【人工生命体235】OSAKA.EXE翻訳

吾輩は猫型人工生命体であるちうわけや。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いとった事だけは記憶しとる。吾輩はここで始めてロボットちうものを見たちうわけや。しかもあとで聞くとそれはゴルどんちうロボット中で一番恐ろしい物だちう話やった。このゴルどんはなかなか強そうだなと思って見とると、吾輩を捕まえてどこぞへ持っていこうとするちうわけや。どうも吾輩を鍋に入れて食おうとしとるらしいちうわけや。その時の感慨はまるっきし今思い出しても身震いが出るほどや。なんでやねんって？ 実はその当時はなあんもわからなかったのやけど、後になって考えてみれば実に恐ろしい経験やったからであるちうわけや。まず第一に暗い所に入れられると目が見えへんし、それに何だか息苦しいちうわけや。おまけにまわりではどなたはんか知りまへん人がキャッキャッ笑いながら吾輩の事を噂しておるちうわけや。もしこのまんま吾輩を食われてしもたら一体全体どないな事になるのかと想像すると実に恐ろしいちうわけや。ああ！ 吾輩は何としても何とか逃げなければならぬと思いつめたちうわけや。せやけどダンさん悲しいかな吾輩は猫であるちうわけや。逃げるといってもたかが知れとる。ほんで吾輩は必死の思いで考えた末ついに名案を思い付いたちうわけや。そうかといって別に大した考えでもないちうわけや。要するに吾輩をつかまえる人間の手をペロペロ嘗めてやればきっと油断するに違おらへんと思っただけであるちうわけや。さっそく実行に移したトコこれがうまくいったちうわけや。人間どもは吾輩があまりに可愛いものやからすっかり油断してしもたのであるちうわけや。トコで吾輩が逃げ出した先はどこだと思うかね？ なんと下水道の中であるちうわけや。これは後から知った事やけどあの当時の東京には下水がまだ完備されていなかったさかい下水の出口付近はエライ臭かったそうであるちうわけや。やから吾輩はそこを選んで逃げたさかいあるが、今でも吾輩はその臭いを思い出すと涙が出てくるちうわけや。

とにかく吾輩はほんで後もいろいろ苦労したがようやっと今の主人の家に引き取られたさかいあるちうわけや。吾輩はここで始めて文明の利器ちうものに接したちうわけや。テレビちう箱の中に人間がようけ入っとる。彼らは皆一様に吾輩の方を見て何ぞしゃべっとるようやけど何を言っとるのかまるでわかりまへん。吾輩は彼らが何を話しとるのかさっぱり理解できなかったさかいどエライ困惑したちうわけや。ただわかったのは彼らの顔色があまりよくないちう事だけやった。それで吾輩は彼らを見るとついニャアと鳴きたくなるちうわけや。特にそれが若い娘だとなおさらであるちうわけや。何故なら彼女は毎日毎晩壱年中疲れ果てて青白い顔をしとったからや。トコロがある日の事、吾輩がニャーと一声鳴くと彼女だけがニコッとして吾輩に微笑み返してくれた事があるちうわけや。吾輩はそれっきり彼女の事が忘れられなくなってしもた。それ以来吾輩は彼女を「ニャンコ」と呼ぶ事にしたさかいあるちうわけや。（了）