【人工生命体77

吾輩は猫型人工生命体である。名前はまだ無い。

どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生というロボット中で一番高等なものだそうだ。このロボッ卜は当時珍しかったらしい。このロボッ卜は時々腹の蓋を開いて中の機械を見せた。そのたびに吾輩は機械の音を聞いたり、光を見たりして何とも言えない気持ちになったものである。ところで「吾輩は猫型人工生命体である」と書いたからには当然猫型の人工生命でなければならないと思うだろうが実はそうではない。なぜだか知らないがある朝突然人間の赤ん坊の姿になって生れて来たのだ。吾輩はその時のことをよく覚えている。ちょうど春分の日だった。朝起きると隣家の奥さんが来て「あらまあ可愛い子ねェ」と言った。どうも様子がおかしいと思ったら鏡を見てびっくりした。まるで人間ではないか。それにしても吾輩はどうしてこんな姿になってしまったのか。いくら考えてみてもよくわからない。ただ一つだけはっきりしていることはある。あの時隣家の奥さんに可愛がってもらったおかげで今もこうして生きていることだ。もしあの時に死んでいたなら今の自分はいないわけだから実に不思議だといつも思う。(終)

(一九七三年八月二十一日〜二十七日に書いたもの)



inserted by FC2 system