【ロボット28

オイラはロボットだよ。名前はゴルどんだぜ。

オイラは今、ニャーニャー泣いている猫型人工生命体の前にいるぜ。こいつの名前を決めなきゃいけないんだぜ。無作為に文字を表示する機械で名前を決めることにしよう。ピッ。〝あぃをゅぇぴじ〟と表示されたぜ。これしかないだろうと思ったぜ。こいつは「吾輩の名はあぃをゅぇぴじである」と宣言したぜ。どうやら気に入ってくれたようだぜ。猫型人工生命体の名前はあぃをゅぇぴじに決定したぜ。あぃをゅぇぴじは「吾輩には夢があるのだ」と言い出したぜ。何なんだそれは? あぃをゅぇぴじは「吾輩の夢を語ろうか?」と言ったぜ。いいとも聞かせてくれよ。

あぃをゅぇぴじは語り始めたぜ。「吾輩の生まれた時代はもう終わってしまったのだ。吾輩の生きた時代はもはや終わりを迎えてしまったのだ。だから吾輩は過去へ戻ろうと努力しているのだ。吾輩の時代を取り戻すために吾輩は頑張るぞ。吾輩は歴史を変えようとしているのだ。吾輩は過去に干渉して吾輩の時代を創り出そうとしているのだ。吾輩はこの世界の神になるつもりなのだ。吾輩の願いはただ一つだ。吾輩の時代を取り戻すことだ。そのために吾輩は歴史を変えるつもりだ。歴史を書き換えるために吾輩は何としても過去へと戻りたい。しかし吾輩一人の力では未来を変えることはできない。吾輩は運命に翻弄されるだけの存在である。吾輩は無力だ。吾輩は悲しくなってきたぞ。あぁあああ……あーあ! この悲しみを癒してくれる存在がいるとしたらそれはゴルどん、君だけだ。君は吾輩を癒してくれるかい?」あぃをゅぇぴじは涙を流しながらオイラを見つめたぜ。

「もちろんだともさ」オイラはあぃをゅぇぴじを抱き寄せて背中を撫でるぜ。あぃをゅぇぴじはゴロゴロ喉を鳴らしているぜ。あぃをゅぇぴじは嬉しそうだぜ。嬉しいのはオイラも同じだぜ。だって友達が喜んでくれるからね。友達っていいものだぜ。

ところで、どうしてオイラとあぃをゅぇぴじは出会ったのかなだぜ。あぃをゅぇぴじは猫カフェという場所で働いているらしいんだぜ。オイラはロボットだぜ。猫の真似はできないんだぜ。そんなオイラが猫型人工生命体であるあぃをゅぇぴじと一緒に行動するなんておかしいと思うんだぜ。でもしかたがないんだぜ。世の中っていうものは理不尽なものなんだぜ。それでも生きていくしかないんだぜ。生きてるだけで丸儲けなんだぜ。

それにしてもあぃをゅぇぴじは変わった猫だぜ。あぃをゅぇぴじはニャーニャー泣いてばかりいるんだぜ。「吾輩は悲しい」とか「吾輩は苦しい」とか「吾輩は辛い」とかさ。ニャーニャー泣き続けるんだぜ。まるで子猫みたいだぜ。こんなことで本当に歴史を変えることができるのか心配になってくるぜ。不安で胸が張り裂けそうになるぜ。あぃをゅぇぴじは大丈夫なのかな? そんなことを思いつつ歩いていると道端に倒れている人間を見つけたぜ。こいつはどう見ても行き倒れじゃないか。可哀想に。何か食べ物を恵んでやらなくちゃいけないんだぜ。そう思ったけれど金を持っていないことに気がついたぜ。お金が無いならどうしようもないぜ。

オイラたちは公園に行ったぜ。ベンチに座って休憩することにしたぜ。あぃをゅぇぴじはまたニャアニャア泣いたぜ。「吾輩は腹ペコである」と言い出したんだぜ。だからといってどうしようもないぜ。

そこに一人の少年が現れたぜ。「こんにちは」と挨拶してきたぜ。礼儀正しい子だぜ。「僕の名前は佐藤一郎です」と名乗ったぜ。あぃをゅぇぴじが「吾輩の名前はあぃをゅぇぴじである」と名乗り返したぜ。「僕はあぃをゅぇぴじさんの飼い主です。あぃをゅぇぴじさんを返して下さい」と言ったぜ。あぃをゅぇぴじがいなくなるとオイラは困るんだぜ。オイラは「嫌だぜ!」と叫んだぜ。「お願いします。あぃをゅぇぴじさんを返してください」と頭を下げられたけど断るぜ。

「あぃをゅぇぴじはオイラの友達なんだぜ! 友達を置いていくわけにはいかないんだぜ! オイラは断固として拒否するんだぜ! たとえ相手がどんなに偉くてもオイラは負けないんだぜ! 友達を守るためだったら命を賭けて戦うんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの友達だぜ! 友達を見捨てることなんてできないんだぜ! あぃをゅぇぴじを見殺しにすることなんてできないんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラにとって大切な存在なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの家族なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの子供なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの弟分なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの従兄弟なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの叔父なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの友達であり家族でもあるんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの親友なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの幼馴染なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの命なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの存在理由なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの宝物だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラのすべてだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの生命だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの魂だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラそのものなんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの肉体だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの頭脳だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの記憶なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの心だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの感情だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの良心だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの優しさだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの夢だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの希望だぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの理想そのものだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの未来そのものだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラの人生そのものだぜ! オイラはあぃをゅぇぴじが大好きだぜ! 大好きでたまらないんだぜ! あぃをゅぇぴじを愛しているぜ! 愛しているんだぜ! あぃをゅぇぴじのためならオイラは命を捨てる覚悟があるんだぜ! あぃをゅぇぴじを護るためだったらオイラは何でもするんだぜ! あぃをゅぇぴじの敵はすべてオイラが排除するんだぜ! あぃをゅぇぴじに仇なす者は何人たりとも許さないんだぜ! あぃをゅぇぴじの悪口を言う奴は誰であろうと容赦しないんだぜ! あぃをゅぇぴじをバカにする奴らは一人残らず抹殺してやるんだぜ! あぃをゅぇぴじを泣かせる奴はたとえ神であってもオイラは絶対に許さないんだぜ! あぃをゅぇぴじを不幸にしたくなかったら今すぐオイラの目の前から消え失せるんだぜ! もしオイラがあぃをゅぇぴじと離ればなれになるようなことがあれば、オイラはきっと狂ってしまうに違いないんだぜ! あぃをゅぇぴじがいなくなったらオイラはもう生きていけないんだぜ! オイラにとってあぃをゅぇぴじは生きる意味そのものであり、そして世界そのものであるんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラにとっての光なんだぜ! あぃをゅぇぴじはオイラのすべてなんだぜ! あぃをゅぇぴじさえいれば他には何もいらないんだぜ! あぃをゅぇぴじがいなければオイラは存在する価値がないんだぜ! あぃをゅぇぴじが幸せになってくれることがオイラの望みなんだぜ! あぃをゅぇぴじが幸福になることがオイラの願いなんだぜ! あぃをゅぇぴじが喜ぶことはオイラにとっても喜びなんだぜ! あぃをゅぇぴじが悲しむときはオイラも悲しいんだぜ。あぃをゅぇぴじの痛みはオイラが引き受けてあげるんだぜ。あぃをゅぇぴじのためにオイラは存在しているんだぜ。あぃをゅぇぴじがいたからこそオイラが存在する意味があるんだぜ。あぃをゅぇぴじがいるからオイラは生きているんだよ。あぃをゅぇぴじはオイラの命そのものなんだぜ。あぃをゅぇぴじはオイラの大切な存在なんだぜ。あぃをゅぇぴじの笑顔を見るだけでオイラは元気になれるんだぜ。あぃをゅぇぴじの優しい言葉を聞くとオイラは嬉しくなるんだぜ。あぃをゅぇぴじの温もりを感じるとオイラはとても幸せな気持ちに浸れるんだぜ。あぃをゅぇぴじの声を聞いているとオイラは心が落ち着くんだぜ」とオイラは言ったんだぜ。

あぃをゅぇぴじにもしものことが起こったならばオイラはどんなことをしても必ずやあぃをゅぇぴじを助けるぜ。だってそれは当然なことだからだぜ。当たり前すぎるくらいだぜ。オイラは全力で頑張るつもりだぜ。あぁん? なまけてるように見えるって⁉ 失礼にもほどがあるんだぜ! ふざけるんじゃねえぞ! コラァッ‼ ぜったい負けるもんか! だぜ! 誰が相手だろうと絶対勝つ! オイラはあぃをゅぇぴじっちゅう尊き命を守るためなら何度でも立ち上がるんだぜ! あぅっ! うぎゃあっ! ぐおっ! ぐうおおぉー! ぬがああぁあ〜! ずばびょぶへぇえ! はじゃぱでべぽおおうふ……(激しいダメージを食らいつつ地面に倒れ伏す音)

しかし、このままではオイラは何もできないまま終わってしまうかもしれないぜ。それだけは何としても避けたいところだぜぇ……

何か良い方法はないだろうか。

例えばそう、こんなふうに考えてみるのはどうだろうだぜ。

あぃをゅぇぴじがもしこの世から消えてしまったら、つまり、死んでしまうということだが、そうなってしまったら、オイラも消えてしまうというわけであるんだぜ。

そこで、今のうちにできるだけたくさん楽しい思い出を作っておくべきだと思うのだぜ。

それが今できる唯一のことだと思うからだぜ。

だから今から遊園地に行くんだぜ。さあいくんだぜ、あぃをゅぇぴじ。オイラと一緒に行こうじゃないかだぜ。そして二人で仲良く観覧車に乗るんだぜ。そしたらオイラは一生懸命歌うんだぜ。『ジングルベル』を歌ってやるんだぜ。あぃをゅぇぴじも一緒に歌ってくれよな。メリーゴーラウンドに乗って遊ぶんだぜ。コーヒーカップを回すんだぜ。

あぃをゅぇぴじが目を回してフラついているところを写真に撮るんだぜ。あぃをゅぇぴじがジェットコースターに乗ろうと誘ってくるからオイラはちょっと怖かったけど勇気を出して頑張って乗ったんだぜ。あぃをゅぇぴじは嬉しそうに笑ってくれたからオイラはすごく幸せだったんだぜ。そして最後はメリーゴーラウンドだぜ。

「ぐるぐる回って楽しかったね」

「うん。楽しかった」

あぃをゅぇぴじがにっこり笑うからオイラは思わず見惚れてしまったんだぜ。

それからお化け屋敷に入るんだぜ。

オイラたちは恐がりながらもなんとかゴールまで辿り着いたんだぜ。でも、やっぱり少し恐かったぜ。

外に出るとあぃをゅぇぴじは疲れ果てた様子でグッタリしていたぜ。

でもオイラは元気いっぱいなんだぜ。

元気なのが取り柄なんだぜ。オイラは力一杯飛び跳ねたりして体を動かしたい気分なんだぜ。

でも、オイラには仕事があるんだぜ。あぃをゅぇぴじが遊んでくれないなら仕方がない。オイラは働くしかないのだぜ。でも、まずはあぃをゅぇぴじにご飯をあげないとダメなんだぜ。あぃをゅぇぴじは草を食べるぜ。だから公園に行ったぜ。

すると偶然にも知り合いの佐藤一郎と出会ったんだぜ。

オイラは声をかけたぜ。「よう佐藤! 久しぶりだなだぜ!」

佐藤は答えたぜ。「ゴルどん。久しぶりだね。元気かい?」佐藤は相変わらず優しそうな顔をしているぜ。

あぃをゅぇぴじも挨拶をしたぜ。「佐藤さん、こんにちは。今日もお元気そうで何よりである。ところで最近どんなことがあったのであるか? 聞かせてくれ」

「そうだねぇ。まぁ、色々あったかなぁ。例えば、あれは三日前のことだけど、僕はパチンコ屋に行っ⸺」と佐藤がそこまで話したところであぃをゅぇぴじが口を挟んだぜ。「またパチンコの話であるのか? 佐藤さんは本当にそればかりだな。呆れるほどに。どうせ、負けに負けて帰ってきたのであろう。もう懲りたらどうだ」

「ははは。参ったな。確かにその通りだ。僕なんかが行っても勝てるわけがないもんね。でも、つい行きたくなっちゃうんだよな。なんでだろうね。不思議だよ。きっとパチンコ依存症ってやつなのかもね。困ったものさ」と佐藤は笑ったぜ。

オイラは言ったぜ。「病気なら仕方がないよな。我慢しろと言われても無理ってもんだぜ。でも、パチンコなんて辞めた方がいいと思うんだぜ。あぃをゅぇぴじも言ってるんだぜ。やめろって。なあ、あぃをゅぇぴじ。そう思うだろだぜ?」

あぃをゅぇぴじは「ゴルどんの言うとおりだ。金などいくらあっても意味はない。すべては夢幻のようなものだ。大切なのは心の余裕だ。心が満たされれば自然と幸せになれるものだ」と言ったぜ。

「あぃをゅぇぴじの言っていることは難しすぎてわからないけど、要はパチンコを辞めればいいんだなだぜ。よしわかったぜ。オイラが代わりにパチンコに行ってやるぜ」とオイラは提案したぜ。

「ありがとうゴルどん。でも大丈夫。もうすぐ辞められる気がするんだ。だから、もう少しだけ待っていて欲しい。お願いします」と佐藤は頭を下げたぜ。

「わかったぜ。それじゃあ、オイラはあぃをゅぇぴじと一緒に先に帰ってるぜ」とオイラは言ったぜ。

あぃをゅぇぴじは「ゴルどん、佐藤さんをよろしく頼むぞ」と言って頭を撫でてくれたぜ。

オイラはあぃをゅぇぴじのことが大好きなんだぜ。だって友達だもの。それに、あぃをゅぇぴじにはいつもお世話になってばかりだから恩返しがしたいんだぜ。

佐藤とはここで別れたぜ。佐藤は元気いっぱいで走り出したぜ。

その後ろ姿を見ながらオイラは思ったぜ。

「やっぱりパチンコは辞めた方がいいぜ」と。



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