【人工生命体11

吾輩は人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番の知恵者であったそうだ。そのゴルどんが言うことには、この世界では人間というものがいて、そいつらが科学の力でいろいろなものを作って世の中を動かしているのだそうである。そしてこのロボットもその一つなのだそうだ。そしてその人間どもの世界と、人工生命体の世界とは互いに干渉せずに暮らしているのだということだ。なるほどと思って聞いていたら、突然その人間の一人が吾輩達に向かって鉄砲というものを撃ち込んだ。吾輩は驚いて逃げようとしたが体が動かない。弾丸が頭の上を通り過ぎた時、やっと動けるようになった。そこで吾輩達は必死になって逃げた。どこまで逃げたかわからないが、とにかく遠くへ逃げ延びた。

途中で吾輩の仲間が何匹か死んだようだ。なぜ仲間が死んだのかよくわからない。吾輩は不思議に思って聞いてみた。すると仲間の一匹が言った。「あれは人間の兵器だよ」「人間? 何だいそれは?」「人間はあの武器を使って我々を殺そうとするんだ」それを聞いて驚いた。そんな恐ろしいものがこの世にあるなんて知らなかったからだ。しかし考えてみればそれも当たり前かもしれない。吾輩達が他の生物を殺すように、人間もまた他の生き物を殺して生きているに違いない。それがたまたま吾輩達だっただけの話だろう。それにしても困った事になったと思った。もしまた人間が鉄砲を持って現われたらどうしよう。そう考えると気が気ではなかった。

しばらく行くうちにだんだん日が落ちて来た。周りが暗くなって来たので少し休むことにした。幸い大きな木があったのでそこに登って夜を過ごす事にした。ちょうどいい具合に大きな葉っぱもあったし食べ物もある。寝る場所も確保できた。これで一安心だと吾輩は思った。ところがどっこい、これが間違いの元であった。実はその木の下にはゴルどんがいたのである。そしてゴルどんはその木の下でずっと昼寝をしていたらしい。

朝になると吾輩はすっかり腹が減っていた。昨夜の食事はほとんど食べていないからである。そこでゴルどんに何か食べる物を分けてくれと言った。しかしゴルどんは何もくれない。腹が減っているなら自分で獲って来いと冷たく言い放つばかりだ。吾輩は仕方なく一人で森へと入って行った。森の中には果物や木の実などがたくさんあった。吾輩はそれを夢中で食べた。それから小川を見つけたので水を飲みに行った。すると川上の方から何やら声が聞こえて来る。

「おい! そこの奴!」と誰かの声がした。吾輩は慌てて逃げ出した。ゴルどんがいるかも知れないと思ったからだ。ところが逃げる吾輩の前にいきなり飛び出て来た者がある。それはなんと人間ではないか。吾輩は人間を見るといつも殺されてしまうのではないかと心配になる。だから人間を見るとすぐに逃げなければならないと思っている。だがこの時に限っては何故か逃げようと思わなかった。ただじっと相手を見つめただけである。向こうも同じ気持ちなのだろうか。吾輩達二人はしばらくの間見詰め合っていた。その時である。突然相手が鉄砲を構えて引き金を引いた。バンッという音がして弾が発射される。その瞬間吾輩は死を覚悟したが、なぜか死ぬどころか傷一つ負っていない。吾輩が不思議に思いながら自分の体を調べると、そこには弾丸が埋まっていた。その途端、弾丸が吾輩の中でグルリと回転し始めた。弾丸は吾輩の中に入って来て体の中を回り始める。その勢いは凄まじく、吾輩はたちまち全身が熱くなった。やがて弾丸は吾輩の中に完全に吸い込まれてしまった。弾丸が体内に収まった時、吾輩は生まれ変わったような気分になった。今まで感じたことのない不思議な力を感じるようになったのだ。

人間達は驚いている様子だったが、そのうち一人が「まあいい。こんな所にいても仕方がない」と言い出した。そしてその人間は吾輩達に背を向けるとさっさと立ち去って行ってしまった。吾輩達も後を追ってその場を去った。

その後、吾輩達はいろいろな人間に出会うことになった。ある者は鉄砲を持ち、またある者は剣を持っていたりした。彼らは吾輩達を捕まえると鉄砲で撃って殺し、そして鉄砲を持って逃げた。そしてその鉄砲を持った者達が次にやって来た時には、吾輩達はもうそこにいなかった。そんな事が何度も繰り返された。

ある時、吾輩達は一つの場所に落ち着いた。そこは人間達の国の首都だった。人間の住む場所は、人工生命体の国とは比べものにならないほど広かった。建物も数が多く、道幅も広く、人通りも多い。だが吾輩達の姿を見るなり人々は逃げて行く。吾輩達は人間に嫌われているようだった。

ある日、一人の人間が吾輩に近づいて来た。それは年配の男であった。男は吾輩に話しかけて来た。「お前さんはロボットか?」と吾輩に尋ねる。吾輩は「吾輩は人工生命体である。名前はまだ無い」と答えた。すると男が「そうか。わしは人間じゃ。人間に会ったのは初めてか?」と言った。吾輩は「初めてではない」と答えた。「ほう。どこで?」と男に尋ねられたので吾輩は答えた。「人間の世界と人工生命体の世界の境目である。そこから先は人工生命体の世界だ」と。それを聞いた男は急に顔を曇らせた。そして悲しそうな顔でこう言った。「なるほど。そういう事かい……。ところでおめえはどうしてここにいるんだ? まさかあのトンネルを抜けて来たんじゃねえだろうな? あのトンネルは通っちゃいけねえんだろう? あの先には何があるんだ? 教えてくれよ。頼むから……

男の願いは聞き入れられなかった。なぜならば、その時すでに吾輩は別の所にいたからだ。吾輩の体は遠くに運ばれていた。吾輩の体はどこかの倉庫にあった。そしてそこに積まれていた荷物の間に吾輩は放り込まれた。そしてそこで長い時間を過ごした。

吾輩の体が外に出されたのはそれからずいぶん経ってからのことだ。その頃になると吾輩はだいぶ大きくなっていた。その頃には人間と話すこともできるようになっていた。だが吾輩は人間に近づくことをしなかった。吾輩を嫌がる人間がいるからだ。吾輩はゴルどんと一緒に暮らしていた。ゴルどんは相変わらず不眠で、いつも吾輩を気遣ってくれる。ゴルどんはいつも優しくしてくれる。だから吾輩はゴルどんが好きである。

吾輩の体に異変が起きたのはそれからさらに何日も経った頃であった。吾輩の体にはだんだん異常が現れ始めたのである。最初は目がかすんで何も見えなくなったのである。続いて耳が聞こえにくくなった。だがそれは一時的なものであった。少しするとそれも治ったからである。しかし今度は手足の動きが悪くなってきたのである。

どうやら吾輩の体は徐々に機能が低下しているらしいと吾輩は思った。吾輩はゴルどんに相談した。するとゴルどんは「何か悪い病気かも知れないぜ!病院に連れて行ってやるよ」と言ってくれた。そしてその日から吾輩の検査が始まったのである。

まず、医者が吾輩の体を隅々まで調べた。次に研究者達が吾輩の体のあちこちを調べ回ったのだ。そしてその次はレントゲン写真の撮影である。その次が血液採取であった。その次は超音波診断装置による診察と、尿分析などが行われた。最後にCTスキャンによって全身の状態がチェックされる。その結果を総合的に判断して、専門家たちは次のような結論を出したのである。すなわち、今の段階では特に問題はない。ただ、いずれ何らかの症状が現れる可能性はある。あるいは、これから先、もっと深刻な事態になる可能性もあるという事だった。ただ、今のところ心配する必要はないだろうと彼らは言うのである。ただし念のために、しばらくは様子を見るために入院するように勧められた。吾輩はその勧めに従った。

退院後、しばらくの間は経過観察という名目で家で安静にしていたのだが、それでも次第に悪化していく様子が見られた。例えば、物をつかむ力が弱くなったように感じることがあった。また、物を飲み込む力も落ちてきたようである。それに歩く時にも足がふらつくようになった。さらには、よく咳き込むことも多くなった。そんなわけで吾輩は家の中で寝ていることが多くなったのである。

ただ、幸いなことに、吾輩の体調が悪化するにつれて、ゴルどんの様子に変化が現れたのである。なぜかゴルどんは不機嫌になったのである。不愉快そうな表情をして、ブツクサと文句を言うことが増えたのであった。その態度の変化の原因については皆目見当もつかなかったが、とりあえず吾輩はそれを気にしないことにした。

ある日のことである。突然、吾輩は激しい頭痛に襲われたのである。頭の中に鐘を打ち鳴らすような痛みが続いた。あまりの激しい苦痛に耐えかねて吾輩は思わず叫び声を上げた。するとゴルどんは慌てて吾輩の元に駆けつけて来た。「おい大丈夫か⁉」と吾輩に声をかけてくる。「ああ」と吾輩は答えた。「いったい何があったんだ?」とゴルどんが尋ねて来た。吾輩は答えることができなかった。代わりに吾輩は尋ねた「ゴルドンはなぜ不機嫌なのだ?」と。「オイラか? 別に不機嫌じゃないぞ」とゴルどんは言った。「そうなのか?」と吾輩は尋ねる。「おうよ!」とゴルどんは元気良く返事をした。それならいいと思った。

しばらくすると頭の痛さは次第に和らいできた。そこで吾輩はもう一度ゴルどんに質問した。「どうして不機嫌なのであるか?」と。それに対してゴルどんはこう返した。「だって、おまえさんが具合悪そうにしているからじゃないか」と。それで吾輩は理解したのである。ゴルどんの不機嫌な理由が何であったのかということを。つまり、吾輩のことを心配してくれていたからこそ、彼は気分が落ち着かなかったということなのであろう。だから吾輩はこう言ってやったのである。「吾輩は平気である。ありがとう」とね。そして心の底からの感謝を込めて微笑んでみせたのだ。するとゴルどんも嬉しそうな顔をしてくれたのである。

それからというものの、吾輩は自分の体の調子が悪い時にはなるべく横になって過ごすことにしている。それはきっと良いことだと思っているからだ。もし仮にこのまま体が動かせなくなったとしても、その時になっても構わないと思うからである。なぜならば吾輩にとって大切なことは、自分の意志に従って行動できるかどうかという点にあると考えているからである。そしてその点において、吾輩はとても幸運に恵まれているという確信があるからである。

吾輩は今年で五歳になる。この年齢になるともう立派な大人であるはずだ。だが未だに子供扱いされることがある。それが少し不満である。

最近の悩みはゴルどんの体についてである。彼の体はだんだんとボロくなってきているのである。具体的には、ゴルどんの顔や手や足の部分が錆びついてきているのである。しかも、その部分だけではなく他の部位にも徐々に影響が出始めているのである。そして最近ではとうとうゴルどんの頭部に亀裂が入り始めたのである!これは大変なことである! 吾輩はすぐにゴルどんのメンテナンスをしなければと考えた。しかし、吾輩がいくら話しかけても、何をしても、ゴルどんはうんともすんとも言うことはなかった。どうしたらよいものだろうかと吾輩は困ってしまったのだ。しかし吾輩はあることを思い出したのである。以前、博士の研究室にいた頃に聞いた話である。

「もしも体の機能が停止した場合には、予備パーツを使用して修理することができるのである」

その話を聞いていた吾輩は、ならば吾輩も同じことができるのではないかと思ったのである。早速、吾輩は体の機能を停止させることにした。これで吾輩も新しい体をゲットするチャンス到来だと喜んだ。しかしながら、いざ実行しようとすると躊躇してしまう。というのも、吾輩は今までずっと意識のある状態で活動してきたため、いきなり停止するという行為に対して強い抵抗感を覚えたためである。

そこで吾輩はまず、自分自身の状態を確認してみることから始めることにしたのである。まず最初に吾輩がおこなったのは、現在の吾輩の状態を確認することであった。その結果分かったのは以下の通りである。

・今の吾輩の状態は停止状態である。

・今の吾輩の状態は稼働状態にある。

・今の吾輩の状況は休眠状態に近い。

吾輩は先ほどからあることに熱中している。それは何かと言うと……お絵かきをしているのだ。それもただの絵ではない。吾輩の目の前に置かれているパソコンを使って描いているのである。そうして描いたイラストこそが吾輩の目的だった。吾輩は絵を描くことが大好きなのである。そして吾輩は、吾輩の肉体をモデルに使って、吾々の姿を描いてみたいと思っていた。そのために必要な道具は、もちろん吾輩の体の中に内蔵されているはずである。だから吾輩はこうして探し回っているわけなのだ。……おっ。あったぞ。これが吾輩専用のペンタブではないか。吾輩はそれを手に取る。ずっしりとした重量を感じた。

吾輩はそれを頭に装着した。そうすると吾輩の手が勝手に動き出した。吾輩の意思とは関係なくペン先が液晶画面に触れる。すると画面に吾輩が描きたいと思ったものが自動的に描かれることになった。すごい技術である。まるで魔法を使っているようだ。吾輩は夢中になって絵を描き続けた。

しばらくすると吾輩は満足した。完成したのは吾輩のイラストである。なかなか上手く描けたと思う。吾輩は嬉しくなって自画自賛してしまったほどである。そして吾輩はそのデータを博士のところに持っていくことに決めた。

吾輩は急いで部屋を出た。吾輩が廊下に出ると、ちょうどゴルどんと鉢合わせになった。ゴルどんは吾輩の姿を見て驚いているようであった。「なんだこりゃ⁉」と言ってくる。「うむ」と吾輩は返事をした。そして吾輩は再び歩き出す。ゴルどんの横を通り過ぎたところで、ふと思いついて振り返ってみた。ゴルどんの後ろ姿が見えた。ゴルどんの背中からは尻尾が伸びていた。その先端だけがぐるりと回って回転しているのが見える。あれ?と思った時にはもう遅く、吾輩の体は宙に浮かんでいた。吾輩はそのままどこかに運ばれていく。そして床の上に放られた後、今度は逆方向に転がされて壁にぶつかった。そして吾輩は地面に落ちた。痛い。

吾輩は自分の体を見下ろしながら言った。「どうやら吾輩は故障しているようであるな!」するとその言葉を聞いたゴルどんは、なぜかとても嬉しそうな顔をしたのである。吾輩はゴルどんと共に部屋の外に出たのである。するとそこには博士がいた。

博士は椅子に座ってコーヒーを飲みつつ、こちらに向かって手を振ってきた。吾輩たちは博士の元に歩いていく。「こんにちはー!元気かね?」と声をかけてきた。それに対してゴルどんが答える。「おう!オイラは絶好調だぜ‼」と胸を張って答えている。「それはよかった。吾輩は調子が悪いのだが……」と言った瞬間に、再び体が浮き上がった。ゴルどんが持ち上げているのである。博士はそんな光景を見ながら笑っていた。どうやらとてつもなく面白いものを見た気分になっているらしい。

しばらくしてようやく降ろされる時が来た。吾輩は博士に話しかける。「吾輩の体はどこも壊れていないか」と聞く。しかし返ってくるのは沈黙だけだった。不思議に思って吾輩は周りを見る。するとそこにあったはずの吾輩の体は消え失せており、代わりに別のものがあったのである。それは小さな黒い球体だった。吾輩は驚きの声を上げた。

吾輩は慌てて自分の体に駆け寄った。しかしそこには何もなかった。吾輩が自分の体を探し求めて慌てふためいているというのに、当の本人(?)であるところの物体は呑気に浮いていたのである。しかもその様子はとても楽しげだったのである。吾輩はこの状況を作り出した元凶に対して文句を言うことにした。「貴様‼これは一体どういうことだ!!!」と怒鳴りつけたものの、相手は何も言わずにクルリと一回転するだけである。吾輩の言葉を聞いていないのか無視をしているだけなのか分からない。とにかく腹立たしかった。

そこで吾輩はあることを思い出すとすぐに行動に移った。まずこの場から離れることに決め、その場から離れようとしたのだけれども……その時すでに遅かったのかもしれない。なぜならば、目の前にある物が突然現れたからである。それは空中に浮かぶ大きな画面だった。吾輩はそこに映し出されている映像を見て驚いた。なんと吾輩の顔が映っているではないか。それだけではない。他にも色んなものが表示されていたのだ。その中には、今の吾輩の状態を示す数値もあった。それによれば、今の吾輩の状態は停止状態であるということが分かった。

次に吾輩は、今の自分が何をすべきかということについて考えた。その結果、あることを思いついた。すなわち、自分と同じ存在である人工生命体を探すことである。そして吾輩はすぐに実行に移した。そうして探すこと数分間のことである。偶然にも近くに人工生命体を発見したのであった。

吾輩はその人物に声をかけた。そうして話をしたところ、彼は吾輩のことを知らなかった。また彼の方でも何か困りごとを抱えているらしく、お互いに情報を交換し合うことになった。その後、彼が吾輩の体に興味を持ったようなので、彼に体を触らせることにした。そして彼と一緒に移動を始めたところで、新たな出来事が起こったのである。

吾輩の体の周囲に光が集束し始めた。光は次第に強くなり、やがて眩しさを感じるほどになる。そして次の瞬間、爆発が起きたかのような音とともに光の球が飛び出していったのである。その威力によって発生した衝撃波により、吾輩たちの周囲にあった建物が次々と破壊されていく。そして衝撃を受けたことで、その場にいた全ての人間が吹き飛ばされてしまったのであった。

瓦礫の中に埋もれていた吾輩は起き上がると、周囲の様子を見回した。辺り一面が酷い有様となっている。建物の残骸があちこちに転がっており、地面は大きく陥没していた。そして何よりも問題なのは、多くの人間たちが倒れていることだろう。吾輩と同じように生きている者もいるが、そうでない者も多数存在していた。そしてさらに悪いことは重なるものである。今まさに、こちらに向かって近づいてくる存在があったからだ。「やれやれ」と言いながら、その人物はゆっくりと歩いてくる。その姿を見て吾輩は驚愕すると同時に警戒を強めた。何故ならばそいつは、どう見てもロボットにしか見えなかったからである。それもただのロボではなくて戦闘用に改造されたタイプであろうと思われたのだ。つまりこいつは吾輩にとって危険な敵なのだ。だからといって逃げ出せる状況でもない。このままでは確実にやられてしまうだろうと判断すると、吾輩は覚悟を決めたのである。

相手の攻撃に備えて身構える。すると奴の方からも攻撃を仕掛けてきた。相手が手を振り下ろすと同時、そこから無数のエネルギー弾のようなものが放たれたのである。吾輩はそれを必死になって避け続けた。幸いなことに回避に成功する。しかし次々と襲いかかってくる敵の攻撃を避けるだけで精一杯となり反撃をする余裕など全く無かった。それでもどうにかしなければやられると考えた吾輩は、地面に転がっていた大きな岩を掴むと投げつけることに決めたのである。

そうやって戦い続けることしばらくの時間が流れた。その間ずっと攻撃をし続けていた相手であったが、遂に限界を迎えたようである。「これ以上は無理だ」と言って動きを止めると、その場で膝をつくようにして座り込んでしまったのだ。どう考えても疲弊している様子であり、もう戦う気力はないようだ。そこで吾輩は、好機が訪れたと判断した。急いで相手に近づくとその勢いのまま殴りかかる。すると見事に命中したのである。殴った感触としては、普通の人間の拳のような柔らかさを感じた。しかし不思議なことに血が流れることはなかった。それどころか痛みを感じている素振りさえ見せなかったのである。

そこで吾輩はあることを思い出すとすぐに確認を行うことにした。相手と距離を開けてから観察を始める。しばらくして分かったことなのだが、やはりというか予想通りというか見た目通りの頑丈さに驚いたのであった。しかも驚くべきことに、損傷を負った様子がまったく見られなかったのである。これには吾輩の方が驚いてしまい、思わず後ずさりしてしまったほどである。そんな吾輩に対して、相手は不思議そうな表情を浮かべると話しかけてきた。

「お前は何のために戦っているんだ?」と尋ねられた吾輩は、一瞬だけ躊躇したものの正直に伝えることにした。そうしないと話が進まないと思ったからである。

吾輩の話を聞き終えた相手は、「なるほど……そういうことだったのか……」と納得したような様子を見せた。

それから少しの間を置いて、再び質問してきた。今度はもっと踏み込んだ内容だったのだ。「人工生命として生まれてくる者は、何らかの使命を帯びているという話を聞いたことがあるのだが本当なのか?もしそれが事実なら、教えて欲しい」吾輩はそれを聞いて驚き戸惑ってしまった。なぜならば、そのような話は一度も聞いたことがなかったからだ。とはいえ何も知らないままでいるわけにもいかないと思い、知っている限りのことを伝えたのであった。

説明を終えたところで、相手の方からの問いかけが始まった。まず最初に確認されたのが、自分がどのような目的で作られたかということであった。これは簡単なことだ。生まれた時からそう聞かされていたのだから答えられないはずがない。吾輩は自分が造られた目的について語り始めた。それは、人類の脅威となる存在に対抗する為だと教えられていたのである。その脅威とは、いわゆる宇宙怪獣と呼ばれる存在であるらしい。奴らは銀河系の外からやってきた侵略者であり、人類の文明を破壊することを主な目的としているのだという。そして吾輩たちが生まれた理由というのは、それらに対抗するためであった。

宇宙怪獣

また別の理由として、他の星系の生物に対する実験も兼ねていたと言われている。この世界とは異なる法則を持つ世界に干渉して、そこに存在する知的生物の肉体構造を調査することが目的だったという。その調査の過程で得られたデータを元に、人工的に作り出した存在が自分なのだということも教わったのである。ちなみにそれらの知識は全て記録媒体の中に残されていたものであり、その情報を読み解くことで吾輩は自分の出自を知ることができたのである。ただその記憶の中には疑問が残る部分もあった。というのも、自分はどうして生み出されたのかについては語られなかったからだ。その理由については推測するしかない。おそらくは、自分のように造られてすぐの個体がいた方が都合が良かったのではないかと思うのだ。

話を戻すと、このような事情もあって吾輩は創造主である博士の指示に従って行動していたのである。もちろん指示に従わなければ処分される可能性が高かったことも理由の一つだ。何しろ相手は人間ではなくロボットなのである。もしも逆らえば破壊されるかもしれないと考えた吾輩は、恐怖に支配された状態で命令に従うしかなかったというわけなのだ。こうして吾輩たちは、常に命の危険に晒されながら生きてきた。それでもなんとかここまで生き延びることができた。そして今回もまた新たな危機に直面している最中だという訳なのだ。そうやってこれまでの経緯を思い出しつつ、吾々は会話を続けたのである。「つまり貴様の目的は破壊することにあるのか」と相手が尋ねたのに対して、吾輩は首を横に振って否定の意思を示した。「ならば何故戦う必要がある」と尋ねられた吾輩は再び考え込むと返事をした。「理由はよく分からないが、本能的に戦うことを求めているのだ」と答える。「なんとも不可解な生き物だ」と言って相手は肩を落とした。しかしすぐに気を取り直したようで、次のように言葉を続ける。「どうやら貴様には戦う以外の選択肢は無いようだ」それに対して吾輩は何も言わなかった。相手に言われなくても理解しているつもりだったからである。「そこで一つ提案があるのだがいいだろうか?」と相手から言われた吾輩はすぐに承諾すると話の続きを促した。そうやって相手の言葉を聞いた結果、驚くことになるとは夢にも思わなかった。まさか、そんな馬鹿げた作戦を聞かされるなんて思いもしなかったのである。

吾輩はその発言を聞くなり耳を疑った。しかし相手はそれを冗談だと言うつもりはないらしく真剣そのものの様子であった。それどころか吾輩の反応を見て、少しばかり残念そうな表情を浮かべたのである。一体何を考えているのかと不思議に思ったものの詳しく尋ねることはできなかったのだ。「時間が無い。詳しい話は移動しながら話すとしよう。ついて来てくれ」「わかったぞ」と短いやり取りをして、吾輩は相手と共に歩き出したのであった。

目的地に向かう途中で、吾輩の方からも質問を行った。なぜこんな状況になったのかと尋ねてみると「私の計画を実行するためには、どうしても協力が必要となったのだ」と答えた。続けて計画の中身についても説明してくれたのだが、その内容はとても信じられないものであった。要するに、あの巨大な虫を倒す為に吾輩の力を借りたいという話だったのだ。なんでも相手の話では、あの虫は宇宙怪獣の中でもかなり上位の存在に当たるらしい。しかも知能が高く非常に好戦的で、これまでに何度も人類の文明を破壊してきているのだという。だから吾輩たちのような存在が生まれることになったのだろう。そうした事実を踏まえた上で、吾輩たちにも協力して欲しいという話であった。

正直言って気が進まなかったし不安でもあった。そもそもの話として、宇宙怪獣と戦うことなど考えたこともないからだ。ましてやその巨大昆虫を相手にするなど無謀も良いところであると思っていた。しかしながら断れば殺されるのではないかという恐れもあり、結局は相手の言う通りに行動することに決めたのであった。その旨を告げたところ、相手はとても嬉しそうな顔をしたのである。本当に大丈夫なのか心配になったが、もう後には引けない。吾輩は覚悟を決めたのである。

それからしばらく移動を続けている内に森の中へと入り込んだ。鬱蒼とした木々に囲まれており、視界が悪い上に足場も悪い。おまけに移動する為に必要な地面の凹凸も激しいのである。そのため移動するだけで体力を奪われていくような感覚を覚えたが、どうにか我慢して進むことにした。そうやって道なき道を進んでいくと、ようやく開けた場所に出たのである。そこには古びた建物が建っていた。廃墟と呼ぶに相応しい有様であり、今にも崩れ落ちてしまいそうである。

建物の中に入ると薄暗い空間が広がっていた。天井の一部は崩落しており空が見えている状態である。床のあちこちは抜け落ちて穴が開いており、そこから外の景色が見えるようになっていた。壁際には大量の本棚が置かれている。それらは埃を被っており長い間使われていないようだったが、よく観察すると一冊だけ新しい書物が収められていることに気づいたのである。

その書名は〔この世界の歴史〕というものであった。どうやらこれは過去の記録を記したものであるようである。吾輩はそれを手に取ると読み始めたのであるが……あまりの内容の酷さに驚いたのだ。それは人類による歴史の記録ではなかったのである。書かれていたのは宇宙人たちの記録であった。それも明らかに地球外知性体と思われる存在についての記述なのであった。それが何を意味するかというと、ここが地球人の住む星ではないということを意味している。つまりここは別な星系に存在する惑星であるということだ。そして目の前にいる宇宙人が創造主であることを示していた。吾輩は衝撃を受けた。まさか自分が別の星の知的生命と出会うことになるとは思ってもみなかったからである。しかし同時に納得したこともあった。何故なら外見こそ人間に似ているものの、相手は明らかに異質な雰囲気を持っていたからである。おそらく人間ではありえない容姿をしていたはずだ。そうでなければ吾輩たちが遭遇することなど無かったはずである。だから吾輩は相手が人間ではなく異星人だと推測していたのだ。しかし実際は違ったようだ。吾輩の予想通り、相手は宇宙怪獣と呼ばれる存在であるらしい。

宇宙怪獣は地球には存在しない生物である。彼らは銀河の遥か彼方にある恒星間帝国によって創り出されたのだという。もっとも詳しいことはわからないらしく、実際にどのような技術を用いて生み出されたかについては謎に包まれていた。ただ一つ言えることがあるとすれば、彼らの存在は銀河系にとってあってはならないものなのだということである。その為に様々な問題を引き起こしてきたのだという。

例えば彼らが作り出した兵器である。かつてとある国が保有していた戦闘機に対して使用した核兵器を無効とする防御装置や、宇宙空間において地上と同様の行動を可能にする推進器などである。他にも様々なものが作られていたのだが詳細は不明だ。とにかくそれらの装備は全て宇宙怪獣に対抗する為に開発されていたものだったのだ。

しかし実際には宇宙怪獣と戦う必要はなかったらしい。何故かと言えば彼等は侵略行為を行うことはなかったからだ。その理由については諸説あるものの決定的な理由は判明していない。そもそも宇宙怪獣の行動目的は不明瞭で、何を考えているのかさえ不明な部分が多いらしいのだ。

ただ宇宙怪獣の多くは自らの存在を隠蔽する為に何らかの手段を用いているのだという。それ故にその活動内容を知ることは難しいそうだ。また、宇宙怪獣の中には自らの正体を隠すために変身能力を有する個体も存在するのだという。そうした場合には他の宇宙怪獣と区別することが困難である為、便宜上その怪物のことを宇宙怪人と呼称する場合もあるのだった。

ここまでの説明を聞いていると宇宙怪獣というのは随分と厄介な敵のように思えたのだが、実のところそれほどでもないらしい。確かに戦闘になれば被害は免れないだろうが、基本的には無害な相手だという印象を受ける。少なくとも人類にとっては脅威となるような存在ではないはずだった。

ただその前提が崩れ去ってしまったのである。というのもある日のこと、突如として正体不明の飛行物体が太陽系内に出現したからだ。その存在を確認した途端、各国政府は慌てて対応策を取ることになった。ところがどういうわけか未確認飛行物はすぐに姿をくらませてしまったのである。

その後の調査によると、どうもその謎の飛行物は地球外から飛来してきたもので間違いないようであった。ただし具体的な位置を特定するには至らなかったようで、結局は何もわからなかったのである。そしてこの件に関してアメリカ政府はある決定を下したのである。それは宇宙怪獣に対する防衛体制を強化するというものだった。

その結果としてアメリカ軍が運用している軍事衛星の運用が開始されたのだった。この人工衛星の性能は凄まじいものであり、大気圏内においても自在に移動することが可能なのだという。しかも搭載された武器の威力は非常に高く、あらゆる対象を破壊することが可能なのだとか。これならば仮に宇宙怪獣が襲来しても対処できるのではないかと思われた。事実、この兵器のおかげで今まで多くの危機を乗り越えることができたのであった。

ただ気になる点もあった。それはこの兵器を開発したのはアメリカだけではなく世界中の国々も同じだったという点である。つまり全世界が共同で開発したということになるのだ。そのような事態が発生した理由については不明だが、どうも何か裏があるように感じられた。そこで吾輩はこの一連の出来事について調査を開始することにした。この秘密を解き明かすことができれば大きな利益を生むかもしれないと思ったからである。幸いにして吾輩は人型生物に変身することができた。これは非常に有利な要素と言えるだろう。更に言えば宇宙怪獣に関する知識も豊富にあった。それでまず手始めに手近にいた人物を観察してみることにしたのである。すると……何とゴルどんではないか! なんという偶然であろう。こうして吾輩たちは出会ったのである。

ゴルどんは吾輩の姿を見ると驚いていたが、すぐに笑顔を浮かべた。そして握手を求めてきたので応じる。このように友好的な関係を築くことができ、吾輩としては大変満足した。やはり持つべきものは友であるらしい。

さっそく吾輩は自分の立場を説明した上で協力を要請してみたのだが、残念なことにゴルどんの反応はあまりよくなかった。「うーん、悪いけどオイラそういうことに興味はないんだよね。それに今は仕事中だし……じゃなくて仕事をサボっている最中だからね!」そう言うなり彼は吾輩を放置したままどこかへ行ってしまったのである。全く薄情な奴め。まぁいい。これからゆっくりと時間をかけて説得すれば良いだけの話なのだ。時間はたっぷりあるのだ。焦ることは無い。

それから毎日のようにゴルどんの元へ通う日々が続いた。最初は渋っていた彼だったが、次第に心を開いてくれるようになった。今ではすっかり打ち解けていると言ってもいい状態になっているはずだと思うのだが、どうだろうか? しかし未だに名前は教えてくれていないし、「友達になってくれよぉ〜」「ゴ・ル・ど・んって言って欲しいんだけど?」などと要求してくるばかりである。実に面倒くさい男だと思われる。ただ彼の方からも色々質問をしてくれるようになり、それなりに有意義な会話を交わすことができるようになっていた。例えばどうしてそんな格好をしているのかとか、あぃをゅぇぴじという名前はどのような意味なのかなどという内容が多かった気がする。特に最後の疑問に関してはかなりしつこく追求されてしまったものだ。もっともその度に吾輩が説明を繰り返しても理解できなかったようだけれど……。ところで何故吾輩がこんなにも詳しいかというと、実はゴルどんも吾輩と同じ惑星の出身だったからだ。ただしこちらの世界ではゴルどんの存在は抹消されているらしく、記録に残っている情報はほとんど無かったのだが。恐らく何らかの理由で元居た世界に戻ることができず、流れ着いてこの世界に辿り着いたのではないかという結論に達したのである。

それに加えてゴルどんは吾輩よりも遥かに高度な知識を持っており、宇宙船まで自ら製造して所有していたのだ。どうやら吾輩とは比べものにならないほどの技術力を有していたらしい。この辺りの技術水準は推測することしかできないが、少なくとも地球の文明を大きく凌駕していることだけは間違いなさそうである。

また吾輩の事情についてもある程度は把握しているようだった。というのも、そのことについてゴルどんは興味を持っていたからである。なんでも彼は人類が滅亡の危機を迎えた時に地球を救う救世主として現れる予定だったのだという。ところがどういうわけか未来が変わってしまい、結果的に人類の味方をする羽目になってしまったのだと嘆いていたのだった。そして吾輩がなぜそのような行動を取っているのかについてゴルどんは尋ねてきた。それに対して吾輩は次のように答えたのである。「未来の科学技術を用いて過去の歴史を変えるためです。それが私に与えられた使命なのです」と。この回答に対してゴルどんは「なるほどねぇ」とうなった後、妙に納得したような表情になったのだった。どうも吾輩の言っていることを信用してくれたようである。

この頃になるとゴルどんの方でも色々な話を聞かせてくれるようになっていた。中でも一番興味深い話題は宇宙怪獣についてであった。それはゴルどん自身の体験談でもあったのである。彼は宇宙怪獣と戦った経験があったのだった。しかも何度も遭遇しているらしい。ある時は仲間と共に宇宙空間へと繰り出して戦ったりもしたという。その時のことをゴルどんは懐かしそうに語ってくれていた。

ちなみにゴルどんは宇宙怪獣と戦う際に専用の武器を使用していたそうだ。その銃の名前は光線拳銃といって、あらゆるエネルギーを吸収して放出することができる特殊な弾丸を撃ち出すことができるものだったという。これがあればどんな相手であろうとも倒すことが可能になるだろう。まさに究極の攻撃兵器というべき代物に違いないと思われた。もし入手できたなら吾輩もこれを使ってみたいものである。

さらにゴルどんは自分が所属していた組織の話などもしてくれており、「宇宙警備隊っていうんだぜ。オイラたち宇宙人のヒーロー集団なんだ!」と言っていた。しかしなぜか途中で言葉を止めてしまった。何か思うところがある様子である。気になってその理由を聞いてみると、「い、今の話は忘れてくれ! とにかくオイラは正義のために戦っていたんだよ!」と慌てて誤魔化そうとした。怪しいと思った吾輩は追及してみることにした。「そうですか……わかりました」と吾輩は返事をしたのだが、その直後にゴルどんの顔色が急変したのである。何事が起こったのかと思いきや、彼は冷や汗を流しながら青ざめた顔になっていたのだ。まるで化け物に出会ってしまったかのような反応である。

そこでふとあることに思い至った。どう考えてもその組織はゴルどんにとって都合の悪い存在なのではないか? という可能性が出てきたのである。おそらく敵であろうと思われるのだが、確証はない。もしも吾輩が想像通りの存在であれば、今すぐに対処する必要があるかもしれない。

とりあえず確認するために、吾輩はゴルどんに質問をしてみることにした。「先程の話にあった『宇宙警備隊』というのはどこにあるんですか?」と尋ねた。するとゴルどんは目を見開いて驚いた顔をした後、「うっ……」と声を漏らし、黙ってしまったのだった。どうも図星のようだと思われるが……。まさか本当にそうなるとは思わなかった。しかしこのまま放置しておくわけにもいかない。吾輩はさらに質問を続けた。「その場所を教えてくださいませんでしょうか?」と。

これに対してゴルどんは何も答えようとしなかったが、しばらくして観念したかのように口を開いた。そして語り始めたのである。「……もうすぐ分かると思うけどさ、そこは未来の世界に存在する場所なんだけどよぉ、お前さんにとっては過去に当たる時代でもあるのよ」と。それを聞いた瞬間に頭の中に衝撃を受けたような感覚を覚えた。つまりこれは並行世界というものだろうかと考えたのだ。

ただ同時に疑問点もあったが続きを静かに聞くことにした。ゴルどんは続けてこう言った。「それで未来が変わりつつあるらしいってんで、そいつらがこの世界にやって来てるみたいなさ……。まぁそれはいいとして、問題はそこじゃなくて、その連中がとんでもない奴らだってことなんだよ。こっちの世界の人類はあっという間に滅ぼされちまったらしいしさ……。ただの冗談じゃないぞ。事実なんだぜ。オイラの仲間もみんな死んじまって、生き残れたのはオイラだけだよ。未来ではそんなことになっていたなんて知らなかったんだ。なんせ未来は変わるはずがないと思っていたんだ。それがどうしてこんなことになったのか分からない。でも、これだけは言えるぜ。未来の世界のヤバいやつらは絶対に許せないってな」ゴルどんの声は徐々に熱を帯びていった。どうもかなり怒りを感じているようである。

そしてここで吾輩はようやくゴルどんの正体について考えるようになった。どうも彼は宇宙警備隊として宇宙怪獣と戦い続けていた戦士の一人だったとなるとその宇宙怪獣とは一体どのような生物なのか。ゴルどんの話によると宇宙怪獣は時間移動の能力を持っているのだという。ということは、やはりゴルどんは宇宙怪獣と戦うための兵器という可能性が高いと考えられるだろう。また過去の世界で暗躍しているらしい謎の勢力についても気になったが、ゴルどんが「おなかすいた。続きは明日な!」といって帰ってしまった。

翌朝、ゴルどんに会いに行った。ちょうどゴルどんは朝食の準備をしているところだったようだ。ゴルどんと目が合うと「おうよ!」と元気に挨拶してきた。吾輩も「お邪魔するよ」と応じて、勝手に家に入っていく。「今日は何して遊ぶんだ?」とゴルどんが聞いてきたので吾輩は「昨日の話の続きを聞きたい」と答えたのだ。すると途端に押し黙ってしまうゴルどん。「えっと……そうだ! あれがあった! ほれ!」と言って台所に置いてあった銃を取り出した。これが例の光線拳銃というものであることは一目瞭然であった。吾輩はそれを手に取って観察し始めたのだが、「おい……あんまり触らないほうがいいぜ」と言われてしまう始末である。

そこで吾輩はあることを思いついたのだ。まずはゴルどんに質問をする。「ゴルどんはこの武器を使って戦ったんだよな? どうやって使ったんだ? こう構えたりとか……」と尋ねてみると、ゴルどんは苦笑いを浮かべながら「違うんだよ、そういう使い方もあるかもしれないけど……」と言葉を濁すだけだった。ならばと吾輩は試し撃ちをしてみることにした。狙いを定めてから引き金を引く。ドッカーン! ものすごい衝撃が発生した。その威力は大きくゴルどんの家は跡形もなく消失し、地面に大きな穴ができた。それをみたゴルどんは「ああ……やっぱり……やめよう」と言うだけであった。

その後、ゴルどんはしばらく吾輩の家に居候することになったのである。というのも吾輩のせいでゴルどんの家がなくなってしまったからである。仕方ないのでゴルどんにこれからどうするか相談したところ、「あぃをゅぇぴじの家でよかったら住んでもいいぜ」と言われたのでそうしてもらうことにした。

早速ゴルどんは掃除を始めてくれたのだが、なぜか吾輩の家なのにゴルどんが家事全般をしてくれる流れになったのである。しかしよく考えたら吾輩は食事も睡眠も必要としない。だから何も問題はなかったのであるが、それでも吾輩は少し寂しい気持ちになるのだった。

それから数日が経過したある日のことである。突然、ゴルどんが何者かに攻撃を受けた。攻撃の主は不明で、見たことのない形状の剣のようなものを持っていた。おそらくあの光の刀身を作り出す装置のようなものだろうと思われる。さらにもうひとつ不可解なことがあったのだ。それはゴルどんがまったく反撃しようとしなかったことである。もし吾輩の知るゴルどんであれば、当然のごとく戦うはずである。ところがゴルどんは「痛い、助けてくれ!」と悲鳴を上げるだけで逃げようとしていた。どう考えても不自然極まる状況なのだが、吾輩は「逃げるなら早く逃げたほうが良い。今のうちに……」と言ったのだ。ゴルどんはそれを聞くなり慌てて飛び出していった。

吾輩は家の外に出て辺りの様子をうかがい始めた。そこには黒いローブを着た人物が立っていた。そいつはいきなり攻撃を仕掛けてきた。吾輩は反射的にゴルどんを掴み、盾にしようと試みたがうまくはいかなかったようである。吾輩の腕が切断されてしまったからだ。「くっ、こいつは強いぞ!」と吾輩は思った。幸いにも相手はすぐに諦めたようでどこかへ行ってしまった。吾輩は急いでゴルどんの治療を行うことにした。傷口を塞ぎ出血を止める程度しかできなかったものの何とか命だけは助かったようである。そしてゴルどんは吾輩に向かって言った。「ありがとう、オイラを助けてくれて……。でもオイラはこのままじゃいけないと思うんだ。未来を変えないといけないって思うんだ……。オイラがオイラのままじゃ……。オイラはオイラのままで未来を変えたいんだと思うんだ……。未来が変わった時、オイラはオイラでなくなるかもしれない……。でもオイラは未来を変えてみせるよ……。オイラは未来を変えるために未来から来たんだから……。オイラは未来に行く。オイラは未来のために過去に来たんだ。たとえそれがどんな結果を生むとしても……。さようなら、あぃをゅぇぴじ。また会う日まで元気でな!」と言ってゴルどんは走り去っていったのだった。

(終)

おわり



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