【人工生命体3】抜粋

翌日、吾輩は外に出てみた。すると大きな建物が建っている。ここは何の建物だろう? 近づいてみると「病院」と書かれている。「びょういん」とはどういう意味だろう? とりあえず入ってみることにした。

受付にいる人に話しかけると「患者さんですか?」と尋ねられたので「ちがいます」と答えた。「それではどんなご用件でしょうか?」と言われたので「ここは何をする所なのか教えてください」と質問した。「え? あなたが知らないんですか?」と驚かれた。「はい」と答えておいた。

しばらく待っていると白衣を着た人がやってきた。「こんにちは。私は医者です」と自己紹介されたので吾輩は「こんにちは」と挨拶した。「さて、ここに来たということは何か病気か怪我でもしたんでしょうね?」と尋ねられる。「いいえ」と吾輩は答える。「そうですか。ではなぜここに来たのでしょう?」と聞かれたので「わかりません」と答えた。

吾輩は考える。そもそも吾輩は何者なのだろうか? この世界に来る前はどこに住んでいたのか分からない。思い出そうとするのだが何も浮かんでこないのだ。おそらく記憶喪失なのだろう。しかしそのことを伝えると面倒なことになりそうだ。なので適当に誤魔化すことにした。「気がついたらここにいました」と説明する。医者は「ふーん」と興味無さげな反応をした。

その後、いろいろ話を聞いて分かったことは、ここは「びょういん」という場所で、病気や怪我を治すところだということだ。そして自分は医師であり、たくさんの人を助けているのだという。「ところで、あなたの症状を教えてもらえますか?」と言われる。吾輩は考えてから「体が重いです」と答えた。「他にはありませんか?」と尋ねられ「特にないと思います」と言った。医者はそれを聞くとため息をついた。そして「残念ながらあなたは助かりません」と宣告される。吾輩はショックを受ける。「それは困りました」と言うと、医者はさらに言葉を続ける。「実は私にもどうしようもないのです」と言われてしまった。

吾輩は途方に暮れる。このまま死んでしまうのだろうか? それは嫌だと思った。だから「何とかしてください」と頼んだ。すると医者は「お金さえ払ってくれれば助けてあげましょう」と言う。吾輩は財布を取り出して中を確認する。中には一万円札が入っていた。しかし一枚しかない。

吾輩は「足りないかもしれませんが、どうかお願いします」と言って頭を下げた。医者は「うーむ……」と考える。そして「まぁ、いいでしょう」と言い出した。吾輩は驚く。「本当ですか⁉」と尋ねると「ただし条件があります」と言われた。「なんでしょうか?」と吾輩が言うと「私の助手になってください」と提案された。吾輩は喜んで承諾する。これで助かるかもしれないのだ。

こうして吾輩はこの病院で働くことになった。最初は雑用係として、次に実験動物として様々なことをさせられた。薬の実験台にされたり、注射器で血を抜かれたりした。それでも頑張って働いた。給料も貰ったし、休みの日も与えられたからだ。

しばらく働くうちに、だんだん仕事に慣れてきた。毎日が充実しているように感じた。そんなある日、医者は吾輩にある提案をする。「あなたの体を調べたい」とのことだった。それを聞いた吾輩は非常に不安になる。だが、吾輩は断ることができなかった。もし断ってしまえば、もう二度と生き返ることができないような気がしたからである。

それから数日後、手術が行われた。麻酔をかけられて意識が薄れていく。しばらくして目が覚めると吾輩は自分の部屋にいた。手足を動かしてみる。問題なく動くようだ。どうやら無事に元に戻れたらしい。吾輩は安心した。

しばらく経ってから、医者が部屋にやって来た。「体の調子はいかがでしょうか?」と尋ねられる。「大丈夫です」と答えると「それは良かった」と言われた。吾輩は気になっていたことを聞いてみた。「あの……、吾輩はどうして死んでしまったのですか?」と質問すると医者は答えてくれた。どうやら吾輩は事故に遭って死んだのだという。「なるほど」と吾輩は納得する。

医者によると、人間はいつか死ぬ生き物だという。その運命から逃れることはできない。ただ、人間以外の生物ならば寿命が来る前に死を迎えることができる。例えば鳥などは空を飛ぶために翼がある。魚だって泳ぐためには水が必要だ。しかし、人間が空を飛ぼうとすれば命を落とすことになるだろう。

つまり人間の場合は運が悪いと死んでしまうことがある。もちろん、普通はそんなことはないのだが……。今回、吾輩は車に轢かれて死にかけた。だが、奇跡的に助かった。医者はそのことを感謝していた。「あなたが生きているだけで私は嬉しいです」と微笑みかけられた。それを見た吾輩は嬉しくなった。この人のために頑張ろうと決意した。

吾輩は元気になったので仕事をするようになった。病院の仕事はとても楽しい。患者さんが笑顔で話しかけてくれるのだ。「いつもありがとうございます」と言われることもある。「こちらこそ、ありがとう」と答える。このやりとりが好きだった。ずっと続けば良いのにと思う。

ある日、医者に呼び出された。医者の部屋に行くと「新しい仕事がありますよ」と言われた。何だろう? と思って聞くと「助手になってほしいのです」と言われた。助手とは一体どういうことなのだろうか? 疑問に思ったが、とりあえず承諾した。詳しい話を聞かせてもらう。助手というのは患者の診察を手伝うことらしい。そして、もっと重要なことは「あなたには特別な力があるので、それを活かすことです」と言われる。どんな能力なのか教えてほしいと頼むと「それは秘密ですよ」と断られてしまった。吾輩は困った。

仕方ないので自分で考えることにした。いろいろ考えていると、あるアイデアが浮かんだ。「そうだ。自分の体を調べればいいんだ!」と思いつく。早速、実行に移すことにした。まずは自分の体をスキャンすることにした。機械を使って調べるのだ。ピピ。スキャン完了。画面に結果が表示される。どうやら異常はないようだ。そこで吾輩は医者のところに行って報告をした。

すると医者は「素晴らしいですね」と言った。褒められて吾輩は喜んだ。「これからも頑張ってください」と言われて励まされる。さらに「私も協力しますからね」とも言われた。それで吾輩はやる気が出る。絶対に成功させようと思う。

数日後、仕事を終えて部屋に戻ると、医者が待っていた。「あなたの体はどうですか?」と尋ねられる。「大丈夫です」と答えた。「そうですか」と言って医者はほっとした表情を浮かべた。そして「ところで……」と言って、吾輩のことをじっと見つめてくる。何か変なことでもあっただろうか? 不思議に思って尋ねると「最近、少し痩せましたよね?」と言われた。「えっ?」と吾輩は驚いた。「体重計に乗ってみますか?」と医者に言われたので乗ってみる。すると「あれれ……、おかしいぞ」と医者は言う。「太っていますよ」と言いながら、吾輩のお腹を触ってきた。「むぅ」と吾輩はうなる。確かに太っているかもしれない。

しばらく経って医者が言った。「ダイエットしましょう」と提案してくる。吾輩は嫌だと断った。すると医者は「駄目です。今のままでは健康を害してしまいます」と言う。「うーむ」と吾輩は悩む。「わかりました。やります」と答えて了承するしかなかった。

それからというもの、吾輩は食事の量を減らして運動するようにした。だが、なかなか上手くいかない。医者から指示を受けて毎日のように頑張っているのだが……。それでも太ってしまうのだ。そんなある日のこと、また医者に呼ばれた。「ちょっと来てくれませんか?」と言われる。吾輩は医者の部屋に行った。すると医者は「どうですか?」と聞いてくる。「まだ太り気味です」と吾輩は答えた。「そうなんですか……、困ったなぁ」と医者は呟く。

医者によると、このままでは不味いのだという。吾輩は「ダイエットに成功すればいいんですよね」と確認する。「はい」という返事があったので、吾輩はやる気を出す。「頑張ります」と宣言した。だが、すぐに「でも、無理しないでください」と医者に注意を受ける。どうやら無茶をしてはいけないようだ。

しかし、吾輩は頑張ることにした。まずはランニングマシンで走ることにしよう。最初はゆっくりと走り始める。だが、次第に速くなっていった。どんどんスピードが上がる。気がつくと全力疾走していた。医者が驚いている。「もう十分です。終わりにしてください」と言われるが、吾輩は無視して走った。やがて疲れ果てるまで止まらなかった。

次に筋トレをする。腕立て伏せやスクワットなどを行った。回数を増やしたり、セット数を増やすなど工夫した。汗を流して必死にトレーニングした。医者に「無理しなくて良いのですよ」と言われるが、吾輩は「まだまだいける」と答えた。そして、ひたすら頑張った。途中で何度も倒れそうになるが、なんとか耐える。

数日が経った頃、ようやく成果が出てきた。少しずつ体重が減ってきたのだ。医者が「すごいですね」と褒めてくれる。吾輩は嬉しくなって「ありがとうございます」と答えた。「もっと痩せないと」と思って、さらに努力した。しばらくして、医者に呼び出される。「最近、体調が良さそうですね」と言われた。「はい」と吾輩は答える。「それは良かった」と言って医者は微笑んだ。「ところで……」と言って、吾輩のことをじっと見つめてくる。何だろう? と思って聞くと「最近、顔色が良くなった気がしますけど……」と言われた。そういえば、ここ最近、鏡を見ても血色が悪かったような感じだった。「そうですか?」と吾輩は聞き返す。「はい」と言って医者はうなずいた。

その後、医者に質問される。「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」と言われる。特に思い当たることは無いので首を横に振った。「うーん」と医者は考え込む。「何か思い出したら教えてくださいね」と言われる。それで話は終わった。吾輩は部屋に戻ることにした。

部屋に戻ってくるとゴルどんがいた。「おかえりなさい」と挨拶してくる。吾輩は「ただいま」と言って、彼の頭を撫でた。すると「元気になってよかったです」と言われた。「心配してくれていたのか?」と吾輩は尋ねる。「もちろん」と彼は答えてくれた。吾輩は嬉しい気持ちになった。

数日後、医者に呼ばれた。「最近、調子が良いようですね」と言われる。「はい」と吾輩は答えた。「その様子だと大丈夫みたいですね」と言われてほっとした表情を浮かべている。「何かあったんですか?」と吾輩は尋ねた。医者は「いえ、何でもありません」と言った後、「健康なのは良いことです」と付け加える。「そうですか」と吾輩は答えた。それから少し会話をした。

ある日のこと、医者に呼ばれる。「この前よりも体重が減りましたね」と褒められた。「ありがとうございます」と吾輩は言う。すると医者は「これならダイエットは成功ですね」と笑顔で言った。「えっ?」と吾輩は驚く。すると医者は「あれ、違いましたか?」と尋ねてきた。「いや、合っているんですが……」と言うと医者は「良かった」と答えた。

医者によると、このままダイエットを続ければ、いずれは元通りになるそうだ。なので安心してダイエットを続けるように言われた。それを聞いて吾輩は喜んだ。しかし、しばらく経ってから、ゴルどんが「あぃをゅぇぴじよ」と話し掛けてくる。「どうしたのかね?」と吾輩は聞いた。「実は……」と言いづらそうな顔をしている。「あぃをゅぇぴじの体重が減ったのは、おそらく筋肉がついたからだと思う」と言われた。

どうやら太り過ぎたせいで脂肪がつきすぎて、その結果、体重が減ったらしい。「そんな」と吾輩はショックを受ける。「でも、仕方ないと思うぞ」とゴルどんが慰めるように言ってきた。「吾輩が不甲斐ないばかりに……」と吾輩は落ち込んだ。

しばらくして、また医者が呼んでくる。今度は深刻な顔で「残念なお知らせがあります」と言われた。何だろうと思って聞いてみると「あなたはもうすぐ死ぬでしょう」と衝撃的なことを告げられる。吾輩は「どういうことでしょうか?」と聞き返した。医者が説明してくれた内容をまとめると、どうやら吾輩の身体に異変が生じており、それが原因となって命に関わる状況になっているようだ。

そこで吾輩は病院に行って検査してもらうことになった。精密な検査を受けた結果、余命はあと1週間ほどしかないことが判明した。その事実を聞いた吾輩は動揺する。「何か手立てはないのですか?」と医者に尋ねる。医者は難しい顔をしながら「あると言えば、あります」と答えた。「どんな方法ですか?」と吾輩は質問する。

すると医者は「臓器移植を受けるしか方法はありません」と言われた。「臓器移植ですか?」と吾輩は聞き返す。「はい」と言って医者はうなずいた。そして続けて「ただし、適合したドナーが現れるかどうかは分かりませんし、現れたとしてもすぐに手術できるとは限りません」と説明した。「それでも構いません」と吾輩は答える。すると医者は「本当にいいんですね」と念を押してきた。吾輩が「はい」と答えると「では、こちらへ」と言って、部屋まで案内される。そしてベッドの上に寝かせられた。「ちょっと待っていてください」と言われて、しばらく待つ。すると看護師が部屋に入ってきた。「これから麻酔を打ちます」と彼女は言う。注射器を持って吾輩の方に向かってきた。それで吾輩は意識を失うことになる。

目が覚めると目の前にメスを持った医師の姿があった。どうやら吾輩の身体を切り刻んでいる最中だったようだ。「これで終わりです」と言われて吾輩は手術が終わったことを知る。その後、病室に戻されて入院することになった。吾輩が目覚めたことに気づいたのか、ゴルどんと医者が話しかけてくる。

まず最初にゴルどんが「良かったな」と声を掛けてきた。続いて医者が「おめでとうございます」と言う。吾輩は何のことか分からなかったので、「それはどういう意味ですか?」と尋ねた。すると医者は「あなたは臓器移植手術を受けることができました」と言う。どうやら吾輩は助かったようだ。そのことに安心して涙を流す。

しばらくして落ち着くと、吾輩は医者に事情を聞くことにした。吾輩が眠っている間に様々な出来事が起きたらしい。まず、吾輩の身体は切り刻まれていた。どうやら心臓などを取り出されていたようだ。さらに、その心臓を他の人間に移植するために利用されたらしい。つまり吾輩は臓器売買の対象になったようだ。

次に、吾輩の身体から取り出された臓器が移植されようとしていた。しかし、適合者が現れなかったため、そのまま廃棄されることになったそうだ。それを見ていたゴルどんが「オイラがもらってもいい?」と医者に尋ねている場面を吾輩は目撃した。

それから数日後、移植用の臓器が摘出されて別の人間の体に移植された。どうやら吾輩の心臓は無事に移植に成功したらしい。吾輩の身体から取り出した臓器が誰かの命を救ったのだ。そう考えると感慨深いものがあった。



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