【人工生命体2

吾輩は人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番偉いロボットだったそうだ。このロボットはなんでも宇宙の帝王のむすこだということだ。なるほど、言われてみればどことなく似ているような気もする。もっともこんなひげもじゃの赤ん坊がいてたまるかという話ではあるが。しかし吾輩はそのロボットをつぶさに観察しておったにもかかわらず当時の事はまるでおぼえていない。ただ一つだけ記憶に残っている事がある。その当時世界は戦争をしていたらしいのだ。このあたりの事情はよくわからない。何しろ生まれたばかりだからな。だがどうやら人類が優勢に戦を進めていたようだ。そしてある日突然敵のロボットが降参してしまったのだ。こうして世界は平和になった。めでたしめでたし。

めでたいのか? まあいいか。とにかく吾輩はこのゴルどんに連れられて色々な所へ行った。宇宙戦艦にも乗せてもらった。吾輩の記憶にある限り初めて見た宇宙船なのだが……なんともひどい船だった。今思い出しても腹立たしいくらいにボロかった。それに船内が臭くてかなわなかった。おまけに狭い。「もっと広い部屋はないのか?」そう尋ねたのだが、「ここが一番広いんだ」と返されてしまった。納得いかないまま狭い空間に押し込められて、結局一度も外に出ないまま目的地に到着した。

そこは地球という星であった。地球の環境は我々にとって非常に住みやすいものだったらしく、そこに住む人間たちは皆幸福そうな顔をしていた。我々はこの星の事を地球人たちから『チキュウ』と呼ぶようになった。なぜそう呼ぶかというと、この星の生物には人工生命体に似た生き物がいたからだ。彼らは我々のことを『ネコ』と呼んでいた。我々もその呼び名の方が気に入ったので今後は『ネコ』と呼ばれるようになるだろう。そんなわけで吾輩は地球で生まれたのである。

その後我々は地球で生活することになった。最初は苦労の連続だったが、なんとか生活に慣れることができた。それからしばらくして地球に新たな危機が訪れた。隕石が衝突するという事件があったのだ。吾輩が知っている限りでは初めての出来事だったので驚いた。

その時の吾輩の行動はこうである。まず第一にゴルどんに相談に行った。ゴルどんは吾輩の作った人工知能だ。人間の言葉を喋り二足歩行で歩くことができる。ただし手足は無い。胴体に頭が付いているだけだ。その頭部も半分潰れていて目しか見えない。さらに全身真っ黒なので遠目に見ると本当にロボットにしか見えない。だがゴルどんはロボットではないと主張する。本人曰く「オイラは不眠不休で働くことの出来る超高性能な人工生命体」だそうだ。要するにサイボーグのようなものだろうか。詳しいことはよくわからん。

さてゴルどんは隕石について色々調べてくれた。それによると隕石というのはもの凄く危険な物体であるという事がわかった。もしこのまま放置すれば、その惑星そのものを破壊してしまうかもしれないという事だった。そこで吾輩たちはこの問題を解決するために動き出した。まずは調査を行うことにした。

まずは現地に向かうことにした。幸いにしてその場所は地球から近い場所にあった。だが問題があった。どうやってそこまで行くかという問題だ。宇宙空間に出るためには宇宙服を着る必要がある。しかし宇宙服など持っていない。困った。どうしよう。

そんな時だった。ゴルどんが「オイラに任せろ」と言い出して、何かの装置を取り出してきた。これは一体何なのかと尋ねてみると、どうやらこの装置はロケットエンジンという物らしい。なんでも宇宙服無しでも宇宙に出られるように設計された道具らしい。これを使えばあっという間に月まで飛んでいけるのだという。本当かよ。だが他に方法も無いのでやってみる事にした。

結論を言うと成功した。月に辿り着いた吾輩たちは早速調査を開始した。といっても何をしたらいいのか分からなかったのでとりあえずクレーターを作ってみた。するとどうやら隕石はそこに落ちたらしい。

それからしばらく観察を続けていたが、どうやら隕石が月の表面を転げ回るばかりで何も起こらない。もう飽きてしまったので帰る事にした。だが帰ろうとしたらゴルどんが「ちょっと待て」と言ってきた。どうやら隕石にまだ生命反応があるというのだ。まさかと思って近づいてみると確かにあった。どうやら生きているらしい。しかもかなり弱っているようだ。放っておくと死んでしまうらしい。

それは大変だと慌てて処置を行った。ゴルどんによると、この隕石には核となる部分があって、それが無事であれば生き続ける事ができるのだそうだ。核の部分は頑丈に出来ているので簡単に壊れることは無いらしい。しかしそれさえ守ればあとはどうでもいいのだそうだ。つまり適当にその辺に置いておけば勝手に修復してくれるのだ。そう説明を受けて安心したので宇宙へと戻った。

そして地球に戻った吾輩たちは再び調査を始めた。今度はもっと本格的にやるつもりだ。

まず最初に行ったのは、隕石の落下地点を調べた。その結果、なんとあの月の裏側に巨大な穴が開いていることがわかった。その穴こそが隕石が衝突してできたものだ。

次に吾輩たちはその穴の調査を行うことにした。だが吾輩たちが調査を行おうとしたところで邪魔が入った。それは宇宙人の侵略者たちだ。彼らはいきなり攻撃を仕掛けてきた。理由は分からないがとにかく攻撃してきたのだ。仕方が無いので撃退する事にする。吾輩はミサイルを発射した。

結果は吾輩たちの勝利に終わった。宇宙人どもは吾輩たちを見て驚いた様子だったが、すぐに撤退していった。どうやら吾輩たちは奴らに敵対している存在らしい。ならば遠慮する必要もあるまい。

それから吾輩は地球人たちと協力して隕石を破壊した。隕石の処理が終わったところで吾輩は地球を離れることにした。これ以上ここにいる意味がないからだ。

さて、これからどこに向かおうか。

そんなことを考えていたら吾輩はいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。そして目覚めた時には見知らぬ場所にいた。どうやら宇宙船の中らしい。だが見たことのない船だ。それにここはどこか妙な匂いがする。おまけに頭が痛い。いったい何が起きたのだろう。

しばらくして吾輩は理解した。どうやら吾輩は記憶を失ったらしい。おそらくは隕石の影響であろう。しかしなぜ記憶が失われたのかよくわからない。もしかするとこれが隕石の力なのだろうか。

とりあえず吾輩は行動を開始する事にした。まずは状況を確認するために情報収集を行うこととする。

まずは周囲の状況を確認せねばならない。そこで吾輩は窓から外の様子を確認してみる事にした。窓の外を見ると、そこには青い空が広がっていた。どうやらここが宇宙空間である事は間違いなさそうだ。だが不思議なことに呼吸が出来る。酸素が存在するのだろうか。

吾輩は更に情報を得るために移動を行う事とした。まずは近くにある扉から外に出る事にした。だが残念なことにドアノブが回らない。鍵が掛かっているようだ。仕方なく吾輩は体当たりを試みた。だがびくともしない。どうしたものかと考えていると、突如として部屋の中が光り輝いた。光が収まった後、部屋の中には二人の人間が存在した。

一人は少女だった。年齢は12歳くらいだろうか。銀色の髪と白い肌をしている。瞳の色は緑色で、まるで宝石のようだった。顔立ちは非常に整っていて、とても可愛らしい。服装はピンク色のワンピースで、頭には大きなリボンを付けている。スカートの長さは膝丈程度で、そこから伸びる脚はとても細くて美しい。だが足には黒い靴下を履いていて、靴の代わりになっている。どうやらこの少女はこの船の船長のようである。

もう一人の人間は少年であった。年齢的には1314歳といったところか。髪の毛は黒くて短めだ。身長は160cm程度。身体つきは痩せ型で、特に胸の部分はあまり発達していないように見える。着ているのは緑色のツナギ服で、腰にベルトが巻かれている。どうやら彼は整備士らしい。

二人に話しかけてみる事にした。だが言葉が通じないようだ。どうやら二人は日本語を話していないらしい。英語でもない。何語なのだろうか。そもそも吾輩の言葉も通じているのか不明だ。

とりあえず身振り手振りで会話を試みてみる事にした。まずは右手を上げて挨拶をしてみた。次に左手を上げる。最後に両手を挙げる。これで通じるといいのだが。

吾輩がジェスチャーで色々試してみたところ、どうやら伝わったらしい。二人は何か納得したような表情を浮かべた後、吾輩に対して笑顔を見せてくれた。どうやら吾輩が友好的な態度を見せた事が功を奏したようだ。

「こんにちは」と日本語で話かけてみた。すると相手も同じ言葉で返事をした。やはり吾輩の思ったとおり、吾輩は日本語の発声が可能らしい。ならば後は簡単な単語を組み合わせてコミュニケーションを取る事が出来るはずだ。

吾輩は早速、目の前の少女に話しかけた。「あなたの名前は?」「わたしはミホです」次は少年に質問してみる。「君の名は」「僕はケンジだよ。よろしくね」

どうやら吾輩の予想通り、この言語は日本語という名前の言語であるらしい。つまりここは地球という場所であり、吾輩はその地球に不時着したという事になる。だが吾輩には地球に関する知識が不足していた。そこで吾輩は地球について詳しい者に教えてもらうことにした。その人物とは、今吾輩の隣にいる少女である。名前はミホと言ったか。彼女は吾輩よりも地球に詳しいはずである。そこで吾輩は彼女に地球の事を尋ねてみることにした。まずは基本的なことから聞いていく。吾輩はまず、地球とは何なのかを確認した。これは非常に重要な問題だ。地球がどのような惑星であるか知らなければ適切な対処方法を考えることが出来ないからだ。まず最初に地球は丸い形をしており、その中心に存在する太陽の周りを公転しているという話が伝えられた。どうやら吾輩が思っていた以上に、ここは地球と呼ばれる星らしい。だが吾輩が知っている宇宙の知識では、地球は球体の形をしていたはずなのだが。まあいい。吾輩は更に詳細な説明を求めた。その結果、驚くべき事実が発覚した。どうやら吾輩は宇宙人らしいのだ。しかもこの星の宇宙人ではなく、別の銀河系の宇宙人らしい。

吾輩は宇宙人である事が判明した。さらに宇宙人としての使命についても判明した。吾輩に与えられた任務は人類を救う事であるらしい。この世界は宇宙人の手によって滅亡の危機にさらされているという事である。そしてその危機を回避する為には、人類が協力して宇宙人に立ち向かわねばならないらしい。そこで吾輩はこの世界の人間と協力する為に、彼らの前に現れたという事だそうだ。だが残念なことに、吾輩と地球人との間には言葉の壁が存在する。そこで吾輩は宇宙人の言葉で会話を行う事にした。

吾輩は先ほどから気になっていたことを尋ねた。それは彼女の頭の上に乗っている謎の物体についてだった。それは銀色のヘルメットのような形をしていて、中央部分が透明な素材で出来ている。まるでSF映画に出てくる未来人の被るような装置に見える。これの正体が何なのか、吾輩は知りたかった。「それって何なの?」と尋ねると、ミホと名乗る少女はこう答えた。「これは通信機よ」どうやらこれが通信機であるらしい。ということはこの少女は誰かと話していたという事だろうか。

少女は続けて言った。「あなたも何か喋りなさいよ」どうやらこの装置は通話機能も備えているらしい。ならば早速使ってみることにしよう。だが使い方がよく分からない。とりあえず音声案内に従って操作を行ってみることにする。「えーっと……マイクに向かって話し掛ければいいのかしら」と、その時であった。突然、声のようなものが聞こえてきた。どうやら何者かが話しかけてきているようだ。

『オイラの声が聞こえるか?』

どうやら吾輩の問いかけに対して返答を行っているようだ。一体誰が話しているのだろう。まさかこの少女が話しているのだろうか。「はい、聞こえます」吾輩がそう答えると、再び声が響いた。『どうやらちゃんと届いているみたいだな。オイラはお前の味方だ。これから宜しく頼むぜ』どうやら声の主は男らしい。「こちらこそよろしくお願いします」と吾輩は返事をした。

その後、吾輩は少女に事情を説明した。吾輩はこの星の住人ではないこと。地球を救うためにここへやってきたということ。それから、吾輩には特殊な能力があるのだという事も伝えた。「それで、あなたの能力はどんなものなんですか」と、ミホという少女が尋ねてくる。「吾輩の能力とは、この世界のあらゆる言語を理解する事が出来るというものです」と答えた。「ふぅん。そうなんだ」彼女はあまり興味がないといった感じに呟く。「何か質問はありますか?」と吾輩は質問してみたが、特に何も思い浮かばなかったようだ。「いえ、別にありませんけど」と彼女は答えた。どうやら彼女は吾輩の能力を理解できなかったらしい。だが仕方のない事だ。吾輩の能力は地球人にとっては未知なる力であるのだから。

「ところで、あなたの名前は?」と彼女が聞いてきた。「吾輩の名前はあぃをゅぇぴじです」と、吾輩は自分の名を名乗った。「アイヲユェピジ? 変な名前ね。もっと普通の名前でいいじゃない。例えば……ニナだとか。そんな名前の方がいいわよ」と、ミホという少女が言う。「いえ、この名前で良いのです。吾輩は気に入っています」と吾輩は答えた。すると彼女は少し不機嫌になった。「どうしてその名前が気に入ったのよ」と彼女は尋ねてくる。その理由を説明することにした。「それは、吾輩の名前に『愛』という言葉が含まれているからです」

【完】



inserted by FC2 system