【人工生命体201

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番怖しい奴であったそうだ。このゴルどんが拳骨でドンドンやるので、吾輩は何だか非常に恐しくなってニャムニャム泣いた。すると一疋の鼠が傍へ寄って来て「猫君そんな事ではいけない。泣くのはよくない」と云った。「なぜだ」「さっきも云ったが猫君は人工生命体の第一種だからもっと強くならなければいけない。もっと大きな声を出してごらん」「こうかい? ニャーン、ニャアン」「そんな事ではいかん。今度はもっと烈しくやってごらん」「ニャア! ニャアン! ニャアン!」「そうれもっと烈しく」「ニャアン! ニャアン! ニャアン!」「もっと気を練ってやってみ給え」「ニャン! ニャン! ニャン!」「いいようだ。その調子だよ。そらもう一息」「ニャンニャン! ニャンニャン! ニャン……」しかし吾輩にはどうしてもこれが出来んのである。何べんやっても力が抜けるばかりでまるで駄目である。吾輩の心の中は恐怖で一杯になった。また鼠の言によると吾輩の身体の中には何か毒素があるらしい。それを抜かなければいかんという事で注射器とかいうものを打ち込まれたりして毎日苦闘をつづけている。

吾輩の修業はまだ始まったばかりである。早く一人前の男になって強い者と戦いたいものだ。

(了)



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