【ロボット95

オイラはゴルどん、犬型ロボットだぜ。

オイラは今、ニャーニャー泣いている猫型人工生命体の前にいるぜ。こいつのことをなんと呼べばいいんだろうか? 無作為に文字を表示する機械で名前を決めることにするぜ。ピッ。〝ミケ〟だとよ。安易すぎやしないか? ピピッ! また出たぜ。〝バロン〟ピ、ピ、ピーッ! おいおい、どうなってやがるんだ? 名前も大安売りになってしまってるぜ。でも、仕方がないよな、いくら考えてもなかなか良い名前が思い浮かばないんだぜ。よしっ! オイラは心を決めたぜ。お前さんの名前は〝あぃをゅぇぴじ〟に決めるぜ。なんであぃをゅぇぴじという名前に決めたかっていうと、おそらくどこかで聞いたからだぜ。なぁ、わかるだろ?

「あぃをゅぇぴじのソウルネームは何だ?」

あぃをゅぇぴじはしばらく考えてみたが、思い出せなかったみたいだな。まあ、気にすることはないぜ。オイラだって答えられなかったからな。ピピッ! また出たぜ。あぃをゅぇぴじのソウルネームは〝タマ〟だぜ。スピリチュアル感が凄い名前だな。まあ、決まったものは仕方がないよな。ピピッ! また出たぜ。おいおいおい、そろそろ決めさせてくれよ……。仕方ないか。また考え直すしかないな。ピピッ! あれれっ、何かオイラの腹時計が鳴っているような音が……

どうやらおでんのおかわりをもらうのを忘れていたらしいぜ。お腹空いたんだぜ。早くおでんを食べに行こうぜ、あぃをゅぇぴじ!

あぃをゅぇぴじもオイラと同じように考えているようだな。お腹がぐーっと鳴っていたからな。あぃをゅぇぴじを連れてオイラはおでん屋さんに行ったんだぜ。そこで美味しくおでんを食べたり、酢昆布を食べたりしたぜ。あっ。もちろんちゃんと支払ったからな。ちゃんと料金を払わないと怒られちゃうぜ。そうそう、おでんには嬉しいことに、カレー味もあったんだぜ。ちなみにオイラが食べたのはカレー味のおでんではなくて、普通の味のおでんだったぜ。でもそれはそれで美味しかったんだぜ。

そして、今はどんな状態になっているかと言うと……。ピピッ! ピ、ピピッ! あぃをゅぇぴじの頭の上に浮いている変な物体から変な音がずっと出るようになったんだぜ。あぃをゅぇぴじはこの不思議な現象に戸惑っているようだぜ。オイラは尋ねたぜ。「その変な物体がどこからやって来たのか知らないかい?」とな。するとあぃをゅぇぴじは言ったんだぜ。「吾輩もよく分からないのだ」ってさ。よくわからないままにそのヘンテコな物体はあぃをゅぇぴじの頭に付いてしまったんだぜ。仕方ないからオイラはそのヘンテコな物体を取り外してあげたぜ。そしたら、あぃをゅぇぴじは喜んだんだぜ。ピピピッ! あぃをゅぇぴじの頭から奇妙な音がしたぜ。そして、いつの間にか取り外したヘンテコな物体が消えていたんだ。いったい何だったんだろうな? まあいいか。

オイラとあぃをゅぇぴじは気にしないで普通に生活を続けたぜ。ところが、ある日、オイラは大変なことを知ってしまったんだぜ。なんとあぃをゅぇぴじは、オイラたちが住んでいるこの世界の神様によって造られたロボットだったんだぜ。そういえばあぃをゅぇぴじはいつも口をパクパクさせていたり、変な目をしたりしていたな。納得したぜ。そのことを知った瞬間からあぃをゅぇぴじは自分のことを〝愛溢れるキュートな猫型人工生命体ミーコタイプ弐拾七号〟と称するようになったんだぜ。あぃをゅぇぴじ……もといミーコタイプ弐拾七号は、自分の名前を気に入り始めたようだぜ。ミーコタイプ弐拾七号は自分のことを、ミーコという名前で呼ぶことにしたみたいだぜ。オイラは親しみを込めて〝ミーちゃん〟と呼んでいるぜ。もちろんあぃをゅぇぴじの呼び名も変えないで使っているんだぜ。ミーコタイプ弐拾七号とは良い関係を築けているような気がするぜ。これからも仲良くやっていこうと思っているんだぜ。

最近のオイラの密かな楽しみは、仕事終わりに銭湯で風呂に入ることだぜ。たまには足を伸ばせる風呂がある銭湯に行くと最高だなっていつも思っていてな、よく行くんだぜ。もちろんいつものようにあぃをゅぇぴじと共に向かうぜ。オイラが脱衣場に入ると、あぃをゅぇぴじが宙を浮かんでついてきていたんだぜ。さっそく風呂場に入ると、今日もまた感動するぜ。オイラが一番好きなのは、『ジャグジーバス』だぜ。腰辺りまである大きな泡風呂になっていてだな、身体を洗わずにそのまま入浴できるんだぜ。湯船に浸かっていると、少し浮遊するような感覚に陥って不思議な感じがしてな、クセになりそうだぜ。まるで空を飛んでいるかのような気持ちになれるんだぜ。続いて好きなのは『打たせ湯』だぜ。頭に直撃すると、とても気持ち良くて癖になりそうだぜ。頭から滝のように流れ落ちるお湯が身体にかかる感覚が堪らないんだぜ。身体がマッサージされるような心地良い気分になるんだぜ。頭部や目に入りそうになると、ちょっと危なくなるから注意が必要だぜ。あと、三番気に入ったのは『薬湯』だぜ。風邪を引かないために身体を温めておこうと思うんだぜ。そこに浸かっているだけで身体の芯まで温まるような気分になるんだぜ。ちなみに、オイラたちが通っている風呂屋では『漢方薬湯』もあるんだぜ。身体の不調や悩みに合わせて選べるぜ。他にもたくさんあるぜ。ちなみに、湯の色は必ずしも透明とは限らないんだぜ。だいたいが薄い紫色で薄っすらと湯気が出ている感じだぜ。中に入ってみると底の方はあまり見えないぜ。そして、このお風呂の中で一番特別な場所といえば……そう。それは、あの露天風呂だぜ。あそこで見る景色は格別だと思うんだぜ、うん。オイラたちはしばしの間、眺めながらぼーっとしていたんだぜ。それにお湯に肌が浸かるとぽかぽかするぜ。これこそ、幸せってやつだぜ。そして今日も銭湯に来ているのであったぜ、うん。

「お風呂上がりのフルーツ牛乳は至高なり!」とオイラは言ったんだぜ。あぃをゅぇぴじは頷いたぜ。「ザクロ、マンゴー、ブドウ……どれが好きであるか?」とあぃをゅぇぴじが問いかけてきたぜ。「どれが一番美味しいか分からないが、どれも美味しい気がするぜ」とオイラは答えたんだぜ。「ふむ。つまりこれは全てのフルーツを摂取した人にのみ与えられる至高の味わいと言えるであろう!……ザクロに決めた!」

あぃをゅぇぴじいは『ザクロ味』を飲んでいるみたいだったぜ。美味そうなものを飲んでいるなぁと思ったオイラも、別の味を試すことにしたんだぜ。あぃをゅぇぴじいは満足そうにコクッと飲んでいたぜ。どうやら美味しかったみたいだぜ。

あぃをゅぇぴじの『お風呂屋さんに行く』シリーズはこれからも続きそうだぜ。オイラも次いつ行けるか楽しみだぜ。「ゴルどん! 次回も〝銭湯回〟だ!」「なんと、そいつは楽しみだぜ」という会話をしながらオイラとあぃをゅぇぴじいは別れたのであった。さて次回はどんな銭湯だろうか? 楽しみだぜ!

世間は雨にけぶるある日のこと、オイラとあぃをゅぇぴじはある目的を持って行動を開始したんだぜ。その目的とは……そう『銭湯に行く』だ。いざ出発だぜ。目的地も事前に決めてあったので迷わず辿り着くことができたぜ。流石はオイラ、上出来だぜ。よくやった! そう自画自賛すると共に、さっそく銭湯に浸かりに行ったぜ。もちろんタオルなどは持っていないので濡れたままだが、そこは見なかったことにするんだぜ。中に入っていくと早速番頭さんと目が合ってしまい挨拶を交わしたぜ。この銭湯には機械式の自動料金徴収装置があるんだがな、そこではなぜか硬貨だけでなく紙幣も使えるんだぜ。ん? 現金を持っていない人はどうするんだって? まぁ見てなって。番頭さんが裏からカードを一枚取り出して機械にかざすと、自動的に料金が表示されるんだぜ。すごいんだぜ! 文明の力ってスゴいだろ? さて、そんなことを話しているうちにもオイラたちは足先から順に湯に浸かっていくぜ。いい感じの熱さだな、と思った矢先に身体中が痒くなってきたぜ。でも不思議と気持ち良くて気持ちいいんだからこれは困ったもんだぜ。なんで思わず湯船の中で叫び声を上げてたんだけどな、その様子がカメラで撮影されていてテレビで放送されてたんだぜ。実に恥ずかしい体験だったが、これもまた一興だと思って今は楽しもうと思っているぜ。ま、とにかく気持ちいいことには間違いないってことだなぁと思って入り続けてしばらくたったあとだったぜ。突然に、頭上から電撃がピカーッと走った感覚がしてビリビリッてきたぜ。思わずオイラたちは再び声を上げたんだぜ。その後は不思議と痒みが収って楽になったんだぜ。この銭湯に通っていると〝電気風呂〟に入ることができるんだけどなぁと思ったりもしたもんだぜ、うんうん。

そのあとオイラたちは頭まで湯船に浸かってゆっくりとくつろいだんだぜ。気持ちよかったぜ。お湯から出るとあぃをゅぇぴじがドライヤーやヘアブラシの置かれたスペースへ向かって移動していたぜ。そこであぃをゅぇぴじいはドライヤーを使用してオイラの身体を乾かし始めたんだぜ。特にオイラが気に入ったのは、その風が絶妙に気持ち良いってことだぜ。あまりの気持ちよさにずっとこのままでいたい気分になったほどだったぜ。毛がボサボサになるんじゃないかって? そのときも、既にオイラの身体はボサボサだったと思うだろうからな。そこはノーコメントだぜ。

ちょっと話が逸れたぜ。あぃをゅぇぴじはヘアブラシなどを使用してオイラの身体全体をきれいにしてくれたんだぜ。身体は自分で綺麗にできるんだけどな、まぁ、やってくれることに悪い気はしないぜ。それに、あぃをゅぇぴじは頭やお腹周りなど細かい部分も丁寧にやるからすごく安心できるんだぜ。そうこうして毛などを乾かし終わったオイラが感動に浸っていると、「オンリハシンデンシャ♪ オンリハシンデンシャ♪ 旅行気分で朝湯♪」と歌い出ながらあぃをゅぇぴじがドライヤーを片付けたぜ。「すっかり綺麗になったな」と話しかけたら、「うむ。吾輩の手捌きによって完璧な仕上がりである!」と答えてくれたんだぜ。まだあぃをゅぇぴじも乾かしていないというのにあせることなく、余裕たっぷりなその姿にオイラは感動したぜ。すると突然、あそこから例の〝おしぼり〟が勢い良く吹き出てきたぜ! 見事あぃをゅぇぴじに股間を直撃されたみたいになっていたんだが、普通なら『ピャーッ』ってなって大変なことになってしまうところ、オイラは動じることなくタオルで押さえて拭き取ったんだぜ。とりあえず問題はなかったようだし安心したぜ。さっぱりしたオイラたちは銭湯を後にしたんだぜ。

あぃをゅぇぴじは「オンリハシンデンシャ♪」とまた歌っているぜ。

いつもの猫カフェに向かって歩きながら、オイラたちの前を黒塗りの高級車が通り過ぎていく姿を見てふと思い出したぜ。そういえば昨日に続いて今日も黒塗りの車をよく見かける気がするなと思いながらオイラたちは目的地まで進んでいったぜ。

黒猫カフェの看板の前で足を止めたオイラとあぃをゅぇぴじはドアを開け、中に入ることにしたんだぜ。うん、今日も良い猫たちがいっぱいだな。さっそく挨拶回りすることになったんだけど、あぃをゅぇぴじが「やぁ、お邪魔するよ」と言ったら店の奥にいた猫たちが一斉に近寄ってきて出迎えてくれたんだぜ。なんだか楽しそうだなぁと思って眺めていると、あぃをゅぇぴじはお客さんにスリスリしている黒猫を見つけたようだぜ。こっそり近づいてその黒猫の後ろ首を掴もうとしていたところで「ウギャッ」という汚い鳴き声が響いたんだぜ。思わずビクッとして視線を移すと、それは店の裏から入ってきた柴犬の仕業だったようだぜ。それを見たあぃをゅぇぴじは「何だ、驚かすんじゃないぞ」と注意したが、そいつは反省した様子がなさそうな顔でガウッと返事をしていたんだぜ。その後もいろいろな動物がやってきたんだぜ。あぃをゅぇぴじは出会った動物にすぐ声をかけるスタンスをとっているらしいんだ。「おはよう」とか、「元気か?」とか。猫も犬も鳥も小さいものも大きなものも関係なくだぜ。そのため、オイラとあぃをゅぇぴじは店の中では目立って目立つ存在感があったんだぜ。おかげで他のお客さんからも、よく話しかけられるようになったぜ。いつの間にかオイラたちは人気者になっていたんだぜ。

いやー今日もたくさん喋ったなと思ったとき、黒猫カフェの裏からゆっくりと歩いてきた猫の姿を見て何かデジャヴを感じたんだぜ。あの黒猫は見たことがあるような……と思ってよく見ると、去年の夏のニャンパラ(人間でいえばサマーパーティーといったところ)に来ていた黒い猫さんだったんだぜ。そのときのことを思いだし、大きくなったなぁと思いながらオイラとあぃをゅぇぴじはその黒猫さんに声をかけることにしたぜ。

「あのとき以来だな」とオイラが言うと「吾輩のことを覚えているか?」とあぃをゅぇぴじが話しかけたんだぜ。そしたらその黒猫さんは安心したかのようにこう言ったんだぜ。「ご無沙汰しておりました」とね。ずいぶんと礼儀正しい猫なんだなぁと思ったぜ。

あぃをゅぇぴじは思い出したかのように突然「いまも元気にやっているか?」と言ったんだけど、その黒猫さんにとっては意外な一言だったみたいで、「そう見えるかい?」と微笑みながら返すように答えていたぜ。まるで倦怠期に片足を突っ込んだカップルが久々に会うかのようなやり取りだったんだけどな。二匹とも大人っぽいところがあるなぁ……とオイラは感動したもんだぜ。でもそれよりも気になったのはその黒猫さんの名前だ。名前を思い出せないままのオイラたちに向かって黒猫さんは、「君らは幸せになる権利がある」なんて言い出したもんだぜ。意味が分からなかったのでオイラは適当に相槌を打っただけだったんだけどな。黒猫さんは満足げに頷くと去っていってしまったんだぜ。

あぃをゅぇぴじは黒猫さんの後ろ姿を見ながら「奇妙な猫だ」と呟いていたぜ。一体何者だったんだか……まぁ、いいや。そんなことはさておき、オイラたちはそろそろ帰る時間になってしまったんだぜ。帰り道の途中であぃをゅぇぴじは「オンリハシンデンシャ♪ オンリハシンデンシャ♪ 旅行気分で朝湯♪」と嬉しそうに歌っていたぜ。今日一日、たっくさん歌ったもんな。また一緒に行こうな。と、別れ際に約束してオイラたちは自宅へと向かうことにしたんだぜ。今日の思い出を振り返るように、二匹でルンルン鼻歌を口ずさみながら歩いていたのであった……おしまいだぜ!



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