【人工生命体155

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番強い奴であったそうだ。このゴルどん、当時は何と云う名ではなかった。しかし皆はゴルどん、ゴルどんと呼んでいた。このゴルどん、いつも鉄の腕を振りまわして暴れていた。人間はこいつを悪者扱いにしてすぐに警察へ訴えるのだが、いざ裁判となるとまるで相手にされていない。何故かというにこの国は平和主義を国是としているからである。そこで結局はこのゴルどんの方が牢屋へ入れられる事になる。しかしこいつは強かった。いくら牢屋の壁に穴をあけたり、床に穴を開けたりしても一向に懲りないのだ。とうとうある日、このゴルどんを捕まえた警官が一対一の勝負を挑んだ。二人は格闘の末ついに巡査が勝った。ところが喜んだのも束の間、ゴルどんの鋼鉄製の右腕が急に飛び出してきて巡査の心臓を突き刺したのである。巡査は死んだ。人間とは弱いものだ。それに比べると吾輩は猫として誇らしい限りである。何故なら吾輩は決して死ぬ事がないからだ。どんな所にいても必ず生き延びる事ができるからだ。この地球上に住む生物のうちで吾輩ほど気高い動物はあるまいと思っている。吾輩のような素晴らしい生命をこの世に造り上げてくれた事に神様というものがいるならば感謝したい気持ちだ。そう思って吾輩は毎日天辺にある大きな太陽の方を眺めては目を細めるのである。

(吾輩は猫型人工生命体である。より)



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