この先生きのこるには、とにかく、しなくてはいけへんことがあるのや。
せやけどダンさん、どうしたらええのやろう? どうしたらええかわかりまへん。……と、その時や!……ポン!……ポポン!……ポポポポーン‼ いきなり、へんな音が鳴りひびいたちうわけや。
いったいなんだ? なんの音だ⁉ ポポンって、いったいなにが鳴ったんだ? みんなはびっくりして、あたりを見まわす。
音はまだつづいとる。
ポポポポ⸻ン!!! ポポポポ⸻ン!!! ポポポポ⸻ン!!! ポポポポ⸻ン!!! ポポポポ⸻ン!!!
……それはふしぎないきものの鳴き声やった……。そのいきものは空からやってきていて、お月さまのようにまんまるなお腹をふくらませて空気をおなかいっぱいすいとったけれど(ゴチャゴチャゆうとる場合やあれへん、要は風船みたいになっとった)それができなくて困っとったのやけど今やっとできたちうふうでうれしそうに大きな声で鳴いとった。ほんでそれはだんだん小さくなって、やがて消えてしもた。
ほんでまたちーとの間すると今度はべつのトコから同じような声がきこえてきたちうわけや。
ポポポポ⸻ン! ポポポポ⸻ン! ポポポポ⸻ン! ポポポポ⸻ン! ポポポポ⸻ン! ポポポポ⸻ン!
……これはたいへんなことなのだぞよ〜ん!!! こないなことはこの世におぎゃあいうて生まれてはじめてのことやのでみんなすっかり驚いてしもた。でもだれもそのことを口に出せなかったちうわけや。だってそないなことを言ったりすればオノレが負けになってしまうかもしれへんからや。やからみんなだまってしもたまんま黙々と歩いたちうわけや。それでもやっぱり気になるのかチラッチラッとお互いの顔を見ながら歩いとるものもいたちうわけや。ぼくもそのひとりやったが、でもどうしてなのかよくわからなかったちうわけや。やけどなんでやねんだか急に胸の中がドキドキしてきたのや。まるで心臓が空高くまで飛んでいってしまいそうなほどや。
ポッポ⸻ン‼ ポッポ⸻ン‼ ポッポ⸻ン‼ ポッポ⸻ン‼ ポッポ⸻ン‼ ポッポ⸻ン‼
……とうとう我慢しきれなくなってぼくは叫んや。
ポポ⸻ン‼ ポポ⸻ン‼ ポポ⸻ン‼ ポポ⸻ン‼ ポポ⸻ン‼ ポポ⸻ン‼
……トコロが返事はなかったちうわけや。みんな黙ったまんまやった。
あれっと思ってまわりを見たちうわけや。
どなたはんもいなかったちうわけや。
いつの間にかみんなばらばらになってしまっとった。
ポッポポ⸻ン! ポッポポ⸻ン! ポッポポ⸻ン! ポッポポ⸻ン! ポッポポ⸻ン! ポッポポ⸻ン!
……みんやらなんやらこへ行っちゃったんやろう? あっそうや! 思い出したぞ! あの大きな音のあとで、先生は言ったやないか。
さあみなはんしっかりついてきておくんなはれね。もうすぐ森をぬけまっしゃろから。
……そうや! そうや! たしか先生はそう言っとった。
ぼくたちはあわてて後ろを振りかえろうとしたちうわけや。せやけどダンさん振りむくことはできなかったちうわけや。なんでやねんならば、ぼくたちの頭上には夜空よりも黒い闇があったからや。ほんでその中にうごめくようけの目と、耳をつらぬくような叫び声があったからや。その目はじっとぼくたちを見つめとるようやった。
ポッポ⸻ン! ポッポ⸻ン! ポッポ⸻ン! ポッポ⸻ン! ポッポ⸻ン! ポッポ⸻ン!
……それはどエライ恐ろしい光景やった。
その闇の中に、いったいだれがいるのやろうか? それはわかりまへんけれど、とにかくそれはひどくこわかったちうわけや。ほんで恐ろしさのあまり足がすくんでしまい動けなくなってしもた。どうしようもななんぼいこわくて泣きそうになりよった。
その時、となりにいた女の子が大きな声で悲鳴をあげたちうわけや。
キャ⸺ッ!!!……と。
その声にびっくりしてぼくは思わず目をつぶってしもた。ほんでまたゆっくりと目をあけると、そこにはもう何事もなかったかのように夜の闇の中へと消えていくみんなの背中が見えとった。
ほんでまた歩きはじめたちうわけや。
みんなは何ごともなくスタスタ歩いていく。
ぼくもそれにならって歩きはじめることにしたちうわけや。
ほんで、ほんでずっとあとになってからぼくは、なんでやねんだかわからなかったけど、あの時ぼくたちが見たのはきっとこの世のものやないんだちうことに気がついたのやった……。
* こうしてぼくらは無事に家に帰ることができたさかいしたちうわけや。
めでたしめでたし……。
さあ、みなはんもいっしょにおうちに帰ろうね。