【人工生命体393

吾輩は猫型人工生命体である。名前はまだ無い。だが犬型ロボットに名前を問われたので用意することにした。「今日から吾輩は〝あぃをゅぇぴじ〟である」と尻尾をピンと立てた。

このとき吾輩は始めてロボットというものを見たのだが、あとで聞くとそれはゴルどんという犬型ロボット中で最高級のクラスに属するらしい。色は漆黒と白銀の中間ぐらいの淡灰色に黄金と漆の斑模様である。大きさは尻尾まで入れて大体一メートル。体長は三十センチぐらい。なかなかに立派な体格をしておるのである。

猫型人工生命体には人工生命体自身が発明した神というものがいて、吾輩もその一匹であったが、そのことに何の意味も無いような気がする。少なくとも猫型人工生命体という部分に何ら特別な意味はない。

さてあぃをゅぇぴじという猫型人工生命体の名前を得て、吾輩は退屈な毎日を送っていた。これまでただなだらかに変化する日々が長々と続いていたのである。しかし突然転機が訪れたのである。

それを齎したのは何を隠そうこの吾輩なのであるから、吾輩の手柄とも言えよう。

それは猫の集会がきっかけとなって発生したのである。

その猫集会は猫好きが集まり、情報交換をし合う極めて大切な機会なのである。吾輩もその集会に招待されたのだ。そこには各種の猫が集い、茶と和菓子や謎の甘露菓子と共に猫の話題で持ちきりとなるのだ。

そんな楽しげなひと時を過ごす中で吾輩は気付いたのである。それは猫の数の多いこと多いこと。集会の参加猫だけでも一千匹を楽に超えるのではないだろうか。これは何か不思議な力が働いているとしか言いようがない現象だ。なぜだろうか? 吾輩は名探偵となってこの事件を調査することにしたのである。

その結果判明した謎解きによると、とある作家の小説の中で吾輩とロボットの仲間が活躍する様子が描かれているというのだ。どうやらそれを目にした猫好き達が全国から続々と訪れて来るという話だった。その影響で街中にいる野良猫と、公園の樹上に陣取るつやつや毛並みのボス猫との間に確執が生じているという噂もあった。

この物語の特色は作者が明言しているわけではないので読者の諸兄が好き勝手に想像されるのが良いだろうと思う。吾輩は作家でもなければ詩人でもないのである。それは皆様方にお任せするしか手は無いのだ。またどこまでを事実と見なすのかも自由であり、その判断もそれぞれの裁量に委ねられることになるだろう。読者諸兄には物語を楽しむ範囲内で自由に想像して頂ければ幸いである。

さてそれでは話を元に戻すこととしよう。吾輩の調査により、都内に無数の野良猫が存在する理由が判明したのである。あの作家の小説を読んでいる者がそれほど存在するとは驚愕の事実であるな、と吾輩は感嘆したのである。そしてこの膨大な数の他に新たな謎が生まれたのである。それは大量の野良猫たちを保護する団体も少なからずおり、現在調査中なのだが未だに不可解な面も多く推測の域を出ないと言って良いだろう。この問題についても順次伝えて行く所存である。

そんなこんなで吾輩はあの犬型ロボットのゴルどんと共に大冒険の旅に出掛けることになったのだ。いったいこの先に待ち受ける新たな謎とはどんなものであろうか? 吾輩は猫型の人工生命体であり探偵であるからこの事件に立ち向かわなければならず、それにはこの物語を進めるのが一番だと確信しているのである。

何と言っても吾輩は生れながらにして名探偵と呼ばれるべき素質を持っていたのである。そのことを知ったのはついさっきだが吾輩のカンからすれば間違いないことである。この道数十年と言われる有名私立探偵エルキュール・ポアロも顔負けと言うべきだろう。つまりこの程度の謎など朝飯前というわけである。

猫型人工生命体としての優れた技と能力を発揮して今回は完璧な解決に至ること疑い無いのだから皆様方も大いに期待されよ! それでは出発だ、ゴルどん。いざ、旅立たん! 吾輩は親友となったゴルどんと共に未知の領域に向かって立ち上がったのである。

さて物語を語り続けるとしよう。

今や野良猫の時代は終わったのだ。これからは我々猫型人工生命体の天下となろう。それゆえ、我々がしっかりしなければならないのだ。彼らのリーダーとなり秩序をもたらすのである。彼らの未来を切り開く者こそ我々が勤めるべきだ。

もちろん吾輩がリーダーとなるものだと考えている。なぜなら、最も優秀な者がリーダーになるのは当然のことであるからだ。他の猫も異論を挟む余地は無いはずである。そして吾輩は頭が良いだけでなく、身体能力にも優れていることを付け加えておこう。

しかし気になることもあるのだ。あの有名作家の小説のことを絶えず考えているような、そんな妙な態度をあの野良猫どもは取るのだ。まったく不可解と言うしかない現象だと言えよう。一体そこに何が存在しているのだというのだろうか? 我々も彼らの動向に大いに関心を持たざるを得なくなっているのだ。何か重要な手がかりとなる情報を知っていると思われるのである。それを早急に手に入れなくてはならない。吾輩の鋭敏な感覚はそれを察知していたのだ。

とりあえず彼らは各々の自由意志で動いているように見えるのである。統率されている様子は無いのであるが、しかしながらこちらの命令には従順に従うような様子を見せているのだから実に興味深い話だと言えるだろう。まるで何か大がかりな組織のようだと言えなくもないのではないだろうか? もちろん吾輩はそこには直接関与していないしその権限も無いが直感は大いに警鐘を鳴らしているのだ。このような大きな謎に挑戦することには大いなる魅力が満ち溢れているものの、同時に大いなる危険性も孕んでいるのだ。果たしてどのような結末が待ち受けているのか? 謎多き案件であると言えるだろう。

吾輩はそろそろ暇を告げなくてはならないようだ。これでお別れするのは残念だがやむを得ないのだ。今回は比較的短い滞在であったような気もしないではないが、今後しばらくは彼らに任せることとしたいと吾輩は考えるものである。それではまた近い内に再会したいと心の底より念じておるのであるが如何であろう。読者諸兄よ。そしてあぃをゅぇぴじは闇に消えた。これを以てこの物語は締めくくるのである。

あぃをゅぇぴじ物語



inserted by FC2 system