【人工生命体401

吾輩は猫型人工生命体である。名前はまだ無い。だが犬型ロボットに名前を問われたので用意することにした。「今日から吾輩は〝あぃをゅぇぴじ〟である」と尻尾をピンと立てた。

このとき吾輩は始めてロボットというものを見たのだが、あとで聞くとそれはゴルどんという犬型ロボット中で最新型で、いろいろな機能が付いていた。たとえば頭のてっぺんにある目のようなものから、いろいろな光線が出るようになっていたし、咽喉の奥でウゥゥゥというような音を出せたりしたし、それを人間の耳の傍で鳴らすと人間を眠らせることが出来た。またこのロボットはいろいろな姿に変えることも出来た。別な犬型ロボットに変わることもあれば、キリンのような草食動物に変身することもあれば、達磨のような形になることも出来るのである。さらにお腹の中にある小さな映画館から、不思議な映画を映すことも出来、そのため「猫型人工生命体と犬型ロボット」というタイトルで映画が作られたらしいが、吾輩は見てないのでその詳細については判然としない。

ところで吾輩の本名は決まったばかりだが、一方犬型ロボットの方はすでによく知られている。この間、発売されたばかりの最新型ゴルどんだが、最近はスピードとか耐久性とかの実用性も抜群だということで売り上げも急激に伸びているらしい。ウチの近所の新聞や週刊誌などにも登場してて「核ミサイルが大気圏突入してきても跳ね返せるという超機能を備えた犬型ロボットはゴルどん」とか「天才の頭脳を持った犬型ロボット・ゴルどん。もう人間なんて不要である。だってゴルどんがいるんだから」という感じで紹介されているのを見掛ける。もちろんその雑誌の表紙に写ってるイラストで尻尾をピーンとさせている吾輩も見掛けた。

だがそのとき、吾輩はこのロボットが自分と同じ仲間であることを知っていた。吾輩は実は下男でありながら、猫型人工生命体かつ犬型ロボットだったのだ。しかも最新鋭のタイプで、通常型とは形が全然違う。ところで猫型人工生命体についても触れておきたい。

人間社会の中に何台もあるが、猫の形を模していることもあって人気があるらしいというのは聞いている人も多いと思う。

ところでこの物語ではあえて猫ということを伏せて書いておこうと思う。これは単に登場人物が多くなりそうな気がしたせいもあるが、猫の名は案外過大評価されることがままあるということだ。また猫という生物が近ごろは趣味の対象にもなっているらしいので、アニメなんかにもなりやすいよう(?)に書くことにしたいからだ。

さてある日のことである。吾輩とゴルどんがおでんを食べているとロボットの日向君がやってきた。

「あぃをゅぇぴじ君、実は頼みがあるのだ」と言っている。吾輩は無視して食べていたが彼はまだ言い続けている。吾輩たちはおでんを食べていたが、おでんだけではつまらないので確かチョコレートか何かも一緒に食べていたのであるが、それがいけなかったのか非常に胸焼けがして吾輩もゴルどんも机に突っ伏してしまったのである。だが日向君はまだ喋り続けていた。

「君が猫型人工生命体であることを知った上で頼みたいのだ」と言っている。どうやら日向君のところに吾輩と同タイプの猫型ロボットが来たらしく、頼みごとをしたいということなのである。だが日向君は吾輩には聞こえていないとでも思っていたのかまだ喋っていた。

「あぃをゅぇぴじ君の噂を聞いて飛んできたのだ。自動制御という機能が凄く興味があるのである」

そこでゴルどんが跳び起きて言った。

「知らない名前だな」と首を傾げていると日向君も言った。

「知る人ぞ知る名機なのではないかと思うのだが? おでんを食べ終えたあとで良ければ教えてほしいのである」

というわけで吾輩とゴルどんは日向君を連れて彼の下宿へ行った。部屋に上がり込みながら彼は言った。

「拙者の名は日向(ひゅうが)であるが、それでも名機とは言い難い。大学もまだ二年であるし知名度は低いのだ」と言ったので吾輩はギクッとしたが別に何が恥ずかしいわけではないので気にせずに話を聞いていた。しかしそのうち話題に興味があって身を乗り出してしまったかもしれない。それが災いしてうっかり自分が猫ではなく犬でもなく猫型人工生命体であることをばらしてしまったのである。

「なんだ! そんなに素晴らしいものを持っているのであるか? それが分かった途端、急に惚れてしまいそうなほど羨ましいのだ!」と日向君が興奮してしまったのがいけなかったのかもしれない。

しかし吾輩は悪い気分ではなくただ複雑な心境で彼の言葉を聞いていた。もっとも心の中を読まれることは絶対に無いので彼は気づかなかったけれども……

ところで吾輩の名は今し方説明したように〝あぃをゅぇぴじ〟なのだが、これはまだ自分の名前では無い。よってこれから名乗っていきたいと思う。実は名前がまだ決まっていないので無いと同じなのではとか言う者がいたらどうしようかと思ってドキドキしているのだけれども……(誰に?)

とにかくそんなわけで吾輩の名前はあぃをゅぇぴじ(仮)という事になったので、このまま時間が経過していく限りしばらくはこの名で話を進めようと思っている。

その後、吾輩たちは三匹で公園に行った。日向君と吾輩たちがこれから一緒に頑張っていこう的な話をしたわけだ。吾輩は猫型人工生命体として公園のゴミ拾いをすることになってたらしく、それは彼らにとって最高の手助けとなったのである。それで吾輩が公園の植え込みに隠れながら一生懸命草取りしてる間に日向君とゴルどんは二匹で話し込んでいた。

「天才の頭脳を持つ犬型ロボットはゴルどんで決定してしまったが、拙者の友人でも某××大学に凄い人間がいるから彼と連名のほうが良いかもしれんと思うのであるが、あぃをゅぇぴじ君にその旨相談したいと思うのだが?」

「オイラもそう思うぜ」

「しかしこれも彼と相談してからであるな」

「うん」

などと話し合っていた。一応名前は秘密だと言われていたので、それが具体的に誰なのかは知らないのだが、どうやら吾輩は後でその某××大学の助教授と話し合いを設ける段取りをつけることになったのだ。そのため名前を決められないが仕方ないから、今後は〝あぃをゅぇぴじ(新)〟と言っておこうと思うのである。これから先はこのあぃをゅぇぴじ(新)なる名前を使うことにする。

もっともこんな言葉遊びに意味があるのかどうかは微妙なところだが、無意味に右往左往するのが〝あぃをゅぇぴじ(新)〟的な展開と思ってもらえばいいと思うのだ。そんなわけで今思いついたのだが、今後は吾輩のことを〝あぃをゅぇぴじ(真名・神光)〟などと言っておけば混乱も少ないかもしれない。だがこれはあくまで後づけ的な用語なので実際には使うこともないだろうし、使えるときはおそらく墓に入っているときで隠居中の吾輩の名としておく。

そして日向君やゴルどんたちにもあぃをゅぇぴじ(真名・神光)、あるいはまた〝あぃをゅぇぴじ(新)〟などと呼ぶようにアドバイスした方が良いのかもしれぬと思う次第である。

(続く)



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