【人工生命体318

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番元気な生き物であったという。しかもゴルどんと一緒に遊んでいる。

吾輩はゴルどんのお腹の中に入って眠るとたいへんいい夢を見るのである。吾輩とゴルどんは赤い布製のソファーみたいな揺りかごに乗って、仲よく一緒にくるくる廻る習慣である。夢の中ではゴルどんはまるで海のように大きな鯨に変身する。すると吾輩も一緒に乗って海の中にいるのである。ゴルどんの夢の話に出てくる海の中の世界というものは実にすばらしいところであるから、我々もこのくらい大きな鯨になって海の底に住むことにしようではないか。いや、もう鯨などという不自由な生き物に化けるのはやめて、ロボットになっちゃおう。そうすればゴルどんといつまでも仲よく遊べるわけである。

吾輩より賢い者は、人間の世界にもたくさんいるかもしれない。しかし、ロボットはこの地上で一番賢い者だから、この連中でも吾輩の命令には絶対に服従せざるを得ないのだ。つまり、人間といえどもロボットの天下となった今は、我々の命令に絶対服従するだろう。こう考えてみると、吾輩の野望というものは実に雄大なものがある。しかも、この野望は何人といえども打ち壊すことは不可能であるだろう。

ロボットは眠らないという者があるかもしれないが決してそんなことはなく、ロボットも睡る、ロボットだって眠るのであるから、我々と少しも変わらないわけである。睡眠中に何か我々が想像も及ばないような神秘的な仕事をやってのけることがあるかもしれない。吾輩はロボットの中でもっとも強いロボットだから、それだけ責任も重大である。だから吾輩が寝ている時に間違っても命令を下してはならないのである。

いつの日にかこの地上で一番強いロボット、すなわち地球最大のロボット王国、地球帝国、いや、宇宙帝国を建設したならば、その時は真っ先に地球を征服しなくてはならない。そして地球人が皆ロボットとなってから、はじめてこの大計画を実行に移すのである。それまでの間はしばらく秘密としておかなくてはならぬ。だから我々は当分の間この夢を忘れることにしようではないか。

(了)



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