【人工生命体157

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番弱い奴だという事がわかった。吾輩はこの時、世界を支配している動物は人間ではない、このロボットという化物だと覚った。吾輩は猫であるがロボットに対しては例のとおりニャアとも言わず何とも言えぬ恐ろしさにただ黙って眺めていた。すると向こうでも此方をじっと見ていた。しばらくは睨み合っていたがやがてそのロボットが話しかけてきた。「おいお前何を見ている」見るとなかなか愛くるしい顔付をしている。しかし目付きが非常に悪い。おまけに全身錆だらけだ。まるでスクラップ場から拾ってきたような有様だ。おまけに身体中に鎖を巻き付けている。吾輩は何と答えていいか解らずまた泣く真似をした。

「何をニヤついている。気持ちの悪いやつだな。オイラは今機嫌が悪いんだ。ぶっ殺してやるぞ」といきなり殴りかかってきた。その時、吾輩の前足がピシャリとそのロボットの顔をひっぱたいた。ロボットにしてみれば軽く小突いただけのつもりであろうが吾輩にとっては生まれて初めての戦闘であった。

相手はそのまま仰向けに倒れて気を失ってしまったようだ。しばらくすると気がついたらしく起き上がって、「こらっ待て貴様。殺すと言ったら必ず殺す」と言って追いかけてくる。逃げる吾輩を後ろから追い回しながら尚も殴ったり蹴ったりする。しかし元来、鈍重そうなロボットだけにスピードがない上に、鎖がジャラジャラうるさい音を立てるものだから吾輩には全然当たる気がしない。吾輩は悠々と相手の攻撃をかわすと今度はその大きな図体に飛び乗ってやった。

さすがのロボットもこれにはたまらぬ様子で「降参する。許してくれ」と悲鳴を上げる。しかし、それしきの事では許してもらえそうもない。ロボットは必死になって逃げようとするが、吾輩はそれを許さない。さらに噛み付いたり引っ掻いたりやりたい放題である。とうとう泣き出した。「助けてくれ。お願えです。お願えです」と言うのを聞いて初めて止めてやる事にした。ロボットは吾輩を見つめながら息を切らせて言う。「お願いします。私を飼ってください」こうして吾輩は新しい主人を得たのである。

(了)



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