むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがありました。まいにち、おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると川上からドンブラコッコと桃が流れてきました。
「おおっ、これは珍しい! たまには川に遊びに来るのも悪くないわい」
桃の中には元気な男の子が入っておりました。
「この子が、あの有名な桃太郎か? いや、しかし、こんな所に桃だけ流れてくるわけもない……誰かに似ているような気もするが……まぁいい、名前を付けてやろう。うーん……そうだ、お前の名前はタローだ!」
こうして、おばあさんの孫になった桃太郎は大切に育てられることになりました。大きくなった桃太郎はお爺さんとお婆さんの言いつけを守り、毎日村人たちと一緒に畑仕事に励みました。そして、十五歳になった時、ついに鬼退治に行くことが決まりました。桃太郎は出発の準備を終え、家の前でお爺さんとお婆さんに別れを言いました。
「さて、行くとするかな……」
「待って下さい! 桃太郎様‼」
そこに現れたのは一匹の猫でした。
「おっと、失礼しました。私めは名をクロと言いまして、実はあなたのお供になりたく思い参上いたしました」
「なんだと?」
「あなたは昔々、鬼ヶ城と呼ばれる島に住んでいた悪い鬼たちを退治して人々を救ったという偉大な方の子孫にあたる御方だと聞いております。どうか、その偉業を今一度、私のご先祖様に成り代わり成し遂げて頂けないでしょうか?」
「ほう、つまりは、わしが鬼退治に行く代わりにきびだんごをくれると言うのだな?」
「はい。そうですとも。何卒よろしくお願いします」
「ふむ、それなら引き受けよう。だが、きびだんごだけでは不安じゃのう。そうだな……よし、もう一つだけ願いを聞いてくれれば行ってやってもいいぞ」
「分かりました。それでしたら何でも仰ってください」
「まずは一つ目だ。わしを桃から生まれ変わらせてくれ!」
「それは無理です」
「なんでもと申したではないか!」
「はい、確かに申し上げましたが、やはり無理なものは無理です。諦めてください」
「ぬぅ〜……では、二つ目だ。桃太郎という名はやめて、別の名前に変えよ!」
「それも無理です。もう登録されていますので変更できません」
「ぐぬぅ〜……ならば、最後にして最大の願いだ。わしもタローという名前にしてもらいたい‼」
「……いいでしょう。それくらいなら大丈夫です。では、手続きをしておきますね」
こうして桃太郎改めタローは無事お供と共に鬼ヶ島へ辿り着きました。そして、鬼たちを次々とやっつけて行きました。そして最後のボスである鬼王を倒し、遂に鬼退治を終えたのです。めでたしめでたし。