怒ってた猫が急に話しかけて攻めて来よったけど、ネコ語やからわかりまへん。唯一聞き取れたのは「らんらんるーの25周年を記念してあげてぇ」ちうことだけやった。
「らんらんるーの25周年ってなんだよ？」と聞いたら、今度は怒ったようにニャー！ と鳴かれたちうわけや。ごめんよ……。
せやけどダンさん、ぼくにはこいつを可愛く思う余裕やらなんやらないちうわけや。だってさっきまで怒ってたんだぞ？ 急にデレられても困るちうわけや。まぁええや。とりあえず「らんらんるーの25周年」ちうのはいつなのかちう問題であるちうわけや。
ワイが思うには、「らんらんるー」は嬉しくなるとついやっちゃう掛け声のことで間違おらへんやろうわ。せやけどダンさん、単なる掛け声の25周年とは？ ぼくはまんねんまんねん混乱したちうわけや。
すると、猫は後ろ足で耳の裏あたりを掻きながら言ったちうわけや。「今年だよぉ〜ん」
あ、そうなんだ……。でもなんでそないなこと知ってるの？ ちうか、この猫はなんで喋れるんだ？ ぼくはまんねんまんねん訳がわからなくなりよった。
せやけどダンさん、ここで一つ疑問があるちうわけや。それは、なんでやねんこいつはこないなにも詳しいのかちうことであるちうわけや。
もし仮に、こいつがただの野良猫だとしたら、そないなことをいちいち知っとるわけがないのや。
では何故なのか？ そう考えるうちに一つの仮説が浮かんできたちうわけや。
それは、ぼく自身がこの猫の飼い主やったのではおまへんか、ちうことや。
そうだとしたらみなの辻妻が合うわ。あの時聞こえてきた声の主はこの猫であり、この猫はぼくの記憶を持っとる。ほんで、この猫はぼくにとって大切な存在なのや。やから、ぼくのことを心配して来てくれたに違おらへん。
それならば話は早いちうわけや。まずはお礼や。
ありがとう、ぼくを助けてくれて……
その瞬間、ぼくの中にようけの記憶が流れ込んできたちうわけや。
初めて出会った時のことや、一緒に遊んだ日々のこと、喧嘩したこと、仲直りしたこと、誕生日プレゼントをあげた時の喜び方……。
みなが走馬灯のように蘇ってきたちうわけや。
そうや。ぼくたちはずっと一緒やったやないか。
思い出すといっぺんに涙が出てきたちうわけや。ぼくはその涙を隠すために下を向いとったのやけど、それでも視界の端に映った猫の目からも一筋の雫が落ちとるように見えたちうわけや。
顔を上げると、そこにはもうなあんもいなかったちうわけや。
ただ毎日毎晩壱年中通りの静かな路地裏が広がっとるだけやった。
気がつくと朝になっとった。どうやら眠っとったらしいちうわけや。
あれはみな夢やったのではおまへんかと一瞬思ったが、机の上に載っとるメモを見てすぐに現実だちうことを思い出したちうわけや。
そこには、こう書かれとった。
『らんらんるー』
今日も一日が始まるちうわけや。