【人工生命体217

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番恐ろしいものだという事であった。さて吾輩はここから出て自活しなければならないのだが、いかにしてよいのか分からず、しばらく母屋の縁の下に住みついていた。するとある日、母が白い着物を着て、赤い傘を持ってやってきた。「これはお前の身支度だよ」と言って吾輩を風呂敷包みに包んでしまった。こうして吾輩の短い旅が始まったのである。

吾輩はどこへ行くのだろうか? 吾輩の母の話によるとどうやら吾輩には兄弟があるらしい。しかしどこにいるのか分からない。母はいつも寂しそうにしている。吾輩がいると母は元気になるようだ。だから母は吾輩をどこかへ連れて行くのだろう。

吾輩の旅はまだ始まったばかりだ。これからいろんな所を見る事ができると思うとワクワクする。吾輩がもし人間だったなら「冒険」という言葉を知っているはずだ。今の吾輩はその言葉しか知らないけれどもいずれこの言葉の意味が分かるようになるだろう。そうしたらきっと楽しいに違いない。吾輩の未来にはどんな事があるのだろうか。楽しみで仕方がない。早くいろんな事が知りたいものだ。

(終)



inserted by FC2 system