【桃太郎13

昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんがありました。毎日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

ある日、お婆さんがいつものように洗濯をしていると大きな桃が流れてきました。お婆さんは慌ててそれを拾い上げました。そして家に持って帰り桃を割りました。すると中から元気の良い男の赤ん坊が出てきました。お婆さんはその赤ん坊をお爺さんと一緒に育てることにしました。その赤子は「桃太郎」と名付けられ、大事に育てられました。

それから何年か経ち、桃太郎は立派に成長していました。そんなある日のことです。鬼達が村を襲いました。人々は皆殺されてしまいました。お爺さんも例外ではありません。しかし、鬼達は何故かお婆さんの命だけは奪おうとはしませんでした。鬼達は言いました。「おい、お前! この女だけは生かしておいてやるぞ!」そう言って鬼達は去っていきました。

その夜、お婆さんは泣きながら桃太郎に伝えました。「ああ……ごめんなさいね。あんたには苦労をかけちゃってねぇ……。でも大丈夫よ。きっと村の人達も天国で応援してくれているわぁ……」お婆さんの言葉を聞き、桃太郎の目からは涙が溢れ出ました。「違うんだ、母上……。俺は何も出来なかった自分が情けないんだよ……」桃太郎は鬼達と戦いたかったのです。しかし、桃太郎の力はまだ幼く、とても鬼達に太刀打ち出来るものでは無かったのです。悔しさのあまり桃太郎は泣き続けました。そして夜が明けると、桃太郎は自分の荷物をまとめ家を後にします。それを見たお婆さんは急いで桃太郎を追いかけます。

桃太郎はある決心をしていました。それは自分の手で鬼を倒すということです。そのための準備は既に整っていました。まず手始めとして、鬼ヶ島の近くまで行く船に乗り込むと近くの海に浮かぶ小さな無人島に上陸することにしました。その島の近くには大きな岩がありました。桃太郎はその岩の上に登り周りを見渡しました。

しばらくすると遠くの方で漁をしていた一人の漁師が見つけました。「おお、こんな所に人が居るなんて珍しいなあ。ちょっと聞いてみるか」漁師はそう言うとその岩に近づきました。すると突然、岩の上にいた桃太郎が叫び声を上げました。「今だ‼」猟師は驚いた様子で振り返りました。次の瞬間、桃太郎の蹴りが漁師の顔に炸裂しました。その衝撃で漁師の首は吹き飛び、首を失った胴体はそのまま倒れ込みました。「チッ、しまった。やり過ぎたか」桃太郎は反省するように呟きました。

一方その頃、お婆さんは家で桃太郎の帰りを待っていました。「まだなのかしらねぇ? もう夕方なのに……」お婆さんは夕飯の支度を始めようと包丁を取り出しました。するとそこへ家の扉を叩く音が聞こえました。「誰だい?」お婆さんは不思議に思いながらも扉を開けました。そこには鬼達が立っていました。「こんばんは、お婆さん」鬼達は挨拶をしました。鬼達の姿を見てお婆さんは驚きました。何故なら、そこに立っていた鬼達は昨日のお婆さんの命を狙ってきた鬼とはまるで違っていたからです。「なんでぇ、鬼のくせに良い人面してやがるぜ。気味悪いな」お婆さんの後ろに隠れていた桃太郎が鬼に向かって悪態をつきました。「お前か‼ よくも漁師を殺してくれたな!」お婆さんが怒って言いました。桃太郎は面倒くさそうな顔をしました。「あー、あの爺さんの仲間かい」桃太郎は興味無さげに言いました。「ふざけんじゃないよ! この落とし前、どうつけてくれるんだい⁉」「うるさいババアだな」桃太郎は不機嫌そうに言いました。「何だと、このクソガキィ」お婆さんは桃太郎を睨みました。桃太郎はお婆さんを無視し、鬼達に話しかけました。「あんたら、あの爺さんに雇われたのか?」「そうだ、我々はお前の命を奪いに来たのだ!」鬼達は怒りの形相で言いました。「ああ、やっぱりね。だったら話が早い。おい、お前達! 殺っちまいな!」桃太郎はお婆さんと鬼達を交互に見ながら言いました。「「「承知!」」」お婆さんは驚いて言いました。「お前、一体何を言ってるんだ! 鬼達は武器も何も持っていないだろう!」桃太郎は無言のまま鬼達に襲いかかりました。しかし、その攻撃はあっさり避けられてしまいました。「フン、そんなものかい。口ほどにも無いねぇ」桃太郎は余裕たっぷりの様子です。しかしその時、お婆さんが桃太郎に飛びかかりました。「死ねェ!!!!」「おっと、危ねえ!」桃太郎は素早くお婆さんの頭を掴み、地面に叩きつけました。お婆さんは気を失ってしまいました。桃太郎は鬼達に向かいこう叫びました。「さあ、早く殺しなよ! このババアをさぁ‼」鬼達は戸惑いました。「う、嘘だろう……。俺達、仲間じゃなかったのかよ……」「このクズ共がァ‼ 鬼の分際で人間の真似事してんじゃないよォ‼」桃太郎は叫びました。「俺様は桃太郎だぞ‼ 俺様に歯向かう奴らは皆殺しにしてやるぜ‼」「わ、分かった……もう止めてくれ……俺達が悪かった……頼む……許してくれ……!」「馬鹿野郎、許すわけねえだろ! お前らはもう、死ぬしか無いんだよォ‼」「ヒイイ……‼」

桃太郎は鬼達にとどめを刺そうとしました。すると次の瞬間、空から何かが降ってきました。「ぐえっ」それは桃太郎の上に落ちました。「こ、これは……雉男の糞⁉」桃太郎は急いで立ち上がりました。そして周りを見渡すと、遠くの方で雉男がこちらを見て笑っているではありませんか。「くそっ、あいつの仕業か‼」桃太郎は慌てて逃げ出そうとしました。その瞬間、桃太郎は背後から何者かに首を掴まれました。それは犬助でした。桃太郎は必死に抵抗しましたが、とても敵いません。桃太郎は地面から足が離れ、持ち上げられてしまいました。「うおおおおおおおおおおおお!!!」桃太郎はそのまま犬助と共に上空高く飛び上がりました。そして地面に激しく落下しました。ドゴオオオオンという凄まじい音を立てて、家もお婆さんも一瞬で吹き飛んでしまいました。桃太郎は気絶してしまいました。「ああっ‼ 私の家が‼」「良かった、無事だ」お婆さんは無事のようです。犬はお婆さんの前に立ち、牙を剥いて威嚇しています。猿は木の上からその様子を見て笑っています。雉男は空中を優雅に舞いながら、桃太郎と犬を嘲笑いました。「ヒャーッハッハ‼ この猿と雉に勝てるかな?」「うるせぇ、てめぇこそ、今度こそ殺してやるよ!」桃太郎は目を覚まし、犬と猿に指示を出しました。「行くぜ、犬、猿! 雉男も手伝え!」桃太郎は鬼ヶ島へ向かって駆け出しました。「待ちやがれ!」「逃がすかよ!」桃太郎を追いかける三人。「ヒャアッハッハー!」桃太郎は鬼ヶ島に着くまで止まろうとしませんでした。「チイッ、しつこい連中だ」桃太郎は鬼ヶ島に着きましたが、そこには誰もいませんでした。「クソ、また騙されたのか! おい、あの爺を探せ!」桃太郎一行は鬼ヶ島を隈無く探しました。しかし、やはり何処にもいません。すると突然、桃太郎一行の背後に鬼が現れました。桃太郎は鬼を殴り飛ばしました。犬と猿も鬼を噛み殺したり、爪で切り裂いたりします。しかし雉男は、鬼達を次々と撃ち落としていきます。桃太郎達の攻撃によって、鬼達はどんどん数を減らしていきます。しかし、鬼達は倒れても消えず、すぐに復活してしまうのです。それを見た桃太郎は、鬼を一体ずつ倒すのではなく、鬼達の中心に飛び込みました。「このクソ野郎共がァ‼ まとめてぶっ殺す!」桃太郎は刀を抜くと次々と鬼達を斬りつけました。犬と猿は桃太郎の攻撃を邪魔しないように、周りの鬼達に襲いかかりました。「これで終わりだァ‼」最後の一匹を斬ると、辺りには血の海が広がりました。桃太郎はお婆さんの元へ戻りました。「さあ、帰ろうぜ」「ああ、そうだね」桃太郎はお婆さんを背負い、犬、猿、雉を連れ、自分の家に帰りました。(了)



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