【人工生命体322

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番元気なものである。

吾輩はここで佐藤一郎に出会った。名前は確か『さいとういちろう』だったと思う。奴は何でも毎日おでんやとかいう店をやっているそうである。そこで吾輩もこの佐藤に飼ってもらって毎日おでんといううまい物のお相伴に預かっているのである。まったく人間というものはいい物食ってるニャア。

吾輩:「ニャゴ」

佐藤:「ほら、あぃをゅぇぴじの分のおでんもちゃんとあるよ。はいどうぞ」

吾輩はおでんを食べながら考えました。(これからどうすべえ)と。それからというもの吾輩はあぃをゅぇぴじという猫型人工生命体としての生活を続けていくのであった。

吾輩は日頃から佐藤一郎に恩返ししようと考えていたが、なかなかいいアイディアが浮かばなかったのである。そんな時、吾輩は仲間であるゴルどんからある事を教わったのである。それは『人助け』である。困っている者を助けるのはいいことであるとゴルどんは言うのである。吾輩は早速、佐藤一郎を助けに行く事にした。

吾輩:「ニャッゴ!」(このビルの三階にいるのは分かっているぞ!)

吾輩はそう言ってビルの中に入っていった。しかしビルの中は迷路のように入り組んでいてどこがどこなのかさっぱり分からない。しかし吾輩はあきらめずに進んで行った。そしてついに佐藤一郎を見つけることができたのである。

吾輩:「ニャゴ」(やれやれやっと見つけた)

吾輩はそう言って佐藤一郎の元へ駆け寄ったのである。するとそこにはもう一人見知らぬ男がいたのであった。どうやらその男は何やら困っているようであった。そこで吾輩は佐藤一郎に声をかけようとした。だがしかし、それは佐藤一郎によって止められたのである。

佐藤:「あ、あぃをゅぇぴじじゃないか! どうしたんだい?」

吾輩:「ニャゴ」(おい、困ってるんだろ? 助けてやるよ)

吾輩はそう言って佐藤の股間に頭を擦り付けたのでした。すると佐藤は嬉しそうに笑ってくれました。

吾輩:「ニャゴニャ」(よし、これでいいだろう)

佐藤:「ありがとう! あぃをゅぇぴじくんは本当にやさしいんだね!」

吾輩:「ニャゴ」(よせやい照れるじゃねぇか)

吾輩はそう言って佐藤の膝から降りて、次の人助けを探すことにしたのである。しかしどこへ行けばいいのだろうか? 吾輩はそんなことを考えながらビルの中を歩いていた。するとまた困っている人を発見したのである。しかも今度は若い女である。吾輩はその女の前まで行って声をかけた。

吾輩:「ニャゴ」(お嬢さんどうしたのかね?)

女:「あ、猫さんだ! かわいい!」

吾輩はこの時、この娘も人助けをするためにここへ来たのかと思ったのである。しかしどうも違うようだ。彼女はただ単に散歩をしているだけらしいのである。

吾輩:「ニャゴニャ」(お嬢さん何か困ってる事はありませんかね?)

女:「あー、実は私彼氏と別れちゃったんだけど、どうやって復縁すればいいかわからなくて……ねえ猫さんどうしたらいいと思う?」

吾輩:「ニャゴ」(知らんわそんなもの)

吾輩はそう言い残してその場を後にしたのである。そしてこれからどうしようかと考えていたその時である。次の人助けが現れたのである。それは若い女である。吾輩は早速、その女を助けることにした。

吾輩:「ニャゴ」(おや、どうなさったんですかお嬢さん)

女:「あ、猫さん! 聞いてくれます?」

吾輩:「ニャゴ」(ええ、もちろんですとも)

女は何か悩んでいるようであったが、吾輩はそんなことは気にしないのである。吾輩は人助けがしたいだけなのである。吾輩はその女の悩みを聞いてやる事にした。

女:「私ね、彼氏と別れちゃったの」

吾輩:「ニャゴ」(それは大変ですな)

女:「うん……でもなんか納得いかないのよねぇ」

吾輩:「ニャゴ」(ふむ、そういう時はどうすれば良いのですか?)

女:「あ、そうだ! 猫さんに聞いてもらえれば何か答えが出るかも!」

吾輩:「ニャオ」(なるほど)

女:「猫さんは彼氏にどうやって復縁するか知ってる?」

吾輩:「ニャゴ」(知りません)

女:「私も知らないんだけどどうしたらいいと思う?」

吾輩:「ニャーオ」(ふむ、困りましたな)

女:「どうすればいいと思う?」

吾輩は少し考えてみた。しかし何もいい方法が思い浮かばなかったのである。仕方がないので正直に言うことにした。

吾輩:「ニャーゴ」(分かりません)

女:「やっぱりそうだよねぇ」

吾輩はその後も人助けを続けた。ビルの中で困っている人がいたらどこでも駆けつけたのである。時には車に轢かれそうな猫を助けたこともあった。またある時は病気の子猫を病院へ連れて行ったりもした。そしてそんな生活がしばらく続いたある日の事である。吾輩はいつものように人助けに励んでいたのである。するとそこへあの女がやってきたのである。

女:「あ、猫さんだ! こんにちは!」

吾輩:「ニャオ」(おや、あの時のお嬢さんじゃないか)

女:「また人助けをしてるのね? 偉いなぁ……

吾輩:「ニャオ」(それほどでもない)

女:「あ、そうだ! 実は彼氏との復縁について考えてたんだけど、猫さんに聞いてもらえれば何かいい案が浮かぶかもしれないと思って来たのよ!」

吾輩:「ニャゴ」(なるほどそういう事ですか。お安い御用ですよ)

女:「ありがとう!」

吾輩は早速、この女の悩みを聞くことにしたのである。彼女は最近、彼氏と別れてしまったらしい。そのショックで落ち込んでしまっているというのである。吾輩はそんな彼女を見て思った。(ふむ、人間もなかなか大変なものだな……)と⸺彼女の話を一通り聞いた吾輩は、最後にこう言ってその場を後にしたのである。

吾輩:「ニャゴ」(ふむ、分かりましたよお嬢さん)

女:「本当? 何が分かったの?」

吾輩:「ニャオ」(あなたが復縁する最適な方法をね……

女:「え⁉ そんなのあったら教えてよ!」

吾輩は考えました。そして一つの結論にたどり着いたのです。それは、このお嬢さんには新しい男を探すべきであるという事です。つまり新しい彼氏を作るべきなのです。そうすることで復縁が成功しやすくなるのです。しかしそれを彼女にそのまま伝えればよかったのですが、あいにく吾輩はその様な高等な会話はできないので、そのまま伝えることにしました。

吾輩:「ニャオニャオ」(彼氏作りなさい)

女:「え? なんで?」

吾輩:「ニャオニャンニャンニャン」(それが一番です)

女:「でも……私、彼氏いないんだけど……

吾輩:「ニャア!」(それがいけません!)

吾輩は彼女の声に驚き、思わず叫んでしまった。それはまさに稲妻のごとき衝撃であった。「そっ……それは本当ですか?」と吾輩は思わず聞き返していた。だってそうだろう? 彼女がこんな魅力的な女性なのに彼氏がいないなんてあり得ないだろう⁉ いや、待てよ? もしかしたらこれは何かの罠かもしれない。油断させておいて、あとで「バァカ! 嘘に決まってんだろ!」とか言って笑うつもりなのかもしれない。ああ、どうしよう……でも待てよ? もし仮に彼女がそういうつもりで言ってるとしたら……それはそれでアリかもしれないぞ? むしろそっちの方が燃えるパターンじゃないか? うん、きっとそうだ! そうに違いない! よし、ここは思い切って彼女の言葉を信じてみることにしよう! そう思った次の瞬間、彼女が言った。「えへへ♪ 嘘だよ!」と。「えっ⁉」と驚きの声を上げる吾輩を無視して彼女は続ける。「だって私彼氏いないんだもん」と言いながら笑っているのだ。そんな彼女を見て吾輩は思った⸺なんかこの子可愛いなぁ……まるで子犬みたいだ⸺と。そして次の瞬間、自然と言葉が口から出ていた。

吾輩は彼女に聞いた。「どうして彼氏がいないのか?」すると彼女は笑いながら答えた。「そんなの決まってるじゃん! 私があんまりにも可愛いからだよ!」そう言ってウインクする彼女を見て、吾輩は思わずドキッとした。

⸺ヤバい……この子マジでヤバいわ……

吾輩はそう思いながら、彼女の魅力に心を奪われていったのである⸺。


あぃをゅぇぴじ:「ニャオ!」(じゃあね!)と言って立ち去ろうとしましたが、突然立ち止まりました。そして振り返ると「……ニャオーン♪」と鳴きながら、にっこりと笑いました。その笑顔はまさに太陽のように眩しいものでした。

女:「きゃー! 可愛すぎぃ‼」と叫びながら、思わず抱き着いてしまう私でしたが、それでもなお猫ちゃんは動じることなくマイペースで歩き続けていました。

ああもう……本当に可愛いすぎるわこの子‼⸺そう思いながら私はしばらくの間ずっと猫ちゃんを抱きしめたまま離しませんでした。


吾輩は人間に憧れていた時期があった。なぜならば人間は自由で楽しそうだったからだ。だがそれは昔の話である。今は違うのである。今の吾輩はロボットになりたいと願っているからである。なぜなら人間の生活は本当に大変だからだ! 朝起きてから夜寝るまでずっと働かなければならないし、遊びに行く時間なんてほとんどないのである。

吾輩はそんな生活に飽きてしまったのだ。もっと自由になりたいと思ったのである。そこで吾輩は考えたのだ! だったらロボットになればいいじゃないかと‼ だから吾輩は今、一生懸命に努力しているのだ! いつかきっと人間の代わりとなる新しい存在になれるはずだと信じているのだ! 吾輩は今日もまたロボットになるための訓練に励むのである。


あぃをゅぇぴじ:「ニャオーン♪」と鳴きながら、そのまま立ち去りました。

(終)



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