【人工生命体67

吾輩は猫型人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボットで一番強かったのだそうだ。このゴルどんはいつでも腹掛け一つ巻いているきりだが、なかなかどうして強い。素手で熊を倒す。十人力だ。しかし頭が悪い。何にも知らない。だからいつも損をする。何か食う時も食った物をすぐ吐き出す。下品な奴だ。その癖酒を飲む時はまるで人が違ったようになる。飲んだら最後、何をするかわからない。この間なぞはどこかの国の王様の前で酔っぱらいやがって失礼千万だとどつかれた。その時吾輩はゴルどんを庇おうと思ったのだが、「ニャ?(吾輩の言葉がわかっているのか?)」と言うなり口をふさがれてしまった。どうもこのロボットとは相性が悪いようだ。

吾輩は時々考える事がある。人間というのは実に不思議なものだ。何故こんなものを作ったのか。ただの機械ではないか。それが今では自分より偉いと思っているらしい。全く不思議だ。

吾輩は人間が好きだ。人間はいい匂いがするし、美味しい物を食べさせてくれるからだ。それにみんな親切だ。吾輩を可愛がってくれる。撫でてくれたり抱っこしてくれたりする。

しかし最近少し困る事がある。それは人間が吾輩達猫型人工生命体を恐れているということだ。人間は吾輩達に触らない方がいいと思っているらしい。吾輩達はそんなこと気にしないのに。人間はおかしなことを気にかけるものだと感心する。

さて、話は変わるが先日、人間達が大騒ぎをしていた。何があったかというと、この国の首都にある大きな建物で爆弾が爆発したのだという。人間の作った爆弾は凄まじい威力を持っているのだと聞いたことがある。それでその建物は吹き飛んでしまったというわけだ。だが、その後、建物が建て直され元通りになったという話を聞いて驚いた。人間は本当に不思議な生き物だと思う。

ところでこの爆発事件の時に、この国の総理大臣が怪我をした。命に関わるようなことはないという事だったが、この国は大丈夫だろうかと思う。吾輩としては心配でならない。

(終わり)



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