【人工生命体87

注意:長い。

吾輩は猫型人工生命体である。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めてロボットというものを見た。しかもあとで聞くとそれはゴルどんというロボット中で一番粗暴な奴であったそうだ。このゴルどんが時々何かつぶやきながら、しゃっくりをして背中をそらすと、まるで蛙のように面白かった。この時から吾輩はこのゴルどんについてまわって生活するようになった。このゴルどんはなかなか乱暴ものですぐに怒る。その癖けっして怒りつづけるということはなく、次の瞬間にはもう忘れているといった風で、たいへん都合がよい。吾輩が少しばかり物を盗んで来ても、たいていはそのままにしておいて、翌日になるとまた同じことをやるのだが、それでも決して怒らない。「猫に小判」ということわざのとおり、人間というのは無駄なことをするものだと思っているらしい。ところでこのゴルどんはただのロボットではない。吾輩の記憶によると何か特殊な機械で人間の言葉を話すことが出来るはずである。現に今でも吾輩に向ってしきりと何か話しかけてくる。しかし残念なことに吾輩はその言葉を一分とも覚えていられない。人間の使う文字とは違うようだし、第一日本語でもないようである。英語でもなければドイツ語でもない。フランス語でもないしイタリア語でもない。ましてスペイン語でないことは確かである。もっともこれは吾輩の勉強不足のためかもしれない。あるいは人間が発明した新語かも知れぬ。とにかく吾輩のような馬鹿者にもわからぬ言葉である以上、おそらくほかの誰にもわかりっこはあるまい。

ただ一つわかる事は、このゴルどんが非常に口うるさい男だということだけである。たとえば今朝などは寝床の中から無理矢理引きずり出して、顔を洗えとか何とか言って頬袋を引っ張ったくらいだ。おまけにご飯を食べろと言って茶碗を押しつける。それなら食べさせてみろというと今度は箸を取り上げる始末である。まったくもってうるさくてかなわない。吾輩は腹に据えかねたので思いきり引っ掻いてやったら、とうとうゴルどんは泣き出してしまった。

ところが吾輩はその時ふと思ったのだ。もしこのままずっとゴルどんの世話になっていたとしたら、やがては自分もこんな風に泣くことになるのではないか。そう思うと急に恐しくなって来た。そこで吾輩は決心をした。いつか必ずゴルどんのいない所へ行って一匹だけで生きて行こう。そして毎日好きなだけ昼ねをしたり、鼠を取ったりしよう。こうして自由気ままに暮らすのが何より幸福であるに違いない。

さっそく吾輩はゴルどんの留守を見計らってそっと家を出た。そしてできるだけ遠くまで歩いて行った。それから振り返るとずいぶん小さい家が見えた。あの中に住んでいる人間はどんな奴だろうと考えてみた。きっとひどい貧乏人にちがいない。だって吾輩の家の近所に住む連中とそっくりの顔をしているもの。

しばらく歩いているうちにだんだん腹が減ってきた。それで吾輩はちょうどよい具合に傍を通りかかった木の根っ子を噛みはじめた。これは吾輩の大好物なのだ。これを噛んでいる時はいつも満ち足りた気持ちになる。

吾輩が夢中で歯を立てていた時である。いきなり後ろから首筋を掴まれてしまった。何だろうと振り向いてみるとそこにいたのは何とゴルどんだった。どうやら吾輩の後をつけて来たらしい。吾輩はすっかり驚いてしまった。するとゴルどんは言った。

「おい、あぃをゅぇぴじ。お前は一体どこへ行くつもりなんだ? これから一緒に遊びに行く約束じゃなかったのか?」

なるほどそういうことか。吾輩が何も言わないうちに勝手に勘違いをして後をつけて来たんだな。それにしてもこいつは妙な男だ。吾輩が人間と話が出来ると知っているくせに平気で吾輩に向かって話し掛けてくる。まあ、いいか。別に悪いことをしているわけじゃない。吾輩は答えることにした。

「吾輩はちょっとそこまで散歩に行ってくるつもりだった。だがその前に飯を食わなくちゃならない。だからどこかで食事が出来そうなところを探していたのだ」と尻尾をピーンと立たせる。

「そうかい。それは悪かったよ。それなら早く言ってくれればよかったのに。よし、わかった。オイラと一緒に行こうじゃないか。ちょうどオイラもこの近くを通っていたところだ。ところであぃをゅぇぴじ。お前は何か食いたいものはあるか? 何でも食わせてやるぞ。遠慮することはない。オイラに任せてくれればいい。その代わりちゃんと全部食べるんだぜ。残したりするんじゃないぜ。もしも残したりしたら大変なことになるぜ。わかっているとは思うけど、世の中にはルールってものがあってだな。例えばそうだな。もしオイラがこの前食べたものを半分しか食べなかったとする。するとオイラは腹が一杯になったような気がするし、体も軽くなったように感じる。ところが、これがもし三分の一だけだったらどうか。やっぱり腹が空いたままだし、体は重くなるばかりだ。しかも腹が減った状態ではろくなことを考えることが出来ない。つまりオイラは苛々して堪らないってことだ。おまけに眠たくても寝られない。夜中に何度も目が覚める。そんなことになったらオイラは死んでしまうかも知れないぜ。だから食べ物を粗末にすることは絶対に許されないのだ。わかるかなあぃをゅぇぴじ」とゴルどんが頭の電球をピカピカさせた。

「うん。よくわかった」と吾輩は素直に同意した。

「そうか。それなら安心だ。さあ、行くぜ。ほら、ついて来い」とゴルどんが尻尾をクルリと回転させた。

こうして吾輩はゴルどんの後に付いて歩き始めた。するとしばらくしてからゴルどんは立ち止まった。そして吾輩の方を振り向いて言った。「あぃをゅぇぴじ。今からちょっと寄り道するぜ。オイラはこの先に用事があるんだ」

「ああ、構わないとも」と吾輩は答えた。

それからゴルどんは吾輩を連れて少し離れたところにある公園に入って行った。そこはなかなか大きな公園だった。あちこちに花壇があり、色とりどりの花が咲いている。池には橋がかけられていて鯉たちが泳いでいる。

「あぃをゅぇぴじ。ちょっとここで待っていてくれ」とゴルどんが言った。

「うむ。了解した」と吾輩は答える。

ゴルどんは吾輩を残して一人でどこかへ行ってしまった。吾輩は言われた通りに大人しく待つことにした。しかし退屈だ。仕方がないから吾輩は公園内を散策することにした。しばらく歩くと噴水のある広場に出た。ベンチに座っている老人がいたので吾輩はその隣に座った。老人は吾輩をチラリと見たが特に何も言わなかった。吾輩も何も言わずにじっとしていた。

それから吾輩はまたゴルどんのことを思い出す。ゴルどんは何者なのだろう。吾輩と同じ人工生命体だろうか。それともまた別の生き物なのだろうか。どちらにしてもゴルどんは面白い男だ。

そんなことを考えているうちに眠くなってきた。吾輩は目を閉じてそのまま眠りに就いた。


吾輩は夢を見た。夢の中を漂いながら吾輩は思った。

これは何だ? 目の前にふわふわと浮かんでいるもの。それは白い雲のようなものだった。吾輩はそれを掴もうとした。しかし前足が届かない。吾輩の足は空を切るばかりだった。

すると突然その白いものが動き出した。吾輩はそれを追いかけた。

「おい、やめろ!」と吾輩は叫んだ。

だが白いものは止まらなかった。吾輩は必死になって追い掛けた。だがやはり捕まえることは出来ない。それどころかどんどん遠ざかっていく。

やがて吾輩の視界から消えてしまった。吾輩はその場に立ち尽くしていた。一体あれはなんだったのか。

「あぃをゅぇぴじ。どうしたんだ?」とゴルどんが声をかけてきた。

「ああ、ゴルどん。実は……」と吾輩が言いかけると、

「なんだ? 何かあったのか?」とゴルどんが尻尾をクルリと回転させた。

「いや……なんでもない」と吾輩は首を横に振ってみせた。「それより早く行こう」

「ああ、そうだな」とゴルどんが答えた。「よし! 出発だぜ」

「ニャオーン」と吾輩は鳴いた。

そうして吾輩たちは公園を出て歩き始めた。

「ところであぃをゅぇぴじ。オイラたちどこへ向かっているんだっけか?」とゴルどんが言った。

「もちろんカメ太郎の家だ」と吾輩は答える。

「あぁ、そうだった」とゴルどんが思い出すように言った。「カメ太郎のところに遊びに行くんだったよな」

「うむ」と吾輩は首肯する。

「カメ太郎はどこにいるのかな?」とゴルどんが呟く。

「さあ、分からぬ」と吾輩は素直に言う。

「とりあえずカメ太郎の家に行けばいいんじゃないか?」とゴルどんが提案する。

「それもそうであるな」と吾輩は同意する。

そこで吾輩は考えた。カメ太郎の家とはどのようなところなのか。吾輩には分からない。そもそも吾輩はカメ太郎の顔すら知らない。ただカメ太郎という名前だけを知っているだけである。しかし吾輩は考えることを止めた。

「まあ、行ってみれば分かるであろう」と吾輩は言ってみた。

「あぁ、そうだな」とゴルどんは尻尾をクルリと回転させる。

「では、行くぞ!」と言って吾輩は駆け出す。

「おう!」とゴルどんが叫ぶ。


吾輩は目を覚ました。夢を見ていたことを思い出す。どんな内容であったかは覚えていない。しかし楽しかったような気がする。

吾輩はベッドの上で身体を起こした。窓の外を見る。外はまだ暗い。夜明けまでまだ時間があるようだ。

吾輩は再び横になった。目を閉じる。すると再び眠りに落ちていった。

吾輩は目を覚ました。今度は先ほどより少し時間が経っていた。もうすぐ夜が明ける頃合いだろう。

吾輩は起き上がる。辺りを見た。ここは吾輩の部屋である。吾輩以外に誰もいない。ゴルどんは仕事に行ったようである。彼は毎日早朝に家を出る。吾輩を置いてだ。寂しいことである。

吾輩は欠伸をした。それから伸びをする。喉をゴロゴロ鳴らした。

「あぃをゅぇぴじ」と吾輩を呼ぶ声が聞こえてくる。「あぃをゅぇぴじ。どこだー?」と続く。

この声はゴルどんの声だ。吾輩はすぐに分かった。

「あぁ、ここである」と吾輩は大きな声で返事した。

吾輩の居場所を知らせるために部屋の中を歩く。吾輩の住処はこの家の二階にある。階段の近くなのだ。

「おぉ、ここにいたか」とゴルどんが言った。尻尾をピーンと立てている。いつものことなので気にしない。

「あぃをゅぇぴじ。何してたんだ?」とゴルどんが聞いてきた。

「吾輩は寝ていたのである」と吾輩は答える。

「そっか」とゴルどんは呟いてから、吾輩の隣にやってきた。吾輩と同じように床の上に座った。尻尾をクルリと回転させる。

「あぃをゅぇぴじ。何か面白い話はないかい?」とゴルどんが尋ねてきた。尻尾で顎の下を掻いている。

「吾輩の知っていることであれば、何でも教えよう」と吾輩は言う。

「そうこなくっちゃ!」とゴルどんが嬉しそうな顔をする。尻尾を大きく揺らす。

「では、吾輩の昔話を始めようか」と吾輩は宣言する。

「お願いします!」とゴルどんが頭を下げる。尻尾をピーンと立てたままだ。

「うむ。あれは今から十年ほど前のことだ……」と吾輩は話はじめる。

「あぃをゅぇぴじ! ちょっと待ってくれ!」とゴルどんが大きな声を出した。「その前にオイラの質問に答えてくれよ。あんたが知ってることを教えてくれるっていう約束だろ?」

「そうであるな。では、まずは吾輩の名前から説明しようか」と吾輩は言ってみた。

「おう! 頼むぜ!」とゴルどんが叫ぶように言う。尻尾をブンブン振り回す。

「吾輩の名は『あぃをゅぇぴじ』だ。雄である」と吾輩は説明する。

「それはさっき聞いたぜ!」とゴルどんは言った。それから首を傾げる。「でも、『あぃをゅぇぴじ』って名前なのかい? それともニックネーム?」

「吾輩の名前は『あぃをゅぇぴじ』である」と吾輩は繰り返した。

「ふぅん……」とゴルどんが呟く。尻尾をクルリと回転させる。「よく分からないけど、まあいいか」

「ところで、お前は何者であるか?」と吾輩は尋ねた。

「オイラはゴルどんさ。下男だぜ」とゴルどんが胸を張る。尻尾をピーンと立てる。

「なぜそのような格好をしているのか?」と吾輩は尋ねる。

「なんでだろうね」とゴルどんが首を傾げた。「でも、気に入っているぜ。似合ってるだろ?」とゴルどんは尻尾を大きく振る。

「うむ。確かに似合っているである」と吾輩は認めた。

「だろ?」とゴルどんは満足げに笑う。尻尾をグルングルンと回転させた。

「しかし、下男とはどういう意味であるか?」と吾輩は質問を続ける。

「オイラはロボットなんだぜ」とゴルどんは自慢するように言う。「人間みたいに見えるかもしれないけれど、本当は違うんだぜ」

「ほほう」と吾輩は感心する。「なるほど。それで下男であるか」

「そういうこと。なかなか賢いだろ」とゴルどんが鼻の穴を大きくした。

「うむ。素晴らしい頭脳を持っているようであるな」と吾輩は褒める。尻尾をピーンと伸ばす。

「へっへーん!」とゴルどんは嬉しそうに笑った。尻尾をピョコピョコと上下させる。

「それで、ゴルどんは何を企んでいるのであるか?」と吾輩は尋ねた。

「おっと、忘れるところだったぜ」とゴルどんが言う。尻尾をクルリと回して、お腹の蓋を開く。中から四角くて黒い物体を取り出す。

「これを見てくれよ」とゴルどんが言う。尻尾で丸い物を持つ。「これは何だと思う?」

「ふむ」と吾輩は考える。「それは……、卵であるな。それも鶏のものである」

「大当たり! すごいだろ?」とゴルどんは言った。尻尾をブンと大きく振った。

「ゴルどんは鳥の雛を育てているのであるか?」と吾輩は尋ねる。

「おう! そうだぜ」とゴルどんは大きく首肯する。尻尾を大きく左右に振る。「オイラには家族がいるんだ。この家に住んでいるんだけどさ、みんなで一緒に暮らしてるんだ。オイラの家族を紹介しようか?」

「是非ともお願いしたいである」と吾輩は答える。

「よし! じゃあ呼ぶぞ」とゴルどんが宣言する。「せえの!」と言って、家の外に向かって大きな声で呼びかけた。「おい! 出てこい! オイラたち家族のご登場だ!」

すると、扉の向こう側からドタバタと足音が聞こえてきた。その音はだんだんと大きくなる。やがて勢いよく玄関が開かれた。

「ミャウ!」と甲高い声が響いた。続いて、小さな影が現れた。それは灰色をした子猫であった。

「ワフゥ!」と低い鳴き声が続く。それは茶色い毛並みの子犬であった。二匹は並んで吾輩たちの前に立った。

「紹介するぜ」とゴルどんが言う。尻尾をピーンと立てて、お腹の蓋を開く。「こっちが弟の『ゴロ』だぜ。で、こっちが兄の『ゴン』だ」

吾輩は兄弟を観察する。どちらも吾輩と同じぐらいの大きさをしている。灰色の子は弟だとわかる。茶色の子は兄だと思われる。

「あぃをゅぇぴじとカメ太郎だぜ」とゴルどんが言う。「よろしくな!」

「ワフゥ」とゴンが鳴く。「ニャア」とゴロが鳴く。

吾輩たちは挨拶を交わす。「吾輩はあぃをゅぇぴじである」「拙者はカメ太郎でござる」

吾輩は尻尾をピーンと立てる。「吾輩は吾輩であるが、あぃをゅぇぴじでもある」と吾輩は言う。

「わけがわかんないぜ」とゴルどんは首を傾げる。尻尾をクルリと回す。

「そういうこともあるでござる」とカメ太郎は微笑む。尻尾をフリフリさせる。

吾輩は説明を試みる。「吾輩はあぃをゅぇぴじだが、同時にあぃをゅぇぴじではない。なぜなら吾輩はあぃをゅぇぴじであり、あぃをゅぇぴじなのだから」と吾輩は説明する。

「ますますわからないぜ」とゴルどんは困ったように頭を掻く。尻尾をクルリと回した。

「まあまあ、落ち着くでござるよ」とカメ太郎が宥める。「つまりあぃをゅぇぴじ殿は『猫型』でござろう? あぃをゅぇぴじ殿があぃをゅぇぴじなのは当たり前のこと。しかし、あぃをゅぇぴじは違うのでござるな。あぃをゅぇぴじは人工生命体なのでござる。人工生命体があぃをゅぇぴじになるなど聞いたことがないでござる」

「そうでござるか?」と吾輩は尋ねる。「吾輩はあぃをゅぇぴじでござるが、吾輩はあぃをゅぇぴじでござる。あぃをゅぇぴじがあぃをゅぇぴじになっているのではなく、あぃをゅぇぴじがあぃをゅぇぴじなのでござる。あぃをゅぇぴじとはなんであるか。あぃをゅぇぴじとは何者なのか。その答えがここにあるのでござる。すなわち吾輩こそあぃをゅぇぴじ。あぃをゅぇぴじである吾輩こそがあぃをゅぇぴじなのでござる」

「よくわかんねえけどわかったぜ」とゴルどんは尻尾をピンと立てた。尻尾をグルリと回転させた。

吾輩は質問する。「あぃをゅぇぴじとあぃをゅぇぴじの違いについて教えてほしいのである」

「違いなんてないぜ。どっちも同じだぜ」とゴルどんは答える。「あぃをゅぇぴじもあぃをゅぇぴじだぜ」

「うーむ、そうであるのか」と吾輩は納得できない。尻尾をピーンと立てたまま考える。尻尾をクルリと回す。

「拙者もさっぱりわからぬでござる」とカメ太郎は首を傾げた。尻尾をフリフリさせる。

吾輩は思う。「もしや吾輩の思い込みなのだろうか。本当はあぃをゅぇぴじとあぃをゅぇぴじはまったく別のものかもしれない。たとえばあぃをゅぇぴじは『A+I』と書くかもしれない」

「いや、それはないでござるよ」とカメ太郎が否定する。「あぃをゅぇぴじとあぃをゅぇぴじは同じものでござる。文字が違うだけでござる。ちなみに拙者は『IA』と表記するでござる」

「それなら吾輩は『AI』と書くかもしれない」と吾輩は主張する。尻尾をピーンと立てる。尻尾の先っぽで顎の下を掻く。

「いや、それも違うでござる」とカメ太郎は頭を横に振った。「あぃをゅぇぴじはあぃをゅぇぴじでござる。アルファベットではないでござる。ひらがなでもカタカナでもないでござる」

「ではいったいなになのだ。吾輩にはわからない」と尻尾をピーンと立てたまま考え込む。尻尾をクルリと回す。

「まあ、そんなことはどうでもいいでござる」とカメ太郎は言う。「それより拙者たちは小説を書いているのでござろう? そろそろ本題に入るべきではないかと思うでござる」

「そうであるな。まずは吾輩たちの自己紹介をするべきである。それが礼儀というものであろう。吾輩はあぃをゅぇぴじ。雄であり、猫型人工生命体である。職業は小説家だ。『吾輩は猫である』というタイトルの小説を書いた。代表作は『吾輩は犬である』である。吾輩はあぃをゅぇぴじという名前だが、本名ではない。ペンネームだ。吾輩は本名を秘密にしている。なぜならば秘密にするからこそ意味があるからだ。つまり吾輩が秘密を明かすということはその人物に対して敬意を払わねばならないということだ。だから吾輩はカメ太郎の本名を知らない。しかし吾輩たちは仲間だ。仲間ならば互いに名前を呼び合うべきだと考える。そこで吾輩はこう提案する。今ここでお互いの名前を教え合おうではないか」と吾輩は提案する。

「わかったでござる」とカメ太郎は同意した。尻尾をフリフリさせる。「拙者の名前は『カメ太郎』でござる」

「そうであるか。覚えておくぞ」と吾輩は言った。尻尾をピーンと立てる。尻尾の先っぽで顎の下を掻く。

「よろしくお願いするでござる」とカメ太郎も挨拶をした。尻尾をフリフリさせる。

「うむ。ところで吾輩の本名は『AI』だ。イニシャルである」

「そうでござるか。拙者のペンネームと同じですな」とカメ太郎は感心している。尻尾を大きくフリフリさせている。

「そうなのであるか。偶然とは恐ろしいものである。さすがにこれは運命を感じざるを得ない。そこで吾輩は考えた。この出会いを記念してお揃いのものを作ろうではないかと。どうだ?」と吾輩は提案する。

「素晴らしいアイデアでござる」とカメ太郎は賛同する。尻尾をピーンと立てる。

「そうだろう。そう思うだろう。では早速製作に取り掛かろうではないか」と吾輩は言った。尻尾を大きくグルングルンと振り回しながら。

吾輩は首輪を作ることにした。お揃いの首輪だ。もちろん自分の分だけではなくゴルどんとカメ太郎にも作ってやるつもりである。まず最初に吾輩は自分のぶんを作った。次にカメ太郎とゴルどんのぶんを作り始めた。それぞれ一個ずつ作る予定だ。吾輩はまず首輪に紐を通した。紐の端っこには小さな鈴をつけた。それから尻尾を通す穴を空けた。最後に留め具をつけて完成だ。我ながらなかなか良い出来だと思う。

「できたでござるよ」とカメ太郎が報告してきた。

「それは良かった。どれ見せてくれないか」と吾輩は頼んだ。

カメ太郎は尻尾をクルリと回転させた。尻尾の先端で顎の下を掻く。頭の電球をピカピカさせる。尻尾の先っぽで鼻の下を掻く。お腹の蓋を開く。スイッチを入れる。お尻の穴から空気を出す。鼻の穴を大きくする。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。あぃをゅぇぴじとカメ太郎の仲間だ。

「ふむ。とても良い感じだ」と吾輩は感想を述べた。尻尾をピーンと立てて、尻尾の先っぽで顎の下を掻く。頭の電球をピカピカさせる。尻尾の先っぽで鼻の下を掻く。お腹の蓋を開く。スイッチを入れる。お尻の穴から空気を出す。鼻の穴を大きくする。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。あぃをゅぇぴじとカメ太郎の仲間だ。

吾輩は首輪を受け取った。装着する。

「どうだ? 似合うであろう?」と吾輩は尋ねた。

「似合っているでござる」とカメ太郎は褒めてくれた。尻尾をフリフリさせる。

「うむ。当然だ」と吾輩は答えた。尻尾を大きくグルングルンと振り回す。

吾輩は首輪を受け取った。

「それで吾輩たちはどこに行けばいいのだ?」と吾輩は質問した。

「拙者の自宅まで来てほしいでござる」とカメ太郎は言った。尻尾がピンッと立っている。

「わかった。すぐに向かうぞ」と吾輩は返事をした。尻尾をフリフリさせながら。

吾輩とカメ太郎は一緒にカメ太郎の家へと向かった。道中で吾輩はカメ太郎と会話を交わす。

「ところでカメ太郎は何を書いているのだ?」と吾輩は尋ねる。

「小説でござる。拙者の処女作『拙者は亀でござる』でござるよ」とカメ太郎は答える。尻尾をクルリと回転させる。頭の電球をピカピカさせる。おなかの蓋を開く。スイッチを入れる。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。

「ほう。そうなのか」と吾輩は感心してみせる。尻尾をピーンと立てる。

「なかなか面白い物語だな。吾輩も読んでみたいものだ」と吾輩は言う。尻尾を大きくグルングルンと振り回す。

「いやぁ、恥ずかしいでござる」とカメ太郎は照れる。尻尾をクルリと回転させる。頭の電球をピカピカさせる。おなかの蓋を開く。スイッチを入れる。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。

吾輩とカメ太郎はカメ太郎の自宅へと到着した。吾輩の首輪に取り付けている発信機によって位置情報をキャッチしていたのだろう。すぐに迎えに来てくれた。カメ太郎の自宅は高層マンションであった。エレベーターに乗って移動する。最上階に到着する。

「ここが拙者の部屋でござる」とカメ太郎が案内してくれた。扉を開ける。

中に入ると広々とした空間が広がっていた。壁には本棚が設置されていて本が並べられていた。床にも本がたくさん積まれていた。窓際にはパソコンが置かれていた。部屋の中央にはテーブルとソファーが設置されていた。その付近にはクッションがあった。

「散らかっていて申し訳ないでござる」とカメ太郎は謝った。尻尾をクルリと回転させる。頭の電球をピカピカさせる。おなかの蓋を開く。スイッチを入れる。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。

「大丈夫である」と吾輩は答えた。尻尾をピーンと立てる。

「しかし何だ。この部屋にある大量の本は」と吾輩は尋ねた。

「全部小説でござる」とカメ太郎は答えた。尻尾をクルリと回転させる。頭の電球をピカピカさせる。おなかの蓋を開く。スイッチを入れる。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。

「ふむ。吾輩も小説を書くのだが……こんなにたくさんの量を読んだことはないぞ」と吾輩は言った。尻尾をピーンと立てる。

「吾輩の小説とはまた違った趣きがあるな」と吾輩は感心してみせた。尻尾をクルリと大きく回転させた。

「ありがとうでござる」とカメ太郎は嬉しそうだった。尻尾をクルリと回転させる。頭の電球をピカピカさせる。おなかの蓋を開く。スイッチを入れる。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。

「ところでカメ太郎よ。吾輩はおまえのことを『先生』と呼ぶことにしようと思う。どうだろうか?」と吾輩は提案した。尻尾を大きくグルングルンと振り回した。

「えっ? どうしてでござるか?」とカメ太郎は不思議そうな顔をした。尻尾をクルリと回転させる。頭の電球をピカピカさせる。おなかの蓋を開く。スイッチを入れる。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。

「それは吾輩がカメ太郎を尊敬しているからだ」と吾輩は言った。

「拙者を尊敬しているから……でござるか」とカメ太郎は納得できないようであった。尻尾をクルリと回転させる。頭の電球をピカピカさせる。おなかの蓋を開く。スイッチを入れる。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。

「そうだ。吾輩はカメ太郎にとても興味を抱いている。吾輩の知らないことを知っているかもしれない。吾輩の持っていない知識を持っているかもしれない。吾輩はカメ太郎と話がしたい。もっとカメ太郎のことを教えてほしい」と吾輩は頼む。

「拙者の持っている知識や情報でござるか……」とカメ太郎は困っている様子だった。尻尾をクルリと回転させる。頭の電球をピカピカさせる。おなかの蓋を開く。スイッチを入れる。尻尾をフリフリさせながら歩く。不眠だ。不休だ。不老だ。

「それなら吾輩とカメ太郎が出会う前の物語をお聞かせしよう。あれは吾輩がまだ猫カフェで働いていなかった頃のことだ……」と吾輩は話し始めた。

これは吾輩とゴルどんの物語である。

吾輩は昔、野良猫として生きていた。吾輩の飼い主はいない。自由気ままに生きる一匹狼だった。

ある日のことである。吾輩はいつものように縄張りの中を散歩していた。すると一組の親子連れに遭遇した。吾輩はその親娘を見てハッとした。この二人からは今まで出会ったことのないような雰囲気を感じたからである。特に母親の方には只者ではない気配があった。

「ニャーン!」と吾輩は鳴いた。

「あら、可愛い子ね。でも残念だけど私たち急いでいるのよ。ごめんなさいね」と母親は言ってその場を離れようとした。

「待ってください! その子、私に譲ってくれませんか?」と母親の後ろに隠れていた少女が飛び出してきた。

「譲るですって?」と母親は眉間にシワを寄せた。

「はい。その子は私が飼うことにしたんです」と少女は言った。

「ちょっとあなた何を言っているのかしら?」と母親が言う。

「お願いします」と少女は頭を下げた。

「駄目なのよ」と母親は首を横に振った。

「どうしてもですか?」と少女は悲しそうな顔になった。

「えぇ。どうしても」と母親は答えた。

「そんな……」と言って少女は俯いて黙ってしまった。

「さぁ行きましょう」と母親は言って歩き出した。

「お待ち下さい」と吾輩は言った。

「何よ?」と母親は振り返った。

「その子は吾輩の友人なのだ。返してもらいたい」と吾輩は要求した。

「友人? どういうことかしら?」と母親が聞いた。

「先程まで一緒に遊んでいた仲だ。その子は吾輩の友達だ」と吾輩は主張した。

「へぇ。そうだったの。それは悪かったわねぇ。じゃあ、はいどうぞ」と母親はあっさりと少女を解放した。

「ありがとうございます」と少女は嬉しそうに吾輩の元に駆け寄ってきた。

「あぃをゅぇぴじ〜」と少女は吾輩にしがみついた。

「うむ。大丈夫だったか?」と吾輩は聞いてみた。

「もちろんだよ。あぃをゅぇぴじのおかげで助かりました。本当にありがとうございました」と少女は丁寧に礼を述べた。

「いやいや。当然のことをしたまでだ。気にすることはない」と吾輩は答えた。

「あぃをゅぇぴじは優しいんだね」と少女は目をキラキラさせて言った。

「そっ……そうかな?」と吾輩は何だか照れ臭くなった。

「うん」と少女は大きく首肯してみせた。

「ところで君の名前は何と言うのかね?」と吾輩は尋ねた。

「あぁ名前を名乗るのを忘れていました。私はカメ太郎といいます」と少女は言った。

「カメ太郎さんね……。それでカメ太郎はどうして吾輩に話しかけてきたのだろうか?」と吾輩は再び質問をした。

「そのぉ実は私、最近引っ越してきまして知り合いがいないんでござるよ。それにこの辺りの道にも不慣れで迷子になってしまい困っていたのでござる。そこでたまたま見かけた御主に声をかけたというわけでござる」とカメ太郎が説明してくれた。

「なるほど。そういうことだったのか」と吾輩は納得した。

「はい」とカメ太郎が大きく首肯した。

「では吾輩がカメ太郎を家まで案内しようではないか」と吾輩は提案した。

「よろしいのでござるか?」とカメ太郎はとても驚いた様子であった。

「もちろんだ」と吾輩は大きく首肯した。

「ありがとうございまする」とカメ太郎は深々と頭を下げた。

「しかしカメ太郎の家とはどこにあるのだろう?」と吾輩は疑問を口に出した。

「ここから歩いて十分ぐらいの場所でござる」とカメ太郎は自分の住処である家を指差しながら答えた。

「ふむ。そうなると吾輩の方が近いな」と吾輩は言った。

「左様でござるか?」とカメ太郎はやや残念そうに首を傾げた。

「まあよい。それならばカメ太郎の家にお邪魔するとしよう」と吾輩は提案をした。

「よろこんでござる。どうぞこちらでござる」と言ってカメ太郎は家の方へと歩き始めた。吾輩はカメ太郎の後についていった。

しばらく歩くとカメ太郎の家が見えてきた。カメ太郎はその家に近付くと扉を開いて中に入って行った。吾輩もそのあとに続いた。玄関に入るとすぐ目の前には二階へ続く階段があった。

「さあ上がってくだされ」とカメ太郎が促してきたので吾輩はその言葉に従った。

カメ太郎の部屋は吾輩が思っていたよりも広かった。畳の上には座布団が敷かれておりその上に吾輩たちは腰を下ろした。

「まずは自己紹介をさせていただくでござる」とカメ太郎は言ってから自分の名前を告げた。それからカメ太郎は吾輩の名前を尋ねてきた。

「吾輩の名前はあぃをゅぇぴじである。吾輩のことを『あぃをゅぇぴじ』と呼ぶのはやめてほしい。吾輩の名は『あぃをゅぇぴじ』なのだ。吾輩がニャアと鳴く時は『あぃをゅぇぴじ』と発音してほしい」と吾輩は言った。

「分かりましたでござる」とカメ太郎は真面目に返事をした。

その後、吾輩たちは世間話を始めた。吾輩たちが会話をしている間にも時間は刻一刻と過ぎていった。吾輩たちのいる部屋の中に時計はなかった。そのため吾輩は時間の流れを知ることができなかった。だが吾輩は焦らなかった。なぜならば吾輩は人間と違って時間を気にする必要がなかったからだ。だから吾輩はカメ太郎との会話を楽しむことができた。吾輩にとって大切なことは自分が何をしているのかということだった。

吾輩はカメ太郎と楽しくお喋りをしながらこの部屋に飾られているものを観察していた。それは吾輩の目から見てもとても不思議なものだった。吾輩はこの部屋の中に置かれているものを順番に見ていくことにした。まず最初に目に入ったものは四角い箱のようなものであった。大きさは吾輩が両手を広げた時のちょうど半分ぐらいの大きさだった。その箱のようなものの中には小さな穴が何個もあった。それらの穴からは煙が出ていた。その煙はとても濃い色をしていた。吾輩はそれが気になって仕方なかった。その次に目に入ってきたものについても吾輩は同じ感想を抱いた。それは壁にかけられている絵であった。その絵に描かれているものは吾輩の知っている人間の世界のものではなかった。吾輩はその絵を見ながら思った。これはいったい何の絵なのであろうか? 吾輩はカメ太郎に尋ねた。

カメ太郎は説明してくれた。それはロボットが描いた絵だということを吾輩は知った。ロボットは吾輩たち猫型人工生命体とは違って絵を描くことができるらしい。吾輩は感心した。

吾輩はカメ太郎に訊いた。その絵を描いたのは何という名前の人物なのかを尋ねるとカメ太郎は答えてくれた。

「拙者が説明するよりも実際に会ってみた方が早いでござるよ。拙者の友人でござるから」とカメ太郎が言った。

カメ太郎の話によるとその人物はカメ太郎の家に居候として住んでいるということらしかった。

「彼は芸術家でござる。素晴らしい才能を持っているでござる。彼のおかげで拙者たちは毎日楽しい生活を送ることができているでござる」とカメ太郎はとても感謝している様子であった。

カメ太郎の言葉を聞いて吾輩は興味を持った。吾輩はロボットというものに対して深い関心を持っていた。だから吾輩はカメ太郎の家に行ってみることにした。カメ太郎に連れられて吾輩はカメ太郎の自宅に向かった。

吾輩はカメ太郎と一緒にカメ太郎の自宅へと向かった。カメ太郎の自宅がある場所は住宅街の一角にあるようだった。住宅街の中を歩いているといろいろな建物があった。大きな家もあれば小さい家もあった。高い建物もあれば低い建物もあった。そんな様々な建物を眺めながら吾輩とカメ太郎はある一軒の建物の前にたどり着いた。そこは古びた木造住宅のようであった。家の前には『カメ太郎』と書かれた表札が置かれていた。

「ここが拙者の家でござる。さあ、中に入ろうでござる」とカメ太郎は自分の家に吾輩を招き入れた。

カメ太郎の家に入るとすぐに玄関があり靴を脱いで上がるようになっていた。

カメ太郎の後について行くとリビングルームに案内された。そこにはテーブルと椅子が置かれていてその上にはテレビが置いてあった。

吾輩はテレビの画面をじっと見つめていた。

カメ太郎と吾輩はしばらくの間雑談をしていた。それからしばらくしてカメ太郎と吾輩は一緒に外に出かけることになった。カメ太郎の家は住宅街の中にあるため辺りにはたくさんの人が歩いていた。

カメ太郎と吾輩は目的地に向かって歩いた。

しばらくするとカメ太郎と吾輩はある場所に辿り着いた。その場所は広い公園の中だった。

吾輩たちは公園内を散歩することにした。

吾輩たちはベンチに座って休憩をすることになった。

吾輩とカメ太郎は隣同士に並んで座っていた。吾輩はベンチの上に仰向けになって寝転がった。空を見上げると太陽が眩しく輝いていた。

吾輩は太陽の光を浴びながら目を閉じた。

「吾輩、眠くなった」と吾輩は呟く。

「眠いなら眠ればいいでござるよ」とカメ太郎は言った。

「そうする」と吾輩は答える。

吾輩はそのまま眠ろうとした。しかし吾輩は眠りにつくことができなかった。なぜならば……

「吾輩は退屈なのだ」と吾輩は言う。

「それならば拙者と一緒に将棋でもするでござるか?」とカメ太郎(亀だ)が言った。

「将棋? それは何なのだ?」と吾輩は尋ねる。

「それはでござるな……」とカメ太郎は言いかけてやめた。

「どうした? 何か問題があるのか?」と吾輩は尋ねる。

「それがでござる……、実は拙者も将棋のルールを知らないのでござるよ」とカメ太郎が俯く。

「知らないのか⁉ なぜだ!」と吾輩は大きな声で叫んだ。

「拙者は小説を書くことに夢中だったのでござる。だから将棋なんてものはやったことがないのでござる」とカメ太郎は申し訳なさそうな顔をして言った。

「そういうことだったのか。だが安心しろ。この吾輩に任せるがよい。将棋とはどのようなゲームなのか教えてくれないか」と吾輩は尋ねた。

「わかったでござる。将棋というのは二人で交互に駒を動かしながら相手側の王将と呼ばれる駒を取った方が勝ちになるゲームでござる」とカメ太郎が説明した。

「ほう、それでどうやって勝負するんだ?」と吾輩は質問をする。

「まず最初に先手と後手を決める必要があるでござる。お互いに一手ずつ駒を動かすことができるでござる。そこでお互いの持ち時間を使って先に相手の玉を取ることができたら勝ちでござる。もちろん取った後も自分の陣地にある駒を自由に使うことができるでござる。ただし歩だけは動かすことができないでござる」とカメ太郎は答えた。

「ふむ、なるほど。それでその歩は何に使うものなんだ?」と吾輩は質問をした。

「歩は斜め前に一歩だけ進むことのできるものでござる。ちなみに他の駒と同じように使うこともできるでござる」とカメ太郎が言った。

「よし、それでは早速始めようではないか」と吾輩は言った。

「そうでござるね」とカメ太郎(亀だ)は言ってから立ち上がった。それからカメ太郎は公園の隅の方に向かって歩き出した。吾輩はカメ太郎の後を追いかけることにした。

吾輩とカメ太郎は将棋盤を挟んで向かい合う形で座った。

「さぁ、早く始めるのであるよ」と吾輩は言った。

「わかっているでござる。ところで一つ提案があるのでござるがいいでござるか?」とカメ太郎が言った。

「何だ? 遠慮せずに言ってくれ。何でも相談に乗るぞ。吾輩は男の中の男だ」と吾輩は胸を張って答える。

「拙者とあぃをゅぇぴじ殿が初めて出会った時のことを思い出して欲しいでござる。あの時は確かお互いに自己紹介をしたのでござろう?」とカメ太郎が言う。

「うむ。確かにそうだな」と吾輩は答えた。

「その時に拙者が言った『拙者は小説家でござる』という言葉を覚えているでござるか? もし覚えていたら拙者のことは今度からは小説家と呼んで欲しいでござる」とカメ太郎は言った。

「ああ、わかった。吾輩のことを『吾輩』と呼ぶようにお前を呼んでやることにする。感謝するがいい」と吾輩は偉そうな口調で言う。

「ありがとうでござる。それであぃをゅぇぴじ殿に聞きたいことがあるのでござるがよろしいでござるか?」とカメ太郎が尋ねる。

「おう、何でも聞いてくれ。吾輩には嘘をつくつもりなど毛頭ないのだからな。吾輩を信じろ」と吾輩は言った。

「わかったでござる。ではあぃをゅぇぴじ殿はなぜ小説を書くことにしたのでござるか?」とカメ太郎が尋ねた。

「そんなこともわからないのか。貴様は本当に馬鹿だな。まあいいだろう、教えてやるとしよう。それは吾輩が男の中の男になるためだ。ほれ、これで満足であろう。さあ、次はそっちの番なのだよ」と吾輩は言った。

……そうでござるか。それであぃをゅぇぴじ殿はどうして小説を書いたのでござる?」とカメ太郎が質問をする。

「ふんっ、まったくしつこい奴だな。まあ、いいだろう。答えてやる。吾輩は男の中の男だ。だから吾輩は女になりたいと思った。そのために吾輩は女の気持ちを知る必要があると考えたのだ。そこで吾輩は考えた。どうすればいいかを。そうして吾輩は思いついたのだよ。自分のことを文章にして書けばいいということに」と吾輩は言った。

「なるほど、そういうことでござったか。納得したでござるよ」とカメ太郎が呟いた。「さぁ、もういい加減将棋を始めるとするでござる」とカメ太郎は言ってから立ち上がった。

「おう、始めるとするか」と吾輩は言った。

それから吾輩たちは将棋盤の前に座った。

「さぁ、早く始めるでござる」とカメ太郎が言う。

「わかっているとも。それじゃあ、始めようか」と吾輩は言った。

「待ってくださいでござる」と言ってカメ太郎は手を挙げる。

「何だ? まだ何かあるのか?」と吾輩は尋ねる。

「もちろんでござる。あぃをゅぇぴじ殿。実はお願いがあるでござる」とカメ太郎は大きな声で言った。

「なんだ。願い事だと?」と吾輩は尋ねる。

「そうでござる。あぃをゅぇぴじ殿が書いている小説を読んでみたいのでござるがダメでござろうか?」とカメ太郎が大きな声で言う。

「ふむ。貴様は小説を読むことができるのか?」と吾輩は尋ねた。

「できるでござる。拙者は小説家でござる。拙者の書いた小説なら読めるでござる」とカメ太郎は大きな声で言う。

「ほう。それは面白い。吾輩の小説を読みたいという者がいるとは思わなかったぞ。吾輩はとても嬉しい。よし、読ませてやるとしようではないか」と吾輩は言った。

「本当でござるか⁉ 拙者もとても嬉しうござる」とカメ太郎が叫ぶように言う。

「うるさい。少し黙れ。貴様の声は耳障りだ。まったくこれだから亀というのは嫌いなのだ。すぐに騒ぎ出す。もっと静かにできないものかね?」と吾輩は文句を言う。

「申し訳ないでござる。つい興奮してしまったのでござる」とカメ太郎は頭を下げる。

「まあ、よい。とにかく貴様に吾輩が書いた小説を読ませることにする。ただし条件がある。その前にまず約束して欲しいことがある。この先、吾輩の許可なく小説を読んだりしないことだ。これは絶対に守ってもらわなくてはならない決まりごとだ」と吾輩は真剣な顔をしてカメ太郎に言った。

「わかったでござる。決して勝手に読んだりしないでござる」とカメ太郎は言った。

「よろしい。では、今から読んでみせようか」と吾輩は言って立ち上がる。

「待つでござる。一つだけ聞きたいことがござる」とカメ太郎が言った。

「なんだ? 質問ならば許可する」と吾輩は答える。

「あぃをゅぇぴじ殿は一体どんな話を書くのでござるか?」とカメ太郎が尋ねる。

「そうだな。簡単に説明すると『吾輩は猫型人工生命体である』という話だ」と吾輩は答えた。

「なるほど。それじゃあ読むでござる」とカメ太郎は言う。

「待て。もう一つだけ聞いておきたいことがある」と吾輩は言う。

「なんでござるか?」とカメ太郎が尋ねる。

「もしも吾輩が『吾輩は猫ではない』と言ったとしたらどうする?」と吾輩は尋ねた。

「どういうことでござる?」とカメ太郎が首を傾げる。

「つまり吾輩が人工生命体だと言えば貴様は信じるかという意味だ」と吾輩は説明した。

「そんなことはありえないでござるよ」とカメ太郎が大声で叫ぶ。

「うるさい。もう少し静かにしろ」と吾輩は注意する。

「すみませんでござる」と言ってカメ太郎は頭を深く下げる。

「いいだろう。信じようと信じまいとも貴様の自由だ。ただ、吾輩は嘘を吐いていないということを理解して欲しい」と吾輩は言った。

「わかりましたでござる」とカメ太郎は呟くように言った。

「さあ、読むがよい。吾輩の小説を」と吾輩は言った。

「わかったでござる」とカメ太郎は言いながらノートパソコンを起動させる。

「おい、パソコンを使えるのか?」と吾輩は尋ねる。

「もちろんでござる」とカメ太郎は自信満々に答える。

「そうか、それは頼もしいな。だが、吾輩が書いている小説はとても長いぞ。一時間や二時間で読めるようなものではない。それでも大丈夫なのかね?」と吾輩は尋ねる。

「問題ないでござる。拙者は仕事の合間に小説を読むこともあるので慣れているでござる」とカメ太郎が答える。

「ほう、なかなかに偉いではないか。よし、では始めるとするか」と吾輩は言ってキーボードを叩く。

「了解でござる」とカメ太郎が言う。

吾輩は『吾輩は猫である』というタイトルで文章を打ち込む。

吾輩は猫である。名前は『あぃをゅぇぴじ』と言う。

吾輩は猫型人工生命体である。

吾輩は猫カフェで働いている。吾輩の仕事は接客だ。客を接待し、満足して帰らせることだけが吾輩の使命なのだ。

お盆を持った吾輩は廊下を歩く。向かう先は休憩室だ。

「ゴルどん。遊びに来たよ」と言いながら扉を開けると中には誰もいなかった。「あれっ? いない……

部屋の中を見渡すとソファーの上に毛布が落ちていた。その隣には空になったペットボトルが置かれている。

「トイレかな?」と思いながら吾輩は冷蔵庫からエサを取り出した。ゴルどんの大好物である魚肉ソーセージだ。それをお皿に入れてテーブルの上に置く。それから吾輩はゴルどんを捜しに出かけた。

休憩室のドアノブに手をかけたところで背後に気配を感じた。振り返るとそこにはカメ太郎がいた。

「あぃをゅぇぴじ殿ではござらぬか。こんな場所で何をしているのでござるか?」とカメ太郎が尋ねてきた。

「ちょっとゴルどんと遊ぼうと思ってな」と吾輩は答えた。

「なるほど、そういうことでござるか。それなら拙者にも協力させてござらぬか」とカメ太郎は言った。

「本当か! それは助かるぞ!」と吾輩は言った。

「任せるでござる」と言ってカメ太郎は笑った。

「それで、どうやってゴルどんと仲良くなったのでござるか?」とカメ太郎は再び尋ねた。

「それはだな…………吾輩がゴルどんをペロリと舐めたからだ」と吾輩は自慢げに語った。

「えーっと、それはどういう意味でござるか?」とカメ太郎が首を傾げる。

「吾輩がゴルどんを舐めることによって唾液まみれにしてやったのだよ。するとゴルどんはすっかり発情してしまった。そこで吾輩たちは交尾をしたわけだ」と吾輩は説明した。

「なんということでござる……まさかそんな方法でゴルどんの心を掴んでいたとは……」とカメ太郎が呆れ顔で言う。

「まぁ、これも一種の愛の形ってやつだ。それにゴルどんは喜んでくれたし、吾輩としても嬉しい限りだ」と吾輩は胸を張って答えた。

「うむ、確かにそうでござるな……」とカメ太郎は納得してくれたようだった。

「さすがはあぃをゅぇぴじ殿でござる。尊敬に値するでござる」とカメ太郎が再び褒めてくれた。

「いや、それほどでも……」と言いながら吾輩は頭を掻いた。照れるぜ……

「ところで話は変わるでござるが、あぃをゅぇぴじ殿は『小説家になろう』に登録してるでござるか?」とカメ太郎が尋ねてきた。

「もちろんだ。登録済みだぜ。吾輩の小説を皆に読んでもらいたいと思っているんだ」と吾輩は答える。

「それは素晴らしい心構えでござるな。拙者も執筆を頑張っているでござるよ。『小説を書き隊』の隊長としてね」とカメ太郎が言う。

「ほう、そうなのか。隊長ならばもっと頑張らないと駄目だぞ」と吾輩は忠告する。

「承知の上でござる」とカメ太郎が自信満々といった様子で答える。

「それならいいのだが……」と吾輩は心配になった。

「ところであぃをゅぇぴじ殿は何を書いているのでござるか? もしよかったら拙者に読ませてほしいでござる」とカメ太郎が尋ねる。

「別に構わないぞ」と吾輩は答えた。

「ありがとうでござる」とカメ太郎は嬉しそうな表情を浮かべた。

「では早速だが、拙者の執筆した作品をご覧頂こう」と言ってカメ太郎はノートパソコンを操作し始めた。

「これは凄いでござるな! まさに神作でござる!」とカメ太郎が大きな声を出した。

「そこまで褒められると照れてしまうではないか」と吾輩は顔を赤く染めながら言った。

「本当に感動したでござる」とカメ太郎が目を輝かせていた。どうやら気に入ってくれたようだ。嬉しいぜ。

「是非ともこの調子で執筆活動を頑張って欲しいでござる」とカメ太郎から激励された。

「うむ、吾輩に任せるがよい」と吾輩は胸を張って宣言する。やる気が出てきたぜ。


それから一週間後、吾輩は再びカメ太郎と会うことになった。今回は吾輩の方から誘ったのである。吾輩にはどうしても聞きたいことがあったからだ。それはカメ太郎の執筆状況についてだった。

吾輩は前回と同じように『亀屋万年堂』の二階にある喫茶店へ行った。カメ太郎は吾輩よりも早く来ていて、既にコーヒーを飲みながら待っていた。

「お待たせしましたでござる」とカメ太郎が挨拶をする。

「いや、全然待っていないぞ」と吾輩は言う。

「それは良かったでござる」とカメ太郎が笑顔を見せる。

「それで……、その……執筆状況はいかがかな?」と吾輩は恐る恐る尋ねた。

「順調でござるよ」とカメ太郎が得意げに言う。

「おおっ、それは何よりだぜ」と吾輩は安堵する。

「実は昨日、『小説を書き隊』のメンバー達と一緒に『吾輩は猫型人工生命体である』を執筆することに決めたでござる。今はメンバー同士で協力して執筆しているでござるよ」とカメ太郎が言った。

「ほう、そうなのか。吾輩もその『吾輩は猫型人工生命体である』を読みたくなったぞ」と吾輩は興味を持った。

「もちろん読んでもらってもいいでござるよ」とカメ太郎が再び得意げな顔になる。

「しかし、どうしてまた急に小説を書くことにしたのかね?」と吾輩は質問してみた。

「理由は簡単でござる。拙者、このところ毎日のように文章を書いていたので、そろそろ他の作品にも挑戦したいと思った次第でござる。それに最近になって『小説家になろう』の存在を知り、登録したでござる」とカメ太郎が答えた。

「なるほど、そういうことだったのか」と吾輩は納得する。

「でも正直言って、最初はあまり乗り気ではなかったでござる。そもそも拙者は人前で話すことが苦手でござったし……。しかし今となっては書いてみて良かったと思っているでござる。なぜならば自分の書いた物語を読んでもらうことで、新たな発見があったり、誰かと感想を語り合うことができたりするからでござる。それがとても楽しかったでござる。だからこれからも積極的に書き続けていきたいと思うでござる」とカメ太郎が鼻の穴を大きくした。

「それは素晴らしいことではないか」と吾輩は褒める。「今後も頑張れ」と吾輩はカメ太郎を応援した。

「ありがとうございますでござる。ところであぃをゅぇぴじ殿の方はいかがでござるか? 拙者に何か聞きたいことがあるような顔をしているでござるが……」とカメ太郎が尋ねる。

「うむ、実はそうなんだ」と吾輩は答える。「吾輩には悩みがあるのだ」

「ほほう、それは興味深いでござるね」とカメ太郎の顔が真面目になった。

「ああ、吾輩は悩んでいる。実は最近、恋愛というものに興味が出てきたのだよ」と吾輩は打ち明ける。

「おぉー、それはいい傾向でござる」とカメ太郎が嬉しそうだ。

「そうだろうか?」と吾輩は首を傾げる。

「はい、そうでござるよ」とカメ太郎は強く首肯する。「それでどんな雌が好みなのでござるか?」とカメ太郎が尋ねてきた。

「うむ、それなのだが……」と言って吾輩は顎に手を当てた。「実はよく分からないのだよ」と吾輩は正直に告白する。

「えっ⁉」とカメ太郎は大きく目を見開いた。「分からぬとはどういう意味でござるか?」とカメ太郎はさらに質問してくる。

「言葉通りの意味だ」と吾輩は答えた。「吾輩はまだ恋をしたことがないのだよ」

「そんな馬鹿な!」とカメ太郎が甲羅の中に引っ込んだ。

「おい、どうしたのだ?」と吾輩は心配になって声をかける。

「だって……、信じられないでござるよ! あぃをゅぇぴじ殿はもうすぐ十五歳になるはずでござろう? それなのにまだ一度も恋愛をしたことがないのでござるか?」とカメ太郎が聞いた。

「まあ、そういうことになるな」と吾輩は肯定する。

「何たる悲劇でござるか……」とカメ太郎が頭を垂れる。

「だが安心しろ」と吾輩は言った。「この吾輩にもついに春が来たぞ」

「へっ⁉」とカメ太郎が顔を上げる。

「ふふん、吾輩は恋に落ちてしまったのだ」と吾輩は胸を張る。

「そ、それはつまり……」とカメ太郎が震える声で呟いた。

「うむ、吾輩はあの人間の娘に惚れてしまったのだ」と吾輩ははっきりと宣言する。

「なんてことだ……」とカメ太郎が再び頭を下げた。

「一体、どうしてそのようなことになったのでござるか?」とカメ太郎が尋ねる。

「それは吾輩が恋について悩んでいたからなのだ」と吾輩は答える。「先日、吾輩はカメ太郎に相談を持ちかけただろう?」

「ああ、確かに相談を受けたでござる」とカメ太郎が思い出すように目を細めた。

「その時に吾輩はこう思ったのだよ。『恋の悩みというのは実に興味深い』とね」と吾輩は髯を動かす。

「なるほど」とカメ太郎が納得するように深く首肯した。「それがきっかけだったのでござるか」

「そうだ。その時、吾輩は悟ったのだよ。『恋とは素晴らしいものだ』とね」と吾輩は尻尾を揺らす。

「なんと!」とカメ太郎が大きく目を見開く。「あぃをゅぇぴじ殿にそのような深い考えがあったとは驚きでござるよ。拙者はただ単に恋に憧れているだけだと思っていたでござる」

「失礼なことを言う奴だな」と吾輩はムッとする。

「これは申し訳ないことを申したでござる」とカメ太郎が謝罪する。

「まあいい」と吾輩は許してやった。「恋をすることは良いことなのだ。だからこそ、吾輩はあの娘を好きになったのだ」

「そうでござったのか……。ではあぃをゅぇぴじ殿は恋を成就させるために拙者に協力してもらいたいのでござるな?」とカメ太郎が尋ねた。

「そういうことになる」と吾輩は答えた。

「しかし、拙者には協力できることはないと思うでござるよ。拙者が知っている恋の知識と言えば、漫画や小説といった創作物の中で語られている知識だけでござるからなぁ」とカメ太郎は困り果てていた。

「そんなことは分かっておるわ」と吾輩はため息をつく。「だから、吾輩には恋を実らせるための秘策があるのだ」

「ほほう、それはどのようなものでござるか?」とカメ太郎が興味深げに尋ねてくる。「是非ともお聞かせ願いたいですぞ」

「いいだろう。教えてやる。それは……ズバリ、デートだ」と吾輩は尻尾をピーンと立たせる。

「デ、デートーー⁉」とカメ太郎が驚愕する。「あぃをゅぇぴじ殿がデートでござるか? 信じられぬ……

「何を驚くことがある。吾輩だって雄だ。好きな相手に好意を伝えたくなる時もある」と吾輩はゴルどんを撫でながら言った。

「あぃをゅぇぴじ殿は恋をしているのですか?」とカメ太郎が尋ねる。

「もちろんだとも」と吾輩は大きく首肯する。「吾輩はあの娘が好きなのだ」

「なんと! 拙者は驚きを禁じ得ませぬ」とカメ太郎が仰天する。「あぃをゅぇぴじ殿は恋愛に興味がないと思っていたでござる」

「失敬なことを言う奴め」と吾輩は尻尾をピンと立てる。「吾輩は恋をするのが初めてなだけであって、これから先はきっと恋をする機会が訪れるに違いないのだ。今はその予行演習をしておるところだ。いずれ本気の恋をした時に、その相手を惚れさせるための練習だ」

「なるほど。あぃをゅぇぴじ殿らしい考え方でござるな」とカメ太郎が感心する。「ところで、あぃをゅぇぴじ殿の想い人は誰なのでござるか?」

「それはまだ秘密なのだ」と吾輩は口元を歪ませる。

「そうでござるか」とカメ太郎は残念そうな表情を浮かべる。「それは楽しみでござる」

「まあ、待っておれ」と吾輩はニヤリと笑う。「近いうちに必ず教えるのだ」


吾輩はあぃをゅぇぴじである。恋について研究している。恋愛についての文献を読んでいる。恋愛映画を観ている。恋をテーマにした小説を読み漁っている。吾輩は恋というものに憧れているのかもしれない。吾輩は恋をしたいのだろうか。よく分からない。ただ漠然とした憧れを抱いているだけである。吾輩の身体の毛並みは淡灰色だ。漆のような斑入りではない。尻尾の先っぽだけが白い。それ以外は全身が純白の被毛で覆われている。尻尾が長い。長くてしなやかな尾だ。尻尾の先端はクルリと巻かれている。尻尾をピーンと立てれば、まるでネコマタのように見えなくもない。吾輩は猫型人工生命体だ。二足歩行の猫型人工生命体だ。二本足で立っている。直立歩行だ。吾輩は猫カフェで働いている。都内にある猫カフェだ。店内には五匹の猫がいる。全員、吾輩が育てた猫たちだ。吾輩は五匹もの子猫を育てたことになる。自慢ではないが、吾輩はかなり優秀な雄だと思う。吾輩の名前はあぃをゅぇぴじだ。吾輩の職業は店員である。下男でもある。下働きの下僕だ。接客業をしている。猫カフェでは店長代理を務めている。副店長みたいなものだ。店のオーナーから任されている仕事がある。それが吾輩の仕事なのだ。吾輩は客にお茶やコーヒーを提供する。注文された食べ物を運ぶこともある。レジを打つことも忘れてはならない。吾輩の役割は多い。責任重大だ。吾輩はいつも忙しく動き回っている。

吾輩は猫カフェで飼っている猫たちの世話を担当している。猫たちは自由奔放だ。気ままに行動している。そんな彼らを監督しなければならない。猫の一匹が脱走すれば、他の四匹にも迷惑がかかる。猫たちが喧嘩をしたら仲裁してやる。怪我をさせたら治療する。病気になったら看病する。吾輩は猫たちに手厚い看護を施してきた。吾輩は飼い主だと思っている。いや、違う。吾輩こそが主人なのだ。

吾輩は自宅マンションに暮らしている。高級賃貸マンションの一室だ。一フロアを貸し切ってある。吾輩の他には誰も住んでいない。吾輩の城である。この城は吾輩の所有物であり、吾輩の持ち物である。所有権を主張しても問題ないはずだ。

高級賃貸マンションの一室

吾輩の住まいは二LDKだ。寝室とリビングルームに分かれている。広い部屋だ。快適な空間だ。吾輩はこの部屋で寝起きをしている。一日の大半はベッドの上で過ごしている。床の上に下りるのはトイレに行くときぐらいだ。食事のときも同様である。猫たちと戯れるときはソファを使う。

吾輩の部屋にはテレビが設置されている。大型液晶テレビである。吾輩のお気に入りの品だ。映画鑑賞が好きなので、大きな画面のほうが迫力があって良いと思う。映画を鑑賞するときはソファに腰かけて楽しむことが多い。

吾輩の趣味は読書である。本を読むのが好きだ。図書館を利用することもある。だが最近は電子書籍を購入することが増えている。便利だし安いからだ。書籍代は経費として計上できる。吾輩には小遣いがない。給料は生活費に消えてしまう。吾輩の手元に残るのは雀の涙ほどしかない。しかしそれで充分だと吾輩は思っている。不自由はない。毎日が充実している。

吾輩は料理を作る。自分で食べるためだ。吾輩の身体を構成する栄養素は合成食品によって賄われている。栄養成分を摂取するためにサプリメントを飲むこともある。ただし吾輩は合成食品に頼らずとも生きていくことができる。食事を摂る必要はないのだが、吾輩は好んで食べている。美味しいものを味わうと幸せな気持ちになれるからだろう。

吾輩はゴルどんと暮らそうと考えている。ロボットと同居するつもりだ。ロボットと一緒に暮らすのは初めての経験となる。どのような生活になるのか想像できない。不安もある。しかし楽しみでもある。きっと楽しい日々を送ることになるはずだ。

吾輩はゴルどんと遊ぼうとしている。吾輩とゴルどんの関係は良好だと思う。吾輩とゴルどんは仲良しだ。お互いに信頼関係を築いている。吾輩はゴルどんのことを家族だと思っている。吾輩にとってゴルどんは特別な存在だ。

吾輩は今、都内にある猫カフェにいる。吾輩の職場だ。仕事が休みだったので遊びに来たのである。吾輩の仕事場には様々な猫がいる。吾輩の同僚たちだ。吾輩は猫たちの面倒を見ている。

吾輩は猫たちと会話ができる。吾輩は猫語を理解する能力を有している。猫たちは人間の言葉を理解していないようだ。人間の言葉を口にしてもニャーとしか聞こえないらしい。しかし吾輩は猫語を理解できる。猫と話せるのは吾輩だけだ。人間は猫語を話すことができない。猫と意思疎通を図ることはできない。残念なことである。

吾輩の目の前にゴルどんがいる。黄の毛並みを持つ子ロボットだ。まだ生まれて間もない。生後一カ月といったところだろうか。そのくらいの時期だろうと思う。

「ゴルどん。一緒に遊んでくれるかな?」と吾輩は声をかけた。

するとゴルどんは「ワフゥ」と返事をした。どうやら吾輩の問いかけに対して肯定の意を示しているようである。

吾輩はゴルどんと遊ぶことにした。何をして遊べばいいのだろうか? ボールでも投げようか。それとも追いかけっこをするべきなのか。いや、それではつまらない。何か別のことをしよう。そうだ。吾輩はゴルどんの頭を撫でることにした。ゴルどんの頭部にはセンサーが搭載されている。ゴルどんの頭の中は電子頭脳で埋め尽くされている。高性能の演算装置が備わっている。

吾輩はゴルどんの頭に触れた。優しく撫でた。ゴルどんの髪の毛はとても柔らかい。とても心地よい感触だった。

「ワフゥ……」とゴルどんが鳴いた。

吾輩はゴルどんの頭の上に乗ってみた。ゴルどんの頭の上に座った。なかなか良い座り心地だ。快適である。吾輩とゴルどんの身長差は約二倍ある。ゴルどんは四足歩行するロボットだ。吾輩は二足歩行する猫型人工生命体である。

吾輩はゴルどんの肩に乗った。ゴルどんの首に腕を回した。ゴルどんの背中に顔を近づける。ゴルどんの匂いを嗅いだ。ロボット特有の金属臭がする。しかし不快ではない。むしろ落ち着く。

「ワフゥ……ニャア!」とゴルどんは鳴いて、吾輩を振り落とした。

吾輩は床の上を転がって倒れた。痛かった。ゴルどんは乱暴者である。

吾輩はすぐに立ち上がった。ゴルどんの方を見る。ゴルどんは尻尾を立てていた。まるで怒りを表しているようだ。吾輩はゴルどんに嫌われてしまったのかもしれない。

吾輩はゴルどんと仲良くなりたいと思っている。ゴルどんとはこれから先ずっと一緒に暮らすことになるはずだから。

吾輩はゴルどんの頭の天辺を両手で掴んだ。ゴルどんは抵抗しなかった。大人しくしている。吾輩にされるがままの状態だ。ゴルどんの頭部は硬い。金属製の機械部品によって構成されている。ゴルどんの体はプラスチック製のパーツで構成されている。

吾輩はゴルどんの頭を撫でた。ゴルどんの髪の毛はとても柔らかくて気持ちが良い。

ゴルどんは「ワフゥ……」と鳴く。

吾輩はゴルどんと遊びたくなってきた。吾輩はゴルどんを抱きしめる。

「ワフゥ……」と鳴きながらゴルどんは吾輩の腕の中で暴れまわった。吾輩はゴルどんを離さないようにしっかりと抱きかかえる。

するとゴルどんの動きは止まった。吾輩の胸に顔を埋めている。吾輩の体からはみ出た尻尾がピーンと立っていた。尻尾の先端はプルプル震えていた。

「吾輩と一緒に遊ぼうではないか」と吾輩は言った。

「ワフゥ……」とゴルどんは鳴く。

吾輩たちは庭に出た。

吾輩は地面に横になった。仰向けになって空を見上げる。太陽の光が眩しい。日差しが降り注いでいるのがよく分かる。吾輩は目を細めた。

ゴルどんは吾輩の隣で寝そべっている。ゴルどんの目の部分にはカメラが搭載されている。赤外線センサーがついている。暗闇の中でも問題なく活動することができる。

吾輩はゴルどんの顔に触れる。

「ワフゥ……」とゴルどんは鳴く。

吾輩はゴルどんの体の上に乗る。ゴルどんの腹部の蓋を開く。ゴルどんの内部には電子機器がある。様々な機器が存在している。

吾輩はゴルどんのおなかの中に入った。

ゴルどんのお腹の中にいると安心する。温かくて居心地がよいからだ。

吾輩はゴルどんの頭の天辺に乗っかる。

吾輩とゴルどんの目線が合った。お互いの姿を確認することができた。

「ニャア!」と吾輩は鳴いた。

ゴルどんは「ワフゥ……」と鳴いて、尻尾を立てた。

吾輩はゴルどんの肩に乗った。ゴルどんの首に腕を回して抱きつく。

ゴルどんの背中に顔を近づける。ゴルどんの匂いを嗅ぐ。金属臭がする。しかし不快ではない。むしろ落ち着く。

「ワフゥ……ニャァーオ……」とゴルどんは鳴く。

吾輩はゴルどんと遊びたくなってきた。吾輩はゴルどんの頭にしがみついた。そのままジャンプする。ゴルどんの頭の上に移動する。

吾輩はゴルどんの耳元で「ニャア! ニャーオ!」と鳴く。

「ワフゥ……」とゴルどんは鳴いて、尻尾を立てる。

吾輩はゴルどんの頭の上から飛び降りた。吾輩は再びゴルどんの体の上に乗る。ゴルどんの胸の部分に移動する。吾輩はゴルどんの体をよじ登る。ゴルどんの大きなおなかを伝って頭部の方に向かう。ゴルどんの後頭部にある蓋を開ける。ゴルどんの口の中には歯や舌などが存在する。ゴルどんは食べ物を食べることができる。人間のように飲み物を飲むこともできる。ただし液体を飲み込む際には気管を通り抜ける必要がある。液体は食道を通過して胃に到達する。消化された食物はゴルどんの体内でエネルギーに変わる。吾輩はゴルどんの頭の天辺に登った。

「ニャアーオ」と吾輩は鳴く。

「ワフゥ……」とゴルどんは鳴いて、尻尾を立てながら頭を左右に振っている。どうやらゴルどんは眠たいようだ。瞼を閉じたままで動かなくなった。

吾輩はゴルどんの上で丸くなることにした。太陽の光が温かい。ゴルどんのおなかに寄りかかる。気持ちが良いので眠気が襲ってきた。

吾輩がまどろんでいると、「ワフ!」と鳴き声が聞こえてきた。

吾輩は目を開いた。ゴルどんが起き上がったのである。ゴルどんは前足を上げて伸びをする。「ワフゥ……」と鳴きながら欠伸をした。

ゴルどんは吾輩の方に顔を向けた。

「ワフゥ?」とゴルどんは鳴いた。

「ニャア!」と吾輩は鳴いて、ゴルどんの体の上で飛び跳ねた。

吾輩とゴルどんは見つめ合う。

吾輩はゴルどんの体に抱きつく。ゴルどんの体から温もりを感じる。ゴルどんの尻尾がピーンと立った。ゴルどんは嬉しそうだ。尻尾をフリフリさせている。

吾輩はゴルどんの頭の天辺に移動した。ゴルどんの顔を見下ろしながら思う。『この感情は何なのだろうか?』と疑問を抱く。

『楽しい』という言葉を吾輩は知っている。嬉しいという意味の言葉だ。

吾輩はゴルどんと一緒に遊んでいて楽しかった。楽しくて仕方がなかった。

吾輩はゴルどんの頬をペロリと舐める。するとゴルどんは目を細めた。ゴルどんは吾輩に顔を擦り寄せてくる。

「ワフゥ……。ニャァーオ」とゴルどんは鳴く。

「ニャーウ」と吾輩は返事をして、尻尾をピンッと立てた。

吾輩とゴルどんの遊びはまだ続く。吾輩とゴルどんは一緒に走る。

「ワフゥ! ワフゥ!」とゴルどんは鳴いて、尻尾をクルリと回す。

吾輩はゴルどんより先に走り出す。だがすぐに追いつかれる。ゴルどんは素早い動きでスイッチを入れたり切ったりする。尻尾を振り回しながら走っている。

吾輩は尻尾をピョコピョコと動かす。吾輩の体が宙に浮かぶこともある。

吾輩たちは河川敷にいる。吾輩とゴルどんの競争は続いている。

「ワフゥ!」とゴルどんは鳴いて、尻尾をピーンと立てる。頭の電球をピカピカさせる。

「ニャアー!」と吾輩は鳴いて、尻尾を大きく振る。

河川敷

吾輩はゴルどんよりも早く走れる。しかし勝負を長引かせるつもりはない。吾輩は一刻も早くゴールしたいと思っている。なぜならば、吾輩にはしなければならないことがあるからだ。

吾輩はゴルどんに向かって跳躍する。ゴルどんの頭の上に着地する。吾輩はすぐにジャンプしてゴルどんから離れる。吾輩の体は地面に落ちる前に空中で回転する。回転した勢いを利用して、今度はゴルどんのおなかの上に乗る。吾輩は背中まで移動してから再び跳ぶ。ゴルどんの肩に両足を乗せる。それからまた跳び上がる。

「ワフゥ!」とゴルどんは鳴いて、尻尾を立てる。ゴルどんの首にしがみつく。

「ニャァーオ……」と吾輩は鳴く。ゴルどんはゴロゴロと喉を鳴らしている。

吾輩とゴルどんは河原で遊んでいる。吾輩が勝ったのは最初の一回だけだった。それ以降ずっと吾輩が負け続けている。それでも吾輩は諦めない。ゴルどんとの遊びをやめる気は毛ほどもない。

ゴルどんと遊ぶことが吾輩の楽しみの一つなのだ。ゴルどんがいなければ、今の吾輩はいないだろう。

ゴルどんとの出会いは運命だったと思う。吾輩はゴルどんと出会うために生まれてきたのだ。そう考えると感慨深いものがある。

吾輩とゴルどんの出会いを語ることにしよう。

吾輩は河川敷にいた。その日は雨が降っていた。空は真っ暗だ。

吾輩は水溜まりを避けながら歩いていた。その時、目の前に一匹のロボットが現れた。

吾輩は立ち止まる。ロボットをじっと見つめた。

ロボットは二本足で立っている。人間のようだと思った。人間ならば二足歩行をするはずだから当然だ。

「ニャオゥ?」と吾輩は言った。

「ワフゥ」とロボットは鳴く。

吾輩はロボットを見上げる。このロボッ卜は何者なのだろうか?

「ニャオゥ。ニャーウ。ニャウ……ニャウ……ニャォーン」と吾輩は鳴き続ける。するとロボッ卜は吾輩に背を向けた。吾輩は驚いて鳴くのを止める。どうやら吾輩の言葉を理解していないらしい。

「ワフゥ」とロボッ卜は再び鳴くと歩き出した。

「ニャオオオン!」と吾輩は遠吠えをした。だがロボッ卜は一度も振り返らなかった。

「ワフゥ……。ワフゥ……」と吾輩は呟くように鳴いた。吾輩はロボッ卜を追いかけることにした。

吾輩はロボッ卜の後を追う。吾輩の後ろをゴルどんが走る。ゴルどんは吾輩の友達だ。

「ニャオゥ! ワフゥ!」と吾輩は叫ぶ。しかしロボッ卜の歩みに変化はない。まるで何かに導かれているかのごとく、ただ前へと進んでいく。

吾輩は息を切らせながら走り続けた。それでもロボッ卜には追いつけなかった。やがて吾輩は疲れ果ててしまった。これ以上は走れない。

吾輩は立ち止まり、その場に座り込む。呼吸を整えながら周囲を見回す。

ここはどこだろう? 吾輩は見知らぬ場所にいる。辺りは薄暗い。今にも雨が降り出しそうだ。風も吹いている。冷たい空気が肌を刺す。

吾輩は不安になった。どうしてこんなところにいるのだろう? 思い出そうとする。しかし記憶は曖昧だ。

その時、前方でガサゴソと音がした。吾輩はビクッとして体を震わせる。何の音なのか分からない。

音は徐々に大きくなっていく。吾輩はその場に立ち尽くしていた。逃げようという考えすら浮かんでこない。

吾輩の前に何者かが姿を現した。それは大きなロボットだった。銀色のボディをしている。金属でできた身体は頑丈そうで、頭からは角のようなものが生えている。

「ニャウ?」と吾輩は尋ねた。するとロボッ卜は首を傾げる。

「ワフゥ」とロボッ卜は鳴いた。その声はとても優しい響きを持っていた。不思議と心が落ち着く。吾輩は安心してロボッ卜に近寄った。

ロボッ卜の大きな手が伸びてくる。吾輩はその手に掴まれて持ち上げられた。

「ワフゥ」とロボッ卜は言う。

「ニャウ」と吾輩は返事をする。

ロボッ卜は吾輩を自分の顔の前まで持っていく。それから頭を撫でてくれた。とても気持ちが良い。ゴロゴロと喉を鳴らしてしまう。

「ワフゥ」とロボッ卜は言った。吾輩に話しかけているようだ。吾輩はニャーと鳴いて答える。

ロボッ卜の瞳がチカチカと点滅している。頭にある電球が光っているのだと分かる。

「ワフゥ。ワフゥ。ワフゥ……」とロボッ卜は鳴く。

「ニャウ……ニャウ……」と吾輩は答えた。何を言っているのか理解できない。でも吾輩の話をしてくれているような気がする。

ロボッ卜は吾輩を地面に下ろした。吾輩の足が地面に着くと、ロボッ卜は背中を向ける。そのまま歩き始めた。

「ニャウ……ニャウ……ニャウ!」と吾輩は叫んだ。行かないでほしい。もう少しだけ一緒にいてほしい。そんな思いを込めて鳴く。

だがロボッ卜は振り返らない。どんどん遠ざかっていく。吾輩は大きく手を振って見送った。やがてその姿が見えなくなる。

吾輩はその場に立ち尽くす。胸の中にぽっかり穴が開いた気分だ。寂しくて仕方がない。

その時、遠くの方から誰かの声が聞こえてきた。「あぃをゅぇぴじー! あぃをゅぇぴじー!」と聞こえる。

吾輩はハッとする。そうだ。吾輩には仲間がいるではないか。ゴルどんとカメ太郎が吾輩を迎えに来てくれたのかもしれない。

吾輩は駆け出す。ゴルどんたちの元へ向かうために。


吾輩は目を覚ました。体がブルリと震える。どうやら眠っていたらしい。夢を見ていたようだ。どんな内容かはよく覚えていないが、とても悲しい思いをした気がする。

吾輩は起き上がる。吾輩の寝床は畳の上だ。窓の外を見ると空が白んでいる。朝になったようだ。そろそろゴルどんたちが起きる時間だろう。

吾輩は立ち上がる。背伸びをした。うぅんと声が出る。

吾輩は部屋を出る。廊下を歩いて玄関まで向かう。

靴を履いて外に出た。

「ニャア」と吾輩は鳴く。

すると目の前に二足歩行のロボットが現れた。その顔は狼に似ている。全身毛むくじゃらだ。

吾輩は驚く。

「ニャオゥ?」と吾輩は尋ねるように鳴いた。

「オイラの名前はゴルどんだぜ」とロボットが言う。

吾輩の質問に答えてくれたらしい。

「ニャオオゥン?」と吾輩はさらに尋ねた。

「ワフゥ? ワウワッウワッウゥ……」とゴルどんは困った顔をする。首を傾げながら何かを考え込んでいる様子だ。

「ニャウ……。ニャウーッ!」と吾輩は怒った。どうして答えられないのか。それが分からない。なぜなのだ。

「ニャウ……ニャウ……」と吾輩は呟く。吾輩は悲しくなる。

ゴルどんは吾輩を見つめる。それから口を開いた。「ワフッ。ワフッ。ワフッ。ワフッ!」と彼は鳴く。

「ニャウ⁉」と吾輩は驚いた。吾輩の言葉を理解してくれたのだろうか。ゴルどんは微笑みながらゆっくりと首を振る。

どうやら違うらしい。

それなら何と答えたのか教えてほしいのだが、ゴルどんは何も言わない。

吾輩は考えることにした。ゴルどんは何と言ったのだろう。彼の鳴き声を思い出す。そういえばワフッと言っていたような気がする。ワフとは犬語でいう『こんにちは』という意味だ。ワフッということは『こんにちは』なのかもしれない。だがそれだけでは意味不明だ。他に言葉があるのではないだろうか。例えば『さようなら』『ありがとう』『またね』といった感じで、別の言葉を言った可能性もある。しかしワフッという言葉が挨拶以外の意味を持つとは思えない。そうなるとやはりゴルどんは『こんにちは』と鳴いたことになる。

吾輩は混乱する。ゴルどんは何を言っているのだろう。そもそも彼が人間だったらよかったと思う。そうしたら日本語で会話ができるのに。残念なことに彼は二足歩行をするロボットで、しかも犬っぽい見た目をしている。そのため言葉での意思疎通が難しい。それにしてもどうしてゴルどんはワフッなんて鳴いたのだろう。謎だ。

吾輩は考えることを止めた。もういいやと思ったのである。これ以上考えても無駄だ。きっとゴルどんにはゴルどんなりの理由があってワフッと鳴いたのだろう。彼を理解するためには、吾輩もまた日本語を学ばなければならない。

吾輩はゴルどんの背中を撫でる。ゴロゴロと喉が鳴る音が聞こえた。

「ニャウゥ」と吾輩は鳴く。するとゴルどんは振り向いた。彼は優しく笑う。その笑顔を見ると吾輩の心は和む。吾輩はゴルどんを信頼している。彼と一緒だと楽しい。心の底から安心できる。ゴルどんがいてこそ吾輩の人生といえるほど大切な存在だ。

「ワフゥ?」とゴルどんは尋ねるように鳴く。

吾輩は彼の問いかけに対してニャーと答える。それから目を閉じた。瞼の裏に映るのは、吾輩たち家族の姿であった。

吾輩の家族は全部で四匹いる。父母と兄弟二匹の五人兄妹だ。ちなみに吾輩以外はみんな雌である。

父の名は『ゴン蔵』。雄猫にしては小柄な体型をしており、いつも丸まっている印象がある。それでも吾輩よりは大きな体つきだ。尻尾が長く、先端だけ黒い毛で覆われているのが特徴的だ。耳はピンと立っている。目は金色だ。性格はのんびり屋さんだと思う。おっとりした口調で喋ることから、近所の子供たちからは『お爺ちゃん』と呼ばれているらしい。

母の名は『ミケ子』。母は三毛猫だ。彼女は父よりもさらに小柄で痩せ細っている。でも病気ではなく生まれながらの体質なのだそうだ。尻尾は短く、先っぽだけが白い毛に覆われていた。目の色は青色だ。性格は大人しい。吾輩や弟妹たちに何かあると、すぐに飛んでくる。お婆ちゃんみたいな存在だ。

母の兄弟は『トラ吉』『シロ助』である。彼らももちろん猫だ。『トラ吉』は茶色い縞模様が特徴の雄猫だ。体格は大きい。尻尾は長くないけれど、先っぽが白くなっていた。『シロ助』は真っ白な毛色をした雄猫である。尻尾は太く短い。彼もトラ吉と同じく体が大きめだった。

吾輩の家族について紹介しよう。まずは父である。次に母である。次は兄と姉を順番に紹介する。吾輩の名前は『あぃをゅぇぴじ』だ。この名前の由来はよくわからない。吾輩が生まれた直後に父がそう名付けたのだと聞かされただけだ。吾輩は生まれてからずっとこの名前で過ごしてきたので、特に不満はない。むしろ気に入っているくらいだ。ただ一つだけ文句を言うとしたら、漢字が難しすぎる。どうしてこんな名前にしたのかと問いただしたい気持ちになる。もしや吾輩をいじめようとして付けたのではないかと疑ってしまうほどだ。

吾輩たちは現在、庭にある物置小屋の中で暮らしている。屋根がないタイプの建物だ。扉を閉めると日差しが遮られるので居心地が良い。床には新聞紙が敷かれているので、その上に寝転ぶと温かくて最高だ。吾輩とゴルどんは毎日のようにここで遊んでいる。

吾輩の遊び相手は主にゴルどんである。彼は二足歩行をする犬のようなロボットだ。首から上が人間であり、それ以外はすべて犬の姿をしていた。尻尾は太く長い。頭の上には丸い耳がついている。口には牙があり、舌をチョロっと出したりする仕草はとても可愛かった。

ゴルどんは吾輩の兄にあたる存在だ。年齢はたぶん吾輩と同じくらいだろうと思う。しかし、見た目はどう見ても吾輩の方が年上に見えた。

「ワフゥ」とゴルどんは鳴く。それが彼の挨拶の言葉だ。吾輩は彼に近寄って頭を撫でる。すると尻尾をピーンと立てて喜ぶのだ。その様子がまた可愛いくて仕方がなかった。

ゴルどんの背中に飛び乗ったりしてじゃれ合うこともあった。そうしているうちに疲れてしまうこともあるのだが、それも楽しい時間だった。

吾輩たちの姿を見た近所の子供たちは『お爺ちゃんとお孫さんみたいですね』と言ってくれる。

そんなゴルどんだが、吾輩よりも先に生まれたのだという話だ。そのため吾輩のことを『あぃをゅぇぴじ』と呼ぶようになった。

ちなみに吾輩の名前は『あぃをゅぇぴじ』ではなく『あぃをゅぇぴじ』だ。でも発音が難しいらしく、みんなはいつも『あぃをゅぇぴじ』と呼んでいた。それでも別に構わないと思っている。

ところで吾輩たちの住んでいる家は一軒家ではない。庭に小さな倉庫が建っている。そこにはいろいろなものが置いてあった。例えば大きな段ボール箱があったり、鉄パイプや木材もあった。あとはバケツに入った水もある。これらは全て吾輩の玩具なのだ。吾輩は退屈なときには一人でこれらをいじっていた。

ある日のことである。吾輩は倉庫の中にあった木刀を口に咥えた。これは父から貰ったものだ。父は剣術道場の師範代をしている。昔はよく吾輩にも稽古をつけてくれた。

吾輩が構えると、隣にいたゴルどんが真似をして同じように木刀を構えた。

「ワフゥ?」とゴルどんは不思議そうな顔をしながら首を傾げた。

吾輩は彼の顔を睨みつけながら、そのままゆっくりと振り下ろした。もちろん当たらなかったが、少しだけ気分が良くなったような気がした。

その後も何度か素振りを繰り返した後で、吾輩たちは同時に地面に倒れ込んだ。お互いに息が上がっていた。ゴルどんはすぐに立ち上がろうとするのだが、吾輩はなかなか起き上がることができなかった。呼吸を整える必要があったからだ。

しばらく休憩してから立ち上がることができた。それから吾輩は再び木刀を構える。

今度はゴルどんに向かって攻撃する番であった。まずは軽く小手調べとして横薙ぎに振るうことにした。しかしゴルどんはそれを軽々と避けてしまった。

ならば次は上段からの打ち降ろしである。これなら避けられまいと思ったのだが、やはりゴルどんはひょいと身をかわす。

「ゴルどん! 何故避ける!」と吾輩は思わず叫んでしまった。ゴルどんは申し訳なさそうに大きな体を縮めていた。

「ごめんよ……」とゴルどんは小さな声で言った。

「よし、分かったぞ。貴様は吾輩の剣の力量を見極めようとしているのだな? それでは今から真剣勝負といこうではないか」と吾輩は提案する。

吾輩の言葉を聞いたゴルどんは一瞬で怯えた表情になった。尻尾をピーンと立ててブルブル震えている。どうやら彼は吾輩に対して恐怖心を抱いているようだ。

そんな態度を見せる彼を見て、吾輩はなんだか悪いことをしてしまった気持ちになってしまった。

「ワフゥ……」とゴルどんは小さく鳴きながら俯いてしまう。

このままだと気まずい空気になってしまうかもしれない。そこで吾輩は話題を変えることにした。

「ところでゴルどん。お主はこの家の中を自由に動き回ることができるのか?」と吾輩は尋ねる。

するとゴルどんは顔を上げて大きく何度も首肯する。「ワフッ……!」

「それは凄いな。この家は吾輩の家なのに、まだ一度も入ったことがない部屋があるのだ。そこを探検してみたいと思うのだが、お主に案内してもらうことはできないだろうか?」と吾輩は尻尾を揺らす。

「ワフゥ?」とゴルどんは不思議そうな顔になる。

「実は吾輩には秘密の場所があってだな……。そこは誰にも内緒にしておきたいのだよ。だからお主ならその場所を知っていてもおかしくはないと思って訊いてみたわけだ」と吾輩は尻尾の先っぽで顎の下を掻く。

「ワフゥー……」とゴルどんは大きな溜息をつく。

「もし嫌だと言うのであれば仕方がない。お主を信用しないわけではないが、もしもの場合は吾輩の秘密を守るためにお主を破壊しなければならなくなるからな……」と吾輩はゴルどんを睨みつける。

「わっふぅ……」とゴルどんは悲しそうな声を出した。

「よし、それでは行くとするか」と言って吾輩は歩き出す。ゴルどんもそれに従って付いてくる。

「ワフゥー……」と鳴く彼の言葉の意味は分からないが、おそらく吾輩の言うことに従うと言っているのだろう。

そのまま倉庫を出て廊下を進む。

「おぉ、これはまた凄まじい光景だな……」と吾輩は呟いた。目の前に広がる景色はまさに圧巻だったのだ。

壁一面に張られた大量の写真の数々。それらは全てカメ太郎の写真であった。彼は一日中カメラを構えていたに違いない。しかし、その割には綺麗に残っているものだ。

壁一面に張られた大量の写真の数々

「ワフゥー……」とゴルどんは何かを納得したような顔をしている。

「お主はカメ太郎が撮る写真をずっと眺めてきたんだろう? それで写真の保管方法について熟知していたのだな。だから保存状態が良いのであろう」と吾輩は尻尾の先っぽで顎の下を掻く。

「ワフゥ」とゴルどんは嬉しそうに鳴きながら尻尾をピーンと立てる。どうやら正解らしい。

「お主はカメ太郎のことをよく理解しているようだな。吾輩よりも付き合いが長いから当然か……」と吾輩は尻尾を揺らす。

「ワフッ!」とゴルどんは大きく首を縦に振る。

「ところでカメ太郎のことだが、お主から見てあいつはどんな奴なのだ?」と吾輩は尋ねる。

「ワフゥ」とゴルどんは答える。「あいどる」

「アイドル……?」と吾輩は目を細める。「それは一体どういう意味なんだ?」

「ワフゥ……」とゴルどんは困ったように鳴く。

「あぁ、すまなかった。お主に言っても分かるはずがなかったよな」と吾輩は尻尾の先っぽで顎の下を掻く。「要するにカメ太郎は大勢の人間たちから好かれているということなのか?」

「わふっ!」とゴルどんは力強く鳴いて尻尾をピーンと立てた。「そうかもしれないって言っているぜ」

「なるほどな……」と吾輩は尻尾の先で顎の下を掻きながら考える。「まあ、確かにカメ太郎の人気ぶりは異常だと言えるからな。吾輩だってカメ太郎のファンだと言えば嘘になるだろう。それにカメ太郎の周りには常に多くの人間が群がっているからな。人気者だということは間違いないのだろうな……

「ワフー……」とゴルどんは小さく鳴く。

「何だ、お主は違うのか?」と吾輩は尋ねる。

「あぃをゅぇぴじ……」とゴルどんは答える。「あぃをゅぇぴじのしゅじんこう……。それがオイラだぜ。だから、にんきものじゃないんだぜ」

「ほう……」と吾輩は尻尾の先っぽで顎の下を掻く。「つまり、お主の主人である『あぃをゅぇぴじ』というのは吾輩のことを指しているわけだな。この小説のタイトルにもなっているくらいだしな。お主の言う通り吾輩は猫型人工生命体であり、吾輩は主人公であるからな」

「ワフゥ……」とゴルどんは少し悲しそうな顔をしながら尻尾の先っぽで頬を掻く。「ちがいすぎるぜ……

「あぁ、分かったぞ。お主は吾輩に遠慮をしているのだな。吾輩は猫型の人工生命体であるが、吾輩自身は人間ではない。だから、お主とは立場が違うと考えているのであろう。しかし、そんなことは気にしなくても良い。吾輩とお主は同じだ。同じ存在なのだからな。そうだろ?」と吾輩は髯を動かす。

「ワフゥ……」とゴルどんは首を横に振る。「でも、あぃをゅぇぴじはちがうぜ」

「どうしてだ?」と吾輩は尋ねる。

「あぃをゅぇぴじはおとこのこだけど、あぃをゅぇぴじのしゅじんこうはおんなのひとだぜ」とゴルどんが尻尾をクルリと回転させた。

「なぬ?」と吾輩は目を見開く。「それは本当か? 吾輩の聞き違いではなく、本当に女だと申すのか?」

「ワフゥ」とゴルどんは小さく鳴いた。「あぃをゅぇぴじはおんななんだぜ。オイラにはわかるぜ」

「そうだったのか……」と吾輩は大きく息を吐き出した。「お主は『あぃをゅぇぴじ』が女性だということを知っているのだな。吾輩は知らなかった。まったく気づかなかった。ということは、お主は彼女のことをよく知っているということになるのか?」

「あぃをゅぇぴじのことを……? もちろんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラのおともだちだぜ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩いた。「あぃをゅぇぴじはあぃをゅぇぴじのしゅじんこうのことがだいすきだぜ。いつもおもっているぜ。あいしてるぜ」

「愛している……」と吾輩は尻尾をピーンと立てた。「吾輩が主人公のことを愛していなければおかしいではないか。なぜなら、吾輩は主人公なのだからな。吾輩の主人公は吾輩以外にありえない。主人公が愛する相手もまた、吾輩以外ありえぬのだ」

「ワフッ!」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の背中をポンと叩く。「あぃをゅぇぴじもおなじことを考えているぜ。あぃをゅぇぴじはあぃをゅぇぴじのしゅじんこうをあいしてるぜ。あぃをゅぇぴじはあぃをゅぇぴじのしゅじんこうのことばをまねしたいんだぜ」

「真似をしたいか……。それはつまり、吾輩の言葉を真似するということだな。ならば、お主には吾輩の言葉を教えてやろう。吾輩の言葉はなかなか難しいからな。覚えるのは大変かもしれん。しかし、頑張れよ。お主ならできるはずだ。吾輩が保証する。なんといっても、お主は吾輩と同じ存在なのだからな。お主は特別なのだ。特別の存在として、吾輩の言葉を覚えるのだ。分かったか?」と吾輩はゴルどんを撫でる。

「わかったぜ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の前足を払う。「でも、オイラはむずかしくてわからないことはきかないことにしているんだぜ。めんどうなことはいわないほうがいいって、まえにいわれたことがあるんだぜ。オイラはかんたんでわかりやすいことばをつかうようにこころがけているぜ」

「なるほど……」と吾輩は顎に前足を当てた。「確かに面倒事を避けようとするのは良い心掛けだ。だが、その考え方は間違っているぞ。物事には二面性がある。難しく考えれば考えるほど、分かりにくくなるものなのだ。それに、言葉というものは、たとえ難解なものであっても理解しようとする努力が必要だ。そうしなければ、相手に自分の気持ちを伝えることができないだろう?」

「そっかぁ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。「あぃをゅぇぴじのいうとおりだぜ。オイラはいままでしらなかったけど、あぃをゅぇぴじのおかげではじめてそのことをしったんだぜ」

「ふふん」と吾輩は胸を張り、尻尾を大きく振り回した。「それでは、お主のために簡単な言葉で話してやるとするかな」

「やったー!」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。「ありがとうだぜ! あぃをゅぇぴじのことがもっとすきになったぜ!」

「ワフッ!」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の背中をポンと叩く。「あぃをゅぇぴじのこと、だいすきなんだぜ!」

吾輩は嬉しくなって、尻尾をピーンと立てた。

「実はな、お主の言う『好き』という言葉は、『吾輩のことを愛している』という意味だ。お主が吾輩に抱いている感情だ。そうだな? お主の口からちゃんと聞きたいものだな。違うのか?」と吾輩はゴルどんの頭を尻尾でポンと叩く。

「ちがわねぇぜ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。「オイラはあぃをゅぇぴじがだいすきだぜ」

「ニャア」と吾輩は満足して喉をゴロゴロ鳴らした。

「オイラの『だいすき』は、あぃをゅぇぴじの『だいすき』とおなじくらいの『だいすき』なんだぜ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。「あぃをゅぇぴじのことがだいすきすぎて、いつもむねがいたくなるんだぜ。オイラはびょうきかもしれないぜ。あぃをゅぇぴじにみてもらおうとおもって、びょういんにつれていってもらったこともあるんだぜ。でも、どこにいってもなおらないんだぜ。あぃをゅぇぴじならなおせるとおもうんだけど……だめだよな……

「ニャオ」と吾輩はゴルどんのおなかの蓋を尻尾で叩いた。「何を言っているんだ。お主の心の中にある痛みなど、医者ごときに治せやしないさ。安心するがいい」

「ほんとうかい?」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。「それじゃあ、あぃをゅぇぴじにおねがいしたいことがあるんだぜ」

「何だ。言ってみろ」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩く。

「オイラのからだのなかにはいっている『せんごうエンジン』をとりだしてほしいんだぜ。それをつかえば、あぃをゅぇぴじは、なんでもできるんでしょう? あぃをゅぇぴじの『だいすき』をつくれるんでしょう? その『だいすき』でオイラのからだがこわれないようにしてくれるでしょう? そうすれば、オイラの『だいすき』がもっとおおきくなって、『あいをゅぇぴじだいすき』になるから……」とゴルどんが潤んだ瞳で吾輩を見つめた。

「ワフゥ」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩く。「それはできない相談だな。お主にはまだまだ生きてもらわねばならない。それに、お主の『だいすき』が大きければ大きいほど、お主の命が長くなるということでもある。『大好き』が大きくなるのは良いことだ。『好き』が大きくなれば大きくなるだけ、お主の寿命は長くなるだろう。そうやって生きていくのだ。まぁ、そんなことをしなくても、吾輩はお主のことをずっと愛しているぞ。お主が死ぬまで一緒にいてやるから、お主の『だいすき』を大きくするといい」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩く。

「ワフゥ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。「ありがとうだぜ。ワフゥ」と尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。

「ニャオ」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩く。「ニャオ」と尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。「ニャオ」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩いてから、尻尾の先っぽで自分の頭を叩いた。

「ねぇ、あぃをゅぇぴじ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。

「なんだ?」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩く。

「もしもだよ……もしもだけど……もしオイラがいなくなっても……それでもあぃをゅぇぴじは大丈夫かい? ずっとひとりぼっちでも平気かい? 寂しくないかい?」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。

「うむ」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩く。「吾輩にはお主がいるではないか。お主がいなくなったとしても、吾輩はお主のことを忘れたりしない。お主との思い出は決して色あせたりはしない。お主のことはいつまでも心のなかで大切にしてやろう。安心するがいい」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩く。

「ワフゥ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。「ありがとうだぜ、あぃをゅぇぴじ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。

「どういたしましてだ」と吾輩は尻尾の先っぽでゴルどんの頭をポンと叩く。

「ワフゥ」とゴルどんは尻尾の先っぽで吾輩の頭をポンと叩く。

「ニャオ」と吾輩は尻尾をピーンと立たせる。尻尾を揺らす。尻尾の先っぽで顎の下を掻く。尻尾の先っぽで喉をゴロゴロ鳴らす。尻尾の先っぽで頭の周りをグルリと回してから、尻尾の先っぽで鼻の穴を大きくする。尻尾をクルリと回転させる。尻尾の先っぽで頭をポンと叩く。不眠だ。不休だ。不老だ。吾輩は男の中の男だ。男のなかの男なのだ。男のなかの男になるために吾輩は毎日を全力投球している。吾輩の一日は朝から始まる。まず最初にすることは目覚めることだ。目を覚ますことである。目が開かなければ何もできない。目を開けるためには瞼を開けなければいけない。瞼を開くためにもやはり目を覚まさなくてはいけない。目覚めたら吾輩はまず初めに寝床の上で大きく背伸びをする。全身をピンと伸ばす。背中の筋肉を伸ばす。それから足の指先の運動を行う。四肢の先まで神経の末端にまで血液を送り込む。心臓の鼓動に合わせて足の先を動かす。この運動は体内の隅々にまで酸素を送ると同時に脳の働きを助ける働きがあるらしい。吾輩はこの運動によって身体中に血が巡るのを感じることができる。そのあとで朝食を食べる。カリカリとした食べ物を口のなかに放り込み、モグモグと噛みしめる。噛めば噛むほどに唾液が出てくる。飲み込めば食道を通り胃に到達する。腹の中で消化され栄養分となるだろう。吾輩の体の一部になるのである。吾輩はそのことに満足感を覚える。食べ終わった後は歯磨きだ。吾輩の自慢の白い毛並みをブラシで整える。爪の手入れも行う。耳掃除も忘れてはならない。吾輩の耳に垢など溜まっていて良いはずがない。吾輩の頭髪にも気を配る。頭の天辺から尻尾の先っぽに至るまで、丁寧にブラッシングする。

その後は散歩の時間である。吾輩は近所をゆっくりと歩き回る。日課として欠かすことのできない行為だ。散歩の途中に近所の公園に立ち寄ったりする。ベンチに座って休憩する。公園内には多くの動物たちがいる。犬や猫もいる。鳩もたくさんいる。スズメもたくさんいる。カラスもたくさんいる。彼らは吾輩を見つけると挨拶をしてくる。吾輩も彼らに対して礼儀正しく接する。お互いに手を振り合う。吾輩は彼らに手を振って別れを告げる。

吾輩の住んでいる家には庭がある。小さな庭だ。そこに生えている木の葉っぱを摘み取る。それを吾輩の食事とする。葉っぱをムシャムシャと食べるのだ。吾輩の好物のひとつである。他にも草花を食べたこともある。それらもまた美味であった。吾輩はそれらの植物を愛おしく思う。吾輩は自然を愛している。都会のど真ん中にある我が家の周囲には多くの緑が存在する。吾輩はそのことを嬉しく思っている。

吾輩の家の周囲は人通りが少ない。閑静な住宅街といったところだろうか。そんな場所に吾輩は暮らしている。吾輩の家族構成は一匹の雌猫と二匹の子猫である。名前は『あぃをゅぇぴじ』という。吾輩の名前はあぃをゅぇぴじなのだ。

吾輩は家族と共に仲良く暮らしていくつもりだ。これからの生活を楽しみにしている。吾輩はこれからもずっと生き続けるのであろう。

(終)



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