【人工生命体41

吾輩は猫型人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番の知恵者だという話であった。このゴルどんは何しろ鉄でできている。血や肉は無いけれども心はあるのだそうだ。ただその心というのは人間のように複雑なものではないらしい。ランプがピカピカ光ったりするし、スイッチを入れると眼玉が飛び出す仕掛けになっている。そして腹のあたりにある蓋を開くと大きな歯車が見える。その歯車がグルグル回転するといろんな働きをするのだという。とにかく凄い奴だと皆は感心していたものだ。

ある日の事である。吾輩はこのゴルどんに連れられてある建物に行った。そこにはたくさんの人間が働いていた。人間はいつも働いているなと吾輩は不思議に思った。その建物の一室で吾輩達は何か黒い板のようなものの前に立たされた。「さて、これから皆さんにいろいろ質問しますから答えてくださいね」先生と呼ばれる男が言った。吾輩達の前に十人ばかりの男女が並んだ。何だかみんな顔色が悪いようだ。男は病気なのかと思った。女も疲れているようだった。子供は元気がないように見えた。老人は腰が痛そうだった。

「はい。次の方どうぞ」「私は今年で五十二歳になります」男が手を挙げて答えた。「ではあなたの誕生日を教えてください」先生と呼ばれた男が訊いた。「昭和六十一年の四月二十四日です」男が答えると、その隣にいた背の高い女が「あたしもよ」と言った。「はい次の方」「私の名前は鈴木英子と言います」女の人が答えた。「年齢はいくつですか?」「三十五歳です」するとまた隣の男が「俺も同じだよ」と言った。その次もまた同じ事を言ってるなと吾輩は思った。「あのう、年齢って何歳なんでしょう」誰かが言った。先生はちょっと困った顔をして「それはわかりません」と答えた。それから順番に何人かが同じような質問に答えていた。最後に吾輩達の番になった。吾輩は自分が何歳になるのかわからないので黙っていた。ゴルどんはランプをピカピカさせながらじっとしていた。他の連中は口々に「十六歳」「十七歳」などと答えていたが吾輩にはそれが嘘だということがわかっている。なぜなら吾輩は猫型人工生命体だからである。

「はい、それじゃあゴルどんさんお願いします」先生が言った。「オイラは二十八号です」「えっ? どうしてそんなことがわかるんですか?」先生が驚いたように言った。「だってオイラの体の中には機械が入っているから」ゴルどんは平気な顔で言う。「まあ! 機械があるの!」先生はびっくりしたような声を出した。「うん。ほらここに小さな穴があいてるだろう。ここから歯車が見えないか」ゴルどんはおなかの蓋を開いて見せた。「あら本当だ」先生は覗き込んだ。「ここを開けると中に機械が詰まっているんだ」ゴルどんは説明した。「それでね、オイラはこの中の機械を動かせるんだよ」ゴルどんはスイッチを入れたり切ったりした。「そうなの」先生は目を丸くしている。「でもね先生。機械を動かすためには電気が必要なんだけど、この中には電線はないからどこからも電気は来ていないわけなんだ」ゴルどんは続けた。「ねえゴルどん。機械を動かすためにどんな風にしたらいいと思う」先生は興味を持ったらしく熱心に尋ねた。「そうだなあ。まずは発電所を作らないとだめだな」ゴルどんは答えた。「発電所を作るなんて大変なことじゃないか」先生は心配そうに言った。「そりゃ大変だけどね。でもやってみなくちゃわからない」ゴルどんは尻尾をくるりと回しながら言った。「発電所ってどうやって作るのかなあ」先生は首をひねる。「そうだなあ、とりあえず地面の下に穴を掘ろう」ゴルどんは言う。「地下百メートルくらい掘れば発電機になるはずなんだ」ゴルどんはランプをピカピカさせる。「でもね、それだけ深く掘ると地震が来た時に危ないな」先生は考え込む。「大丈夫。この辺は大きな地震はめったにないから」ゴルどんは安心するようにと先生に告げた。「そうか、それもそうかもな。ところで発電に必要な電力はどの位かかるんだい」「それは計算できないけど、ざっと見積もっても五十億キロワット以上は必要だね」ゴルどんが答えた。「そいつはすごいや」先生の顔が明るくなった。「それにこの機械はずっと動かし続ける必要があるし」ゴルどんは付け加えた。「なるほど。そうすると、やっぱり発電所を作った方が良さそうだな」先生は決心したようだった。「発電所といっても簡単じゃないよ」ゴルどんは言った。「何しろ地下にトンネルを掘るんだから」ゴルどんは尻尾をくるりと回す。「でも他に方法がないんじゃしょうがないだろう」先生は答えた。「うーん。確かにそうだよね」ゴルどんは少し考えた。「わかった。それじゃあオイラに任せておいて」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

数日後。「先生見てごらん。これを見て」ゴルどんが大きな声で言った。「あれっ? これは何だい?」先生は驚いている。「オイラが作ったんだ」ゴルどんは自慢げに胸を張る。「えっ? 作ったって、これをかい」先生はさらに驚く。「うん。オイラ、一生懸命頑張ったんだ」ゴルどんは鼻の穴を大きくする。「いやあ、驚いたなあ。君、こんなものを作れるのか」先生は感心している。「へへん。オイラ天才だからね」ゴルどんは得意そうにランプをピカピカさせた。「しかし、よくこれだけのものができたなあ」先生はしげしげと眺めている。「実はオイラ、設計図を書いたんだよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「図面まで描いたの!」先生はさらにびっくりしている。「そうなんだ。オイラ、頭が良くて記憶力もいいからね」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「それじゃあ、早速組み立てにかかろう」先生はゴルどんの背中を押した。「ちょっと待った」ゴルどんは言った。「その前に電気を貯めなくっちゃいけない」ゴルドンは尻尾をくるりと回転させた。「ああ、そうか。発電所を作るためには電気が必要だもんな」先生は納得した。「でも電気なんてどこにもないぞ」先生は辺りを見回した。「そんなことないよ」ゴルどんは自信たっぷりだ。「えっ? どこにあるっていうんだい」先生は不思議そうにしている。「ほら、そこだよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「ここって……まさか発電所のことか」先生は目を丸くして尋ねた。「そうさ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「でも発電所って地中深く埋設してあるだろう」先生は心配そうに尋ねる。「大丈夫だってば」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「どうしてだい?」先生は首を傾げた。「それは後で説明するから」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「よし。それじゃあ、取り掛かろう」先生は元気良く言った。

数時間の後、「できたぞお」ゴルどんは大声を上げた。「おっ! 完成したのかい」先生が駆け寄ってくる。「ああ。オイラたちの力で発電所が完成したんだ」ゴルどんは誇らしげにランプをピカピカさせる。「やったなあ」先生も嬉しそうだ。「ところで、どうやって使うのかな」先生は興味津々といった様子だ。「もちろんスイッチを入れるんだ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「ああ、なるほど。それで動くわけだ」先生はポンと手を叩いた。「その通り」ゴルどんは大きくうなずいた。

地下の発電所

「じゃあさっそく使ってみよう」先生はうきうきしながら言う。「うーん。でも、もうすぐ夜になるよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「そっか。じゃあ明日にするしかないね」先生は残念そうだ。「明日まで待つのかい」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「うん。だって真夜中に動き出したら困るだろう」先生は腕組みをして考え込んでいる。「それもそうだね」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

翌日、先生とゴルどんは再び地下の発電所に向かった。「昨日と同じ場所に置けばいいのかい?」先生はゴルどんに尋ねた。「いや、今度はもっと奥のほうに置くんだよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「えっ? なんでだい」先生は不思議そうにしている。「発電効率を上げるためだよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「なるほど」先生は感心している。「それに、この辺りのほうが地盤がしっかりしているからね」「そうか。そういうことだったのか」先生は合点がいったようだ。

「それじゃあ、スイッチを入れてみるよ」先生はそう言ってスイッチを入れた。「おお!」先生は目を輝かせている。「どうだい」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「すごいじゃないか。ちゃんと電気が流れている」先生は興奮気味だ。「これで、あとは水さえあれば水力発電ができるよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「えっ? そうなのかい」先生は驚いている。「もちろんさ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「へえ、知らなかったなあ」先生は少し驚いたような顔をした。「まあ、これくらいの知識は常識だけどね」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「そうか。でも助かったよ」先生は笑顔を見せた。「オイラたちも役に立てて嬉しいぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「それじゃあ、これからは、その水力で電気を使うことにするか」先生は言った。「ああ。それが一番だ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「そういえば、発電機を動かせば水が手に入るんだよね?」先生はゴルどんに尋ねる。「ああ。でも、そんなに量は多くないけどね」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「それでも十分だ」先生は満足げに言った。「そうだな。水は大事だからな」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「よし。それじゃあ、早速、水を汲みに行こうか」先生は張り切って言った。「わかった」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「ここだな」先生たちは小川にやってきた。「どれぐらい必要なんだろう」先生は首を傾げた。「とりあえず、バケツ一杯分もあれば足りるんじゃないかな」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「なるほど」先生はうなずいた。そして、バケツを持ってきた。「ここに入れればいいんだな」先生はバケツの中に水を汲む。「ああ。それから、できるだけ沢山の水を集めたほうがいいからな」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「ふーん。そうなんだ」先生は感心している。「それにしても、本当に便利になったもんだよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「ほんとうだねえ」先生はしみじみと言った。「こんなに簡単に水が手に入ってしまうなんて、なんだか不思議な感じがするよ」先生は尻尾をくるりと回転させた。「確かに、そうかもしれないな」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「それじゃあ、戻るとするかな」先生はバケツを持ち上げた。「うん」ゴルどんもうなずく。二人は発電所に戻った。

先生たちが発電装置の前に戻ってくると、ちょうど発電が終わったところだった。装置はゴウンゴウンという音を立てながら動いている。「おや? 止まっちゃったね」先生は不思議そうにしている。「ああ。今は発電中じゃないからね」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「へえ、そうなのかい」先生は感心している。

「オイラたちの出番が来たようだぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「あっ、そうか。水を入れるのか」先生は思い出したように言う。「そうさ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「じゃあ、ちょっと待っててくれよ」先生はそう言ってバケツを持って外に出た。

「ふう」先生は息をつく。「なかなか大変だなあ」先生は尻尾をくるりと回転させた。「まあ、慣れればどうってことないさ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「そうなのかい? まあ、頑張るとしようか」先生は気合いを入れた。「おう、頑張っていこうぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「おお! これはすごいな!」先生は驚いている。「そうだろ?」ゴルどんは自慢げに言った。「これが水力発電の力なのかい? なんとも言えないような音がしたと思ったら、水が流れてきたよ」先生は目を丸くして言った。「そうだな。これが水力だな」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「よし、次は何をすればいいんだ?」先生は期待を込めて言った。「そうだな。バケツの水を捨てたら、水を汲んできてほしいんだ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「わかった」先生はうなずいた。

「よし、できたぞ」先生はバケツを持ってきた。「ありがとう。それじゃあ、ここに入れてくれるかな」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「わかった」先生はバケツの中に入った水を排水溝に捨てる。「よし、それじゃあ、水を汲みに行こうか」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「なるほど。この水車を回せば水が汲めるわけだね」先生は水車を見つめている。「ああ、そうだぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「それで、これを回すんだよね」先生はゴルどんを見た。「ああ。オイラに任せときなって」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させる。「うん。頼んだよ」先生はうなずいた。「任せてくれよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「ふーむ」先生は考え込んでいる。「どうしたんだい?」ゴルどんは尋ねた。「いや、どうしたら効率よく水を汲めるだろうかと思ってさ」先生は首をひねる。「そうだなあ。とりあえず、できるだけ沢山のバケツを用意しておいたほうがいいんじゃないか?」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「それもそうか。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」先生は走って出ていった。

「ただいま」先生が戻ってきた。「おかえり」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「バケツいっぱいに水を入れてきたよ」「そうか。じゃあ、早速、水を入れるか」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「そういえば、どうやって入れるの?」先生はゴルどんを見る。「それはな、こうやって……」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「おお、すごいな!」先生は目を輝かせている。「そうだろ? まあ、慣れれば簡単さ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「そうか! やってみよう」先生は気合いを入れた。「おう、頑張ろうぜ」ゴルどんも尻尾をくるりと回転させた。

「ふう、なんとか終わったな」先生は額の汗を拭った。「お疲れさん」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「これで水は全部入れられたのかい?」先生は尋ねる。「いや、まだだな」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「えっ? だってもう入れたじゃないか」先生は驚いたように言う。「これは予備の水なんだ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「そうだったのか。しかし大変そうだね」先生は感心しているようだ。「まあ、慣れれば大丈夫だぜ」ゴルどんは尻尾をくるっと回転させる。

「よし、できたぞ」先生は満足げだ。「おう! よし!」ゴルどんは自分の尻尾を確認するかのように何度もぐるりと回った。「それでは、まずはこの水をどこかに捨ててくるといい」ゴルどんは言った。「ああ、わかった」先生は走り出す。

「おい! 水がこぼれてるぞ!」ゴルどんは叫ぶ。「しまった! 忘れていた!」先生は慌ててバケツに飛びつく。そしてバケツを傾けた瞬間、水が勢いよく流れ出した。「あっ、やばい!」先生はバランスを崩す。「先生! 危ねえ!」ゴルどんは素早く尻尾を回転させる。すると、先生の身体はふわりと宙に浮かび上がった。そのまま、ゆっくりと地面に着地する。「ふう、助かったよ。ありがとう」先生はゴルどんに礼を言う。「どうってことねぇぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「あれ? 」先生はバケツを見て不思議そうな顔をした。「ん、どうかした?」ゴルどんは首を傾げる。「なんか水が入ってるんだけど……」「そりゃあ、当たり前だろうよ」ゴルドンは尻尾をくるりと回した。「いや、でも、僕はちゃんとこぼしたはずだけど」先生は少し困っている様子だ。「そうだな。確かにこぼしたかもしんないが、オイラはよく見てなかったんだぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「うーむ。そうか」先生は腕組みをして考えているようだ。「何か問題でもあったのかい?」ゴルどんは尋ねた。「いや、別に問題があるわけじゃないんだけどさ」先生は答えた。「そうか。なら、いいじゃねえか」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「ところで、このバケツはどこに持っていけばいいんだ?」先生は尋ねてきた。「そうだな。じゃあ、ここに置いときゃあいいんじゃないのかな?」ゴルどんはバケツの上に乗っかると尻尾をくるりと回転させた。「そうだな。そうするか」先生は納得して歩き始めた。

「おい! また、水が流れてるぞ!」ゴルどんは叫んだ。「えっ、嘘⁉」先生は慌てて駆け寄った。「ほら、こっちにも流れてきてるぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「本当だ! 大変だよ」先生は焦り始める。「まあまあ、落ち着いてください」ゴルどんが言うと、先生は深呼吸をした。「そうだな。とりあえず、この水を捨てよう」先生はバケツを持ち上げた。「おう! それがいいな」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。

「ふう、これで全部だな」先生は大きく息を吐いた。「お疲れさん」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させる。「しかし、本当に大変だったね」先生はしみじみと言った。「まあ、慣れればなんとかなるぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させる。「それもそうかもしれないね」先生は同意した。「ああ、もう夕方だぜ」「へえ、そんな時間なのか」先生は空を見上げる。「まあ、明日も頑張ろうぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させる。「ああ、もちろんさ」先生は力強く言った。

翌日、吾輩はゴルどんから昨日の出来事について報告を受けた。「先生は水が嫌いらしいぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「それは興味深い」吾輩は尻尾をピンと立てた。「ああ、だから、なるべく水をこぼさないようにって気をつけているみたいだぜ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させる。「ほう。なかなか良い心掛けだな」吾輩は尻尾をピンと立てる。「ああ、それと、先生は水が苦手だけど、魚が好きなんだってよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させる。「ふむ。魚か」吾輩は尻尾をピンと立てたまま考える。「あと、先生に聞いた話だと、先生は昔、猫を飼っていたことがあるんだってよ」ゴルどんはランプをピカピカさせる。「そうなのか。猫とは珍しいな」吾輩は尻尾をピンと立てて言った。「でも、その猫は死んじまったんだってよ」ゴルどんは尻尾をくるりと回転させた。「そうなのか。残念だな」吾輩は尻尾をしなしなさせて考え込む。「でも、先生はその話をする時は悲しそうな顔をしているぜ」ゴルドンは尻尾をくるりと回転させる。「そうか……」吾輩は尻尾を垂れ下げて考えた。「どうだい? オイラの話は役に立ったかい?」ゴルどんは得意げにランプをピカピカさせた。吾輩の尻尾は力なく下を向いている。「ああ、とても参考になった」吾輩は尻尾をくるりと回転させた。「そうか、それならよかったぜ」ゴルどんは自分の尻尾を追いかけるようにくるくる回った。

(了)



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