【桃太郎19

昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんがありました。毎日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

ある日、お婆さんが川で洗濯をしていると川の上流から大きな桃が流れてきました。お婆さんは大きな桃を持って帰り、家に持ち帰ると割ってみたところ、中から元気な女の子が出てきました。「オギャー」お婆さんとお爺さんはとても喜び、女の子には桃ちゃんという名前をつけました。そして二人は大切に育てることにしました。大きくなった桃ちゃんはお爺さんとお婆さんの手伝いをしながら暮らしていました。しかし桃ちゃんは自分の生まれた理由を知りませんでした。

ある時、お爺さんとお婆さんは言いました。「いいかい桃ちゃん、よく聞きなさい。わし達は鬼ヶ島に行って悪い鬼を退治しないといけないんだ。だから、わし達が居なくなる間この家を守ってくれるかな?」「うん! 分かったよ!」「でも、桃ちゃん一人じゃ危ないわね……。そうだ! 一緒に旅をする仲間を見つけましょうか」「わーい! 嬉しい!」桃ちゃんは一人で寂しかったのです。こうして、桃ちゃんは犬と猿と雉を連れて旅に出ることになりました。桃ちゃんたちは船に乗って海を渡り、鬼ヶ島を目指しました。途中で出会った犬、猿、雉も仲間に加えると桃ちゃん一行は鬼ヶ島に到着しました。鬼ヶ島では、たくさんの鬼たちが宴会を開いていました。そこへ突然、桃ちゃん率いる一行が現れました。

するとどうでしょう? 鬼たちの態度が一変して丁寧なものになりました。そして歓迎の宴が始まりました。沢山の御馳走が出され、お酒も出てきました。桃ちゃん一行は御馳走を食べたり、酒を飲んだりして楽しんでいます。その最中、一人の鬼が桃ちゃんの前に現れました。鬼は「私の名前は鬼次郎と言います。桃ちゃん様のお噂は聞いております。是非とも弟子にしてください。どうかお願いします」と言いました。「私は桃ちゃん。あなたを私の家来にしましょう。これからよろしくね。鬼次郎くん」

こうして、鬼次郎も加わりました。それから数日後の事でした。桃ちゃんは犬、猿、雉を呼び出しました。そして犬に尋ねました。「ねぇ犬さん、猿さん、雉さん。今更だけど私が何故生まれたのか知ってる?」猿が答えました。「ああ知っているぜ。お前さんは鬼ヶ島へ行く途中に立ち寄った村で、妊婦だった婆さんに『桃から生まれた子供なので、桃ちゃんと名付けます』と言ったら、そのまま桃から生まれたんだよ。全く笑える話だ。ハハハッ!」

それを聞いた鬼が笑い出しました。桃ちゃんは続けて言いました。「それで……お爺さんとお婆さんが誰なのか教えてくれない?」

犬、猿、雉は何も言わずただ下を向いてしまいました。桃ちゃん一行は、お爺さんとお婆さんの名前を知りません。鬼が桃ちゃんに近づきました。「桃ちゃん、それは言えません。もし言ってしまえば、お二人は殺されてしまいます」

桃ちゃんは少し考えた後、「大丈夫だよ。きっとお爺さんとお婆さんはこの近くに居るはずよ。探してくるね」と言って、どこかへ行ってしまいました。残された鬼たちは慌てて追いかけようとしましたが、もう手遅れでした。お爺さんとお婆さんを探しに旅に出た桃ちゃん一行は、まず最初に犬の家を訪れました。家の前にはお爺さんが立っており、お婆さんは縄で縛られていました。「桃ちゃんかい? よく来たな。お婆さんは無事じゃぞ」お爺さんがそう言うと、桃ちゃんの後ろから現れた鬼たちが叫び声をあげました。「お婆さん!」お婆さんは桃ちゃんの方を見ると、笑顔を見せました。「桃ちゃんかい! 良かった。無事だったんだね」お爺さんが言いました。「お婆さんを解放してあげなさい」お爺さんは剣を抜いて桃ちゃんに向けて構えました。「桃ちゃん、覚悟!」

桃ちゃん一行と鬼の戦いが始まりました。しかし、鬼の方が数が多く苦戦しています。「桃ちゃん! こっちは任せて、お爺さんを何とかして!」桃ちゃんは、鬼たちの攻撃を避けながら言いました。お爺さんと戦っているのは、桃ちゃんのペットである犬です。他の三人はお婆さんの解放に向かいました。猿は木の上に逃げています。「猿彦、木の上に逃げるなんて卑怯よ! 降りてきなさいよ!」「やだね!」猿は木の上で猿の真似をしています。犬と鬼は激しい戦いを繰り広げています。猿と雉は無事にお婆さんを助け出すことに成功しました。「お婆さん! 助けに来たよ!」犬と鬼はまだ戦っています。雉は、犬と鬼に気づかれないように木の上に戻りました。「桃ちゃん! 今のうちに早く! 私達のことは気にしないで!」犬と鬼はお互いにボロボロの状態です。お婆さんも縄で手を縛られたままで動けません。桃ちゃんは、お爺さんとの戦いで既に体中傷だらけでした。桃ちゃん一行と鬼たちとの戦いは終わりを迎えようとしています。桃ちゃん一行は犬と鬼を残してその場を去りました。

一方その頃、鬼ヶ島では……。「おのれ桃め! 許さないぞ!」お爺さんが叫びました。すると、桃ちゃん一行は犬と鬼を残してきた場所に戻ってきました。「お爺さん、ごめんね。私はこれから鬼を退治しに行ってくるわ」お爺さんは桃ちゃんを引き止めました。「待ちなさい桃ちゃん。鬼退治はワシに任せておきなさい」桃ちゃんは、自分の身を犠牲にしてまでお爺さんを止めたいと思いませんでした。「ありがとう、でも自分で決めたことなの。それに私にはこの仲間がいるから大丈夫」桃ちゃんは鬼たちに話しかけました。「みんな、今まで本当にありがとう! 私の夢を叶えてくれて。私が帰って来るまでに死ぬんじゃないよ」そして桃ちゃんは鬼ヶ島へと出発しました。

(終)



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