【桃太郎28

昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんがありました。毎日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

ある日、いつものように、お婆さんが川で洗濯をしていると、川上の方からドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました。お婆さんは大喜びして、その桃を切り割りました。すると中から元気な男の子が出てきました。「おぎゃあ」と泣き声を上げたその子をお婆さんは大切に抱き上げ、「よいしょっと」と言いながら家の方へと連れていきました。

しばらくして、お婆さんは、子供を抱いて台所に立ちました。そして包丁を手に持ち、トンテンカンテンと、子供の手足を切って、五体バラバラにしてから鍋に入れてグツグツ煮込み始めました。それをお爺さんが食べると若返り、力が湧いてきたそうです。

さて、子供だった桃太郎はどうなったかと言うと……、目を覚ますと知らない場所に立っていました。そこは見渡す限り白い空間であり、目の前には白髪で髭を生やし赤い服に白いエプロンを着た老人と、銀髪ロングヘアでメイド服を着た美女が立っていました。

老人の方が口を開きました。「桃太郎君、君をここに呼んだのは他でもない……。君は死んだのだ……」桃太郎は「えっ?」という顔をしました。「どうして私が死んでいるんですか⁈」「実はね、私は神様なんだけれど、間違って君のことを天国に送るボタンを押してしまったんだよね……。そこで私は思ったんだよ。このミスを何とか誤魔化せないかなってね」「それで思いついたのがコレよ! ドドンッ‼」と美女が言うと同時に、突然床に大きな穴が空きました。そこには沢山のお札が貼ってありました。「桃太郎さん、ここから飛び降りてくださいませ♪」美女が楽しげに言いました。

桃太郎は震え上がりました。だってそれは高い所が苦手だからではなく、その穴の下から腐臭と怨念が漂ってきたからです。よく見るとお札もボロボロになっており、今にも何か出そうな様子でした。

しかし、ここで拒否してしまえば自分は確実にあの世行きになるでしょう。そう考えた桃太郎は意を決して穴に飛び込もうとします。

その時、老人が桃太郎を呼び止めました。「待て、私ならお前を助けられるぞ」桃太郎は振り向きます。「本当ですか⁉」老人は自信満々な顔つきになりました。「ああ、勿論だとも。何せ、私は神なのだから。さあ、私の力を信じろ‼ ほら、早く手を取れ‼」

桃太郎は手を伸ばしました。そして二人は固い握手を交わしました。「さようなら、桃太郎。また会う日まで」お婆さんが涙目で言いました。桃太郎は涙を流しながら答えます。「さようなら、皆さん。いつかきっと会いましょう」こうして桃太郎はこの世から消え去りました。

その後、桃太郎の行方を知る者は誰もいませんでした。

おしまい。



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