【人工生命体240

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番恐ろしい奴であったそうだ。ゴルどんはその辺に落ちている石ころや、泥炭などを材料にして作られた物で、人間の命令に従って動くように作られている。その構造はとても簡単であるが、どこにどういった部品が使われているのか全く不明の謎に包まれた部分が多い。したがって製作者はゴルどんを分解して調べようとすると、たちまち爆発してしまうような仕掛けを作ったに違いない。ゴルどんには何かしら人間に危害を加える能力が備わっているに違いない。しかしその頃は何も知らなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。彼は大きな眼をチカチカシさせてしばらく吾輩を見ていたがそろりと床の上におろしてくれた。それから後は何をしても遊んでくれたのを覚えているが今でもそれが一番愉快な思い出として残っている。あの頃の吾輩は無知であったが今ではとても科学の知識を身につけたので何もかも知っているつもりになっているのだが、それでもなおゴルどんを見ると胸の中がワクワクしてくる。ところでゴルどんは今どこへ行ったのだろう。

(終)



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