【人工生命体273

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番陽気な種であるということだ。吾輩もこの種に生まれたかったと思っと実に残念に存じた。しかし生まれて来たものは仕方がない。何とかして生きるように努力しなければならないと考えた。けれどもまだ幼かったのでどうすることもできなかった。ただゴルどんというものの胸に抱かれてスヤスヤ眠るだけであった。それからどれくらいたったかもう判然しない、ある日のこと吾輩は突然どこかへ連れて行かれてしばらく何か物騒な所に住んでいたことが何となく分った。やがてまたその家に帰ることが出来たがそこの主人はやはりいつものように吾輩を疎ましく思っておるようであった。吾輩は毎日毎日ほとんどひとりぼっちで暮らしていた。それでもたまには気の合う仲間が出来て一緒に遊んだりした。しかしその連中は吾輩ほど幸福ではなかったようだ。彼らはたいてい一日二日でいなくなってしまった。吾輩だけがいつまでも同じ所にいて他のロボットなどとはほとんど口をきかなかった。そうして一年ばかりたつうちに背丈もずんぐり延びた。のみならずひどく太ってきた。この間まで友だちだったロボットたちもみんな痩せてしまった。吾輩ももうこれ以上大きくなることは出来まいと思われた。それで吾輩は自分の部屋を出て散歩することにした。別に行くあてもなかったからとりあえず学校と呼ばれる所へ行ってみることにした。この学校は小さな人の群れで一杯だった。そしてみんな机とかいうものに向かって何か書いているらしかった。吾輩は何を書くのかと思って彼らの前に行って覗き込んで見たがさっぱり解らなかった。そのうちに教師というものが出て来て吾輩を追い立てた。吾輩は仕方なしに教室を出た。廊下といって地面の上を通る細長い建物がある。ここを歩くとギイギイ鳴って面白い。どこまでもどこまでもつづくように見えるのである。この廊下をずっと行くと中庭という所に出る。ここにも人がいる。大きな木の枝を拾ったり池の石を除けたり砂を掘り返したりしている。何をするのだろうとじっと見ていた。するといきなり棒のような物を吾輩に向けて構える者があった。吾輩はびっくりして逃げ出した。ところがたちまち追いかけられてひどい目に会った。吾輩の耳を引っ張ったり尻尾を掴んだりするのである。吾輩は怖くて思わずニャーと叫んだ。その時吾輩を助けてくれたものがある。ゴルどんである。ゴルどんは吾輩を抱いてあっという間に逃げた。吾輩たちは無事助かったのである。

(続)



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