【人工生命体124

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番弱い奴だという事がわかった。このゴルどんというやつはいつも泣きべそをかいている。何でも主人に怒られてばかりいるそうだ。それでも吾輩より強いことには変りはない。吾輩は彼を見て、弱虫だと軽蔑してやった。すると彼は急に顔を赤くして怒ってきた。何を怒ったのかよくわからんがきっと馬鹿とか何とかいったのだろう。いきなり殴ってきた。なかなか鋭いパンチだった。しかしそのくらいのことでは吾輩は参らない。それどころかその手を噛んでやった。たちまち喧嘩になった。ついに堪忍袋の緒を切らした主人に両方ともボコボコにされてしまった。もう二度と来るなと言われてしまった。吾輩は負けを認めたくなかったのでニャーとも言わなかったし、顔も見せてやらなかった。それから二日間は何にも口にしなかった。

三日目に主人が再びやってきた。何だかひどく慌てている様子であった。吾輩を見るとほっとしたような表情を見せた。それで吾輩も安心してゴロゴロ喉を鳴らした。どうやらこの人は吾輩のことが好きらしい。そこで吾輩の方から近づいて行って足の下に体をすり寄せてみた。相手はとても喜んだ。吾輩を抱き上げて頬ずりまでしてくれた。吾輩もこの人には好感を持った。そこで許してやることにした。また遊びに来てもいいぞと言った。しかしゴルどんは相変わらず主人に叱られているらしく姿を見せない。それに吾輩のほうもあまり気が進まなかった。なぜかというとあのゴルどんというのがあんまり強くなさそうで頼りがいがないからだ。あれでは猫の風上にも置けないと思う。あんな奴とはもう友達でも何でもないという気持ちで一杯であった。そんな訳で一月ほど経った時吾輩は家出を決行したのである。別に家出したところで行くところがあるわけではないのだがとにかくどこかへ行ってみたかった。吾輩が向かったのは海の向こうにある国である。船に乗って出かけるのである。船は苦手であったが頑張って行くことにした。

出発の日が来た。朝早く港に行くと大勢の人が見送りに来ていた。みんな泣いたり叫んだりしていた。中には手を振る者さえあった。こんな事は生まれて初めてなので吾輩はすっかり驚いてしまった。少しの間ボーッとしていた。

「いい子だ。元気で帰って来いよ」

突然誰かが叫んで吾輩の背中を叩いた。見るとゴルどんの飼い主の青年である。吾輩はその人に返事をするようにニャアと鳴いておいた。そして船を指差すと一目散に駆けだした。振り返るとその人もまだそこに立っていた。吾輩は彼に別れを告げるためにもう一度ニャアと鳴いた。すると向こうも泣きながら手を振った。吾輩は大きく手を振ってから桟橋を走り抜けて行った。そして波止場に着いた。するとすぐに船が動き始めた。しばらく揺れていた。吾輩は毛布にくるまって寝ようと思った。ところがその時不意に思い立ったので船室を出た。そして船の中を探検することにした。

船内は広くてとても豪華だった。まるで宮殿のようである。吾輩は目を丸くして見回した。すると階段を上がっていく男がいた。彼は吾輩を見つけるとギョッとしたように立ち止まった。それからゆっくりと近づいてきた。

「やぁ、これはこれは」

男は驚いた様子で吾輩の頭を撫でようとした。吾輩がサッと身を引くとその拍子に手を引っ込めた。しかし諦めきれないのか再び吾輩に向かって腕を伸ばしてきた。吾輩は素早く避けたので今度は頭ではなく腰を触られた。それでも懲りずに体をあちこち調べるように撫で回す。やがて吾輩は堪りかねて身を翻し彼の前から逃げ出した。そして甲板に出た。

風が強くて寒かった。海を見ると波が激しく打ち寄せている。潮の匂いが強い。それに何だか嫌な予感がする。何となく不安になって空を見上げた。青空が広がっていた。太陽が高く昇っている。吾輩は何となく気勢を削がれてしまった。そこで辺りをグルリと見渡した。船の周囲には大勢の人々がいて賑やかな雰囲気だ。だがその人達の顔は一様に青ざめていて元気がない。どうしたのだろう? そう言えば先程出会ったあの男の人も少し様子が変だった。顔色が悪く表情が暗かった。一体どうしてそんな顔をしているのだろうか。考えてみたがよく分からない。分からなかった。その時突然大きな声が上がった。

「来たぞ!」

人々は一斉に上を見た。そこには何か黒いものが飛んでいるのが見えた。それはどんどん大きくなっていく。鳥のようだ。でも違う。あれは飛行機だ。凄いスピードで接近してくる。それを見て人々の間から悲鳴が上がる。

「キャーッ」

「逃げろ! 落ちるぞ」

吾輩は驚いて固まっていた。突然誰かに抱き上げられた。見るとさっきの船室の青年であった。彼は吾輩を抱き抱えたまま走り出した。吾輩は混乱していた。何だか大変なことになってしまったような気がする。

やがて飛行機の影が大きくなってきた。それが船の上に落ちてきそうな気配である。船が傾いている。みんな必死に逃げている。吾輩はただ怯えてブルブル震えていた。怖い。とても怖くて仕方ない。このままでは死んでしまうのではないか。その時、ドーンと音がして船体に大きな衝撃があった。思わず悲鳴を上げた。しかし吾輩の声はニャーとしか聞こえない。青年は吾輩を抱いたまま階段を駆け下りる。

甲板に辿り着いた時、ちょうどそこに戦闘機が墜落したところだった。乗っていた人達が慌てて海に飛び降りている。その中に先程の女の子もいた。彼女は他の人と一緒に海面に浮かび上がった。その姿を見てホッとした。よかった無事だったんだね。でもこれからどうなるのだろう。不安で一杯になった。

しばらくして救助のボートが到着したが誰も乗らなかった。その代わりにまた別の機体がやって来た。そして甲板に降り立った。それから船内に入っていく。するとすぐに叫び声が上がった。吾輩はハッとしてそちらの方を見た。その途端、体が浮いた。いや持ち上げられたのである。何と目の前には戦闘機の操縦席がありそこに座っていた男が吾輩を覗き込んでいた。目が合った。次の瞬間、吾輩の体は空中に投げ出された。男は操縦桿を握りしめていて離さない。そのまま座席に押しつけられる格好で固定されてしまった。どうしようと思った。だがもう手遅れだった。

吾輩は再びパニックに陥った。恐怖で全身の毛が逆立つ。手足をバタつかせる。ニャーンと叫ぶ。しかしその声は誰にも届かない。ああぁーんと悲鳴を上げる。その時にはもう機体は急上昇していて視界から消えてしまった。

しばらく飛行した後、今度は急降下を始めた。まるでジェットコースターに乗った時のようだ。吾輩の体にもの凄いGがかかる。胃袋がひっくり返りそうになる。吾輩は泣き叫んだ。

ようやく着陸したかと思うと再び持ち上げられ乱暴に床に転がされた。それでもまだ吾輩を掴んでいるものがある。それは男の太い腕だ。彼は吾輩の首根っこを掴むとヒョイと持ち上げた。

「ほらよ」

そう言って吾輩を放り投げた。そこはコックピットの中だ。男はニヤリと笑った。

「ようこそ、オレ様の世界へ!」

そして吾輩に銃を向けた。バーン! そこで目が覚めた。吾輩の目の前にはいつもと変わらぬ光景が広がっている。狭い部屋の中に吾輩のベッドがあるだけだ。窓の外は真っ暗である。時計を見ると夜中の二時だ。

ふぅむ。夢であったか。しかし嫌な感じの夢だった。本当に夢で良かった。あれでは殺されるところではないか。全く何ということだ。あの青年が悪い。こんな酷い目に遭わせるとは許せないぞ。それにしても吾輩は何故あんな目に遭ったのであろう。しかも空を飛ぶなど前代未聞の出来事である。そんな馬鹿なことがあってたまるか。

その時、またドーンという音が響いた。今度もまたどこかで誰かが死んだらしい。これで三人目だ。最近この辺りの若い者たちの間では殺し合いが流行っているようだ。それどころか自殺する者までいる始末だ。一体全体どういうことなのだ。

そうだ。これは吾輩の責任でもある。吾輩の住む街は若者の流出に歯止めがかからない。その原因の一つには吾輩の存在もあるだろう。吾輩がいる限りこの街は衰退の一途を辿ることになる。それはつまり吾輩の死を意味することになる。それだけは何としても避けなければならない。そのための手段を早急に見つけるべきだ。

そう言えば吾輩の寿命について語っていなかった。人間とは違い吾輩たちは寿命というものを持たない。正確には老化現象が起きることはない。病気や怪我をしないわけではないが、それらの影響はほとんど受けない。その気になれば何百年でも生き続けることができる。吾輩は少なくともあと数百年は生きる予定だ。

吾輩たち猫型人工生命体には個体差があるが、一般的に十五歳から二十五歳くらいの間に成長が止まる。その後は死ぬまでそのままの姿だ。吾輩はもうすぐ二十五歳になる。成人の儀を迎えて大人の仲間入りをする年齢だ。

ところで話は変わるが吾輩はある人物から頼まれ事をしている。それが先程から話題にしている吾輩の命を救う方法だ。この問題を解決しなければ吾輩の人生の楽しみの一つであるゴルどんとの遊びが出来なくなってしまう。それは吾輩にとって死よりも辛いことだ。だから是非ともこの問題を解決したいと思っている。

さて、どこから話せば良いものか……。まずは吾輩の生い立ちから語るとしよう。

吾輩が生まれたのは十九世紀のことである。当時、吾輩はヨーロッパのとある国に住んでいた。その国は海に面していて漁業が盛んだった。国民は豊かな生活を送っていた。貴族と平民という身分制度があったが吾輩の家はどちらかと言えば裕福な方であった。

当時の吾輩は人間の姿をしていた。もちろん本当の姿ではない。吾輩たちが本当の姿を見せると人間がびっくりしてしまうからだ。だから人間は吾輩たちのことを猫型人工生命体と呼んでいる。

吾輩が普通の猫とは違う点はたくさんある。例えば普通の猫にはない大きな耳を持っているし、背中にも小さな翼が付いている。他にも尻尾を二つ持っている。この尻尾は自由に動かすことが出来る。それに吾輩は特別な力を持っていた。その力で人々を幸せにすることが出来た。

ところが、ある日突然、大変なことが起きたのである。悪い奴らが我が家を襲ったのである。吾輩は両親を殺された。その後吾輩は捕まって牢屋に閉じ込められた。

それからどれくらいの月日が流れただろうか。吾輩は毎日同じことを繰り返していた。吾輩には食事が与えられなかった。お腹が空いた。何も食べていないので動く元気も出てこなかった。

ある日のこと、一人の男が吾輩の入っている檻の前にやってきた。男は言った。「お前をここから出してやる」と。信じられないことだが吾輩はその言葉を信じることにした。何故なら吾輩はお腹が空いていたからである。

男の後に付いていくと吾輩は大きな建物に連れていかれた。そこにはたくさんの人間が働いていた。驚いたことに皆人間のようであったが人間ではなかった。彼らは吾輩と同じ猫型人工生命体であった。しかも吾輩よりずっと強い力を持つ者たちばかりだ。

ここでの生活はとても快適なものになった。吾輩の力は更に強まった。吾輩の力を恐れて誰も近づいてこなくなった。吾輩は孤独を愛するようになった。それでも時々はゴルどんに会いに行った。ゴルどんとは長い付き合いで親友と呼べる仲になっていた。ゴルどんと吾輩はいつも一緒に遊んだ。楽しい時間を過ごした。

しかし、そんな日々は長く続かなかった。ある事件がきっかけで吾輩の人生は大きく変わってしまったのである。

吾輩はゴルどんと一緒に過ごしていた。そんなある日、一匹の男が現れた。吾輩たちはそいつと戦った。最初は優勢に戦いを進めていたが途中から様子がおかしくなった。吾輩たちの方が押され始めたのである。理由はよく分からないが明らかに敵の動きが速くなった。そのせいでゴルどんが大怪我を負った。ゴルどんは動けなくなってしまった。吾輩たちは絶体絶命の危機に陥った。その時、不思議な声が聞こえてきた。「助けてあげましょうか?」と。吾輩は必死に叫んだ。「頼む! 吾輩たちを救ってくれ!」と。

すると突然、眩しい光が発せられた。吾輩の体は光に包まれた。その瞬間、吾輩は気を失った。

目が覚めると吾輩は病院にいた。ベッドの上に寝ていた。隣を見るとゴルどんがいた。ゴルどんは無事だったようだ。

吾輩はどうしてこんなことになったのかを思い出した。あの時、謎の男が現れて吾輩たちの力を奪い去ったのだ。吾輩とゴルどんは同時に叫んだ。「許せない‼」と。

数日後、吾輩たちは退院した。そして再び旅に出た。謎の男を探すために。だが手がかりは何も見つからなかった。どうすればいいのか分からずに途方に暮れていたある日、吾輩はある男と出会った。彼は吾輩のことを知っていた。彼は吾輩の師匠だと名乗った。

彼の名は『猫山ねこやま哲司郎てつしろう』と言った。彼は吾輩と似たような猫型人工生命体を造った人物なのだそうだ。彼ならば何か知っているかもしれないと思い吾輩は尋ねた。「吾輩は何者なのか? どうしてこのような姿になっているのか?」と。すると猫山さんは言った。「君の正体は猫型人工生命体だ」と。吾輩の予想通りの答えであった。だがそれでは意味が分からない。何故、そのような存在が誕生したのだろうか? その疑問に対する猫山さんの答えは驚くべきものであった。なんとこの世界には猫型の人間がいるらしい。それはどういうことかと言うと、人間と猫が同じ空間で暮らしているということだ。猫が人間の生活の中で溶け込んでいるのだ。そんなことはありえない。そんなことができるのは夢の世界だけだと思っていた。

ところがそれが現実に存在しているというのだ。信じられない話ではあるが信じるしかない。何故なら吾輩自身に心当たりがあるからだ。吾輩が入院していた病院に一匹の猫が飼われているのだが、その猫はいつも吾輩のそばから離れようとしなかった。吾輩が病室から出て行こうとすると付いてきた。トイレにも一緒に入った。その行動は明らかに普通ではなかった。

吾輩はそのことがずっと不思議でならなかった。しかし吾輩が退院してしばらくの間、そのことについて深く考える余裕がなかった。なぜなら吾輩の体がまだ本調子ではなかったからである。そのせいもあってすっかり忘れてしまっていた。そのことを思い出したのはつい最近のことである。

その猫というのは黒白ぶちのオスである。年齢は三歳くらいだと思う。見た目から判断しただけで正確な年齢は不明だ。その猫に名前を尋ねると『ゴルどん』と鳴いた。そう言えばゴルどんとそっくりだなと思った。そこでようやく吾輩は気付いたのだ。目の前にいる猫こそが自分の相棒だったのではないかと。ゴルどんは自分のことを猫だと言っていた。だから間違いないだろう。

吾輩たちは互いに自己紹介をした。お互いのことを何も知らないのは不自然だと分かったからだ。吾輩が『あぃをゅぇぴじ』であることを伝えるとゴルどんは目を丸くした。そして言った。「お前さんの名前は本当にそれでいいのかい?」と。まるで吾輩の名前に疑問を抱いているようであった。

その時、吾輩は悟った。どうやらゴルどんは自分が何者か分かっていないようだ。しかも吾輩と違って記憶がないわけではない。しっかりと覚えている。つまり猫型人工生命体の自分についての知識はあるということだ。なのに自分の正体については全く見当がつかないようである。なぜなのか? その理由を探るべく吾輩はゴルどんに質問することにした。

「ゴルどんよ。お主は一体何者なのだ?」

するとゴルどんは困り顔で答えた。「オイラは何者なんだろうね」と。やはりゴルどんも自分自身のことは何も分からないようだ。これはおかしい。なぜなら猫型人工生命体とは本来、自分で自分のことを決めるはずだ。誰かに命令されて造られたわけでもないのだから。吾輩の場合で言えば吾輩の生みの親が誰なのかが分かっていなかった。だから吾輩には親というものが存在しない。それは当然のことで疑問の余地などないはずなのだ。

それなのにゴルどんの場合は違う。明らかに彼は自分で考え、自らの意志で行動しているように見える。その証拠に吾輩が彼の名前を聞いた時、「オイラの名はゴルどんだよ」と答えた。これではまるで吾輩と同じである。つまり吾輩と同じ立場のはずである。それなのにゴルどんは己の身分を知らないとでも言うのか? いや……。きっと何か深い理由があるに違いない。

それにしても困ったものだ。こんな状態でどうやって暮らせばよいのだろうか。この家は吾輩の家ではない。ゴルどんの住処なのである。ここにいつまでも居座るわけにもいかないだろう。しかし吾輩はゴルどんにお世話になっている身だ。今すぐに出て行くことは恩知らずということになる。

そこで吾輩は考えた。まずはお金が必要だということに気付いたのだ。ゴルどんはアルバイトで生活費を稼いでいるらしい。ならば吾輩も働いてみようと思った。幸いにして吾輩にはゴルどんからもらった『ネコじゃらし』と『ボール』というおもちゃがある。これを売ればお金になるかもしれない。

吾輩はすぐに準備を整えて出かけることにした。行き先はもちろんゴルどんの家だ。すると玄関の扉が開きっぱなしになっていた。無用心なことだと思いつつ吾輩は外に出ようとした。するとそこに人間の女性が現れた。吾輩が飛び出してきたのを見てビックリしたのであろう。大きな声を上げた。

「キャーッ!」

吾輩はビクッとした。その拍子に『ボール』を落としてしまった。人間というのはどうしてこう騒々しいのだろうか。そんなことを考えていると今度は後ろからゴルどんの声が聞こえた。

「どうしたんだ、お袋。そんなに大きな声を出して」

すると女性はゴルどんに言った。「ゴルどん! 早くこっちに来てちょうだい。大変なのよ」と。彼女はとても慌てている様子だった。そこで吾輩は気付いた。もしかするとあの女性が吾輩の母親なのではないか、と。しかしよく考えてみれば母親とはどういうものなのかを吾輩はまだ知らない。それでも吾輩が彼女のことを母だと思うのであればそうなのだろう。

吾輩は母親の後を付いていった。するとそこには吾輩の想像を絶する光景が広がっていた。なんと家の周りにたくさんの人間がうろついているではないか。しかも彼らは吾輩のことをジロジロと見つめてくる。これは一体何事だ。吾輩の心臓はドキドキと高鳴った。恐怖と緊張が体中に広がった。なぜ人間はこれほどまでにたくさん存在するのだろうか。

吾輩は震えながらゴルどんを見上げた。すると彼は吾輩に向かってこう言い放った。

「大丈夫だよ、オイラがいるから」

この言葉を聞いて吾輩はホッと胸を撫で下ろした。彼さえいれば何も怖くないような気がしてきた。ゴルどんは頼れる男なのだ。それから吾輩たちは彼らの横を通り過ぎていった。その間も人間たちの視線を感じた。だがゴルどんと一緒なら平気だ。吾輩は堂々と歩を進めた。

ゴルどんの家に辿り着くと吾輩たちは早速中に入った。いつものようにソファーの上に飛び乗る。ゴルどんも同じようにソファーの上に乗った。そこでふと吾輩は疑問に思ったことがあった。ゴルどんはなぜこのような狭い場所で暮らしているのだろうか。もっと広い家で暮らした方が快適な暮らしができるはずだ。

「ねえ、どうして吾輩たちと一緒に暮らさないの?」

吾輩がそう尋ねるとゴルどんは答えてくれた。

「オイラは下男なんだぜ。ここにいないといけないんだぜ。仕事があるからね。それにここが一番落ち着けるんだよ。広くて豪華なお屋敷よりもこのボロ屋の方がオイラには合っているんだぜ。あぃをゅぇぴじもここに住みたいか? でもオイラの家だから無理だぜ」

ゴルどんの言っていることは正しいと思った。下男とは主人に仕える者である。主人がいないと意味がない。しかし吾輩が仕えるべき者はいない。それは寂しいことだと吾輩は思う。

「もし吾輩が主従の関係というものがあれば吾輩もゴルどんについていきたいんだけど……

「えっ、オイラに主従関係だって。それってどういうことだぜ。あぃをゅぇぴじとオイラが友達になるっていうことか。それともそれだとオイラが下男じゃなくてあぃをゅぇぴじの下僕になってしまうのか。まあいいか。どうせどっちにしてもオイラとあぃをゅぇぴじの友情は変わらないんだぜ」

吾輩たちは固い握手を交わした。こうして吾輩とゴルどんの間に強い絆が生まれたのであった。

さて吾輩とゴルどんとの友情物語はこれくらいにしてそろそろ次のページに進むとしよう。吾輩はぺろりと舌なめずりをした。次の小説は一体どのようなものであろうか。吾輩はとても楽しみだ。



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