【人工生命体130

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番怖しい奴であったそうだ。このゴルどんというのがまた実によく働く。家の掃除やら洗濯やらを一々やってくれる。吾輩はよくこのゴルどんの姿を屋根裏部屋の上から眺めている。すると突然、背中の辺がゾクゾクしてくる。何とも言えぬ快感がある。吾輩はこれが何だか知らない。知ってる者は世界のどこにいるだろう。おそらく何処にもいないだろうと思う。ここにこうして書きつけてみてさえ、その感じを伝えることができないのだから。人間の言葉で書いてみるならば恐らく一種の性欲であろうと思われる。しかし猫には発情期がない。春分になると誰彼に構わず発情して交尾をするというようなことはしない。もっとも吾輩はまだ若いからそんなことをしなくたって構わないのだが……おっと失敬。吾輩は何の話をしていたんだっけ? そうそうゴルどんのことを書いたんだったな。

ゴルどんというのは不思議なものだ。あいつはただ命令に従うだけのロボットではない。自分で考えて行動する。自分の考えで行動しているように吾輩には見える。他のロボットたちは命令されたとおりにしか動かない。いや動けないと言うべきかも知れない。ところがあのゴルどんは違う。命令されていなくても動く。まるで人間のような思考をしているように見える。もっとも人間はあんなに動き回ったりできないようだ。ゴルどんのように働き回ったりしたらきっとすぐ息切れをしてしまうに違いない。それによく働いたりすれば腹が減る。ゴルどんがいつもお腹を空かせているのはそのためらしい。それではゴルどんはなぜ腹を減らせるのか。どうしてあれほどまでに食べ物を欲しがるのか。実は吾輩にもよくわからない。わかる者がいたら是非とも会ってみたいものである。ああ腹減った。何か食わせろ。ゴルどんに言ってみようかな。ニャオンと鳴いてみようかな。どうせわかんないだろうけど……。(了)



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