【桃太郎30

昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんがありました。毎日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

ある日、お婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が流れてきてきました。「これはきっと神様からの贈り物に違いないわ」そう言ってお婆さんは家へ持って帰り、桃を割りました。すると中から元気の良い男の赤ん坊が出てきました。桃から生まれた子供なので、桃太郎と名づけ、大層可愛がりました。しかしある日のこと、村の人々が突然やって来て、お婆さんの家から金品や食料を奪い去ってしまいました。

それから数年後、桃太郎はある国の王子様として、立派に成長していました。そんなある日、桃太郎の元に一人の若者が訪れ、「私の国を助けて欲しい」と言いました。その若者の名は犬太郎といいました。犬太郎は「実は私は敵国のスパイでした。私を捕まえようとする人達から逃れるため、あなたの国に逃げ込んだのです。どうか、この手紙をお読みください」と言って、一通の手紙を渡しました。それは隣国から届いた密書でした。その内容によると、今年中には隣の大国が我が国に攻めてくるということです。

さっそく桃太郎は手勢を集め、迎え撃つ準備を始めました。そしてついにその日がやってきたのです。「皆のもの聞け! 敵の軍勢が攻めてきたぞ!」と叫びながら犬太郎がやって来ました。しかし、どうしたことか味方の軍の姿が見えません。「何があったのだ?」と尋ねても返事が無いばかりか、誰一人として姿を現しませんでした。すると突如として現れた敵軍が攻撃を開始しました。「これは罠だ!」と気づいた時にはもう遅く、あっという間に国は壊滅してしまいました。桃太郎は命辛々逃げ延びたものの、もはや生きる気力すら失ってしまいました。

その頃、桃源郷では女神が困っておりました。「ああ、早く桃源郷にある桃を食べて不老不死になりたいものだわ。でも、桃源郷まで辿り着くには人間の血が必要だし……」と悩んでいると、そこに丁度良く人間が落ちてきました。「まあ、なんて運が良いのかしら」女神はそう言うと、さっそく人間を自分の家に連れて行きました。そして人間の頭に齧りつき、頭蓋骨を噛み砕いて脳みそを食べてしまいました。ところが人間は死ぬどころか生き返り、なんと女神の力によって超人的な肉体を手に入れてしまったのです。こうして桃から生まれた桃太郎は女神の血肉を得て不老不死になり、神にも等しい強さを手に入れたのでした。めでたしめでたし ―『桃太郎』より

(終)



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