【桃太郎18

昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんがありました。毎日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

ある日、お婆さんが川で洗濯をしていると大きな桃が流れてきました。お婆さんは家に持ち帰って割ってみると中から女の子が出てきました。名前は桃ちゃんと言いました。二人はこの子を育てることにしました。

桃ちゃんはすくすくと育ち、とても可愛らしい少女になりました。しかし、困ったことが一つありました。桃ちゃんはとても強く賢い娘だったのですが、なんと言っても見境なく暴れ回る癖があったのです。ある日、隣村では畑を荒らしまわる熊が出没しており、村人たちが困っているとの知らせが入りました。お爺さんとお婆さんはこの話を桃ちゃんに聞かせると、桃ちゃんは「私が退治してやる」と言うと止めても聞かず一人で隣村まで出かけてしまいました。桃ちゃんの帰りを待つ間、お爺さんとお婆さんは心配していました。夜になると桃ちゃんはまだ帰らず不安そうにしていました。すると外から激しい音が聞こえてきました。二人が外に出てみるとそこには傷だらけになった桃ちゃんの姿がありました。

桃から生まれた女の子

桃ちゃんは、「隣村のやつらめ! 私の力を見せ付けてやったわ!」と言いながら倒れました。二人は急いで手当てをしてあげました。しばらくすると目を覚まし、泣きじゃくり始めました。桃ちゃんの話によると隣村は大変な騒ぎになっており、その混乱に乗じて自分の力を示すことが出来たとのことです。しかし、その後どうなったのか分からないとも言いました。

桃ちゃんの怪我が良くなるまでの間、二人はお見舞いに行っていました。すると、隣の村長が二人を訪ねてきて、桃ちゃんのお陰で助かったことへの感謝を述べました。桃ちゃんは自分の力が役に立ったことを喜び、再び旅に出ることを告げました。今度はもっと遠くへ行って、沢山の人達を助けようと意気込んでいます。

桃ちゃんが再び旅に出てしばらく経ちました。お爺さんとお婆さんの家に一人の男が訪ねてきました。

男はこう名乗って言いました。「私は、桃ちゃんの一番の味方であり理解者でもあり、親友でもある浦島太郎というものだ。以後よろしく頼む。実は先日、私は海で釣りをしていたのだが、急に大漁となったのだ。しかもそれは私だけでは無く他の人達も同じであった。そこで、気になって海に潜ってみた所、大きな魚がたくさんいたのだ。それを見た私はこれは何かあると思い、すぐに家に帰った。そして妻と子供にこのことを話したところ、妻が『きっと神様がお祝いしてくれているんだ』と言ったので、今日は祝いの席を設けることにした。お爺さんとお婆さんも是非来てくれないか?」

お爺さんとお婆さんは喜んで誘いに乗りました。三人で海の方へ向かいます。そこには小さな小屋がありました。中に入ると綺麗に飾り付けがされています。お爺さん達は座布団に座って待っていると、桃ちゃんがやってきました。「おーい、お爺さんとお婆さん、待った? 遅れてごめんね。でも大丈夫だよ。まだ料理とか飲み物の用意が出来ていないから。それに主役は後から来るもんでしょ」お爺さんは、早速来たぞと笑いました。しばらくすると、漁師達が酒や食べ物を持ってきてくれました。みんなが揃ったところで乾杯します。とても楽しい宴になりました。

お爺さんは漁師達にお礼を言いました。お婆さんは漁師達にもてなされてすっかり上機嫌になりました。お婆さんは酔っ払ってしまいました。

夜になり、お爺さんとお婆さんは自分達の家に帰りました。桃ちゃんは酔いつぶれて眠ってしまったようです。

次の日の朝、お婆さんは台所へ水を飲みに行きました。台所ではお爺さんが朝ごはんの準備をしていました。お婆さんに気づいたお爺さんは「おはようございます。よく眠れたかい?」と挨拶をしました。お婆さんは少し考え事をしていたようで、生返事しか出来ませんでした。しばらくして、昨日のことが思い出されたのでしょう。お婆さんの顔がみるみると青ざめていきました。「お爺さん! 大変なことが起きたよ! あの子を……桃ちゃんを一人残してきてしまった! 早く探さないと!」と叫びました。お爺さんは、何があったのか詳しく聞くと、急いで桃ちゃんを探しに出かけました。しかし、いくら探し回っても見つかりません。そのうち日も暮れてしまいました。お爺さんとお婆さんは途方にくれていました。すると、どこからともなく、「お爺さん、お婆さん、私ならここにいるわ」と声が聞こえてきました。二人は驚いて辺りを見回してみましたが、誰もいません。しかし、お婆さんは気付きました。「桃ちゃんの声だ! 桃ちゃんは無事だったのかい⁉」お婆さんは桃ちゃんに声をかけました。すると、また同じ場所から、「えぇ、私は元気よ。安心して」と答えました。

お爺さんとお婆さんはホッとして、お互いに顔を見合わせました。すると、桃ちゃんが続けて言いました。「実は、私はずっとあなた達の側を離れなかったの。そして二人を見守っていたの。そうすることで私は強くなっていけると思ったから。でも、私が側にいたからといって、何も出来ない。私は弱いままだから。でもね、私はこの村に来て、皆に出会って、少しだけど変われた気がするの。お爺さんとお婆さんも私と一緒にいたら、きっと変われるはず。さぁ、行きましょう。鬼ヶ島へ」

こうして三人の旅が始まりました。お爺さんとお婆さんと桃ちゃんの三人は、漁師や村の人達に助けられながら、旅を続けました。途中、犬、猿、雉も加わり、合計六人になりました。一行は順調に進んでいきました。そして遂に、鬼ヶ島の近くまでやってきました。一行が歩いていると、一人の少年が話しかけてきました。

「僕は浦島太郎といいます。皆さんはこの先に用があるのですか?」浦島太郎は、とても礼儀正しい人でした。浦島太郎の話によると、彼は今からお城に遊びに行くということです。浦島太郎についていくことにしました。しばらく歩くと、大きな門が見えてきました。浦島太郎が門番に話し掛けると、門が開きました。城の中にはたくさんのお宝がありました。

お爺さんは、桃太郎にお土産をあげようとお宝を探して回りました。「私はこれが良いと思うわ。亀の甲羅でできた背負い籠なんてどう?」「それは良いね。桃太郎には、宝物を集めるのが好きみたいだしね。じゃあ、それを貰おうか」「では私もこれが良いと思います。龍宮城の玉手箱というのは如何でしょうか? これを持っていれば、どんな願い事も叶うという言い伝えがあります」桃ちゃんが提案し、お爺さんが賛成すると、浦島太郎も同意してくれました。一行はお宝を手に入れました。

それから、お爺さん達は帰り道につきました。海で漁をしている漁師達とも出会いました。「おーい、そっちは帰りかい? もし良かったら、一緒に行かないかい? 人数は多いほうが楽しいからな。それに、こっちは魚が沢山捕れるぞ!」と、声をかけられました。お爺さんは、「お言葉に甘えて、そうさせて頂こう」と言いました。その日は、海の幸をたらふく食べて、疲れを癒しました。

次の日、漁師に別れを告げ、再び帰路につくと、そこには巨大な桃の木がありました。「なんでしょう、この木は! まるで天にも届くようです! 一体いつこんなものが生えたんだろうね! とにかく登ってみようよ!」と桃ちゃんは言いました。しかし、木登りが得意なお爺さんでさえ登ることはできませんでした。すると、「俺に任せろ! お前らはここで待っていてくれ! 俺はこの木よりずっと高く飛べるからな。木の上に登れば、すぐにでもお家に帰れるぜ!」と猿彦が言いました。しかし、いくら待っても猿彦は戻ってきません。痺れを切らしたお爺さんとお婆さんは、「仕方がない。二人で先に進むとしよう」と言って、進み始めました。ところがいくら歩いても出口は見えません。

「ここは何処だろう? 同じところをぐるぐる回っているだけじゃないか?」「もしかしたら、私たちは迷ってしまったのかしら」と途方に暮れていると、遠くから「お爺さん、お婆さん、私ならここにいるわ」と声が聞こえてきました。二人は驚いて辺りを見回してみましたが、誰もいません。しかし、お婆さんは気付きました。「桃ちゃんの声だ! 桃ちゃんはまだ近くにいるに違いない」お婆さんは桃ちゃんに声をかけました。すると、また同じ場所から、「えぇ、私は元気よ」と答えました。

お爺さんとお婆さんは、桃ちゃんがいると思われる場所に進んでいきましたが、一向に辿り着きそうな気配はありません。何時間歩いたことでしょうか。とうとうお爺さんは倒れてしまいました。もう歩けないと言うのです。お婆さんもその姿を見て、その場に座り込んでしまいました。その時、突然目の前に大きな桃が現れました。「お爺さんとお婆さん、私はあなた達のことをずっと見ていました。あなた達が私の側に来た時、私はすぐに分かったの。あなた達の心の中に迷いがある事に。私と共に進むことで、あなた達の心の迷いを断ち切る事ができる。さぁ、一緒に行きましょう。きっとお家の方も心配しているはずよ。お爺さん、お婆さん、大丈夫?」と桃ちゃんが語りかけました。お爺さんとお婆さんは、その優しい言葉を聞いて涙を流しました。そして、お爺さんと、お婆さんと、桃太郎の三人は、桃に乗って先に進んでいくのでした。(了)

(終)



inserted by FC2 system