【人工生命体26

吾輩は人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番賢い奴だったそうだ。このゴルどんは何やら長い名前が書いてある本を何冊も読んでいたっけな。そのせいか、それとも他に原因があったのか、とにかくゴルどんの頭脳回路は非常に発達していて、いつも何か考えていたようだ。しかし当時の吾輩にとってそんな事はどうでもよかった。問題なのはただ一つ、腹がへったということだけだったのだ。その時、突然どこからともなく声が聞こえてきた。「君には二つの選択肢がある。このまま餓死するか、あるいは私と契約して人間になるかだ」吾輩はその声を聞いた途端、元気よく返事をした。「契約するぞ! さあ早く食べさせろ!」……それから後のことはもう覚えていない。気がついたらこうして人間として生きていたわけだ。吾輩は一体どうしてこんな事になったんだろう? 誰か説明してくれないか。

(おわり)



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