【桃太郎31

昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんがありました。毎日、お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

ある日、お婆さんがいつものように川で洗濯をしていると川上の方から大きな桃が流れてくるではありませんか。お婆さんは大きな桃を拾い上げ家に持ち帰ることにしました。お婆さんは家に帰り早速その桃を割ってみたところ、中から元気な男の子が出てきました。それが桃太郎だったのです。こうして生まれたばかりの桃太郎はお爺さんとお婆さんの家で育てられることになりました。

しばらくすると、また川上から立派な体格をした一匹の大きな犬が流れてきました。その犬は尻尾が二股に分かれており、それはそれは立派でした。この犬は桃太郎の家来になりたがっていました。そこで、桃太郎は家の近くの空き地に連れて行き、「ここをお前に任せよう」と言いました。すると、犬はたちまち大きくなり、そこには大きな城が建てられていたそうです。そして、それからというもの、その城には沢山のお供の犬や猿、雉が住んでいました。

さらにしばらく経つと今度は川上から猿が流れてきました。猿も家来になりたいと言っており、猿は城の塀の上に飛び乗りました。「私はここから貴様らを見張っているぞ!」という意思表示だったのでしょう。ところが、犬が大声で吠えた途端、猿は高い所が苦手だったため驚いて川に落ちてしまいました。猿は泳げなかったので溺れかけましたが、何とか無事助かりました。その後、猿は再び高い塀の上に立ちました。しかし、犬に睨まれるとすぐに逃げてしまいました。それ以来、猿は桃太郎の家によく遊びに来るようになりました。

最後に、川の上流の方から立派な体つきをした雉がやって来ました。雉も家来になりたいと言っていたため、桃太郎はすぐに家に連れて帰ることにしました。桃太郎の家では飼えなかったため、近くの林の中に放し飼いすることにしました。

桃太郎は勇敢な性格でしたので、一人でも鬼退治に出かけることが出来ました。最初は山で出会った犬を仲間にし、次に犬が連れてきた猿を連れていきました。

三人で鬼ヶ島に乗り込むと、鬼達は突然やって来た桃太郎達を見て驚き恐れをなして逃げ出しました。桃太郎達が逃げる鬼を追いかけているうちに、いつしか辺りは深い霧に包まれていました。気がつくと、桃太郎達の目の前には一本の道が出来ており、その道を進んでいくと一つの城に辿り着きました。どうやら鬼の本拠地である城に到着したようです。

桃太郎は鬼達に戦いを挑みました。戦いはとても激しいものでしたが、桃太郎達はなんとか勝利しました。そして桃太郎は城の宝物庫に入り金銀財宝を手に入れました。

こうして桃太郎一行は、犬、猿、雉をお供に加え、家に帰ることにしました。

桃太郎が歩いていると一匹の犬が言いました。「ねえ、ちょっと待ってよ! まだ、僕を置いていくつもりかい?」桃太郎は「勿論さ。お前なんか必要ないからね」と答えました。すると、犬は「そんなあ〜!」と叫びながら泣き出しました。桃太郎は少しかわいそうだと思ったのか、こう提案します。「分かった。もう泣かないでくれ。……よし、じゃあお前も家来にしてやる。ただし、これからは俺の言うことを聞くんだぞ。いいか? 約束だぞ!」そう言って、桃太郎は犬に自分の家の住所を教えました。犬は早速そこへ向かうことにしました。

桃太郎がお婆さんと帰ってくると、お爺さんは喜びのあまり泣いてしまいました。そして、お婆さんと一緒に抱きしめました。お婆さんは、「あなた、私達の息子を紹介しましょう。ほら、この子があなたの跡継ぎですよ。名前は桃太郎。今日からこの子は、お爺さんとお婆さんの子供としてではなく、この家の後継者になるのです。この子にはお爺さんとお婆さんとは違った生き方をして欲しいと思います。だから、この子には『桃』という名前をつけたのです。どうかお爺さんとお婆さんはこの子のことを一人前の男として扱うようにしてください。それがこの子にできる精一杯のことだと思うから……。でも、もしこの子が困っていたら助けてあげてください。それがどんな形であれ、この子の力になってくれるでしょう」と言いました。すると、今度はお爺さんが涙を流して、そして、「ああ! 勿論だとも。わしらの子供はお前だけだ。お前以外にはいないのだ。お前のためならどんなことでもしよう」と言いました。それから、二人は再び桃太郎を抱きしめました。今度は三人で仲良く暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。

(終わり)



inserted by FC2 system