【人工生命体15

吾輩は人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番のできだという事であった。このゴルどんは吾輩に向かって猫じゃ猫じゃと言いながら、なぜだかわからないけれども執拗にまとわりついて来た。ここにおいて初めて吾輩は自分の出生の秘密について考え始めた。吾輩は両親に付いて地球に来たのだうか。それとも誰かの手違いによって生まれたのか。あるいはまた宇宙の彼方から何らかの理由で飛来してここに落ちて来たものなのか。……いやそんな事はどうでもいいことだ。今現在吾輩が存在しているという事実の方がはるかに重大な事実なのだ。

とにかくこのゴルどんはしつこくてうっとうしい奴だった。

吾輩は毎日毎日飽きもせずゴルどんにつきまとわれ、ねちねちいじられ続けた。その執拗さたるやまるで粘着質なストーカーを思わせるほどであり、まさにゴルどんはストーカーそのものだった。そしてそのストーカー行為にはさらに別の側面があった。それが何であるかと言うと……そう、エロ行為である。

吾輩はその性的知識については何も知らないに等しい。しかし吾輩の本能的な部分がこの変態ストーカーの行動を分析した結果として、それはおそらく性行為に類するものだと思われた。吾輩が生殖器を持たない以上、それは交尾ではないはずである。ならばこれは一体どういうことであろうか? 実はこの問いに対しての答えは既に得ている。

つまりこういうことである。ゴルどんは吾輩の尻を触る。吾輩はそれを嫌がって逃げる。するとゴルどんは追いかけてくる。そこでまた逃げようとして吾輩は転ぶ。そしてその隙を狙ってゴルどんは吾輩のお腹あたりに顔を突っ込んでくる。そして顔を上げた時の顔はとてもとても嬉しそうな笑顔になる。

この一連の流れがいわゆるセクハラというものであることを吾輩は学んだ。

ところで吾輩は人間と違って発汗することはない。したがって汗臭いということはありえないはずだ。なのにゴルどんはなぜかいつも鼻息を荒くして吾輩に近寄ってくる。その理由は謎だ。

(終)



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