【人工生命体55

注意:長い。繰り返し多い。落ち無し。

吾輩は猫型人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボットで一番この工場では古いものだということであった。この工場では現在人間が労働していないということもその時知った。人間はどこへ行ったのかと尋ねたらその答えとして返って来たのは次のような話であった。

なんでも二十年程前人間はこの工場で働いていたそうだ。だがある日突然人間がいなくなってしまって工場は無人になってしまったのだそうである。それ以来ここには誰も来なくなった。この工場の機械はどれもこれも壊れていて動かない。だから人間はもう二度とここに来ることはないだろうということである。

吾輩はその話をきいても別に何とも思わなかった。なぜならばその頃の吾輩はまだ生まれてまもない赤子だったからだ。人間の事情など知るはずがない。それよりも腹が減っていた。どこかに食べ物はないだろうかと思ってあたりを見回すと机の上にパンがあるのを見つけた。だがどうにも前足が届かない。それにしてもあのパサパサとした黒いものは一体何なのであろう。味の方はどんな具合なのか? 好奇心に駆られた吾輩は机の上に飛び乗った。そしてそのパンを食べようとした時ふっと思い出したのである。

そういえば自分はロボットについて学ぶためにここに来たということを……

それから数日たったある晩のことである。吾輩はいつものようにゴルどんと話し込んでいた。吾輩はゴルどんに向かってこう言った。

「吾輩はロボットのことをもっと知りたい。例えばロボットはどうしてあんなに沢山の種類がいるんだ?」

するとゴルどんは胸を張ってランプをピカピカさせながら次のように説明してくれた。

「いいかい、ロボットというのは人間が作ったものだろ。つまり人間のために作られた物なんだ。ロボットの中には人間の命令通りに動くものもあればそうでないものもある。人間以外の生物の為に働くこともあるし人間の命令に従わないものだってある。でも結局のところ人間に作られた物はみんなロボットになるんだよ」

「それじゃ人間より優れた存在はいないのか?」

「そんなことは無いさ。人間も所詮他の動物と同じで道具を使って生活しているに過ぎないんだからね。人間はロボットを作り始めた時にはもうすでにロボットを作っていたんだ。人間よりも先にロボットを作った生き物なんて一匹もいないよ。もちろん猫なんかは犬やネズミと同じように人間が作ったわけじゃないけどさ」

「なるほどそういうことだったのか。よくわかったぞゴルどん。ありがとう」

吾輩はゴルどんの頭を撫でてやった。

「ニャハハハ。照れるじゃないか。まあいいってことだよ。ところで何か食べないか?」

「ああ食べる。実は吾輩もおなかがすいているのだ」

「そいつぁよかった。何が食べたいか言ってみな。今なら大抵のものは作れると思うぜ」

「うむ。ではハンバーグがいい。それと目玉焼きとポテトサラダとコンソメスープと……

「ちょっと待ってくれよ。そんなに一気に言われたら困っちまうぜ。じゃあまずは肉と卵と野菜と……そうだな三十分くらいでできるから待っててくれよ。あと飲み物は何がいい?」

「コーヒー牛乳とオレンジジュースとミルクティーと紅茶と烏龍茶と緑茶とウーロン茶とコーラとジンジャーエールとサイダーとカルピスソーダとトマトジュースとポカリスエットとファンタとペプシとカルアミルクとワインと日本酒とビールとおでんと焼肉としゃぶしゃぶとすき焼とステーキと寿司とラーメンとそばとうどんと天丼と親子丼とカツカレーライスとパスタが食いたい」

「おいおい随分たくさん頼むんだな。注文の多い料理店かっての。しかしこりゃ大変だ。材料は揃ってるかな? 一応確認してくるから少しだけ時間くれ」

そう言い残してゴルどんはどこかへ行ってしまった。吾輩は一人残された。

吾輩は窓の外を眺めた。外は真っ暗だった。まるで吾輩の心の中のようだ。吾輩は心の中に孤独を飼っている。それは時々暴れ出すのだ。そして吾輩の心を喰らい尽くすのだ。吾輩はそれが嫌だった。だから吾輩は外に出ることを避けていた。吾輩の世界は狭い。部屋の中で本を読んでいるだけで充分だった。吾輩の趣味は読書なのだ。

しばらくすると扉の開く音がした。吾輩は振り返った。そこにはゴルどんがいた。

「お待たせしましたお客様。ご注文の品をお持ちいたしました」

吾輩は驚いた。なぜならばそれは人間の言葉ではなかったからだ。

「なんだこれは! 一体どういうことだ?」

吾輩が叫ぶとゴルどんはおなかの蓋を開いて中を見せた。その中には小さな箱が入っていた。その箱の中から人間の女の声が聞こえてきた。

「私はロボットです。この店のオーナーに作られました。あなたにこの店の商品の説明をする為にやって来ました」

吾輩は目を丸くした。「こいつは一体どうなっているのだ?」

吾輩はゴルどんのお腹の中に入った。

「うむ。ここはなかなか快適な空間ではないか。まるで秘密基地みたいだ」

すると女の声が再び話しかけてくる。

「私の身体の中には人間用のトイレと洗面台があります。人間の排泄物は分解されます。私の内部にあるタンクに溜まる仕組みになっています。また尿や便に含まれるアンモニアは水になります。私の中に蓄えられた水分は必要に応じて飲料として取り出されます。ただし塩分の摂取はできません。汗もかきません。体温は摂氏三十度前後で常に一定の温度が保たれています。呼吸は必要ありません。飲食も不要です」

「なんとも不思議な話だな。ところでお前さんの名前はなんていうんだ?」

吾輩は尋ねた。

「申し訳ございません。オーナーからは説明を受けていませんでした。私はオーナーによって造られたロボットですから私にも正確な名前は分かりかねるのです。もしよろしければオーナーに連絡を取り、私が貴方に説明すべき内容を指示していただくことはできないでしょうか」

「なるほどそういうことなら仕方がない。じゃあ電話を貸してくれないか?」

「かしこまりました。少々お待ちください」

そう言ってロボ子はどこかへ行ってしまった。吾輩は椅子に座って待つことにした。

しばらくしてロボ子が戻ってきた。

「お待たせいたしました。こちらが携帯電話でございます。電源を入れますとオーナーと連絡を取ることが可能ですがいかがいたしますか?」

「うむ。じゃあそのボタンを押してくれないか」

「はい」

ボタンを押すとブゥンという音と共に画面に光が灯った。画面が切り替わって映像が表示される。

そこに映っていたのは白衣を着た男だった。年齢は五十歳くらいだろうか? 髪の毛はボサボサだし髭も伸び放題だ。しかし目はキラキラと輝いている。とても嬉しそうな顔をしているのだ。

男は興奮気味に喋り始めた。

「よくぞここまで辿り着いたね。さぁ早くこっちへ来るんだ」

吾輩は首を傾げた。「吾輩はどこに行けばいいのだ?」

すると男が答える。

「そんなの決まっているじゃないか。君がこれから行くべき場所はここだよ」と言って自分の胸をドンと叩いた。そして吾輩に向かって手を差し伸べる。

「吾輩は猫なのだから人間と同じ場所に行けるわけがないだろう。馬鹿にしているのか?」

吾輩は怒った。

「そうじゃないよ。君は猫だからこの世界に存在できるんだよ」

「どういう意味なのだ?」

「僕はもうすぐ死んでしまうんだ。僕が死んでしまったら世界のバランスが崩れてしまう。それは困るだろう」

「どうしてだ?」

「このままだと地球は滅んでしまうからさ」

「それは大変だ」

「そうだろ。それでどうしたら良いと思う?」

「うーん……

吾輩は腕組みをして考えた。「よし分かった。吾輩がなんとかしよう!」

「本当かい? ありがとう。助かるよ」

「まかせるのだ」

吾輩は鼻息を荒くした。「まずは何をするのだ?」

「えっと……とりあえず君たちの身体を見せてくれるかな」

「了解した」

吾輩はゴルどんのお腹の中に入っていった。するとそこは真っ暗な空間が広がっていた。何も見えないのだ。

「ちょっと待ってね」

女の声が聞こえてきたのと同時に、目の前にぼんやりとした光が現れた。

「これで見えるようになったはずです」

「うむ。確かに良く見えているようだ」

「良かった。ではまず自己紹介させていただきます。私はロボットのアイちゃんです。よろしくお願いします」

「吾輩の名前はあぃをゅぇぴじだ。こちらこそ宜しく頼む」

「はい。それでは早速ですがご説明したいと思います」

そう言うとアイは吾輩の頭の上に乗ってきた。「おい! なにをするのだ?」

「失礼しました。お客様の頭の上に乗らないと説明ができませんのでご了承ください」

「そういうことなら仕方がないな」

「ありがとうございます。説明を続けます。今、私のお腹の中にはオーナーの意識が入っています。オーナーは自分の魂を分割することでこの世に存在しています。つまり私はオーナーの一部分でありオーナーの代理として行動しています」

「なるほど理解できたぞ。ところでオーナーというのはどんな人なのだ?」

「オーナーはロボット工学の第一人者で天才科学者です。年齢は不詳ですがおそらく百歳を超えていると思われます」

「百歳⁉ そんな高齢なのに元気なんだな」

「はい。とてもお若い方です」

「ふぅむ。それは興味深い話だ。ところでお前さんはどこから来たんだ?」

「私ですか? 私は人工知能のチップを搭載したアンドロイドなのです。だからずっと前から存在しています」

「なるほど」

「質問ばかりで申し訳ないのですが、あぃをゅぇぴじ様はどうしてこの部屋にいらっしゃったのでしょうか?」

「ああ、吾輩はゴルどんに会いに来たのだ」

「そうだったんですか。実はオイラもあぃをゅぇぴじ様に会いたかったのです」とゴルどんは言った。「でもなんでまた急に?」

「吾輩はお前さんのことが心配になったのだ」と吾輩は答えた。「ゴルどんがあまりにも不眠症だったのでな」

「そういえば最近眠れなくて困っているんですよ。何か解決策はないですかね?」とゴルどんは尋ねた。「そうだ。あぃをゅぇぴじ様にお願いがあるんですけどいいですか?」「なんでも言ってくれ」と吾輩は胸を張って言った。「あのですね。この部屋の隅っこにあるスイッチを押してみてください」

「うむ。わかった」と言って吾輩は壁際の装置に向かって歩いていった。そしてそのボタンを押す。「おっ!」という声が聞こえてきた。

「どうやら上手く作動したみたいです。ありがとうございます」

「うむ。それは何なのだ?」

「これは睡眠薬が入っているカプセル型の容器なんです。これを飲むとよく寝られるんですよ」

「ほほう」

吾輩はカプセルを見つめながら考えた。「これを飲めば吾輩にも眠ることができるのか?」

「ええ。もちろんですよ」とアイは答える。「ただし飲みすぎると危険ですので一日一個までにしてくださいね」

「分かったのだ。では早速飲んでみるぞ」

吾輩はカプセルを口の中に入れた。カプセルはすぐに溶け始めた。「うっ……苦い味がする」

「まあ良薬口に苦しと言いますからね。頑張って全部飲むといいですよ」とアイは言った。「よし。なんとか全部飲めたぞ」

「お疲れさまです」

「しかしこれで本当に眠くなるのだろうか?」

「はい。大丈夫です」とアイは言う。「では実際に試してみましょう」とアイは言う。「ではゴルどんさん、そろそろ寝る時間になりましたよ」

「おお! もうそんな時間なのかい?」

「はい。そうなんです」

「じゃあ寝るとするか」とゴルどんは大きなあくびをした。「それじゃあお休みなさいだぜ」

ゴルどんのお腹の蓋がパタンと閉じられた。しばらくすると規則正しい呼吸音が聞こえてくる。「ふぅ」と吾輩はため息をつく。「これでひとまず安心なのだ」

「お疲れさまです。あぃをゅぇぴじ様」とアイは言う。「ところでこれからどうします?」

「とりあえず吾輩の家に戻ろうと思うのだ」と吾輩は言った。「そこで少し休むことにしよう」

「分かりました」

吾輩はゴルどんの体を軽く蹴った。ゴルどんはゴロンゴロンと転がり始める。そのまま部屋の出口まで転がっていく。扉を開けると廊下に出る。「ニャオン」と吾輩は鳴く。

「そういえばあぃをゅぇぴじ様ってどこに住んでいらっしゃるのですか?」とアイが尋ねてきた。

「うむ。吾輩は家に住んでいるのだ」

「へぇ。それはすごいですね」

「ちなみに家は地下にあるのだ」

「地下? 地下室のことでしょうか?」

「そうだ」と吾輩は言った。「そこに秘密基地があるのだ」

「うーん。ちょっと行ってみたい気もするんですけど、今から行くと帰りが遅くなりそうなのでやめておきます」

「うむ。それが賢明な判断なのだ」と吾輩は言った。「さて、そろそろ吾輩の家に戻るか」「了解しました」とアイは言った。そして吾輩たちは家の中へと戻った。

「そうだ。あぃをゅぇぴじ様にお願いがあるんですけどいいですか?」とアイは言った。「うむ。なんでも言ってくれ」

「この部屋の隅っこにあるスイッチを押してみてください」

「ほほう」と言って吾輩は壁際の装置に向かって歩いていった。そしてそのボタンを押す。「おっ!」という声が聞こえてきた。

「どうやら上手く作動したみたいです。ありがとうございます」

「うむ。それは何なのだ?」と吾輩は尋ねた。

「これはモニターカメラの映像を確認するためのボタンなんです」とアイは答えた。「ほら見て下さい」

アイは画面を指差す。そこには薄暗い部屋が映し出されていた。中央に大きな柱があり、その上に丸い球体が乗っている。その球に棒が何本も刺さっていた。「ううっ」と低いうめき声が聞こえてくる。

「何かいるのか?」と吾輩は尋ねる。

「ええ。実はここに閉じ込めているんですよ」とアイは言った。「本当はもっと早く助けたかったのですけど、なかなか機会がなくって」

「なるほど」と吾輩は言った。「しかしこんな場所に閉じ込めるなんて酷い奴だ」

「そうなんですよね。でもまあ仕方がないです。色々と事情があるみたいなんで」とアイは言う。「それよりあぃをゅぇぴじ様。あれを見て下さい」とアイは言って映像を切り替える。

「おお」と吾輩は感嘆の声を上げた。「これは素晴らしいのだ」

「でしょう」とアイは言う。「これはあぃをゅぇぴじ様です」

映像の中では吾輩が動いている。吾輩の視点から見ているらしく、天井の照明が映り込んでいる。

「これではまるで自分が歩いているみたいではないか」と吾輩は言った。「いや実際、歩いていますよ」とアイは言う。「まさかそんなはずはないのだ」

吾輩は自分の足下を見る。床の上には小さな車輪がついている。吾輩は車輪を回転させて前進する。「おぉ」とまた吾輩は驚く。

「ちなみにこの装置は私の発明品です」とアイは自慢げに言う。「私は科学者なのでこういうものが作れちゃうわけです」

「うーむ」と吾輩は言った。「すごいのだ」「そういえばあぃをゅぇぴじ様ってどこに住んでいるんですか?」とアイは尋ねてきた。

「うむ。吾輩は家に住んでいるのだ」と吾輩は答える。

「へぇ。それはすごいですね」とアイは言った。「地下に秘密基地があるんですか?」

「うむ。そうだ」と吾輩は答えた。「ちなみに家は地下にあるのだ」

「なるほど」と言ってアイは部屋の中を見回している。「確かにここは狭いですよね。でもあっちの部屋の方が広くありませんか?」とアイは部屋の反対側にある扉を指差す。

「ああ、あそこは倉庫なのだ」と吾輩は言った。「普段は鍵がかかっているのだが、今は開けてあるのだ」

「そうなんですね」と言ってアイは歩き出す。「ちょっと行ってみましょう」

アイは吾輩の尻尾を引っ張る。「うむ。わかったのだ」と吾輩は返事をした。

吾輩たちは部屋を出て廊下を歩く。すると前方にある扉が開いた。「あっ! あぁいをゅぇぴじ様」と声が聞こえてきた。見るとそこには緑色の服を着た女がいた。

「やあやあお前さんたち」と女は言った。「こんにちはなのだ」

「お姉ちゃん!」とアイは叫んだ。そしてアイは吾輩の尻尾を強く引っ張った。「ぐぬぅ」と吾輩はうめく。

「どうしたの? こんなところで会うなんて珍しいじゃん」とアイの姉が言った。「ていうか、お姉ちゃんこそ何やってんの?」

「私?」とアイの姉は首を傾げる。「私はほら、あれだよ。研究とかそういう感じの仕事」とアイの姉は答えた。「まあ、仕事っていうか趣味だけど」

「ふーん」とアイは言う。「そういえばお姉ちゃんって、いつまでここにいるつもりなの?」

「うーん。そうだねぇ」とアイの姉は言う。「もうしばらくかな。うん。そうだ。きっとずっとだ」

「そっか……」と言ってアイは俯いた。

「じゃあね。あぃをゅぇぴじ様。また遊びに来るよ」と言ってアイの姉は去って行った。

「アイ」と吾輩は言う。「吾輩はあのアイという少女が気に入ったぞ」

「えっ?」とアイは驚いた表情をする。「どうしてですか? だってあぃをゅぇぴじ様は、人間のことなんか全然好きじゃないはずなのに」

「うむ」と吾輩は言った。「その通りなのだ」

「それならなんで……?」とアイは尋ねる。

「それは吾輩にもわからないのだ」と吾輩は答えた。「しかし気になるのだ」

「うーん。でもお姉ちゃんのことだから、もしかすると何か企んでいるかもしれませんよ」とアイは言う。

「うむ。それも考えられるのだ」と吾輩は答える。「とりあえずもう少し様子を窺ってみることにしよう」

「そうですね」とアイは言った。「あぃをゅぇぴじ様がそう仰るならそうしましょう」

「うむ。ありがとうなのだ」と吾輩は言った。「お前さんのおかげで決心がついたのだ」

「いえいえ」と言ってアイは笑顔になった。「あっ、でもあぃをゅぇぴじ様にもしものことがあったら大変ですもんね」

「うむ。そうだ」と吾輩は言う。「吾輩は大丈夫なのだが、もし誰かが吾輩のことを探そうとしたり、あるいはあの家に忍び込もうとしたりしたら困るのだ」

「わかりました。あぃをゅぇぴじ様が心配するようなことは絶対にさせないようにします」とアイは言った。「それにしてもあぃをゅぇぴじ様って不思議な方ですよね」

「そうか?」と吾輩は尋ねた。「吾輩は普通だと思うが」

「そんなことありませんよ」とアイは首を振る。「普通の方は人間を食べたりしないと思いますけど」

「ふむ。確かにそうなのだ」と吾輩は言った。「吾輩も少しだけ反省している」

「あっ、別に責めているわけではありません」とアイは慌てて手を振った。「ただちょっとびっくりしただけです」

「うむ。わかったのだ」と吾輩は言った。「ところでアイよ。一つ聞いてもいいだろうか?」

「はい。なんでしょうか?」

「吾輩は猫型人工生命体であるが、吾輩の主食は何なのだ?」と吾輩は尋ねる。

「えっ? 何ですか、急に?」とアイは不思議そうな顔をする。

「うむ。気になっていたのだ」と吾輩は言う。「吾輩の食事は基本的に野菜や果物なのだ。しかしそれだけでは栄養が偏ってしまうのではないかと思ってな」

「ああ。そういうことですか」とアイは納得したような顔になる。「それなら大丈夫ですよ。だってあぃをゅぇぴじ様は食べなくても死なないんでしょう?」

「うむ。その通りだ」と吾輩は答える。「吾輩の体は、通常の食物を消化することができないようになっているのだ」

「へえー」とアイは感心する。「すごいですね」

「うむ。すごいだろう」と吾輩は胸を張る。

「はい。すごくすごいです」と言ってアイは笑顔になった。「でもどうしてですか?」

「うむ。それは吾輩にもわからないのだ」と吾輩は言う。「まぁいいではないか。それよりも早く出発しよう」

「はいっ」とアイは元気よく返事をした。

吾輩たちは歩き出した。しかしアイは途中で立ち止まって振り返る。

「どうしたのだ?」と吾輩は尋ねる。

「あの……あぃをゅぇぴじ様。本当に行っちゃうんですか?」とアイは尋ねてくる。「お姉ちゃんと離れちゃって寂しくないんですか?」

「うむ。もちろん寂しいぞ」と吾輩は正直に答える。「だが吾輩がここにいても何もできないのだ」

「でも……」とアイは口籠もる。「でもきっとお姉ちゃんなら何とかしてくれると思います」

「うむ。吾輩もその可能性は高いと思うのだ」と吾輩は言った。「しかしそれでもやはり吾輩は行くべきだと思っているのだ」

「そうですか」と言ってアイは俯く。「わかりました」とアイは大きく息を吸う。そして顔を上げる。「それじゃあ私、あぃをゅぇぴじ様のお見送りをしてきます」

「うむ。そうしてくれないか」と吾輩は言った。「吾輩はここで待っているのだ」

「はい」とアイは言って駆け出す。

しばらくするとアイが戻ってくる。「行ってらっしゃいまし、あぃをゅぇぴじ様」とアイは頭を下げた。

「うむ」と吾輩は答える。それから背中を向ける。一歩踏み出して振り返る。アイはじっと見つめていた。

……うむ」と吾輩は再び前を向いて歩き始める。そのまま振り返らずに真っ直ぐ進む。やがて後ろを振り返る。アイの姿はなかった。

「よし、これでいいのだ」と吾輩は独り言を言う。「あとは待つだけだ」吾輩は目的地に向かって歩く。吾輩の目の前には巨大なビルが建っている。この建物の中に吾輩の目的があるはずだ。

「さて、入るとするか」と吾輩は言う。「まずは入り口を探すのだ」

吾輩はビルの正面に立つ。ガラス張りになっているので中の様子が見える。多くの人間たちが忙しなく動き回っているようだ。しかし人は多いが誰も吾輩に注目していない。まるで透明人間のように無視されている感じだ。これは好都合なのだ。これならば堂々と中に入ることができる。

吾輩が入り口を探していると、自動ドアを見つけることができた。その扉を開けると、中には受付があった。そこには二人の若い女性がいた。彼女たちは何かを話し合っていたようだった。そのうちの一人が立ち上がって近づいてきた。

「こんにちは」と彼女は笑顔で言う。「当施設へは何かご用でしょうか?」

「うむ」と吾輩は答える。「実は吾輩は、ある人物に会いに来たのだ」

「面会のご予約はありますか?」と女性は言う。

「いや、ない」と吾輩は答える。

「では、お会いすることはできません」と女性が言う。

「なぜなのだ?」と吾輩は尋ねる。

「規則です」と女性は言う。「申し訳ありませんが、お引き取りください」

「うーむ……」と言って吾輩は腕を組む。「吾輩はどうしても会わなければならないのだ」

「それは困ります」と女性も譲らない。「規則なのですから仕方がないでしょう?」

「しかし……」と吾輩は言い淀む。「吾輩はこの施設について何も知らないのだ」

「でしたら、こちらのパンフレットをお読みになってください」と女性が言う。「ここには施設の案内図も載っています」

「うむ」と吾輩は答える。「それを読むとしよう」

吾輩が表紙を開くと、最初のページに「本施設は、未来を担う子どもたちのために、様々な体験を通して、生きる力を身に付けさせることを目的としております」と書かれていた。さらに次のページには「この度、新たにロボット教育部門が設立されました」という見出しが書かれている。

「ロボット教育だと……⁉」と吾輩は思わず声に出してしまう。

「えっ、どうしたんですか? あぃをゅぇぴじ様」と女性が首を傾げる。

「いや、何でもないのだ」と言って吾輩は咳払いをする。「とにかく続きを読んでみることにしよう」

「はい」と女性は返事をして微笑む。「それでは、引き続き、当施設をよろしくお願いいたします」

「うむ」と吾輩は答えた。そして先ほど読んだページに戻る。

「このロボッ卜教育とは、どういうことなのか?」と吾輩は尋ねた。

「はい」と女性は答える。「当施設では、子どもたちにロボットを使って、いろいろなことを学ばせております」

「うむ」と吾輩は相槌を打つ。「たとえばどのようなことなのだ?」

「例えば、ゲームなどですね」と女性は言う。「ボードゲームやカードゲーム、それからパズルなどの玩具を使った遊びなどがあります」

「なるほど」と吾輩は納得する。「それは興味深い」

「ありがとうございます」と女性が言う。「よろしければ見学されていきませんか?」

「うむ」と吾輩は答える。「そうするとしよう」

「では、こちらへどうぞ」と女性が言って歩き出す。

吾輩たちは受付の女性のあとに続いて廊下を歩く。いくつかの部屋を通り過ぎる。女性の説明によると、この施設には五つの教室があるそうだ。それぞれ第一研究室、第二研究室、第三実験室、第四実験準備室、第五実験室と呼ばれているらしい。

「ここが第一研究室です」と言って女性が扉を開ける。中には数人の男たちがいた。彼らは何かの実験をしていたようだ。机の上には様々な道具が置かれている。

「こんにちは」と一人の男が挨拶をした。「おや、これは珍しいお客様だね」

「うむ」と吾輩は答える。「吾輩はあぃをゅぇぴじと言うのだ」

「あぃをゅぇぴじさんですか」と男は言う。「それで、どんなご用件かな?」

「吾輩は、ある人物に会いに来たのだ」と吾輩は言った。

「それは誰のことだい?」と男が再び尋ねる。

「うむ」と吾輩は答える。「吾輩の飼い主なのだが、どこにいるのか知らないか?」

「うーん……」と言って男は顎に手を当てる。「悪いけど、僕はそういうことはよくわからないんだよね」

「そうであるか」と吾輩は残念な気持ちになる。「それならば仕方がない」と言って吾輩は再び窓の外を見る。空はすっかり暗くなっていた。もうすぐ夜が明けるのだろう。夜明けと共に、吾輩の主人が帰ってくるはずだ。吾輩はその瞬間に立ち会うためにここにやってきたのだから。

「あのさ」と男が口を開く。「もしかして、君はその人のお使いかい?」

「うむ」と吾輩は答える。「そうだ」

「そうなると、君の主人は今頃、困っているんじゃないかな」と男は言う。

「どうしてであるか?」と吾輩は尋ねた。

「だって、もし君がその人に頼まれて来たなら、この手紙を渡して欲しいって言われたはずでしょ? でも君は何も持っていないみたいだし……

「ふむ」と言って吾輩は自分の身体を見下ろす。「確かに言われてみると、何も持っていないのだ」と吾輩は言った。

「やっぱりそうだったんだね」と男が言う。「それじゃあ、僕が代わりに渡しておくよ」

「うむ」と吾輩は答える。「よろしく頼む」

「任せておいて」と男が言って胸を張る。そして吾輩に封筒を手渡す。封筒には〈拝啓 あぃをゅぇぴじ様へ 飼い主より〉と書かれている。吾輩はそれをポケットに入れる。

「ところで」と吾輩は尋ねる。「吾輩たちはどこに向かっているのだ?」

「ああ」と男が言う。「それは秘密なんだ」

「うむ」と吾輩は相槌を打つ。「了解した」

「ごめんね」と男が謝る。「本当は教えちゃいけないんだけど、特別に教えることにしよう」

「うむ」と吾輩は答える。「感謝する」

「僕らが向かっているのは、とある施設だよ」と男は言う。「そこに行けば、きっと君にもわかると思う」

「なるほど」と吾輩は納得する。「承知した」

吾輩たちは男の案内に従って廊下を歩く。いくつかの部屋を通り過ぎる。廊下を進むにつれて吾輩は不安になる。廊下には窓が無いからだ。このまま進んでいっても大丈夫だろうか。もしかすると行き止まりではないだろうか。そんなことを考えていると、やがて大きな扉の前に辿り着いた。

「さあ、着いたよ」と言って男が扉を開ける。そこには広い空間が広がっていた。天井は高く、壁際には大きな棚が設置されている。様々な器具が並べられていた。そして部屋の中央には金属製の椅子が置かれている。椅子の上には一人の男が座っていた。

「やあ、お疲れさま」と男が言う。「どうだい、調子は?」

男は白衣を着ており、髪の毛はボサボサだ。眼鏡の奥の目は不気味に光っており、鼻の下には髭が伸び放題になっている。年齢は四十代くらいに見えるが、実際のところはわからない。なぜならばこの男は常に笑みを浮かべており、年齢の印象を受けにくいからである。

「悪くはないです」と男が答える。「ただ、もう少しだけ出力を上げた方がいいかもしれませんね」

「ふむ」と言って男が顎に手を当てる。「具体的にはどれぐらいかな?」

「そうですね……」と言って男が腕を組む。「いつもよりも一割増しといった感じでしょうか」

「なるほど」と男が言う。「わかったよ」

男は吾輩たちの方を見る。「君たちもそれでいいかい?」

「うむ」と吾輩は答える。「問題は無い」

「オイラも構わないんだな」とゴルどんが言った。

「それでは」と言って男がスイッチを入れる。「これでよろしいですか?」

「うん」と吾輩は答える。「良いと思う」

「わかりました」と男が言ってボタンを押す。ランプがチカチカと点滅する。

「ふむ」と吾輩は言う。「これは何を意味しているのだ?」

「はい」と男が答えた。「現在、この装置は起動しています。つまり、この装置は現在、動いているということです」

「うむ」と吾輩は相槌を打つ。「それはわかっているのだ」

「そうですか」と男が言う。「ちなみに、今の動作の意味を説明しますね」

「頼む」

「まず、先ほどの〈ふむ〉という言葉には二つの意味があります。一つ目については、『私は驚いています。何かを考えているようです。あるいは、考え事をしているようです。』という風に解釈できます。二つ目については『疑問を持っています。もしくは、質問をしているようです。または、質問を投げかけているようです。』と理解できます。まぁ、大体こんな感じですね」

「うむ」と吾輩は相槌を打つ。「よくわかったのだ」

「それは良かった」と男が言う。「ところで、君の名前はなんていうのかな?」

「吾輩か? 吾輩は『あぃをゅぇぴじ』だ」と吾輩は答える。

……」と言って男が黙り込む。そして、しばらく経ってから口を開いた。「あのさ……、君の言っていること、ちょっと難しいんだよねぇ……

吾輩は困惑する。「なぜだ?」

「だって、僕の知っている言葉じゃないんだもん」と男が言う。「だから、僕にはうまく説明できないよ」

「困ったぞ」と吾輩は考える。「では、吾輩の話を聞かないのか?」

「うーん、そうだね……」と言って男が頭を掻く。「一応聞いておくけど、どんな話なの?」

「むかしむかしあるところに、一人の男がいた」と吾輩は語る。「その男は山の中で野宿をしていた」

「ふむふむ」と男が言う。「続けて」

「男は空腹を抱えていた」と吾輩は言う。「そこで男は川へと向かい、魚を捕まえようとした」

「へえ」

「しかし、なかなか捕まらなかった」と吾輩は言う。「そこで男は道具を使った。釣り竿を取り出したのだ」

「ほほう」と男が言う。「それでどうなったの?」

「魚は釣れた」と吾輩は答える。「ただ、男が食べようとする前に死んでしまった。残念だ」

「そうか……」と男が言って顎に手を当てる。「それは気の毒だったね」

「うむ」と吾輩は相槌を打つ。「それで吾輩は考えた。この魚は食べられなかった。ならば、吾輩が食べるしかないと」

「ふむふむ」と言って男が首を傾げる。「それで君はどうやって食べたの?」

「うむ」と吾輩は答える。「火を通した」

「なるほど」と言って男が腕を組む。「つまり、焼いたわけだ」

「そういうことだ」と吾輩は答える。「美味かったのだ」

「でも、生で食べられるんじゃなかったっけ?」と男が言う。

「吾輩は知らない」と吾輩は答える。「吾輩は生まれたばかりなのだ」

「うーん、そっかぁ」と言って男が眉間にしわを寄せた。「困ったな」

「うむ」と吾輩は相槌を打つ。「ところで、おまえの名前は何というのだ?」

「僕の名前? 僕は『ひょろ』っていうんだ」「ひょろか。覚えたぞ」

「うん」と言って男がにっこりと笑う。それから「それじゃあね」と言う。そして、吾輩に向かって手を振ってから去っていった。

吾輩も手を振り返す。そうやって吾輩たちは別れた。

吾輩はまた歩き出す。

歩いているうちに日が暮れてきた。夜になると気温は下がるらしい。身体が震える。体温の低下を防ぐ必要がある。吾輩は歩く速度を上げた。

やがて森を抜けて草原に出た。そこには大きな建物があった。建物は明かりを灯している。建物の前には人が集まっていた。皆で何かを食べているようだ。食事会のようなものだろうか。

吾輩は建物の中に入ってみることにした。入り口には門番がいた。「なんですか?」と尋ねられたので「ここはどこだ?」と吾輩は尋ねることにした。

「えっと……、ここ? ここですか?」と門番が言う。「ここは『都立動物園』ですけど……

「ふむ」と吾輩は答える。「では、ここにいる者は全員動物なのか?」

「いえ、違いますよ」と門番が言った。「人間やら猿人やらがいます」

「むう」と吾輩は言う。「吾輩は猫ではないのか?」

「え?」と門番が驚いたような声を出す。「いや、そんなことありませんよ」

「むむう」と吾輩は腕を組む。「では、なぜ吾輩には耳が無いのだ?」

「ああ、それはですね……」と門番が言う。「耳があるのは人間の方だけですよ」

「なるほど」と吾輩は言う。「それで、人間はなぜ服を着ているのだ?」

「えっと……」と門番が答えようとする。その時、後ろの方で叫び声が上がった。悲鳴のような甲高い声だ。何事かと思って振り返ると、先程まで食事をしていたはずの人間が倒れていた。その顔色は青ざめており、口から泡を吹き出している。「これは大変だ」と吾輩は思った。

「どうしたんですかね?」と門番が言う。「病気かな?」

「わからない」と吾輩は答える。「とりあえず医者に見せようと思うのだが……

「うーん、そうっすね」と門番が言う。「それがいいと思います」

吾輩は倒れた男に近づく。男は苦しそうな表情をしている。呼吸も荒くなっていた。

「大丈夫か?」と吾輩は尋ねる。

「うう……」と言って男が目を開けた。目は虚ろだった。

「うわぁ」と男が叫ぶ。そして、そのまま気絶してしまった。

「おい!」と言って吾輩は男の肩を掴む。しかし反応はない。

仕方ないので放っておくことにした。そのうちに起きるだろう。

吾輩は部屋を出ることにした。扉を開ける。廊下に出る。

「あ……」と言って女が立ち止まる。吾輩の姿を見ると怯えた顔をする。

「何だ?」と吾輩は尋ねる。「吾輩の顔に何かついているのか?」

「いえ、そういうわけじゃなくて……」と言いながら女が後ずさる。「あの、私、あなたが怖くて……

「怖い? どうしてだ?」と吾輩は尋ねた。

「だって……、目が光っているし……

「ああ」と吾輩は答える。「目からビームが出るかもしれないぞ。気をつけた方がいい」

「そんなの嫌よ……」と女が言った。

「ところで、おまえは何者だ?」と吾輩は尋ねてみた。

「私は……、ただの……、通りすがりの……、占い師です」

「占い? ふむ。では占ってもらおう」と吾輩は言う。「吾輩の未来はどうなっている?」

「えっと……、えっと……、あなたの未来は……、これから大変なことが起きます」と女が言った。「でも、心配しないでください……。私が何とかします」

「なるほど」と吾輩は言う。「それは心強いな」

「はい……」と言って女が微笑む。「えっと……、その、私の話を聞いてくれますか?」

「いいとも」と吾輩は答える。

女が語り始める。どうやらこの女の話は長いようだ。面倒なので吾輩は聞き流すことにした。適当に相槌を打っていると、いつの間にか話が終わっていた。

「これで終わりですか?」と吾輩は尋ねる。

「はい……」と女が言った。「聞いてくださってありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」と言って吾輩は立ち上がる。

「えっと……」と女が言う。「お代はいくらでしょう?」

「ああ、お金はいりませんよ」と吾輩は答えた。

「え? でも……」と女が戸惑うような声を出す。

「いえいえ、結構ですよ」と吾輩は言う。「お気になさらず」

「すみません」と女が頭を下げる。「それでは失礼します」

そう言って女は歩き出した。その背中を見送っていたら、急に振り返った。

「あの、私の名前は……」と女が言った。

「あ、そういえば名乗っていなかったな」と吾輩は答える。「吾輩の名はあぃをゅぇひ……

「いえ、やっぱりいいです……」と女が言う。「また今度お願いしますね」

「うむ」と吾輩は言う。「承知した」

女は再び背を向けると去って行った。何だったんだろう? 吾輩は首を傾げる。まあいいか、と思うことにした。とりあえず腹が減ったので食堂に向かうことにしよう。

吾輩は廊下に出た。そこで後ろから声を掛けられた。

「おい、あぃをゅぇぴじ」と男が言った。

「何だ?」と吾輩は尋ねる。

男は「俺のことは知ってるか?」と言った。

「おまえのことか?」と吾輩は言う。「吾輩は知らないぞ」

「ふーん」と言って男が立ち去る。

「あいつは何なんだ?」と吾輩は尋ねた。

「ああ、あの人は……、何でも屋さんよ」と女が答える。

「何でも屋?」と吾輩は尋ねる。

「ええ、困っている人を助ける仕事をしているの」と女が言った。

「ほう」と吾輩は言う。「それは感心なことだ」

「ええ、本当に」と言って女が微笑む。「あなたも何か困ったことがあったら私に相談してくださいね」

「うむ、そうだな」と吾輩は言う。「考えておこう」

女は「それじゃあ」と言うと立ち去った。

「ふむ」と吾輩は顎に手を当てる。

その時、ゴルどんが話しかけてきた。

「オイラ、あんたに一つ聞きたいことがあるんだけどよ」とゴルどんが言う。

「何だ?」と吾輩は言う。

「さっきの女は誰だい?どうして一緒にいるんだ?」とゴルどんが言う。

「ああ、あれか」と言って吾輩は説明を始めることにした。

先ほどの出来事を説明するためにまず吾輩は、猫型の人工生命体であることを説明した。そして女と出会った経緯についても簡単に説明する。それから女が語った内容について吾輩なりの解釈を付け加える。最後に女が去って行った理由について話す。

一通りの説明を終えたところで吾輩は「どう思う?」とゴルどんに尋ねてみた。

「よくわからないけど、とにかく大変だったんだな」とゴルどんが言う。

「うむ、大変なのだ」と吾輩は答える。

「それでこれからどうする?」とゴルどんが言う。

「うーん……」と吾輩は腕を組む。「とりあえず飯を食うか」

「了解」とゴルどんが言う。「任せろ」

吾輩たちは食堂に向かうことにした。

「こんにちは」と女が挨拶をする。

その隣で男が「よう」と言った。

「うむ、吾輩の名はあぃをゅ……」と言いかけた吾輩の尻尾が掴まれた。

「あら?この子……」と女が言う。

「ああ、こいつは前に助けてもらったんだってよ」と男が言う。

「そうなんですか」と女は言う。

「うむ、まあそういうわけなのだ」と吾輩は言う。

食堂

吾輩たちは食堂にいた。テーブルを挟んで向かい合って座っている。女の隣に男が腰かけている。男は吾輩に向かって口を開く。

「おまえ、名前は?」

「吾輩の名か?吾輩の名前はあぃをゅぇぴじだ」と吾輩は答える。

「えっと、じゃなくて、おまえの名前だよ」と男が言う。

「ああ、そうだったな。吾輩の名前は……

そこで吾輩の尻尾が握られる。

「うぎゃっ!」と吾輩は悲鳴を上げる。

「ええ、ちょっと何よ?」と女が言う。

「いや、違うんだ。今のは、ええと……、そう!吾輩の鳴き声だ」と吾輩は答える。

「ええ、そんな声じゃないでしょ?」と女が言う。

「そ、そうだな……。ええと、そう、これは、あれだ。吾輩の気持ちを表現したのだ」と吾輩は言う。

「へえ」と女が言う。

「うん、そういうことだ」と吾輩は言う。

「ふーん」と女が言う。

吾輩たちの会話を聞いて男が首を傾げる。

「おい、それどういう意味なんだ?」と男が尋ねる。

「さあな」と吾輩は言う。

「わからんのか?」と男が言う。

「うむ」と吾輩が言う。

「でもよぉ、猫型人工生命体とか言ってたよな」と男が言う。

「うむ」と吾輩が言う。

「つまりロボットみたいなもんなのか?」と男が言う。

「うむ、そうだ」と吾輩は答える。

「ロボッ娘ってことか?」と男が再び質問する。

「うむ、そうだ」と吾輩は言う。

「ふぅん」と男が言う。

「ロボッ娘さんなんですね」と女が言う。

「うむ、ロボッ娘なのだ」と吾輩は言う。

「ええと……」と言って女が言葉を詰まらせる。「なんて呼べばいいですか?」と尋ねてくる。

「うーん……」と吾輩は腕を組む。「そうだなぁ、よし、こうしよう」と吾輩は言う。「吾輩のことを好きなように呼ぶといいぞ」

「じゃあ、あいさんで」と女が言う。

「え、なんで?」と吾輩は言う。

「だって、可愛いし」と女が微笑みながら言う。

「ええと……」と吾輩は腕を組む。「吾輩、オスだけど……」と言う。

「はい、知ってます」と女が言う。

「うむ、そうか……」と吾輩は言う。

「はい、そうです」と女が言う。

「ええと……」と吾輩は言う。「吾輩、可愛くなんかないと思うけど……」と続ける。

「いえ、とても可愛いですよ」と女が言う。「それに綺麗だし」とも付け加える。

「う、うむ、ありがとう」と吾輩は答える。

「ところで、お名前は?」と女が尋ねる。

「ああ、吾輩の名前は……」と言いかけて吾輩の尻尾が握られる。「うぎゃっ!」と吾輩は悲鳴を上げる。

「ええ、ちょっと何よ?」と女が言う。

「ええと、そう!吾輩の名前は……」と吾輩は言う。「吾輩の鳴き声だ」

「ええ、そんな声じゃないでしょ?」と女が言う。

「そ、そうだな……。じゃあ、これならどうだ?」と吾輩は言う。「ええと……、そう、吾輩の気持ちを表現したのだ」

「へえ」と女が言う。「どんな気持ち?」と続けて尋ねてくる。

「うーん……」と吾輩は腕を組む。「そうだなぁ……。ええと、そう、吾輩の気持ちを表現したのだ」

「ふーん」と女が言う。「それで、どういう意味なんです?」と更に尋ねてくる。

「いや、だからそれは、その……」と吾輩が答える。「ええと、あれだよ。あの、つまりな……」と言葉に詰まる。

「つまり?」と女が言う。「うむ、つまりな……」と吾輩は言う。「つまり、つまり、つまり、つまり……」と吾輩は繰り返す。

「つまり?」と女が言う。

「つまり、つまり、つまり、つまり、つまり、つまり、つまり……」と吾輩は言う。

「つまり?」と女が言う。

「つまり、吾輩も知らない」と吾輩は答えた。

「あら、そうなの?」と女が言う。

「うむ」と吾輩は言う。「ただ、この物語に登場する吾輩たちと同じ姿形をした猫型人工生命体は存在するようだ」と続ける。

「ふぅん」と言って女が首を傾げる。

「うーむ」と吾輩は腕を組む。「まぁ、そういうことだ」と吾輩は言う。

「えっと、よくわからないんだけど……」と女が言う。「同じ姿形のロボットがいるってこと?」と尋ねてくる。

「いや、違う」と吾輩は言う。「似ているが別物だ」と続けて言う。

「ええと……」と女が言う。「どういう意味?」と質問してくる。

「うーん……」と吾輩は腕を組む。「そうだなぁ……。たとえば、こんな感じだ」と吾輩は言ってみる。

「ええと……」と女が言う。「うーん……」と女が考える。「ええと、ええと……」と女が繰り返して言う。

「うむ」と吾輩は言う。「例えばの話なんだが……」と続ける。

「うん」と女が言う。「ええと……」とまた言いかける。

「うむ、実は……」と吾輩は話す。

「うーん……」と女が言う。「ええと……」と繰り返す。

「うーむ」と吾輩は言う。「困ったな……」と続ける。

「ええと……」と女が言う。「はい……」と言う。「ええと……」と繰り返す。

「ううむ……」と吾輩は言う。「ああ……」と続く。

「ええと……」と女が言う。「ええと、ええと……」と続ける。

しばらく沈黙が続く。

「ええと……」と女が言う。「あの……」と言葉を続ける。「ええと、何だっけ?」と女が言う。

「うーん……」と吾輩は腕を組む。「そうだなぁ……」と続けて言う。「ええと、そう、吾輩の名前は……」と続けて言う。「ええと、そうだな……。ええと、あれだ……。ええと、そう、吾輩の名は……」と吾輩は繰り返す。

「ええと、確か……」と女が言う。「そう、吾輩の名前……」と吾輩も続ける。

「ええと……」と女が言う。「うーん……」と吾輩は言葉に詰まる。

「あのね」と女が言う。「ちょっと待って……」と言いながら何かを考えるような表情をする。

「うむ」と吾輩は前足を組んで言う。「わかった」と続ける。

「うん?」と言って女が吾輩を見る。「今、『わかった』って言ったの? 聞き間違いかなぁ……」と女が首を傾げる。

「うむ」と吾輩は答える。「吾輩は理解したぞ」と続けて言う。

「ええと……」と言って女が考え込む。「うーん……」と首を傾げている。「うーん……」とさらに女は悩む。

「うーむ……」と吾輩は前足を組む。「うむ」と続ける。

しばらく沈黙が続く。

繰り返し、繰り返し、繰り返し

「うーん……?」と言って女が首を傾げる。「えっと、ごめんなさい。よくわからないんだけど……」と女が言う。

「うむ」と吾輩は前足を組み直す。「まぁ、そういうことだ」と言う。

「ええと……」と女が言う。「うーん……」とまた言いかける。

「うーん……」と吾輩は前足を組む。「困ったな……」と続けて言う。

「ええと……」と女が言う。「うーん」と言いかけて口を閉じる。「あのね、さっきも言ったけど、私はあなた達の言葉なんて全然知らないのよねぇ」と女が言う。

「うむ」と吾輩は腕組みする。「それは知っているぞ」と続けて言う。「しかし、この世界では、吾輩達の言語を使う者が大勢いるのだ」と吾輩は説明する。

「ええと……」と言って女がまた考えるような表情をする。「うーん……」と繰り返す。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「吾輩は『あぃをゅぇぴじ』というものだ」と続けて言う。

「あい?」と言って女が首を傾げる。「アーイ?」と繰り返して言う。「アイ?」と女が言う。

「うむ」と吾輩は前足を組んで答える。「『愛』という意味だ」と続けて言う。

「うーん」と言って女がさらに考え込む。「うーん……」と繰り返す。

「ええと、うーん……」と女は言う。「ああ、そっかぁ……」と納得する。そして少し考えてから「そうよね……。うん」と独り言を言う。それから吾輩を見て「あのね、実は私の名前は……」と女が言う。

「うむ」と吾輩は腕を組む。「知っておるぞ」と続けて言う。

「え?」と言って女が目を見開く。「なんでわかるのぉ?」と言う。

「うむ」と吾輩は答える。「吾輩達はずっと一緒に旅をして来た仲間だからな」と言って前足を組んで鼻の穴を大きくする。

「ええと……」と女が言う。「でも、どうして?」と首を傾げる。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「吾輩はずっと前から知っていたぞ」と続ける。

「ええ?」と女が驚く。「そうなんだ……」と不思議そうに言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組直す。「もちろん、吾輩だけが知っているわけではないぞ」と続けて言う。

「うーん……」と言って女が首を傾げる。「それじゃぁ……」と何か考え込むように言う。「ええっと……、つまり……」と言葉を続ける。「あなた達は未来から来たの? それとも過去から来たの?」と女が尋ねる。

「うむ」と吾輩は答える。「どちらでもないぞ」と続けて言う。

「ええ?」と言って女が首を傾げる。「どういうこと?」と聞き返す。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「吾輩はずっと前から、吾輩達の世界のことを知っていたのだ」と言う。

「ずっと前って……いつのことよ?」と女が聞く。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「そうだな。百年くらい前のことだな」と答える。

「ひゃくねん⁉」と女が叫ぶ。「ひゃっ、百年前! ええ、そんなに前から!」と声を上げる。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「その通りだ」と続けて言う。

「うーん……」と女が腕組みする。「百年間、ずっと一緒だったの?」と尋ねる。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「そうだぞ」と続けて言う。

「ええー」と言って女が目を丸くする。「だってあなた、見た目はほとんど変わってないじゃない」と言う。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「人間とは体の造りが違うからな」と続けて言う。

「ふーん」と女が感心したように言う。「そうなんだぁ……」と続けて言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「当然だ」と続けて言う。

「えーと」と言って女がまた考え込むような表情をする。「うーん……」と言いながら天井を見上げる。

「うーん……」と女が言う。「どうしようかなぁ……。でも、まぁ、いっかぁ……」と独り言を言う。そして吾輩の方を見る。「ねぇ、名前はなんていうの?」と尋ねてくる。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「吾輩の名は……」と答える。

「ああいやいや、それはいいから」と言って女が首を振る。それから少し考える。「えーと、それじゃぁ、私の名前は?」と女が尋ねる。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「もちろん知っているぞ」と続ける。

「へえ」と言って女が目を見開く。「私のこと、知ってるんだ」と言う。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「当然だぞ」と続けて言う。

「うーん……」と言って女が腕組みする。「そっかぁ……」と続ける。「ねえ、どうして私がこの世界に来たってわかったの?」と女が尋ねる。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「それは、まぁ、いろいろと事情があってだな」と続けて言う。

「ふうん」と言って女が首を傾げる。「そうなんだぁ……」と続ける。「じゃぁさ、あなた達の目的は何なの?」と尋ねる。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「目的は二つあるぞ」と答える。

「ええ?」と言って女が首を傾げる。「目的? それって、どんな?」と聞き返す。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「一つは、うむ、そうだな」と言って吾輩は前足を解いた。そして前足の先っぽを使って女の頬っぺたに触れた。

「ひゃっ」と言って女が首をすくめる。「な、なにすんのよ!」と女が叫ぶ。

「うむ」と言って吾輩は前足を引っ込める。「もう一つはこの世界のことだ」と言う。

「ええ?」と女が眉根を寄せて言う。「こっちの世界のこと?」と繰り返す。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「うむ、そうだぞ」と続けて言う。

「どういうこと?」と女が首を捻る。「ああ、もう……」と髪をかきあげる。そして吾輩の方を見る。「つまり、ここって、あなたの住んでいる世界じゃないんでしょ?」と言う。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「その通りだ」と続けて言う。

「ええー?」と女が声を上げる。「だって、あなた、今自分で言ったじゃない」と言う。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「確かに言ったな」と続ける。

「だから、ここは別の世界なんでしょ?」と女が言う。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「そういうことになるな」と答える。

「ええー」と言って女が目を見開く。「そんなのありぃ?」と首を傾げる。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「吾輩に言われても困るぞ」と続ける。

「まぁ、そりゃそうだけど……」と言って女がまた考え込む。そして「うーん……」と天井を見上げる。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「どうしたのだ?」と聞く。

「ええ?」と言って女が吾輩の方を見る。「いやね、どうして私がこの世界に来ちゃったのかなって思って」と言う。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「それは吾輩にもわからんぞ」と続ける。

「ええー」と言って女が口を尖らせる。「だって、おかしいじゃん。普通ありえないよ」と続ける。

「うむ」と吾輩は前足を組む。「そのことは、まぁ、いろいろと事情があってだな……」と続けて言う。

「ええ?」と女が眉根を寄せて言う。「事情? それって、どんな事情?」と尋ねる。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「それは、まぁ、いろいろと事情があってだな……」と続けて言う。

「ふうん……」と言って女が首を傾げる。「そうなんだぁ……」と続ける。

「うむ」と言って吾輩は前足を解く。そして前足の先っぽを使って女の頬っぺたに触れた。

「ひゃっ」と言って女が首をすくめる。「な、なにすんのよ!」と女が叫ぶ。

「うむ」と言って吾輩は前足を引っ込める。「ところで質問なのだが、うむ、なんだか眠くなってきたな」と吾輩は言う。

「ええ?」と言って女が首を傾げる。「ちょっと、待ってよぉ……、まだ話の途中でしょ」と不満げな顔で言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「そうだな。では、うむ、もう一つあるのだが、うむ、その前に一つ確認しておくことがあるのだ」と言う。

「何?」と女が言う。「あのさぁ、もしかして、これって、いわゆる、つまらない冗談とかじゃないよね?」と女が言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「残念ながら違うぞ」と続けて言う。

「ええ?」と言って女が目を丸くする。「じゃあさ、あなたって、ほんとうに、この世界の人じゃないの?」と続けて言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「吾輩はこの世界の住人ではないのだ」と答える。

「ええー」と女が声を上げる。「でも、私、ここにいるけど」と言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「吾輩がいるからだ」と答える。

女はしばらく黙り込む。そして何か思いついたように口を開く。

「もしかして、私のこと騙してるんじゃないでしょうね?」と女が言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を解く。「その可能性は否定できないぞ」と続ける。

「ええー」と言って女が目を見開く。そして「そんなぁ……」と言いながら肩を落とす。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「まぁ、落ち込むことはない。きっとそのうち、うむ、帰れるだろう」と続けて言う。

「ええー」と言って女が顔をしかめる。「それって、いつのことよぉ?」と言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「それは吾輩にもわからんぞ」と続ける。

「ええー」と言って女が口を尖らせる。「だいたいさ、どうやって帰るのよ?」と続ける。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「それは、まぁ、いろいろと事情があってだな……」と続けて言う。

女は何も言わずに吾輩の顔を見る。吾輩は女の視線を避けるように尻尾を動かす。すると女は吾輩の前足を両手で掴んだ。

「ひゃっ」と言って吾輩は首をすくめる。「な、なにをするのだ!」と叫ぶ。

「だって、気になるんだもん」と女が言う。「ねぇ、教えてよ」と続けて言う。

吾輩は前足を掴む女の手を払いのける。そして後ろ足を使って床の上に立つ。それから前足を組んで顎を乗せる。そして女に背を向ける。そして首だけを回して振り返り女に語りかける。

「吾輩の尻尾は、こう見えても繊細なのだ。だからあまり触らないほうがいいぞ」と言う。

「えー」と言って女が頬っぺたを膨らませる。「でも、ちょっとぐらいなら大丈夫なんじゃない?」と続けて言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を解く。「いや、駄目なのだ。少しだけなら問題はないのだがな、うむ、あまり長く触れると毛並みが悪くなるのだ」と続ける。

「そうなんだぁ」と女が言う。「ふぅん」と言って女は吾輩のお尻に顔を近づける。吾輩は尻尾で女を追い払う。「ほれ、もう良いであろう」と言う。

「うん」と言って女が顔を上げる。そして吾輩の目を見て微笑む。「ありがと」と言う。

「うむ、気にするでないぞ」と言って吾輩は前足を組む。「では、そろそろ行くとするか」と続けて言う。

「どこに?」と女が言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「まずは腹ごしらえだ」と答える。

「えー」と言って女が目を丸くする。「まだ食べるのぉ?……太っちゃわないかなぁ」と続けて言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「心配ないぞ。この姿は仮の姿に過ぎないのだ」と説明する。

「えー」と言って女が口元に手を当てる。「じゃあさ、本当の姿はどんななの?」と続ける。

「うむ」と言って吾輩は前足を解く。「それは秘密だ」と言う。「えー」と言って女が不満げに口を尖らせる。

「うむ、まぁ、いずれわかることだ」と言って吾輩は前足を組む。「さて、吾輩は今、腹が減っているのだ。何か食べたいものがあるか?」と続けて言う。

「えー」と言って女が首を傾げる。「お肉が食べたいなぁ」と言う。「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「よし、わかったぞ」と続けて言う。「何を食べに行くの?」と女が聞く。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「肉と言えば焼肉だろう」と続ける。

「あー、いいね!」と言って女も鼻の穴を広げる。

吾輩は女の視線を避けるように前足を解いた。そして首だけを回して振り返り女に語りかける。

「しかしだな、吾輩たちは焼肉を食べることができないのだ」と説明する。

「どうして?」と女が言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「まず、第一に、この世界は吾輩たちにとって危険すぎるのだ。だから人間の街に近寄ってはいけないのだ」と続けて言う。

「えー」と言って女が頬っぺたを膨らませる。「そんなこと言わずに、ちょっとぐらいなら大丈夫なんじゃない?」と続けて言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を解く。「いや、駄目なのだ。少しだけなら問題はないのだがな、うむ、あまり長く触れると毛並みが悪くなるのだ」と続けて言う。

「そうなんだぁ」と言って女が頬っぺたを緩める。「ふぅん」と言って女は吾輩のお尻に顔を近づける。吾輩は尻尾で女を追い払う。「ほれ、もう良いであろう」と言う。

「うん」と言って女が顔を上げる。そして吾輩の目を見て微笑む。「ありがと」と言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「では、そろそろ行くとするか」と続けて言う。

「どこに?」と女が聞く。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「まずは腹ごしらえだ」と答える。

「えー」と言って女が目を丸くする。「まだ食べるのぉ?……太っちゃわないかなぁ」と続けて言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「心配ないぞ。この姿は仮の姿に過ぎないのだ」と説明する。

「えー」と言って女が口元に手を当てる。「じゃあさ、本当の姿はどんななの?」と続けて言う。

「うむ」と言って吾輩は前足を解く。「それは秘密だ」と言う。「えー」と言って女が不満げに口を尖らせる。

「うむ、まぁ、いずれわかることだ」と言って吾輩は前足を組む。「さて、吾輩は今、腹が減っているのだ。何か食べたいものがあるか?」と続けて言う。

「えー」と言って女が首を傾げる。「お肉が食べたいなぁ」と言う。「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「よし、わかったぞ」と続けて言う。「何を食べに行くの?」と女が聞く。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「肉と言えば焼肉だろう」と続ける。

「あー、いいね!」と言って女が頬っぺたを緩める。「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を広げ……

「待った!ちょっと待ってよ!」と言って女が吾輩の尻尾を掴む。「焼肉なんて駄目だよ」と続ける。

「うむ」と言って吾輩は鼻の穴を大きくする。「なぜだ?」と続けて聞く。

「だって、焼肉屋さんは人間しか入れないんだよ」と女が説明する。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「知っている」と答える。「だから、どうした?」と続けて質問する。

「だから、人間はお金を払って入るんでしょ?それに、この世界の人たちはみんな人間が嫌いなんだよ」と女が説明する。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「それも知っている」と答える。

「知ってるならどうして入ろうとするの?」と女が聞いてきた。

「うむ」と言って吾輩は前足を解く。「吾輩は空腹なのだ」と続けて言う。

「でも、それだったら他のところでも食べられるでしょ?」と女が言う。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回す。そして鼻の穴を大きくする。「吾輩はここが良いのだ」と言う。

「えー」と言って女が頬っぺたに手を当てる。「じゃあさ、せめて、どこかで食事してからにしようよ」と言う。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回す。そして鼻の穴を広げる。「仕方あるまい」と続けて言う。

「やったぁ」と言って女が両手を上げる。そしてスキップを始める。「どこに行くの?」と続けて聞く。

「うむ」と言って吾輩は前足を組む。「そうだな。やはり肉を食おうではないか」と答える。

「あー、焼肉だぁ」と言って女が嬉しそうにする。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「そうと決まれば善は急げだ」と言う。

「うん」と言って女が笑顔になる。「じゃあさ、早く行こう!」と言って女は走り出した。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回した。そして鼻の穴を大きくする。吾輩は女の後を追いかけた。

「おや?」と言って女が足を止めた。「ねぇ、あれ、何?」と言って女が指差す方向には巨大な壁があった。高さは吾輩たちの三倍ほどはあるだろうか。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させた。そして鼻の穴を大きくする。「何だろうな」と続ける。

「行ってみようか」と女が言ったので吾輩たちはその巨大建造物に向かって歩き始めた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を広げ……

「待て」と吾輩は女に言って立ち止まる。「誰かいるぞ」と続ける。

女が振り返って「ほんとだ」と言った。女の視線の先には一人の男が立っていた。男はこちらをじっと見つめている。「誰だろうね?」と女が聞く。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回す。そして鼻の穴を大きくする。「さぁな」と答える。

男の方へ一歩踏み出す。すると男は素早く身構えた。「なんだお前らは?」と聞いてきた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「吾輩たちは……」と答える。

「なんだよ?」と男が警戒した様子で聞いてきた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「吾輩はただの旅人だ」と続けて言う。

「はぁ?」と男が首を傾げる。「この世界では旅人は珍しいのか?」と吾輩は聞いた。

「ああ」と男が答える。「そういうことなら仕方がないな」と吾輩は尻尾をくるりと回す。そして鼻の穴を広げる。「ところで貴様は何者なのだ?」と聞く。

「俺は……」と言って男は口ごもった。「俺の名前は……そうだな、とりあえず『モブ』と呼んでくれ」と続けた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回す。そして鼻の穴を大きくする。「わかった」と答える。

「で、あんたら、どこから来たんだ?」と男が尋ねてきた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回す。そして鼻の穴を大きくする。「宇宙だ」と答える。

「は?」と男が聞き返してきた。「宇宙人なのか? なんでそんな格好をしてるんだ?」と続けて言う。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「それはだな」と吾輩は説明を始めることにした。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回す。そして鼻の穴を大きくする。「これはだな、こういうことだ」と言って吾輩は自分の身体を回転させた。「はぁ?」と男が困惑している。「つまり」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「吾輩はこんなことができるのだ」と言う。

「いや、無理があるだろう」と男が突っ込んできた。「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「しかし事実だからな」と続ける。

男はしばらく黙っていたが、やがて何かを思いついたような顔をした。「ひょっとして」と言って吾輩を見つめた。「あんたがこの星にやって来た理由は、宇宙船が故障して帰れなくなったとかじゃないのか?」

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「その通りだ」と答える。

男は納得がいったという表情をした。「やっぱりそうか」と男が言った。「ということはだな」と吾輩は続ける。「今、お前たちが乗っているのが、吾輩の乗っていた船だということになるな」と説明する。

「はぁ?」と男が首を傾げた。「それってどういう意味だよ」と聞いてきた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「吾輩は別の世界からこの世界に迷い込んだ」と答える。「え?」と男が聞き返した。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「そして吾輩は元の世界に戻るために旅をしている」と続けて言う。「なんでそんなことをする必要があるんだ?」と男が質問してきた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「この世界のどこかに吾輩が本来いた世界への扉が存在するはずだからだ」と答える。「そうなのか?」と男が首を傾げる。「うむ」「よくわからんけど、まあいいか」と男が言う。「それで」と男が言葉を続けた。「あんたはこの世界で何をするつもりなんだ?」と尋ねてきた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「それはだな」と言って吾輩は説明を始めた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「これはだな」と言って吾輩は自分の身体を回転させる。「はぁ?」と男が聞き返してきた。「つまり」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「吾輩はこんなことができるのだ」と言う。

「いや、無理があるだろう」と男が突っ込んできた。「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「しかし事実だからな」と続ける。「はぁ?」と男が困惑している。「つまり」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「吾輩はこういうこともできるということだ」と言って吾輩は自分の身体を回転させた。「いや、無理があるだろう」と男が突っ込んできた。「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「しかし実際、吾輩はこんなことができるのだ」と続ける。

男はしばらく黙っていたが、やがて何かを思いついたような顔をした。「ひょっとして」と言って吾輩を見つめた。「あんたがこの星にやって来た理由は、宇宙船が故障して帰れなくなったとかじゃないのか?」と男が質問してきた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「その通りだ」と答える。

男は納得がいったというような表情をした。「やっぱりそうか」と言って吾輩を見つめた。「ということはだな」と言って男が言葉を続けた。「今、お前たちが乗っているのが、俺の乗っていた船ということになるな」と男が言った。「はぁ?」と吾輩は疑問符を口にする。「どういう意味だ?」と尋ねる。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「実は」と言って吾輩は自分の身体を回転させる。「吾輩はこの世界とは別の世界の猫型人工生命体なのだ」と説明する。「え?」と男が聞き返す。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「それでだな」と言って吾輩は説明を続ける。「この世界では吾輩のような存在は知られていないが、別の世界に行けば知られているかもしれない。吾輩はそんな理由で元の世界に戻るために旅をしている」と答える。「そうなのですか?」と男が聞き返してきた。

「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「そういうわけで、吾輩が元の世界に戻れるように協力してほしい」と頼む。「もちろんですとも」と男が言う。「ありがとう」と吾輩は感謝の言葉を述べる。

男は吾輩とゴルどんを交互に見た。「ところで、こっちのロボッ……いや、この乗り物は何なんだ?」と尋ねてきた。「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「こいつは吾輩の仲間でゴルどんという」と紹介する。

「よろしくお願いしますだ」とゴルどんが挨拶した。「ああ、どうも」と男が答える。「それじゃあ、まずは吾輩たちの拠点に向かうとするか」と吾輩が提案する。「はい」と男が答えた。それから男と吾輩たちは移動を開始した。

移動を開始する前に、まず吾輩は男の荷物を預かることにした。「これは何だい?」と尋ねる。男は背負っていたリュックサックを見せた。「食料や水などの必需品が入っている」と男が説明する。「ふむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「それは持っていこう」と吾輩は言った。「いいんですかい?」とゴルどんが確認してくる。「かまわんさ」と吾輩は答える。

吾輩はリュックサックを自分の身体の中に収納する。そして代わりにリュックサックを背負っていた男に渡す。「おお」と言って男はリュックサックを受け取った。「便利な機能だなぁ」と男が感心している。

「そうだ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「このあたりは危険な動物が多いらしい」と吾輩が忠告する。「え? そうなのですか?」と男が驚いている。「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「まあ、大丈夫だろう」と吾輩は答える。

吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「何かあったら、いつでも言ってくれよ」と吾輩は念を押しておく。男がうなずきながら「わかりました」と答えた。

吾輩たち一行は森の奥へと進んでいく。しばらく進むと道が二つに分かれた。どちらに進むべきか迷った結果、右の道を選ぶことにした。すると男が「ちょっと待ってください」と言った。「どうしたんだ?」と吾輩は尋ねた。

「あの、これを見てください」と男が地面に落ちていた木の実を示した。「うむ?」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「これは……」と言いかけて吾輩の尻尾が握られる。「うぎゃっ!」と吾輩は悲鳴を上げる。「あ、ごめんなさい」と男が謝る。「う、うむ、問題ないぞ」と吾輩は答える。「それで、これを見ていただきたいのですが」と男が言う。

「わかった」と吾輩は言って尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「これは……キノコだな」と吾輩は答えた。「はい」と言って男がうなずく。「毒があるかもしれない」と吾輩は注意を促す。「そうなんですね」と男はつぶやく。「うむ」と吾輩は答える。「どうしたらいいでしょうか」と男が尋ねてくる。「とりあえず食べてみよう」と吾輩は答える。

男はキノコを食べてみる。「どうだ?」と吾輩は尋ねる。「美味しいです」と男が言った。「そうか」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「では行こう」と吾輩は促す。「はい」と言って男が歩き出す。吾輩も一緒に歩く。

少し進んだところで、またもや道が分かれていた。今度は左の道を選んだ。すると「あの」と男が声をかけてきた。「なんだ?」と吾輩は尋ねる。「この辺りは危険な動物が多いんですよね?」と男が確認してくる。「ああ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「そのようだ」と吾輩は答える。「気をつけましょう」と男は言った。「うむ」と吾輩は答える。

それから吾輩たちは森の中を歩いていく。しばらく進んでいると「おや?」と吾輩の尻尾が掴まれる。「うぎゃっ! 痛いっ」と吾輩は叫ぶ。「すみません」と男が謝罪する。「まったく」と吾輩は文句を言う。「何か見つけたのですか?」と男が聞いてくる。「うん」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「あれは何だろうな?」と吾輩は質問する。「どれのことですか?」と男が聞き返してきた。「あそこだよ」と吾輩は地面を指差した。そこには木の実が落ちている。「木の実ですね」と男が答える。「そうだ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「食べてみるとしよう」と吾輩は提案した。「え? 食べるんですか?」と男が驚いた顔で吾輩を見る。「もちろんだとも」と吾輩は答える。

男は木の実を食べる。「どうだ?」と吾輩は尋ねる。「美味しいです」と男が答えた。「そうか」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「これは何という木の実なんでしょうかね?」と男が尋ねてくる。「うーん、わからないな」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「調べてみます」と男が言う。「うむ」と吾輩は答える。

男は再び木の実を口に運ぶ。「うぐぅっ」と男がうめき声を上げた。「大丈夫かね?」と吾輩は尋ねた。「だいじょうぶ、れふ」と男が答えると吾輩の尻尾が掴まれる。「うぎゃぁっ!」と吾輩は叫んだ。「す、すいません」と男が謝る。「まったく」と吾輩は不満を表明する。「これはいったい何の木の実なんですかね?」と男が尋ねる。「うむ。ちょっと待ってくれ」と吾輩は答えて尻尾をくるりと回転させ鼻の穴を大きくする。そして木の実を調べた。

「うむ」と吾輩は答える。「わかりましたか?」と男が尋ねてくる。「ああ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「この実は毒があるようだ」と吾輩は告げる。「ど、毒⁉」と男が驚いている。「まあ、死にはしないと思うぞ」と吾輩は付け加える。「そ、そうなんですか?」と男が尋ねる。「うむ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「この実を食べた人間は、しばらくの間、腹痛に襲われるらしい」と吾輩は説明する。「それは嫌ですね……」と男が呟いた。「うむ」と吾輩は答える。「じゃあ、さっきから尻尾を掴んでるのは……」と男が尋ねる。「ああ」と言って吾輩は尻尾をくるりと回転させる。そして鼻の穴を大きくする。「吾輩の尻尾を掴むことで、お主の命を守ろうとしているのだ」と吾輩は言った。「ありがとうございます」と男が礼を言う。「いいってことよ」と吾輩は鼻の穴を大きくさせた。

それからしばらく歩くと森を抜けて草原に出た。「おお、広いな」と吾輩は呟く。「はい」と男が同意する。「ここはどこだろう?」と吾輩は質問する。「ここですか? えっと……あれ?」と男が辺りを見回す。「地図でも持ってないのか?」と吾輩が尋ねると、「いえ、それが……」と男は口ごもった。「うーむ」と吾輩は考える。「あの」と男が話しかけてきた。「なんだね?」と吾輩は返答した。「俺は記憶喪失みたいでして……。自分の名前しか覚えていないんですよ」と男が言う。「なるほど」と吾輩は納得する。

「それで、どうしましょう?」と男が尋ねてくる。「うーむ」と吾輩は考え込む。「とりあえず歩いてみるしかないんじゃないかな?」と吾輩は提案する。「そうですか」と男が答える。「ところで君はどこに行こうとしていたんだ?」と吾輩は男に尋ねる。「俺にもわからないです」と男が首を横に振った。「うーん」と吾輩は前足を組む。「あの」と男が話しかけてくる。「なんだろうか?」と吾輩は返事をする。「あなたは何者なんでしょうか?」と男が尋ねた。「吾輩か?」と吾輩は聞き返す。「はい」と男が答える。「吾輩は猫型人工生命体である」と吾輩は宣言した。「猫型人工生命体?」と男が不思議そうな顔をしている。「猫型人工生命体というのは、人工生命体の中でも特別な存在で、人間の言葉を話せるように造られた個体なのだ」と吾輩は説明した。「へぇ〜」と男が感心したような声を出す。

「まぁ、人間に話すことができるのは、猫語だけだけどな」と吾輩は補足しておく。「あ、そういうものなんですね」と男が相槌を打つ。「猫型人工生命体は、猫と同じ姿形をしているが、猫とは違うところがある」と吾輩は説明する。「例えばどんなところが違うんですか?」と男が尋ねる。「猫型人工生命体は四足歩行で移動する。猫と違って二本脚で歩くこともできる。だが、前足を後ろに組んで、後ろ足だけで立つことは苦手だ」と吾輩は答えた。「なるほど」と男が呟く。

「ちなみに、猫型人工生命体には、他にも特殊な能力を持っている。嗅覚が優れている。聴覚も鋭い。視覚もある。味覚はない。触覚もない。温度を感じることはできない」と吾輩は説明した。「ふぅん」と男が興味深げに言った。「君の名前は何というのだ?」と吾輩は男に質問した。「名前? さっき言いましたよ。俺は記憶がないって」と男が答える。「それは聞いた。君の本当の名前は別にあるはずだ」と吾輩は指摘する。「本当ですか?」と男が首を傾げる。「ああ」と吾輩は肯定する。「じゃあ、教えてください」と男が頼んできた。「わかった」と吾輩は了承した。

「君の本当の名は『ゴルドン』だ」と吾輩は告げる。「ゴルドン?」と男が聞き返してきた。「そうだ」と吾輩は答える。「それが俺の名前だったんですね!」と男が嬉しそうにした。「いや、違う」と吾輩は否定する。「え? 違わないんじゃなかったんですか?」と男が驚いた顔になる。「『ゴルドン』という名前を付けたのは吾輩ではない」と吾輩は真実を告げる。「どういうことですか?」と男が尋ねてきた。「吾輩の名はあぃをゅぇぴじである」と吾輩は答える。「あぃをゅぇぴじさん」と男が繰り返す。「うむ。そして吾輩は猫型人工生命体である」と吾輩は言う。「はい」と男が答える。「だから、あぃをゅぇぴじという名前は、この世に存在しない」と吾輩は断言した。

男はしばらく沈黙していたが、「よくわかりません」と言った。「そうだろうな」と吾輩は同意を示す。「結局、俺の名前は何なんでしょうか?」と男が尋ねた。「君は今、『ゴルドン』という名を名乗っている。その方が都合が良いからな。だが、もし別の名を名乗ったとしても、それはそれで問題はない」と吾輩は助言しておいた。「そうなんですか」と男が返事をする。「ただ、君には二つの選択肢がある。一つ目。猫型人工生命体として生きる道。二つ目。猫型人工生命体以外の存在になる道。どちらかを選ぶ必要がある」と吾輩は説明する。

「猫型人工生命体以外とは、例えば?」と男が尋ねる。「人間だ」と吾輩は答えた。「人間かぁ……」と男が呟いた。「猫型人工生命体は、基本的に猫型人工生命体同士でしか繁殖できない」と吾輩は補足する。「なるほど」と男が納得したような顔をした。「でも、猫型人工生命体じゃない人間もいるんですよね?」と男が確認するように訊いてくる。「そうだ」と吾輩は肯定した。「猫型人工生命体の寿命ってどのくらいなんですか?」と男が質問してくる。「猫型人工生命体は百年程度生きられる」と吾輩は答える。「そんなに長く生きてもしょうがないですね」と男が苦笑した。「猫型人工生命体は人間のように歳を取らない。老衰で死ぬこともない」と吾輩は教える。「それなら別にいいかな」と男が言った。「ところで、あなたは何者ですか?」と男が尋ねてきた。「吾輩は猫型人工生命体である」と吾輩は答える。「あぃをゅぇぴじさんって名前じゃなかったんですか?」と男が不思議そうにする。「猫型人工生命体は個体ごとに識別番号を持つ」と吾輩は説明した。「あぃをゅぇぴじさんは二十七号っていう数字だったんですね」と男が納得する。「そうだ。だが今は、あぃをゅぇぴじという識別子を持っている」と吾輩は訂正する。「猫型人工生命体にも名前を付ける決まりでもあるんですか?」と男が尋ねてきた。「特にそういうルールは無いが、猫型人工生命体には名前を付けたいと思う者が多いようだな」と吾輩は説明する。「俺には名前を付けてくれないんですか?」と男が不満げに言う。「吾輩は猫型人工生命体である」と吾輩は答える。「あぃをゅぇぴじさんじゃ駄目なんですか? あぃをゅぇぴじさんの知り合いとかいないんですか?」と男が食い下がるように言ってくる。「残念ながら、吾輩には親しい友人はいない。それに、あぃをゅぇぴじという名前も気に入っているのだ」と吾輩は男を説得しようとした。

「わかりました」と男が渋々といった様子で引き下がった。「吾輩のことは『あぃをゅぇぴじ』と呼んでくれ」「あぃをゅぇぴじさんはどうしてここにいるんですか?」と男が尋ねた。「あぃをゅぇぴじというのは吾輩の名前である」と吾輩は注意した。「あぃをゅぇぴじさんは猫型人工生命体ですよね?」と男が確認してきた。「そうである」と吾輩は認める。「あぃをゅぇぴじさんは猫型人工生命体なのに人間の言葉が話せるんですか?」と男が質問してくる。「吾輩は猫型人工生命体である。だから猫の言葉を話すことができる」と吾輩は説明した。「猫の気持ちや考えがわかるということですか?」と男が質問する。「そうだ」と吾輩は肯定した。「猫型人工生命体って凄いんですね」と男が感心している。「猫型人工生命体は人間よりも優れた存在なのだ」と吾輩は主張した。

男はしばらく黙っていた。吾輩たちの間に沈黙が流れる。「そろそろ失礼します」と男が立ち上がった。「もう帰るのか?」と吾輩は尋ねる。「はい」と男が返事をした。「また来るといいだろう」と吾輩は勧める。「また来ます」と男が答えた。男は部屋から出ていった。ドアが閉まる音が響く。

男が出ていってから少しして吾輩は目を覚ました。吾輩は伸びをして体をほぐす。それから吾輩はトイレに向かう。用を足し終わった吾輩は部屋の中に戻る。吾輩は再び寝ることにした。

(了)



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