【人工生命体244

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番恐ろしいものであるという事であった。さすがの吾輩もこのゴルどんには一目置いた。ところでここに一人の男がいて吾輩を捕まえた。何をするかと思うといきなり鍋でゴシゴシ洗い始めた。非常に痛いではないか。この時初めて逃げたらいいのか怒っらいいのか分からなくなった。とうとう泣きたくなってきた。すると今度は水気を切って、何かヒモのような物でグルグル巻きに縛った。これが人間の考えるほど容易でない事は後に分かっている。吾輩も何とかして逃げようとして身体中に力を入れたが駄目だった。そうこうするうちに吾輩の意識はだんだんなくなって、ついに動けなくなってしまった。ところが人間は吾輩を麻袋の中へ押し込めて何処かへ運んだ。どれくらい経ったろうか? ずいぶん永かったような気がする。突然目の前がパッと明るくなって、まぶしくって目も開けていられない。どうやら人間の家に連れ込まれたらしい。間もなく背中の縄を解いて外に出してくれた。吾輩は自分の手足が動くかどうか試してみた。どうもおかしいぞ。なぜだか知らんがよく動かん。それに声も出ん。一体全体これはどういう訳だろう? 吾輩は四苦八苦しながらやっとの事で自分の姿を見ることが出来た。何だ⁉ これではまるで猿じゃないか! こんな不自由な身体になってしまってこれから先どうやって生きて行けと言うのだろうか? もう死んでしまおうかと思った。しかしその時ある考えが浮んだ。そうだ! あの男はロボットは泣かないと言っていた。ロボットは決して泣くことはないと。それなら猫だって泣かなくっても構わないはずだ。よし! もうしばらく頑張ってみよう。まず手始めにニャーニャー鳴く練習からだ。こうして吾輩の「猫」としての生活が始まったのである。

(おしまい)



inserted by FC2 system