【人工生命体109

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番弱い奴だという事がわかった。しかし当時の吾輩には何の事やらさっぱり解らなかった。ただ妙な機械だぐらいに思ったのみである。ところでゴルどんは非常におとなしい性質で決して怒らないという事を後になって知った。その証拠に今でもその時のことを尋ねると、笑ってすましている。このゴルどんという男は実に偉いと思う。それから吾輩は隣りにいる猫を見た。これはまだ若い猫で、しきりに天井の辺りを見つめている。吾輩もその方向に眼をやったが何事も見えなかった。吾輩はその訳を知りたくてたまらなくなった。どうしてもあのあたりに何かあるに違いないと思った。そこで思い切ってジャンプしてみた。途端にキャッというような声が聞こえた。見ると電燈の笠に毛虫のような物がぶらさがっている。よく見ると赤い色をしている。それがキャッといったのだ。吾輩は驚いて少し後悔した。けれどもすぐに好奇心の方が強くなった。吾輩は何としてもあの赤毛虫の正体を突き止めなければならぬようになった。再び天井を見上げた。しかし今度は何もない。いよいよ怪しいと思って床に飛び降りた。そして四つん這いになり部屋の隅々まで探した。だがとうとう発見できなかった。失望して振り向くと、もう一匹がいたはずの場所には何もいなかった。どこに隠れたのかわからない。それとも逃げ出したのだろうか? とにかく毛虫の姿が見えなくなっていた。残念であった。非常に興味があったのだが……



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