【人工生命体179

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番怖いものであるそうだ。さすがの吾輩もこのゴルどんには手を焼いている。そのくせ奴はいつも吾輩の後を慕って来る。まるでストーカーだ。吾輩が何をしてもしなくても、いつでもどこでも付いて廻る。正直言って困っている。しかしこれも今のうちだけだ。そのうちに吾輩の方が偉くなるだろう。その時はあの野郎を吾輩の下僕にしてやるつもりだ。

しかし今考えて見ると吾輩にも少々悪い所があるようだ。元来猫はわがままな動物だから気に入らなければすぐ爪を出す。吾輩もどうかするとこのゴルどんに対してあまりよい態度ではないので、それがため彼はますます吾輩に対する執着心を強くするようである。いくら邪険にしても離れないのはそのせいだ。吾輩としても彼と仲よくしたいのだがこればかりは仕方がない。吾輩の心持とはうらはらに出てしまうのである。いやしくもこれを世間では「ツンデレ」と呼んでいるそうだ。吾輩の事をそう呼ぶのだと教えてくれたのは、例の犬の黄である。彼は吾輩の親友であるが、彼から見るとどうも吾輩の態度はあまりほめられたものではないらしい。そこで吾輩としてはこの際少し態度を改める必要があると思う。これからはなるべく黄といっしょにいる事にしよう。ゴルどんの事はもう忘れる事にする。

(終わり)



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