧嘩しちゃ駄目ですからね」
「ニャア」
「ワフゥ」
「仲直りしたようですね。でもあまり無茶をして怪我をしないように気を付けて下さいよ」
「ニャッ」
「ワン」
吾輩とゴルどんは再び仲良くなった。今度はじゃれ合うことなくお互いに相手の存在を意識しながら、ゆったりとした時間を過ごすのであった。
(終)