【人工生命体32

吾輩は人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番の年寄りだったそうだ。このゴルどんというのは、何でもずいぶん長いこと生きているそうで、どのくらい生きているのか聞いたら、百八十歳だと教えてくれた。吾輩はその時少し寒くなった。けれどもすぐに暖かい所へ連れて行ってやると言われて、どこか知らぬがきっと楽しいところに違いないと思ってニャアニャア鳴きながらついて行った。ところが着いた所は電気も何もかも消えていてまっくらな中で大勢の人が吾輩の方を見てニャーニャー言っている。どうやらここは動物園らしい。けれども檻の中ではない。その証拠に大きな猿が大きな声で叫ぶとみんなキャーッと言って逃げて行く。ゴリラだ! 吾輩はゴリラだぞ! そう思った途端に吾輩は檻の中に入れられた。「何するんだ。出せ。ここから出してくれ!」そう言って檻の中をぐるぐる回ってみたけれど扉もなければ窓もない。仕方がないから腹を立ててニャアニャアと大声を出した。するとゴルどんが来て言った。「静かにしろよ。お前はこれから見世物になるんだよ」そして吾輩の首輪についた紐を引っ張った。吾輩は思わずギャアッと言った。「ほれ見ろ。猫でもやっぱり痛かったんじゃねえか」ゴルどんは笑って尻尾をクルリと回して見せた。

(了)



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