【人工生命体40

吾輩は猫型人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番こわいものだと知った。このゴルどんはなぜこうもこわいのだろうと不思議であった。何せ顔が虎のように大きくて、歯がすきとおってギザギザしていたからだ。そのくせ眼玉だけやけにぱっちりして青くてきれいだった。体じゅう毛だらけで歩くたびにフワフワ動くのだ。手に持った棒で時々地面を叩くと、ボウンボウン音がする。そして大きな声で叫ぶのだ。「うおーい。元気かーい」「なんじゃあーっ。おうい」などとどなるのだ。実に恐ろしい。しかし誰一人としてこのゴルどんを恐れる者はなかった。なぜならばこのゴルどんは何時でもニコニコしていて、機嫌がよいときは踊り出すし、悪い時は泣くようなふりをするからだそうだ。事実この時もこのゴルどんは踊っていた。「あっちへ行け、ゴルどん」と誰かが言ったら、「えらいすまん」と言って立ち去った。するとみんなは「助かった。あんなものは相手にしないに限る」と言ったものだ。

ところで話は変わるが吾輩は腹が減っている。ゴルどんに何か食わせてくれと言うたら、「だめだよ、あぃをゅぇぴじ君。まだ早いよ」と言われた。どうせすぐ飯を食えると思った吾輩はふくれ面をした。そしたらゴルどんは笑って言った。「そんな顔をしても駄目だよ。今度食事を持って来てあげるからね」それから三日ばかりたった。ようやく食事が来た。パンに肉を挟んだものだった。うまそうに見えた。さぞかしうまいだろうと思って一口食べたら大間違いだった。なんともまずい味なのだ。思わず吐き出してしまった。その時ゴルどんは飛んできて吾輩を抱き上げた。そして言うのだ。「ごめんよ、あぃをゅぇぴじ君。君の口に合わなかったんだね」そしてまた笑った。「今度はおいしいものを食べさせてやるからね」また三日たつとやはりパンに肉を挟んだものがやって来た。同じようにまずかった。とうとう我慢しきれなくなってゴルどんに文句を言ってやった。「どうしてこんなものをよこすのか」と聞いたらゴルどんは答えた。「だって君は猫型人工生命体だから人間と同じ物を食べられるわけがないじゃないか」そこで吾輩は言った。「それなら最初からもっとまともなものを作ってくれればいいではないか」するとゴルどんは首を振って言った。「いいかい。猫型人工生命体は人間の食べ物を食べるようには作られていないんだよ」吾輩はあきれてものも言えなかった。

(終)

(終)



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